熟れた果実
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今のところ、散歩は平和的に、順調に行われていた。
仕掛けた罠に獲物がかかっているか確かめに行くでもなく、スリルを味わうために他の領土へ行くでもなく。
〇〇が歩きづらいと言ったから、手は繋がれていない。
くっつかれるのもまた歩きづらいのに変わりなかったが、そこは根負けして妥協させられた。
本当に、本来の散歩のあるべき形だった。腹に一物あるのではと疑いたくなるほど。
森の中をぶらぶらと三人で歩いている最中、〇〇は思いきって尋ねることにした。
「今日はやけに大人しいけど…。変なもんでも食べた?」
当然、双子は口を揃えて「食べてないよ」と返した。
「どうしてそう思うの?」
「だって、こんな普通にのんびり歩くだけの散歩なんて…二人に似合わない」
「刺激が足りないなら――」
「っいや足りてる、十分に刺激的!…あたしが悪かった。頼むからこのまま恙なく散歩を終わらせてクダサイ」
反射的に遮ったのは本能である。チッと舌打ちが聞こえたのには背筋がひやりとした。
穏やかな散歩に不満があるわけではない。
そうだ。たとえ「ブラッディ・ツインズ」の名に似つかわしくない、小鳥の囀りを楽しむような長閑な散歩でも。
何事もなく平和であることの幸せ、これ以上の贅沢があるだろうか。
「ああ、いい天気。最高の散歩日和だなー」
と、わざとらしく笑顔を作ったこのとき、〇〇はひょっとするとこれなら本当に何事もなく終わるかも、と期待を込めて思った。
のだが。
(――はは…やっぱ甘かったかー……)
ここは銃弾飛び交う赤の世界、そして散歩を共にするのはトゥイードル=ディーとトゥイードル=ダム。
そう易々と終わるはずがなかったのだ。
〇〇と双子は、現れた複数の役なし達と対峙せざるを得ない状況に陥っていた。
男たちは帽子屋ファミリーと敵対する者らしい。じりじりと距離をつめて、囲みを縮めてくる。
〇〇も周りの空気に合わせてホルダーからマイ銃を抜いてはいるものの、これは使用可能とはいえ所詮お飾りだ。一度だって人間に向けて引き金を引いたことはなかった。
そもそも、自分はどの勢力とも対立しない余所者だ。手出しをするのもどうかと思う。
だからといって、このままでは巻き込まれてあの世逝きである。
普段縁のない類いの殺気に容赦なく晒されて、〇〇は背中に伝う冷や汗に身震いした。
そのとき、斧を構えて前に立っていた彼らが〇〇へと顔を向けた。
いつものように好戦的な雰囲気はなく、赤と青の二対は強い意志を宿して〇〇を見つめた。
「〇〇、無理しないで」
「へ……?」
「手、震えてるよ。〇〇はそんなもの持たなくていいから、目を閉じていて」
ディーが銃を掴んで下ろさせ、ダムが腕を引いて〇〇の強張った身体をさらに下がらせた。
男達から逸れた意識は、真摯な瞳に奪われる。おとなびた表情を見せる双子に、刹那、〇〇は息をつめた。
「ディー、ダム…」
「僕らに任せて、〇〇はじっとしててよ」
「待ってて。すぐに終わらせるから」
〇〇が気圧されるように首を縦に振ると、彼らは眼差しを和らげて悪戯っぽく笑った。いい子だね、と。
なにかの拍子で開いたら悲惨だと、両手を使って視界を閉ざした中で。
叫び、呻き、断末魔の声を〇〇の耳はしっかり聞き届けていた。恐ろしいと思うも、不思議と心は落ち着いていた。
目を閉じていても不安がないのは、力強く守ると言ってくれた二人のおかげだろうか。
やがて場が元の穏やかさを取り戻した頃、誘導する手に引っ張られて移動した先で、〇〇は目を開けた。
服をところどころ返り血に染めた二人が、心配そうに顔を覗き込んだ。
「〇〇、大丈夫?」
「気分は?気持ち悪くない?」
「…うん、平気」
気遣う二人をよそに、〇〇はくすぐったそうに、はにかんでしまっていた。
きょとんとするディーとダムは歳相応の顔を見せた。
先ほど垣間見た彼らの一面に、まさか〇〇の鼓動が僅かばかりでも跳ねたなどとは思いもしないのだろう。
言えば、そのときのことを根掘り葉掘り聞き出そうとするに違いない。そんな羞恥プレイはお断りだ。
〇〇は指先でそれぞれの頬に飛んだ赤を拭ってやると、気持ちを込めて礼を言った。
「二人とも、ありがと。――さっきのはちょっとかっこよかったよ」
双子のびっくり顔を横目に、〇〇は一人さっさと歩き出した。
慌てたように後を追ってくる、嬉しそうな足音。
「ねえねえ、具体的にはどんなふうにかっこよかった?」
「ぐ、具体的にって…」
「どきっとしたの?〇〇、ときめいちゃった?」
「それはどうかなー」
結局、帽子屋屋敷に帰るまで二人に纏わりつかれ通しで、〇〇は誤魔化すのに大変苦労したのだった。
後に聞くと、ディーとダムは〇〇の子供扱いがお気に召さなかったらしい。
役持ちの中では歳若い二人だが、他のキャラ同様顔立ちはいいのだ。
将来楽しみじゃないかと、〇〇は大人になった双子がアリスを囲むのを想像して、一人にやけていた。
