お茶会バトル。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
事の発端はお茶会だった。
誘われ慣れたというのも変な話だが、お茶をする習慣のない日本人でも、こう何度も参加していればいつしか馴染む。
今日も今日とてブラッドに誘われた〇〇は、いつものように席に着こうとした。
そこで声をかけてきたのが双子だった。
「ねえねえ〇〇、今日は僕達と一緒に座らない?」
「いつもボスの隣ばっかりで僕達つまらないんだ。たまにはこっちにおいでよ、ね?」
なるほど、考えてみれば確かにブラッドの隣に座る確率が高いかもしれない。特に理由はない。
そういえば最初に招かれたとき、ブラッドがご丁寧にも椅子を引いて座らせてくれたような気がする。
なにかきっかけがあったとしたらたぶんあれだろう。それから、なんとなくそこを選ぶようになったのだ。
「ま、あたしはどこでもいいんだけど?」
隣へ視線を送ると、彼はちらとこちらを一瞥して肩を軽く竦めた。
「君のお好きなように、お嬢さん。私は別に構わないよ」
豊かな香りを放つ紅茶にすでに心奪われたように、ブラッドはすぐに意識を手元に落とした。
〇〇はあたしはお嬢さんじゃない、と小さく反論して、椅子の背から手を放した。
はっきり言って、アリスのいないお茶会の目当てはテーブルを彩るお菓子のみである。
どこに座ろうが隣に誰がいようが、〇〇にとってはどうでもいいことなのだ。
ところが、ここにどうでもよくない人間がいた。エリオットである。
もともとはブラッドの隣が彼の指定席のようなものだったが、今では〇〇を挟んで座るようになっていた。
つまり、〇〇の隣がエリオットの席なのである。
移動しようとする〇〇の腕を掴むと、エリオットは長い耳をぴんと逆立てて抗議した。
「待てよ、〇〇。あんたの席はここだろ?っていうかここじゃなきゃ駄目だ!」
「駄目って…なんで」
「だって――っここが俺の席だからだ!」
目の前にある席と、その右手にある席を見比べて。
〇〇はしばらくその理屈を吟味してみたが、どう考えても筋が通らなかった。
「…いやいや、別に関係ないんじゃない?エリオットの席がそこにあるからって、あたしの席まで定められるわけじゃないし」
正論がぐさっとエリオットの脳天に突き刺さった。
だが相手が冷静であればあるほど、なおさら感情で反発したくなるというもの。
へこたれた耳を頭に乗せた男は、うるっと潤んだ目で〇〇を見つめた。
俄に動揺を走らせる〇〇は、もちろん哀愁漂う垂れた耳に釘付けだ。
「あんた…俺のことが嫌いなのか?だから俺の傍にいたくないんだろ?」
「や、やだな―。嫌いだなんて、そんな…」
その耳は計算のうちか。くっ、なんて卑怯な!
疼く両手を身体の後ろで組み、なんとか自制をかける。
ウサギであることを必死に否定するエリオットだから、まさか効果的な耳の演出などという高度な技を駆使できるはずがない。
明言してはいないが嫌われていないらしいと知り、途端にエリオットはぱっと表情を明るくした。
「じゃあ、あんたの席は俺の隣で決まりだなっ」
これで一件落着めでたしめでたし――には当然ならない。双子が黙っているはずがなかった。
各々の手に斧を構え、今にも邪魔者に飛びかからんばかりの体勢だ。
「〇〇を勝手に私物化しないでくれない、この馬鹿ウサギ!」
「〇〇の隣は俺のもの、みたいな主張するなよ。最っ高にウザイ」
「んだとテメーら…!」
いきり立つエリオットだったが、なにかに気づいたようにニヤリと笑った。それこそ挑発に満ちた最高に不敵な笑みで。
「はん、さては〇〇に選ばれなかったことが悔しいんだな?そうかそうか、そりゃ残念だったな~?」
負け惜しみと解釈され、双子はさらにカチンと来たらしい。
打ち震えて飛びついた先は、エリオットではなく〇〇だった。
くだらない争いだと静観姿勢に入っていただけに、〇〇は前触れもなく巻き込まれてぎょっとした。
(え……えええ?)
