跳ねる鼓動
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この世界は恋愛ゲームであるのでキャラの容姿は整っていてしかるべきだが、事情を差し引いてもいい顔をしていると頷ける。
眼鏡は知的に表情を引き立てており、ウサギ耳をはやしていても彼はハートの城の宰相、怜悧な雰囲気を漂わせている。
普段の彼は、ある少女に対するとき限定のあの見事な変態寄りの変貌ぶりを別人かと疑わせるほどだ。
目の保養にはうってつけの人材。せめて睨みをもう少し抑えてもらえると、さらにありがたいのだが。
「じっと見つめないでください。気持ち悪いです。気分も悪い。喧嘩を売っているのなら喜んで買ってやりますが?」
「……その毒も心持ち控えてもらえると、ねえ?」
〇〇は誰にともなく同意を求めたい気分で語尾を上げた。
どんなに顔が良くて目の保養にはなろうが、やはり白ウサギは白ウサギ。ひとたび口を開けば冷たい刺でこちらはあっという間に蜂の巣だ。
だけどそこがいい、と〇〇は満足げに頷いた。
むしろそうでなければペーター=ホワイトではない。誰にでも愛想のいいウサ耳男では面白くもなんともないのである。
一人納得する〇〇を気味悪そうに一瞥して、ペーターは嘆息した。
「ああ、どうして僕がこんな余所者と午後のティータイムを過ごさなければならないんでしょう…」
「嫌なら無理にここにいなくてもいいんだよ?そもそも、アリスとあたしのお茶会に、アナタが勝手に割り込んできただけだしね」
「アリス…僕というものがありながら、よりにもよってこんなのを談笑の相手に選ぶなんて…!」
嘆かわしいと言わんばかりに叫び、ああだこうだと一人盛り上がっている。
“こんなの”呼ばわりされた〇〇は肩を竦めた。ウサギさん、人の話を聞いてねーのな。
飛び入り参加と言えば聞こえはいい。その実、アリスの自室で女二人、メイドに用意してもらった紅茶を楽しんでいたところにペーターが乱入してきたのだ。
彼のそういう振る舞いに慣れてしまった余所者達は力ずくで追い出すことはせず、闖入者を放置することにした。
まあ、放置しようにも会話に捩じ込んでくるペーターをやむを得ず相手にして、とりあえずお茶会の体裁を整えたのだった。
メイドに(実質的には女王様に)呼ばれたアリスは、ただいま席を外している。
自ずとペーターと〇〇の二人きりになった部屋は、アリスというクッションをなくして冷え冷えとしていた。
もっとも、ペーターが一方的に冷気を発しているだけで、〇〇はのほほんと寛いでアリスを待っていた。
話しかければ殺す、というオーラを醸し出していたから、手持ち無沙汰に白ウサギさん観察を行っていたというわけだった。
「だいたい、同じ余所者というだけで彼女のプライベートルームに踏み入るなんて図々しいんですよ。即刻出ていくべきなのは僕ではなく、あなたのほうじゃないんですか?」
「アリスに出ていけって言われたら、いつでも」
澄ましてにこっとする〇〇に、ペーターは青筋を立てた。おーおー、視線がびしびし刺さるわ刺さるわ。
実力行使に出ればなんてことなく邪魔者を排除できるのに、哀れ白ウサギ、愛しの彼女を思えば銃の引き金を引くに引けないのだ。
ふん、と顔ごと逸らして苛々と腕を組んだペーターは、ソファーに背を預けて踏ん反り返った。
アリスのため、と言い聞かせて許容する彼はなんて健気だろう。
「…だから、見るなと言っているでしょう。まったく、なんなんですかあなたは」
「まあ気にしないで。思う存分無視してくれていいからさ」
「……視線がうるさいんです。気が散ります。欝陶しい。見るな」
特にこれといってすることはないくせして、気が散るもなにも。確かにわけもなく見つめられると居心地は悪かろうが。
たじろぐ様子をちょっといい気味、なんて思ったために罰が当たったのかもしれない。
〇〇は不注意で、不意にティーカップの縁に指を引っかけしまった。次の瞬間、紅茶が机の上に流れ出した。
「あつっ……」
思わず声が出て、〇〇は液体を被った手を反射的に引いた。溢れたものはあっという間に周囲を占領する。
