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いつも夢見ていた。そして信じていた。自分のためだけの世界が、この世のどこかに必ず存在するのだと。
現実はつまらなく、正当に評価されない。そんな場所にしがみついてなんになるというのだろう。
自分を中心にすべてが展開する、自分が欠けては成り立たない世界がきっとあるはずだ。
もしそこに行くことができるのなら、今生きる世界を捨てても構わない。
本気でそう思っていたものだから、たとえ与えられたものがゲームの中という非現実的な場所であっても、△△は歓喜に震えた。
ただ甘いだけではない、刺激に満ちた赤の世界。
誰からも愛され、守られ、自分がヒロインになれる夢の世界!
もう凡庸であるかのような扱いをされることはない。わたしは特別な存在だ。
△△は逸る気持ちを抑えて、躊躇いなくハートの国に飛び込んだ。
(わたしは特別……そうだよ、特別!なのに……っ)
何故アリスがここにいる。あんたは必要ないの。わたしがいるんだから、要らないの!
そしてアリス以上に目障りなのが、もう一人の余所者だった。
それこそこの世界にあるはずのない異分子で、△△と同じ現実から来たという色気のない女。
すでにかなりの時間を過ごしているらしく、キャラとの親しさは目に余る。
しかし本人はアリス総受けなどと掲げ、アリスが役持ちと絡む場面を観賞することに精を出している。
△△がなによりも許せないのは、そんなつまらない女が誰よりも周囲に好かれているという事実だった。
(ふざけてるっ。なにがアリス総受け?自分が一番愛されてるくせに…!)
それでいて、他人の好意を無意識にかわしている性悪女。
わたしがどれだけ悔しい思いをしているのか知りもしないで、ここにはアリスがいるからしょうがないんだよ、なんて!
(気づいてないなんて言わせない。あんたがこの世界を狂わせる張本人なんだ…!)
「――そうだね…。そのとおりだ。だが、彼女はそれを認めたくないんだよ」
△△は目の前に浮遊する男を睨みつけた。
好かれたいと願う気持ちは失せていた。いや、願わずとも愛されるのだと信じていたのだ。前までは。
今や自分を愛さない世界に対する憎しみで、少女の心は埋まってしまっていた。
夢魔はひっそりとした佇まいで△△の前にいた。病人らしく青白い顔で薄く微笑む姿は、不気味な雰囲気を醸し出している。
「〇〇にも君くらいの貪欲さがあるとよかったんだが…。まあ、ある面に対するあの控えめなところも気に入っている」
「っ…そうやって役持ちの気を引こうって魂胆なんじゃないの!?」
「それはないよ」
夢魔は静かに否定する。溜め息混じりの声、切なげな眼差しで。
「彼女はアリスを愛している。彼女だけを、この世界の至上のものとして、ね」
「ゲームとして、でしょうっ?」
「そう…その認識を頑として譲らない。君とは違って、彼女は私達をある境界線から先には通してくれないんだ」
それは恋い焦がれる男の嘆きだった。これが創造のキャラクターであるとは思えないほど、生々しい感情。
彼らのそういう感情を目の当たりにするたび、△△の中に強い苛立ちは募る一方だった。
「なんであの女ばっかり…この世界の特別はわたしなんじゃなかったの!」
少女の抑制不能の怒りが、拳となって振り上げられる。
ナイトメアは胸に受けて吐血しては堪らないとばかりに、細い両手首をあっさり捕らえた。
聞き分けのない子を宥めるように隻眼を細めたかと思えば、
「これ以上黙っているのも、君に申し訳ないな。正直に白状しようか」
「な、なに……?」
△△の薄い肩が震えた。直感が働いた。嫌だ、聞きたくない。
耳を塞ぐ無意味な行動も、手首に絡む手のひらが許さない。
ナイトメアの血色の悪い唇が近づく。ゆったりとした口の動きが見開いた目に、△△の網膜に焼きついた。
「もともと君は、此処に来るべき人間ではなかったんだ、△△」
――頭の中が真っ白になった。
「え……?」
虚をつかれた少女は幼い顔を晒し、夢魔は慰めの優しい表情で少女を抱擁した。
しかし、続く穏やかな声は残酷に△△の頭に響き渡った。