何故こっちに来る。仰け反る〇〇の腕をそれぞれ両側から捕らえ、これまた縋りつく二対のいたいけな瞳。
二人は〇〇を真っ直ぐに見上げると、一直線な質問を浴びせた。
「〇〇、僕らのことが嫌いなの?そんなはずないよね?」
「僕らはこんなに〇〇のことが好きなんだから、〇〇も僕らを好きに決まってるよ。そうでしょう?」
その瞬間ぞっとした。静かな斧の接近に無音の脅迫を感じ取る。冷や汗がつーっと背筋を伝った。
返答次第じゃどうなるかわかってるだろうな。ああ、なんだかそんな幻聴が聞こえてくる。
「僕らのこと」
「好きだよね?」
「………はい」
エリオットが雷に打たれたように「そんな!」と大声で叫んだ。
「嫌い?」「嫌いじゃない」の曖昧さに比べたら、「好き?」「はい」のほうが何倍もはっきりした好意だ。
エリオットの中で〇〇を中心に据えた天秤がガコンと傾いた。
双子の乗った皿がその重みに深く傾き、そして自分の乗った皿があまりの軽さに空高く舞い上がる。
〇〇の好意は圧倒的にエリオット<双子。その様子が彼の脳内にまざまざと描かれた。
「〇〇…っ、そんなにそいつらが好きなのか?」
「は……い」
「ッ、目に涙を浮かべるくらい、そいつらのほうがいいのかよっ?」
「は、…は、い~」
「そんな、泣きたくなるくらい好きだなんて……俺、俺っ――くっ、ブ、ブラッドーッ!!」
ブラッドに泣きついたエリオットは「気色悪い」と容赦なくステッキでどつかれた。あ、血ィ吐いた。
いろんな要素で青ざめた〇〇に、ご満悦な二人の子供がぎゅっと抱きついた。
「子供と張り合うなんて、おとなげないウサギだなー」
「おとなしく〇〇を渡せばよかったのに、馬鹿なひよこウサギ」
ね、〇〇。僕達もお茶にしようよ。ディーとダムは〇〇をぐいぐい引っ張って席に座らせ、堂々と両側を陣取った。
これ美味しいよ、こっちもどう?あ、食べたい?じゃあはい、口開けて、あーん。
もはや〇〇は抗う気力も失せ、されるがまま。むぐぐと咀嚼をする。
「〇〇、ここにクリームついてるよ。僕が舐めてあげる」
「あ、ずるいぞ兄弟。それなら僕だって…」
そこのアナタ達、このクリームは人の顔に塗りたくるもんじゃありません。
お茶会のテーブルから少し離れた地面には、オレンジ色の物体がひくひく震えて沈んでいる。
〇〇はさりげなく視線を逸らすと、なにも見てない、そう見えないんだと呪文のように自分に言い聞かせた。
あーん、やら、ぺろり、なんていう羞恥プレーは続行中。刃物の恐怖による涙は別の意味に取って代わり、なかなか乾かない。
くそ、なんて子供らしい笑顔を見せるんだ。抵抗の意思は今度こそ根こそぎ取られてしまった。
〇〇が駄目元で助けてと目で訴えた先では、ブラッドが優雅に紅茶を啜り、一人平和な呟きをうっとりと漏らした。
「茶がうまい…」
わかった、もうどうにでもしてくれ。
end。→あとがき
誘われ慣れたというのも変な話だが、お茶をする習慣のない日本人でも、こう何度も参加していればいつしか馴染む。
今日も今日とてブラッドに誘われた〇〇は、いつものように席に着こうとした。
そこで声をかけてきたのが双子だった。
「ねえねえ〇〇、今日は僕達と一緒に座らない?」
「いつもボスの隣ばっかりで僕達つまらないんだ。たまにはこっちにおいでよ、ね?」
なるほど、考えてみれば確かにブラッドの隣に座る確率が高いかもしれない。特に理由はない。
そういえば最初に招かれたとき、ブラッドがご丁寧にも椅子を引いて座らせてくれたような気がする。
なにかきっかけがあったとしたらたぶんあれだろう。それから、なんとなくそこを選ぶようになったのだ。
「ま、あたしはどこでもいいんだけど?」
隣へ視線を送ると、彼はちらとこちらを一瞥して肩を軽く竦めた。
「君のお好きなように、お嬢さん。私は別に構わないよ」
豊かな香りを放つ紅茶にすでに心奪われたように、ブラッドはすぐに意識を手元に落とした。
〇〇はあたしはお嬢さんじゃない、と小さく反論して、椅子の背から手を放した。
はっきり言って、アリスのいないお茶会の目当てはテーブルを彩るお菓子のみである。
どこに座ろうが隣に誰がいようが、〇〇にとってはどうでもいいことなのだ。
ところが、ここにどうでもよくない人間がいた。エリオットである。
もともとはブラッドの隣が彼の指定席のようなものだったが、今では〇〇を挟んで座るようになっていた。
つまり、〇〇の隣がエリオットの席なのである。
移動しようとする〇〇の腕を掴むと、エリオットは長い耳をぴんと逆立てて抗議した。
「待てよ、〇〇。あんたの席はここだろ?っていうかここじゃなきゃ駄目だ!」
「駄目って…なんで」
「だって――っここが俺の席だからだ!」
目の前にある席と、その右手にある席を見比べて。
〇〇はしばらくその理屈を吟味してみたが、どう考えても筋が通らなかった。
「…いやいや、別に関係ないんじゃない?エリオットの席がそこにあるからって、あたしの席まで定められるわけじゃないし」
正論がぐさっとエリオットの脳天に突き刺さった。
だが相手が冷静であればあるほど、なおさら感情で反発したくなるというもの。
へこたれた耳を頭に乗せた男は、うるっと潤んだ目で〇〇を見つめた。
俄に動揺を走らせる〇〇は、もちろん哀愁漂う垂れた耳に釘付けだ。
「あんた…俺のことが嫌いなのか?だから俺の傍にいたくないんだろ?」
「や、やだな―。嫌いだなんて、そんな…」
その耳は計算のうちか。くっ、なんて卑怯な!