ああ、床にまで零れてしまう。台拭き、いや確かハンカチがポケットに、と動かした手が突如自身の意志を上回る強さに奪われた。
ぎょっとして力の先を見ると、唖然とするペーターの顔があった。
狼狽と驚愕、いずれも〇〇以上の度合いで、彼自身にとっても予期せぬ動作だったようだと推測できた。
目と目の刹那の交わり。まさに汚物を振り払うが如く放されるかと思いきや、
「ペーターっ?」
瞳の動揺は瞬時に起伏のない赤に塗り変えられ、〇〇は無表情で無言の白ウサギに引っ張り上げられた。
行き先は洗面所だった。ペーターは口を噤んで、掴んだ〇〇の手を有無を言わさず強く引いた。
意味が判らずつい抗おうとする、それを押さえ込む力強さにびくりとした。
とりわけなにかあるわけでなし、こんなことで“男”を感じてどうする、と内心自分に突っ込む。
その間にも冷静な目はようやく状況を把握した。さらさらと流水にさらされる手。紅茶のかかった箇所を冷やしてくれているのだ、あのペーターが。
「あ、そっか…。ありがとう、ペーター」
「……」
当の白ウサギはだんまりである。
無視というには相変わらず手は触れ合い(限りなく拘束に近いが)、必然的に二人の間隔も彼の許容を超えている。
背後に立つその人の顔は見えず、何気なく上向けた先の眼差しに〇〇の鼓動はひとつ、大きく打たれた。
鏡の中の彼は、視線を空間に飛ばすでもなく手を見るでもなく、鏡越しにじっとこちらを見つめていた。
日頃の毒々しい負の感情はそこにはない。あからさまに現れるもののなにひとつない目に、すっと過ぎった色。
(――これってあたしの願望…なのかも?)
〇〇がふっと目尻を緩ませたとき、はじめてペーターが表情を動かした。
「…人の顔を見て笑うなんて、いったいあなたはどういう教育を受けてきたんですか」
「ごめん。別にペーターを笑ったんじゃないんだ」
ただ…と言いかけて、〇〇は首を振る。やっぱりいいや。
「言いかけてやめないでください。その態度、無駄に腹が立ちます」
「いやー、ほんと、なんでもないから」
「ニヤニヤと気持ち悪い…。どう考えても躾がなってませんね。僕が一から調教し直して差し上げましょうか?」
「まず一にするためにいろいろぶっ壊されそうだから遠慮する」
自然と離れた身体を惜しく思う気持ちがあったのだろうか。〇〇は洗面所から出ていく背中を声で追った。
「ペーターが、もしかしたら少しは心配してくれたんじゃないかなって」
「……」
「だとしたら、ちょっと嬉しいかも。そう思うと顔がにやけちゃってね」
「……自惚れも甚だしい。たとえあなたが道端で死にかけていたとしても、僕は躊躇わず見殺しにしますよ」
振り向かない後ろ姿に、そっと微笑みを向ける。
「でも、とどめをさしてくれる慈悲が、もしかしたら気まぐれに生まれるかもしれない」
アリスオンリーなペーター。そんな彼が気まぐれでも(あるいは気の迷いでも)こうした気遣いを見せるのは貴重なことだ。
不意打ちにどきりとさせられたことは不覚だったが、たまにはこういうこともあるかと思うとなんだか楽しくなってしまった。
「気遣いのできる男は好かれるよ。これを聞けばアナタのアリスも惚れ直すんじゃない?」
アリスの名に反応した長い耳は、黙って壁の向こうに消えていった。言い返してこなかったあたり、満更でもなかったのだろう。
洗面所で一人、〇〇は笑いを堪えきれず肩を揺らした。
水を止める。手は僅かに赤みを帯びている程度で、なんということはなかった。
(紅茶、酷い火傷をするほど熱くなかったからなー)
あのときは反射的に声が出てしまったのだが、〇〇よりも俊敏に反応した彼はなにを思って行動したのやら。
それが無意識でも、あのペーターがと思えば上等の気遣いに違いない。
その気はないにしても、彼は自らの手袋を濡らしてまで〇〇を優先したのである。それだけで十分に価値ある体験だった。
ああ、どうやらアリスが戻ってきたらしい。白ウサギの喜色に満ちた叫びと、迷惑そうな少女の声が耳に届く。
〇〇はタオルで手を拭くと、口元に笑みを浮かべた。