今は子供のままでいい。焦らずに、ゆっくり熟して、あたしのために美味しくなってくれ。
end。→あとがき
仕掛けた罠に獲物がかかっているか確かめに行くでもなく、スリルを味わうために他の領土へ行くでもなく。
〇〇が歩きづらいと言ったから、手は繋がれていない。
くっつかれるのもまた歩きづらいのに変わりなかったが、そこは根負けして妥協させられた。
本当に、本来の散歩のあるべき形だった。腹に一物あるのではと疑いたくなるほど。
森の中をぶらぶらと三人で歩いている最中、〇〇は思いきって尋ねることにした。
「今日はやけに大人しいけど…。変なもんでも食べた?」
当然、双子は口を揃えて「食べてないよ」と返した。
「どうしてそう思うの?」
「だって、こんな普通にのんびり歩くだけの散歩なんて…二人に似合わない」
「刺激が足りないなら――」
「っいや足りてる、十分に刺激的!…あたしが悪かった。頼むからこのまま恙なく散歩を終わらせてクダサイ」
反射的に遮ったのは本能である。チッと舌打ちが聞こえたのには背筋がひやりとした。
穏やかな散歩に不満があるわけではない。
そうだ。たとえ「ブラッディ・ツインズ」の名に似つかわしくない、小鳥の囀りを楽しむような長閑な散歩でも。
何事もなく平和であることの幸せ、これ以上の贅沢があるだろうか。
「ああ、いい天気。最高の散歩日和だなー」
と、わざとらしく笑顔を作ったこのとき、〇〇はひょっとするとこれなら本当に何事もなく終わるかも、と期待を込めて思った。
のだが。
(――はは…やっぱ甘かったかー……)
ここは銃弾飛び交う赤の世界、そして散歩を共にするのはトゥイードル=ディーとトゥイードル=ダム。
そう易々と終わるはずがなかったのだ。
〇〇と双子は、現れた複数の役なし達と対峙せざるを得ない状況に陥っていた。
男たちは帽子屋ファミリーと敵対する者らしい。じりじりと距離をつめて、囲みを縮めてくる。
〇〇も周りの空気に合わせてホルダーからマイ銃を抜いてはいるものの、これは使用可能とはいえ所詮お飾りだ。一度だって人間に向けて引き金を引いたことはなかった。
そもそも、自分はどの勢力とも対立しない余所者だ。手出しをするのもどうかと思う。
だからといって、このままでは巻き込まれてあの世逝きである。
普段縁のない類いの殺気に容赦なく晒されて、〇〇は背中に伝う冷や汗に身震いした。
そのとき、斧を構えて前に立っていた彼らが〇〇へと顔を向けた。
いつものように好戦的な雰囲気はなく、赤と青の二対は強い意志を宿して〇〇を見つめた。
「〇〇、無理しないで」
「へ……?」
「手、震えてるよ。〇〇はそんなもの持たなくていいから、目を閉じていて」
ディーが銃を掴んで下ろさせ、ダムが腕を引いて〇〇の強張った身体をさらに下がらせた。
男達から逸れた意識は、真摯な瞳に奪われる。おとなびた表情を見せる双子に、刹那、〇〇は息をつめた。
「ディー、ダム…」
「僕らに任せて、〇〇はじっとしててよ」
「待ってて。すぐに終わらせるから」
〇〇が気圧されるように首を縦に振ると、彼らは眼差しを和らげて悪戯っぽく笑った。いい子だね、と。
なにかの拍子で開いたら悲惨だと、両手を使って視界を閉ざした中で。
叫び、呻き、断末魔の声を〇〇の耳はしっかり聞き届けていた。恐ろしいと思うも、不思議と心は落ち着いていた。
目を閉じていても不安がないのは、力強く守ると言ってくれた二人のおかげだろうか。
やがて場が元の穏やかさを取り戻した頃、誘導する手に引っ張られて移動した先で、〇〇は目を開けた。
服をところどころ返り血に染めた二人が、心配そうに顔を覗き込んだ。
「〇〇、大丈夫?」
「気分は?気持ち悪くない?」
「…うん、平気」
気遣う二人をよそに、〇〇はくすぐったそうに、はにかんでしまっていた。
きょとんとするディーとダムは歳相応の顔を見せた。
先ほど垣間見た彼らの一面に、まさか〇〇の鼓動が僅かばかりでも跳ねたなどとは思いもしないのだろう。
言えば、そのときのことを根掘り葉掘り聞き出そうとするに違いない。そんな羞恥プレイはお断りだ。
〇〇は指先でそれぞれの頬に飛んだ赤を拭ってやると、気持ちを込めて礼を言った。
「二人とも、ありがと。――さっきのはちょっとかっこよかったよ」
双子のびっくり顔を横目に、〇〇は一人さっさと歩き出した。
慌てたように後を追ってくる、嬉しそうな足音。
「ねえねえ、具体的にはどんなふうにかっこよかった?」
「ぐ、具体的にって…」
「どきっとしたの?〇〇、ときめいちゃった?」
「それはどうかなー」
結局、帽子屋屋敷に帰るまで二人に纏わりつかれ通しで、〇〇は誤魔化すのに大変苦労したのだった。
後に聞くと、ディーとダムは〇〇の子供扱いがお気に召さなかったらしい。
役持ちの中では歳若い二人だが、他のキャラ同様顔立ちはいいのだ。
将来楽しみじゃないかと、〇〇は大人になった双子がアリスを囲むのを想像して、一人にやけていた。
今は子供のままでいい。焦らずに、ゆっくり熟して、あたしのために美味しくなってくれ。
end。→あとがき