もう二度と……
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何故いつのことだったかも覚えていないあの日のやりとりを、今思い出したのだろう。
お馴染みの浮遊感に身を任せ、お馴染みの不思議な空間をぼーっと見上げている自分に気づいたとき、〇〇は違和感を知った。
いつもと同じ夢の中。それなのに、なにかが違う。
「ナイトメア…?」
「呼んだかい」
すぐに返ってきた声は、いつの間にか隣にあった。始めからそこにいたかのように、佇みひっそりと微笑んでいる。
それを見た〇〇の背筋が、わけもわからずすっと冷えた。
こんなにも、ここはひんやりと温度のない場所だっただろうか。
無意識に腕を摩ろうとして、自身の身体の反応の鈍さに驚いた。――鈍い?違う、動かせないのだ。
指一本の単位なら緩慢に反応を返すが、全体として支配権を失っていた。
頭の奥が重たい。ぼんやりする。
ナイトメアと会う夢は、いつもどこか夢らしさに欠けていた。
それが今日は文字どおり夢見心地で、肉体も思考も他者に握られているように覚束なかった。
「あたし…変なんだけど…」
「変?どこが、どんなふうに?」
「なんか、あやふやっていうか…自分の境界線が、わからない…?」
溶け込んでいきそうだ。このまま身を委ねれば、きっといつか夢の空間の一部と化してしまう。
確たる自分というものを見失う漠然とした恐ろしさに、じわりじわりと手足から体温が抜け落ちていく。
冷静に尋ね、見下ろす眼差しが不安を掻き立てる。こんな状態に陥った原因を、夢魔が担っているような気がしてならなかった。
「ナイトメア…アナタ、怒ってる?」
「いいや?」
「じゃあ…」
無気力に漂う〇〇の頬に、ナイトメアは手を伸ばした。ひたりと触れ、撫でる手つきはしんとしていた。
「彼は、こうしていたね」
「彼…?」
「そう…彼と言って、それが誰だかわからないくらい、君は誰にでも触れさせる。簡単に許す」
まるで恋人の不義を責める静かな響きに、〇〇は記憶を掻き回そうとした。
そこに原因があるなら、そしてなんらかの過失が自分にあったなら、早急に謝ろうと思ったのだ。
逃れたい。とにかく、今の状態が続くのは思わしくないことを感じ取っていたから。
頭の中を読むことはできなくとも、〇〇の焦りを手に取るように読み取ったのだろう。
やはり緩慢な思考は、ナイトメアの声ひとつで形をなくしてしまった。
「それが誰であろうとたいした意味はない。問題は、それが“私ではない誰か”だということなんだよ」
「どういう…」
「君は、頭は悪くないのに自分のこととなると回転が鈍るんだな」
失礼なことを言って、ナイトメアは掬うように〇〇の両頬を手で包み込んだ。
迫る隻眼は妖しく揺らめき、それを見ていると頭の芯がじんと痺れた。
「わかりやすく言えば――嫉妬、だ。私は君に容易く触れる他の役持ちに嫉妬している」
「そんな…」
「嫉妬に狂った男の行動は読めないから恐ろしい。自分でも、自分がなにを仕出かすのかわからない」
ぴくりとしか動かない〇〇の手を見遣り、可愛らしい哀れな抵抗にナイトメアはふっと微笑んだ。
「愚かな男は、自分が唯一支配できる夢の中に彼女を引きずり込み、閉じ込めてしまった。――ん?…どうした。ちっとも嬉しそうじゃないな。君の待ち望んだ展開だろう?」
違う。そうじゃない。アリスが、アリスは、と考えるうちになにを言うべきかわからなくなった。
混乱を封じるように、唇が落ちてくる。ふわりと触れたそれは、花弁を散らすように上下を開かせ、奥へ奥へと緩やかに侵入を果たした。
じっくりと味わう、ゆったりとした侵略。焦る必要はないと語る動きは、無情にも〇〇に時間の無限を教えた。
「君は私に男を見せろと言ったね。お望みどおり、見せてあげようか」
長い口づけでささやかな抵抗さえ奪うと、悠然と〇〇の服のボタンを外していった。
この空間にあるものすべては夢魔の支配下。彼の意のままに。
目の前に晒される肌に唇を滑らせ、ナイトメアは〇〇の身体を抱きしめた。胸の膨らみに頬を擦り寄せて、うっとりと囁く。
「ああ、聴こえる。君の音がここから…」
ちゅ、と心臓の真上にキスされて、ぞわりと肌が粟立ち背筋が震えた。
「ん……っ」
「大丈夫。なにも恐れることはない。私にすべてを委ねて…」
唇を舌に代えて、つつ…となぞっていく。〇〇の恐怖の感覚は隅に追いやられ、低い男の声によって徐々に快感にすり替えられていった。
とろりと蜜のように変わる瞳を見て、ナイトメアは我慢もなく再び唇を合わせた。
ずっと思い描いては隠してきた衝動を躊躇う理由はもはやない。
堕ちていく余所者を腕の中で慈しみ、奪い、己を刻んでいく。
「もう誰の目にも触れさせない。これからはずっと、二人きりだ」
「ん、あァ、ゃ……っ」
「ははっ…そんなに喜んでくれて、私も嬉しいよ」
逃げ場のない快楽。救いを求めるように宙に伸ばされた〇〇の手を掴んだナイトメアは、細い指を口に含んで恍惚と呟いた。
「ずっと。これからはずっと……」
ナイトメア、と熱に浮かされた〇〇の声にもはや抵抗の色はない。ただ、頭の片隅に故意に取り残された自分が、嘆きの声を上げた。
