01:あれは事故だよ
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ハートの城での仕事を完了した〇〇は、そのまま真っ直ぐ時計塔に帰るつもりだった。
もちろんアリスのいるところが一番であるに違いないが、なんだかんだで滞在地である時計塔は居心地がいい。
時計や、塔の主である男が奏でる音。その中に身を預けて、ミルクたっぷりのコーヒーを飲みたい。
(……あたし、そんなに贅沢なこと望んだかな)
覇気のない歩みは、ともすると完全に止まってくるりと方向転換しそうになる。
脱兎のごとく逃走したい。なんだこの板挟み。あたしがなにをした。
「ねっ、今からでも二人でどこか行かない?わたしなら何時間帯だって付き合ってあげられるよっ?」
「あははっ、それはいいね。だったら、俺じゃなくて他の誰かを誘ってあげたら喜ぶんじゃないかな~」
「わ、わたしはエースがいいの!」
「それは光栄だ。ところで〇〇、このまま直行するのもつまらないから、ちょっと遠回りしていかないか?」
……〇〇はただ時計塔に帰りたかっただけだ。
それが帰り際ハートの騎士に目をつけられて、「俺も一緒に行くぜ!」なんて言われ。
さらには、そこに出くわした△△が「わたしも行く!」と言い張り同行することになったのだ。
自分が厄介事に巻き込まれないのなら、誰と一緒になろうが別に構わない。
しかし、嫌な予感は的中した。この組み合わせで平穏を保てるはずがなかった。
(エースがちゃんとその子の相手をしてくれさえすれば、よかったんだけど…)
少女は懸命に騎士に話しかけ、なんとか自分に意識を向けさせようと努めている。
一方の騎士は、受け答えをしているものの、どうにも軽くあしらっている感が否めない。
二人の温度差は目に見えてはっきりしているのだが、やりとりを横で聞いている〇〇は気まずくてしかたない。
△△に話しかけられた男が、その流れを必ずこちらに向けてくるためである。
「もうっ、エースってば聞いてるの!?」
「もちろん。右から左に流して聞いてるよ?」
「っ……!」
怒りなのか悔しさなのか、顔を真っ赤にする△△。矛先は当然のごとく〇〇へ。
少女は今にも食ってかかりそうな顔で口を開いた。が、それをエースの身体が遮った。
「おっと」
「ぎゃっ」
突発的な出来事に見舞われたとは到底思えない、のんきな声と共に男が倒れ込んでくる。
受け止めざるを得なかった〇〇は、踏ん張れずに押し潰された。
「いっ…痛い…」
「ははっ、ごめんな?小石に躓いて転んじゃったぜ」
「ぅ、」
嘘だ。ありえない。いくら不幸体質といえども、転倒するほどの障害物など辺りには見当たらない。
下敷きにされた〇〇は地面で背中を打った。顰めた顔を上げれば、目の前には爽やかな笑顔があった。
――近い。なにがって、顔が。百歩譲って故意でないのなら、すぐに退けてくれないだろうか。
「ん、むっ!?」
しかし、エースは思いも寄らない行動に出た。なんと、唇を塞いできたのである。
退けるために身を引くどころか、体重をかけて身を重ねてきた。さすがの〇〇も頭の中が真っ白だ。
なんとか突き放そうと抵抗を試みるが、まるで歯が立たない。
(ばっ…このっ……目の前でやるなんて、最悪だ!)
行為自体が最悪だが、何故このタイミングで始めるのか。最低だ。
姿は確認できないが、傍にいる少女が絶句して突っ立っているのがわかる。
森の中、重なり合う男と女。そして一人立ち竦む少女。いったいどういう構図なんだ。
「ふ、ぁ…っ、い、い加減に、しろ!」
こうなったら舌に噛みついてやろうと顎に力を込めたとき、やっと口を解放された。
騎士は、少女のことが気に入らないのだろうか。だとしても、これはやりすぎとしか言いようがない。
〇〇が声を荒らげて睨みつけると、彼は不思議そうな表情をして、
「どうしてそんなに嫌がるかなあ…。いつもはもっとすごいこと、してるくせに」
その一見他意のない口調が発した、明らかに他意のある言葉は、どれほど△△にショックを与えただろうか。
いや、それ以上に少女が堪えたのは、きっと横目遣いに向けられた赤い瞳だ。
笑みを含まない男の目は、口づけを交わした余所者以外の存在を、この場に許さなかった。
結局、時計塔に着く頃には、人数は二人に減っていた。
「城での仕事に随分時間がかかったようだな。……どうした、〇〇?」
時計屋は妙に疲れた顔をした余所者に気づき、「そんなにきつい仕事をしてきたのか」と尋ねた。
「仕事じゃない……なにがあったか知りたいなら、全部エースのせいだってことだけ知っといて」
説明するのも億劫である。〇〇は責任を押しつけるように元凶に目を遣った。
自分の行いがどういう事態を招いたのか、まるで自覚がない(もしくは気にもしない)のがこの男。いけしゃあしゃあとして言うには、
「え、あれは事故だよ。偶然俺が転んで、偶然君が巻き込まれて、偶然ああなったところをあの子に見られた。ほら、誰もなにも悪くないだろう?」