さてと。お礼に、今の出来事をアリスに語って聞かせて、ペーターの株を上げるとしますか。
end。→あとがき
眼鏡は知的に表情を引き立てており、ウサギ耳をはやしていても彼はハートの城の宰相、怜悧な雰囲気を漂わせている。
普段の彼は、ある少女に対するとき限定のあの見事な変態寄りの変貌ぶりを別人かと疑わせるほどだ。
目の保養にはうってつけの人材。せめて睨みをもう少し抑えてもらえると、さらにありがたいのだが。
「じっと見つめないでください。気持ち悪いです。気分も悪い。喧嘩を売っているのなら喜んで買ってやりますが?」
「……その毒も心持ち控えてもらえると、ねえ?」
〇〇は誰にともなく同意を求めたい気分で語尾を上げた。
どんなに顔が良くて目の保養にはなろうが、やはり白ウサギは白ウサギ。ひとたび口を開けば冷たい刺でこちらはあっという間に蜂の巣だ。
だけどそこがいい、と〇〇は満足げに頷いた。
むしろそうでなければペーター=ホワイトではない。誰にでも愛想のいいウサ耳男では面白くもなんともないのである。
一人納得する〇〇を気味悪そうに一瞥して、ペーターは嘆息した。
「ああ、どうして僕がこんな余所者と午後のティータイムを過ごさなければならないんでしょう…」
「嫌なら無理にここにいなくてもいいんだよ?そもそも、アリスとあたしのお茶会に、アナタが勝手に割り込んできただけだしね」
「アリス…僕というものがありながら、よりにもよってこんなのを談笑の相手に選ぶなんて…!」
嘆かわしいと言わんばかりに叫び、ああだこうだと一人盛り上がっている。
“こんなの”呼ばわりされた〇〇は肩を竦めた。ウサギさん、人の話を聞いてねーのな。
飛び入り参加と言えば聞こえはいい。その実、アリスの自室で女二人、メイドに用意してもらった紅茶を楽しんでいたところにペーターが乱入してきたのだ。
彼のそういう振る舞いに慣れてしまった余所者達は力ずくで追い出すことはせず、闖入者を放置することにした。
まあ、放置しようにも会話に捩じ込んでくるペーターをやむを得ず相手にして、とりあえずお茶会の体裁を整えたのだった。
メイドに(実質的には女王様に)呼ばれたアリスは、ただいま席を外している。
自ずとペーターと〇〇の二人きりになった部屋は、アリスというクッションをなくして冷え冷えとしていた。
もっとも、ペーターが一方的に冷気を発しているだけで、〇〇はのほほんと寛いでアリスを待っていた。
話しかければ殺す、というオーラを醸し出していたから、手持ち無沙汰に白ウサギさん観察を行っていたというわけだった。
「だいたい、同じ余所者というだけで彼女のプライベートルームに踏み入るなんて図々しいんですよ。即刻出ていくべきなのは僕ではなく、あなたのほうじゃないんですか?」
「アリスに出ていけって言われたら、いつでも」
澄ましてにこっとする〇〇に、ペーターは青筋を立てた。おーおー、視線がびしびし刺さるわ刺さるわ。
実力行使に出ればなんてことなく邪魔者を排除できるのに、哀れ白ウサギ、愛しの彼女を思えば銃の引き金を引くに引けないのだ。
ふん、と顔ごと逸らして苛々と腕を組んだペーターは、ソファーに背を預けて踏ん反り返った。
アリスのため、と言い聞かせて許容する彼はなんて健気だろう。
「…だから、見るなと言っているでしょう。まったく、なんなんですかあなたは」
「まあ気にしないで。思う存分無視してくれていいからさ」
「……視線がうるさいんです。気が散ります。欝陶しい。見るな」
特にこれといってすることはないくせして、気が散るもなにも。確かにわけもなく見つめられると居心地は悪かろうが。
たじろぐ様子をちょっといい気味、なんて思ったために罰が当たったのかもしれない。
〇〇は不注意で、不意にティーカップの縁に指を引っかけしまった。次の瞬間、紅茶が机の上に流れ出した。
「あつっ……」
思わず声が出て、〇〇は液体を被った手を反射的に引いた。溢れたものはあっという間に周囲を占領する。
ああ、床にまで零れてしまう。台拭き、いや確かハンカチがポケットに、と動かした手が突如自身の意志を上回る強さに奪われた。