(あたしは、違う……こんなの、違うのに――)
end。→あとがき
お馴染みの浮遊感に身を任せ、お馴染みの不思議な空間をぼーっと見上げている自分に気づいたとき、〇〇は違和感を知った。
いつもと同じ夢の中。それなのに、なにかが違う。
「ナイトメア…?」
「呼んだかい」
すぐに返ってきた声は、いつの間にか隣にあった。始めからそこにいたかのように、佇みひっそりと微笑んでいる。
それを見た〇〇の背筋が、わけもわからずすっと冷えた。
こんなにも、ここはひんやりと温度のない場所だっただろうか。
無意識に腕を摩ろうとして、自身の身体の反応の鈍さに驚いた。――鈍い?違う、動かせないのだ。
指一本の単位なら緩慢に反応を返すが、全体として支配権を失っていた。
頭の奥が重たい。ぼんやりする。
ナイトメアと会う夢は、いつもどこか夢らしさに欠けていた。
それが今日は文字どおり夢見心地で、肉体も思考も他者に握られているように覚束なかった。
「あたし…変なんだけど…」
「変?どこが、どんなふうに?」
「なんか、あやふやっていうか…自分の境界線が、わからない…?」
溶け込んでいきそうだ。このまま身を委ねれば、きっといつか夢の空間の一部と化してしまう。
確たる自分というものを見失う漠然とした恐ろしさに、じわりじわりと手足から体温が抜け落ちていく。
冷静に尋ね、見下ろす眼差しが不安を掻き立てる。こんな状態に陥った原因を、夢魔が担っているような気がしてならなかった。
「ナイトメア…アナタ、怒ってる?」
「いいや?」
「じゃあ…」
無気力に漂う〇〇の頬に、ナイトメアは手を伸ばした。ひたりと触れ、撫でる手つきはしんとしていた。
「彼は、こうしていたね」
「彼…?」
「そう…彼と言って、それが誰だかわからないくらい、君は誰にでも触れさせる。簡単に許す」
まるで恋人の不義を責める静かな響きに、〇〇は記憶を掻き回そうとした。
そこに原因があるなら、そしてなんらかの過失が自分にあったなら、早急に謝ろうと思ったのだ。
逃れたい。とにかく、今の状態が続くのは思わしくないことを感じ取っていたから。
頭の中を読むことはできなくとも、〇〇の焦りを手に取るように読み取ったのだろう。
やはり緩慢な思考は、ナイトメアの声ひとつで形をなくしてしまった。
「それが誰であろうとたいした意味はない。問題は、それが“私ではない誰か”だということなんだよ」
「どういう…」
「君は、頭は悪くないのに自分のこととなると回転が鈍るんだな」
失礼なことを言って、ナイトメアは掬うように〇〇の両頬を手で包み込んだ。
迫る隻眼は妖しく揺らめき、それを見ていると頭の芯がじんと痺れた。
「わかりやすく言えば――嫉妬、だ。私は君に容易く触れる他の役持ちに嫉妬している」
「そんな…」
「嫉妬に狂った男の行動は読めないから恐ろしい。自分でも、自分がなにを仕出かすのかわからない」
ぴくりとしか動かない〇〇の手を見遣り、可愛らしい哀れな抵抗にナイトメアはふっと微笑んだ。
「愚かな男は、自分が唯一支配できる夢の中に彼女を引きずり込み、閉じ込めてしまった。――ん?…どうした。ちっとも嬉しそうじゃないな。君の待ち望んだ展開だろう?」
違う。そうじゃない。アリスが、アリスは、と考えるうちになにを言うべきかわからなくなった。
混乱を封じるように、唇が落ちてくる。ふわりと触れたそれは、花弁を散らすように上下を開かせ、奥へ奥へと緩やかに侵入を果たした。
じっくりと味わう、ゆったりとした侵略。焦る必要はないと語る動きは、無情にも〇〇に時間の無限を教えた。
「君は私に男を見せろと言ったね。お望みどおり、見せてあげようか」
長い口づけでささやかな抵抗さえ奪うと、悠然と〇〇の服のボタンを外していった。
この空間にあるものすべては夢魔の支配下。彼の意のままに。
目の前に晒される肌に唇を滑らせ、ナイトメアは〇〇の身体を抱きしめた。胸の膨らみに頬を擦り寄せて、うっとりと囁く。
「ああ、聴こえる。君の音がここから…」
ちゅ、と心臓の真上にキスされて、ぞわりと肌が粟立ち背筋が震えた。
「ん……っ」
「大丈夫。なにも恐れることはない。私にすべてを委ねて…」
唇を舌に代えて、つつ…となぞっていく。〇〇の恐怖の感覚は隅に追いやられ、低い男の声によって徐々に快感にすり替えられていった。
とろりと蜜のように変わる瞳を見て、ナイトメアは我慢もなく再び唇を合わせた。
ずっと思い描いては隠してきた衝動を躊躇う理由はもはやない。
堕ちていく余所者を腕の中で慈しみ、奪い、己を刻んでいく。
「もう誰の目にも触れさせない。これからはずっと、二人きりだ」
「ん、あァ、ゃ……っ」
「ははっ…そんなに喜んでくれて、私も嬉しいよ」
逃げ場のない快楽。救いを求めるように宙に伸ばされた〇〇の手を掴んだナイトメアは、細い指を口に含んで恍惚と呟いた。
「ずっと。これからはずっと……」
ナイトメア、と熱に浮かされた〇〇の声にもはや抵抗の色はない。ただ、頭の片隅に故意に取り残された自分が、嘆きの声を上げた。
(あたしは、違う……こんなの、違うのに――)
end。→あとがき