そんなわけあるか。
end。→あとがき
もちろんアリスのいるところが一番であるに違いないが、なんだかんだで滞在地である時計塔は居心地がいい。
時計や、塔の主である男が奏でる音。その中に身を預けて、ミルクたっぷりのコーヒーを飲みたい。
(……あたし、そんなに贅沢なこと望んだかな)
覇気のない歩みは、ともすると完全に止まってくるりと方向転換しそうになる。
脱兎のごとく逃走したい。なんだこの板挟み。あたしがなにをした。
「ねっ、今からでも二人でどこか行かない?わたしなら何時間帯だって付き合ってあげられるよっ?」
「あははっ、それはいいね。だったら、俺じゃなくて他の誰かを誘ってあげたら喜ぶんじゃないかな~」
「わ、わたしはエースがいいの!」
「それは光栄だ。ところで〇〇、このまま直行するのもつまらないから、ちょっと遠回りしていかないか?」
……〇〇はただ時計塔に帰りたかっただけだ。
それが帰り際ハートの騎士に目をつけられて、「俺も一緒に行くぜ!」なんて言われ。
さらには、そこに出くわした△△が「わたしも行く!」と言い張り同行することになったのだ。
自分が厄介事に巻き込まれないのなら、誰と一緒になろうが別に構わない。
しかし、嫌な予感は的中した。この組み合わせで平穏を保てるはずがなかった。
(エースがちゃんとその子の相手をしてくれさえすれば、よかったんだけど…)
少女は懸命に騎士に話しかけ、なんとか自分に意識を向けさせようと努めている。
一方の騎士は、受け答えをしているものの、どうにも軽くあしらっている感が否めない。
二人の温度差は目に見えてはっきりしているのだが、やりとりを横で聞いている〇〇は気まずくてしかたない。
△△に話しかけられた男が、その流れを必ずこちらに向けてくるためである。
「もうっ、エースってば聞いてるの!?」
「もちろん。右から左に流して聞いてるよ?」
「っ……!」
怒りなのか悔しさなのか、顔を真っ赤にする△△。矛先は当然のごとく〇〇へ。
少女は今にも食ってかかりそうな顔で口を開いた。が、それをエースの身体が遮った。
「おっと」
「ぎゃっ」
突発的な出来事に見舞われたとは到底思えない、のんきな声と共に男が倒れ込んでくる。
受け止めざるを得なかった〇〇は、踏ん張れずに押し潰された。
「いっ…痛い…」
「ははっ、ごめんな?小石に躓いて転んじゃったぜ」
「ぅ、」
嘘だ。ありえない。いくら不幸体質といえども、転倒するほどの障害物など辺りには見当たらない。
下敷きにされた〇〇は地面で背中を打った。顰めた顔を上げれば、目の前には爽やかな笑顔があった。
――近い。なにがって、顔が。百歩譲って故意でないのなら、すぐに退けてくれないだろうか。
「ん、むっ!?」
しかし、エースは思いも寄らない行動に出た。なんと、唇を塞いできたのである。
退けるために身を引くどころか、体重をかけて身を重ねてきた。さすがの〇〇も頭の中が真っ白だ。
なんとか突き放そうと抵抗を試みるが、まるで歯が立たない。
(ばっ…このっ……目の前でやるなんて、最悪だ!)
行為自体が最悪だが、何故このタイミングで始めるのか。最低だ。
姿は確認できないが、傍にいる少女が絶句して突っ立っているのがわかる。
森の中、重なり合う男と女。そして一人立ち竦む少女。いったいどういう構図なんだ。
「ふ、ぁ…っ、い、い加減に、しろ!」
こうなったら舌に噛みついてやろうと顎に力を込めたとき、やっと口を解放された。
騎士は、少女のことが気に入らないのだろうか。だとしても、これはやりすぎとしか言いようがない。
〇〇が声を荒らげて睨みつけると、彼は不思議そうな表情をして、
「どうしてそんなに嫌がるかなあ…。いつもはもっとすごいこと、してるくせに」
その一見他意のない口調が発した、明らかに他意のある言葉は、どれほど△△にショックを与えただろうか。
いや、それ以上に少女が堪えたのは、きっと横目遣いに向けられた赤い瞳だ。
笑みを含まない男の目は、口づけを交わした余所者以外の存在を、この場に許さなかった。
結局、時計塔に着く頃には、人数は二人に減っていた。
「城での仕事に随分時間がかかったようだな。……どうした、〇〇?」
時計屋は妙に疲れた顔をした余所者に気づき、「そんなにきつい仕事をしてきたのか」と尋ねた。
「仕事じゃない……なにがあったか知りたいなら、全部エースのせいだってことだけ知っといて」
説明するのも億劫である。〇〇は責任を押しつけるように元凶に目を遣った。
自分の行いがどういう事態を招いたのか、まるで自覚がない(もしくは気にもしない)のがこの男。いけしゃあしゃあとして言うには、
「え、あれは事故だよ。偶然俺が転んで、偶然君が巻き込まれて、偶然ああなったところをあの子に見られた。ほら、誰もなにも悪くないだろう?」
そんなわけあるか。
end。→あとがき