ぎょっとして力の先を見ると、唖然とするペーターの顔があった。
狼狽と驚愕、いずれも〇〇以上の度合いで、彼自身にとっても予期せぬ動作だったようだと推測できた。
目と目の刹那の交わり。まさに汚物を振り払うが如く放されるかと思いきや、
「ペーターっ?」
瞳の動揺は瞬時に起伏のない赤に塗り変えられ、〇〇は無表情で無言の白ウサギに引っ張り上げられた。
行き先は洗面所だった。ペーターは口を噤んで、掴んだ〇〇の手を有無を言わさず強く引いた。
意味が判らずつい抗おうとする、それを押さえ込む力強さにびくりとした。
とりわけなにかあるわけでなし、こんなことで“男”を感じてどうする、と内心自分に突っ込む。
その間にも冷静な目はようやく状況を把握した。さらさらと流水にさらされる手。紅茶のかかった箇所を冷やしてくれているのだ、あのペーターが。
「あ、そっか…。ありがとう、ペーター」
「……」
当の白ウサギはだんまりである。
無視というには相変わらず手は触れ合い(限りなく拘束に近いが)、必然的に二人の間隔も彼の許容を超えている。
背後に立つその人の顔は見えず、何気なく上向けた先の眼差しに〇〇の鼓動はひとつ、大きく打たれた。
鏡の中の彼は、視線を空間に飛ばすでもなく手を見るでもなく、鏡越しにじっとこちらを見つめていた。
日頃の毒々しい負の感情はそこにはない。あからさまに現れるもののなにひとつない目に、すっと過ぎった色。
(――これってあたしの願望…なのかも?)
〇〇がふっと目尻を緩ませたとき、はじめてペーターが表情を動かした。
「…人の顔を見て笑うなんて、いったいあなたはどういう教育を受けてきたんですか」
「ごめん。別にペーターを笑ったんじゃないんだ」
ただ…と言いかけて、〇〇は首を振る。やっぱりいいや。
「言いかけてやめないでください。その態度、無駄に腹が立ちます」
「いやー、ほんと、なんでもないから」
「ニヤニヤと気持ち悪い…。どう考えても躾がなってませんね。僕が一から調教し直して差し上げましょうか?」
「まず一にするためにいろいろぶっ壊されそうだから遠慮する」
自然と離れた身体を惜しく思う気持ちがあったのだろうか。〇〇は洗面所から出ていく背中を声で追った。
「ペーターが、もしかしたら少しは心配してくれたんじゃないかなって」
「……」
「だとしたら、ちょっと嬉しいかも。そう思うと顔がにやけちゃってね」
「……自惚れも甚だしい。たとえあなたが道端で死にかけていたとしても、僕は躊躇わず見殺しにしますよ」
振り向かない後ろ姿に、そっと微笑みを向ける。
「でも、とどめをさしてくれる慈悲が、もしかしたら気まぐれに生まれるかもしれない」
アリスオンリーなペーター。そんな彼が気まぐれでも(あるいは気の迷いでも)こうした気遣いを見せるのは貴重なことだ。
不意打ちにどきりとさせられたことは不覚だったが、たまにはこういうこともあるかと思うとなんだか楽しくなってしまった。
「気遣いのできる男は好かれるよ。これを聞けばアナタのアリスも惚れ直すんじゃない?」
アリスの名に反応した長い耳は、黙って壁の向こうに消えていった。言い返してこなかったあたり、満更でもなかったのだろう。
洗面所で一人、〇〇は笑いを堪えきれず肩を揺らした。
水を止める。手は僅かに赤みを帯びている程度で、なんということはなかった。
(紅茶、酷い火傷をするほど熱くなかったからなー)
あのときは反射的に声が出てしまったのだが、〇〇よりも俊敏に反応した彼はなにを思って行動したのやら。
それが無意識でも、あのペーターがと思えば上等の気遣いに違いない。
その気はないにしても、彼は自らの手袋を濡らしてまで〇〇を優先したのである。それだけで十分に価値ある体験だった。
ああ、どうやらアリスが戻ってきたらしい。白ウサギの喜色に満ちた叫びと、迷惑そうな少女の声が耳に届く。
〇〇はタオルで手を拭くと、口元に笑みを浮かべた。
さてと。お礼に、今の出来事をアリスに語って聞かせて、ペーターの株を上げるとしますか。
end。→あとがき