「偶然か、あるいはちょっとした手違いか。招いたつもりのない君がここまで無事に来られたことは、本当に奇跡に近い」
「そん……な…」
「だが、安心してくれ。君が誰かに殺される前に、私が元の世界に帰してあげよう」
この世界であった出来事を、この世界に来たことすらも、すべて忘れさせて。
「最初からなにもなかった。なにも始まらなかった。悔しさも憎しみも、負の感情ごと私が奪ってあげよう。そうすれば、君はまた君の日常を取り戻せるだろう?」
それが最善であると告げる声に、△△は混乱した。
望むのは現実への帰還ではない。ただヒロインやあの女がいなくなればいいだけだ。
それなのにどうして、まるで異物を排除するように△△一人を追い出そうとするのか。
受け入れられないショック、信じていたものの崩壊。悲しみではなく、裏切られたという気持ちが溢れ出る。
視界が涙で滲むと同時に、思考もまたぼやけていく。
きっと抗いようもなく、このまま赤の世界から弾かれてしまうのだ。△△は夢魔の背中に爪を立てた。
――ああ、せめて最後に。傍観者を気取るあの女に、現実をよく見ろと大声で怒鳴りつけてやりたい。
この世界の好意を拒み続ければ、取り返しのつかないことになる。あの女は、狂気の愛に潰される。
いっそ想い潰されて朽ちてしまえばいい。そう思う一方で、あの女に真実を突きつけて此処から去らせるのもいいかもしれないと思った。
自分だけがこんな思いをするなんてあんまりだ。この世界があの女を求めるのなら、いっそ手に入れられないようにしてやる。
そうすることで、△△を拒絶した世界に対する報復にもなるに違いない。
筒抜けになる少女の不穏な思惑に、ナイトメアは失笑した。
まったく、未熟な少女といえど女の怨念は凄まじい。早めに手を打って正解だ。
優しい抱擁を解く。男の手から離れた△△の身体は、ゆっくり底へ底へと落ちていく。
ナイトメアはふと表情を失くすと、幸運であり不運であった少女に向かって、抑揚のない厳かな声で告げた。
「此処は作り物ではなく、確かに存在するひとつの現実世界。それを彼女に思い知らせるのは、君じゃない――私達の役目だよ」
誰にも奪わせない、邪魔させない、……逃がさない。
夢魔は少女の姿が見えなくなるまで、彼女が元の世界に帰るまで。暗い揺らめきを映す瞳で、じっとそちらを見据えていた。
end。→あとがき
現実はつまらなく、正当に評価されない。そんな場所にしがみついてなんになるというのだろう。
自分を中心にすべてが展開する、自分が欠けては成り立たない世界がきっとあるはずだ。
もしそこに行くことができるのなら、今生きる世界を捨てても構わない。
本気でそう思っていたものだから、たとえ与えられたものがゲームの中という非現実的な場所であっても、△△は歓喜に震えた。
ただ甘いだけではない、刺激に満ちた赤の世界。
誰からも愛され、守られ、自分がヒロインになれる夢の世界!
もう凡庸であるかのような扱いをされることはない。わたしは特別な存在だ。
△△は逸る気持ちを抑えて、躊躇いなくハートの国に飛び込んだ。
(わたしは特別……そうだよ、特別!なのに……っ)
何故アリスがここにいる。あんたは必要ないの。わたしがいるんだから、要らないの!
そしてアリス以上に目障りなのが、もう一人の余所者だった。
それこそこの世界にあるはずのない異分子で、△△と同じ現実から来たという色気のない女。
すでにかなりの時間を過ごしているらしく、キャラとの親しさは目に余る。
しかし本人はアリス総受けなどと掲げ、アリスが役持ちと絡む場面を観賞することに精を出している。
△△がなによりも許せないのは、そんなつまらない女が誰よりも周囲に好かれているという事実だった。
(ふざけてるっ。なにがアリス総受け?自分が一番愛されてるくせに…!)
それでいて、他人の好意を無意識にかわしている性悪女。
わたしがどれだけ悔しい思いをしているのか知りもしないで、ここにはアリスがいるからしょうがないんだよ、なんて!
(気づいてないなんて言わせない。あんたがこの世界を狂わせる張本人なんだ…!)