疼く両手を身体の後ろで組み、なんとか自制をかける。
ウサギであることを必死に否定するエリオットだから、まさか効果的な耳の演出などという高度な技を駆使できるはずがない。
明言してはいないが嫌われていないらしいと知り、途端にエリオットはぱっと表情を明るくした。
「じゃあ、あんたの席は俺の隣で決まりだなっ」
これで一件落着めでたしめでたし――には当然ならない。双子が黙っているはずがなかった。
各々の手に斧を構え、今にも邪魔者に飛びかからんばかりの体勢だ。
「〇〇を勝手に私物化しないでくれない、この馬鹿ウサギ!」
「〇〇の隣は俺のもの、みたいな主張するなよ。最っ高にウザイ」
「んだとテメーら…!」
いきり立つエリオットだったが、なにかに気づいたようにニヤリと笑った。それこそ挑発に満ちた最高に不敵な笑みで。
「はん、さては〇〇に選ばれなかったことが悔しいんだな?そうかそうか、そりゃ残念だったな~?」
負け惜しみと解釈され、双子はさらにカチンと来たらしい。
打ち震えて飛びついた先は、エリオットではなく〇〇だった。
くだらない争いだと静観姿勢に入っていただけに、〇〇は前触れもなく巻き込まれてぎょっとした。
(え……えええ?)
何故こっちに来る。仰け反る〇〇の腕をそれぞれ両側から捕らえ、これまた縋りつく二対のいたいけな瞳。
二人は〇〇を真っ直ぐに見上げると、一直線な質問を浴びせた。
「〇〇、僕らのことが嫌いなの?そんなはずないよね?」
「僕らはこんなに〇〇のことが好きなんだから、〇〇も僕らを好きに決まってるよ。そうでしょう?」
その瞬間ぞっとした。静かな斧の接近に無音の脅迫を感じ取る。冷や汗がつーっと背筋を伝った。
返答次第じゃどうなるかわかってるだろうな。ああ、なんだかそんな幻聴が聞こえてくる。
「僕らのこと」
「好きだよね?」
「………はい」
エリオットが雷に打たれたように「そんな!」と大声で叫んだ。
「嫌い?」「嫌いじゃない」の曖昧さに比べたら、「好き?」「はい」のほうが何倍もはっきりした好意だ。
エリオットの中で〇〇を中心に据えた天秤がガコンと傾いた。
双子の乗った皿がその重みに深く傾き、そして自分の乗った皿があまりの軽さに空高く舞い上がる。
〇〇の好意は圧倒的にエリオット<双子。その様子が彼の脳内にまざまざと描かれた。
「〇〇…っ、そんなにそいつらが好きなのか?」
「は……い」
「ッ、目に涙を浮かべるくらい、そいつらのほうがいいのかよっ?」
「は、…は、い~」
「そんな、泣きたくなるくらい好きだなんて……俺、俺っ――くっ、ブ、ブラッドーッ!!」
ブラッドに泣きついたエリオットは「気色悪い」と容赦なくステッキでどつかれた。あ、血ィ吐いた。
いろんな要素で青ざめた〇〇に、ご満悦な二人の子供がぎゅっと抱きついた。
「子供と張り合うなんて、おとなげないウサギだなー」
「おとなしく〇〇を渡せばよかったのに、馬鹿なひよこウサギ」
ね、〇〇。僕達もお茶にしようよ。ディーとダムは〇〇をぐいぐい引っ張って席に座らせ、堂々と両側を陣取った。
これ美味しいよ、こっちもどう?あ、食べたい?じゃあはい、口開けて、あーん。
もはや〇〇は抗う気力も失せ、されるがまま。むぐぐと咀嚼をする。
「〇〇、ここにクリームついてるよ。僕が舐めてあげる」
「あ、ずるいぞ兄弟。それなら僕だって…」
そこのアナタ達、このクリームは人の顔に塗りたくるもんじゃありません。
お茶会のテーブルから少し離れた地面には、オレンジ色の物体がひくひく震えて沈んでいる。
〇〇はさりげなく視線を逸らすと、なにも見てない、そう見えないんだと呪文のように自分に言い聞かせた。
あーん、やら、ぺろり、なんていう羞恥プレーは続行中。刃物の恐怖による涙は別の意味に取って代わり、なかなか乾かない。
くそ、なんて子供らしい笑顔を見せるんだ。抵抗の意思は今度こそ根こそぎ取られてしまった。
〇〇が駄目元で助けてと目で訴えた先では、ブラッドが優雅に紅茶を啜り、一人平和な呟きをうっとりと漏らした。
「茶がうまい…」
わかった、もうどうにでもしてくれ。
end。→あとがき