「――そうだね…。そのとおりだ。だが、彼女はそれを認めたくないんだよ」
△△は目の前に浮遊する男を睨みつけた。
好かれたいと願う気持ちは失せていた。いや、願わずとも愛されるのだと信じていたのだ。前までは。
今や自分を愛さない世界に対する憎しみで、少女の心は埋まってしまっていた。
夢魔はひっそりとした佇まいで△△の前にいた。病人らしく青白い顔で薄く微笑む姿は、不気味な雰囲気を醸し出している。
「〇〇にも君くらいの貪欲さがあるとよかったんだが…。まあ、ある面に対するあの控えめなところも気に入っている」
「っ…そうやって役持ちの気を引こうって魂胆なんじゃないの!?」
「それはないよ」
夢魔は静かに否定する。溜め息混じりの声、切なげな眼差しで。
「彼女はアリスを愛している。彼女だけを、この世界の至上のものとして、ね」
「ゲームとして、でしょうっ?」
「そう…その認識を頑として譲らない。君とは違って、彼女は私達をある境界線から先には通してくれないんだ」
それは恋い焦がれる男の嘆きだった。これが創造のキャラクターであるとは思えないほど、生々しい感情。
彼らのそういう感情を目の当たりにするたび、△△の中に強い苛立ちは募る一方だった。
「なんであの女ばっかり…この世界の特別はわたしなんじゃなかったの!」
少女の抑制不能の怒りが、拳となって振り上げられる。
ナイトメアは胸に受けて吐血しては堪らないとばかりに、細い両手首をあっさり捕らえた。
聞き分けのない子を宥めるように隻眼を細めたかと思えば、
「これ以上黙っているのも、君に申し訳ないな。正直に白状しようか」
「な、なに……?」
△△の薄い肩が震えた。直感が働いた。嫌だ、聞きたくない。
耳を塞ぐ無意味な行動も、手首に絡む手のひらが許さない。
ナイトメアの血色の悪い唇が近づく。ゆったりとした口の動きが見開いた目に、△△の網膜に焼きついた。
「もともと君は、此処に来るべき人間ではなかったんだ、△△」
――頭の中が真っ白になった。
「え……?」
虚をつかれた少女は幼い顔を晒し、夢魔は慰めの優しい表情で少女を抱擁した。
しかし、続く穏やかな声は残酷に△△の頭に響き渡った。
「偶然か、あるいはちょっとした手違いか。招いたつもりのない君がここまで無事に来られたことは、本当に奇跡に近い」
「そん……な…」
「だが、安心してくれ。君が誰かに殺される前に、私が元の世界に帰してあげよう」
この世界であった出来事を、この世界に来たことすらも、すべて忘れさせて。
「最初からなにもなかった。なにも始まらなかった。悔しさも憎しみも、負の感情ごと私が奪ってあげよう。そうすれば、君はまた君の日常を取り戻せるだろう?」
それが最善であると告げる声に、△△は混乱した。
望むのは現実への帰還ではない。ただヒロインやあの女がいなくなればいいだけだ。
それなのにどうして、まるで異物を排除するように△△一人を追い出そうとするのか。
受け入れられないショック、信じていたものの崩壊。悲しみではなく、裏切られたという気持ちが溢れ出る。
視界が涙で滲むと同時に、思考もまたぼやけていく。
きっと抗いようもなく、このまま赤の世界から弾かれてしまうのだ。△△は夢魔の背中に爪を立てた。
――ああ、せめて最後に。傍観者を気取るあの女に、現実をよく見ろと大声で怒鳴りつけてやりたい。
この世界の好意を拒み続ければ、取り返しのつかないことになる。あの女は、狂気の愛に潰される。
いっそ想い潰されて朽ちてしまえばいい。そう思う一方で、あの女に真実を突きつけて此処から去らせるのもいいかもしれないと思った。
自分だけがこんな思いをするなんてあんまりだ。この世界があの女を求めるのなら、いっそ手に入れられないようにしてやる。
そうすることで、△△を拒絶した世界に対する報復にもなるに違いない。
筒抜けになる少女の不穏な思惑に、ナイトメアは失笑した。
まったく、未熟な少女といえど女の怨念は凄まじい。早めに手を打って正解だ。
優しい抱擁を解く。男の手から離れた△△の身体は、ゆっくり底へ底へと落ちていく。
ナイトメアはふと表情を失くすと、幸運であり不運であった少女に向かって、抑揚のない厳かな声で告げた。
「此処は作り物ではなく、確かに存在するひとつの現実世界。それを彼女に思い知らせるのは、君じゃない――私達の役目だよ」
誰にも奪わせない、邪魔させない、……逃がさない。
夢魔は少女の姿が見えなくなるまで、彼女が元の世界に帰るまで。暗い揺らめきを映す瞳で、じっとそちらを見据えていた。
end。→あとがき