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余所者の少女、△△との仲は一方的に悪化の一途を辿った。
当初は表立って嫌悪を露にすることのなかった少女だが、最近はふとした瞬間に露呈する。
まだ幼さの残る年頃だ、感情を制御しきれないのだろう。よほど鈍感でない限り、誰もが少女の負の面を垣間見るまでになっていた。
余所者の動向は自ずと役持ち達の関心を集める。
今のところ、アリスよりもこちらに対する不快感が勝っているようである。それなら構わないが、〇〇の心配は別のところにあった。
(アリスにきつく当たるようになれば、役持ちが黙ってないだろうな…)
不仲とはいえ、同じ世界の人間が攻撃されている光景は見たくない。ましてや殺されるなどあってはならないことだ。
この世界にはアリスがいる。だから、△△が逆ハーレムになることはない。
だが、自分次第で彼らと友人になることはできるのだ。〇〇のように。
(誰か、気づかせてあげて)
あたしの声じゃ届かない。少女が好かれたいと願う彼らのうちの誰かなら、きっと声を届けることができる。
「歩み寄ることを諦めたのだろう?ならば、もう捨て置けばよいではないか」
ビバルディは美しく冷淡に微笑んだ。きっぱりと言い放つ無慈悲さは、女王様らしい。
しかし、余所者を愛する彼女には似つかわしくない台詞でもあった。
「諦めたんじゃなくて、様子見。機会を窺ってるんだよ」
〇〇は訂正した。仲良くなれる時が来るまで待つつもりだと。
ハートの城を訪れた〇〇は、偶然廊下でビバルディと顔を合わせた。
部屋に誘われたが、その前にと△△の話を持ちかけたのである。内容は主に少女を擁護するものであった。
「あやつは、わらわの可愛いおまえを相当嫌っておるようだが…?」
「まあ、うん。人間、反りが合わない奴もいるってことじゃない?」
指摘されるとなんとなく居心地が悪い。誤魔化すこともできず、若干視線を逸らして答えた。
「ふふ…庇うかと思えば突き放す、おまえはほんに飽きぬ余所者じゃ」
「それは……どうも?」
彼女は艶やかに笑って〇〇の頬を撫でた。
おそらくその矛盾は立場の違いが生み出すものだ。創作の世界であるという認識を持つ者同士の軋轢ゆえに。
「――あははっ、こんなところで堂々と逢い引きですか、陛下?」
優しげな女王様の機嫌を損ねたのは、男の飄々とした声だった。
ハートの騎士はいつの間に近くまで来たのか、二人の間に爽やかに割って入った。
「なんだ、自ら首をはねられに来たか?」
「嫌だな~。そんな自虐趣味、俺にはありませんよ」
受け答えをしたエースは、くるりとこちらに向き直った。〇〇は反射的に身構えた。
赤い目はまず〇〇の顔を隅々まで見て、次に衣服から露出した肌色に移る。
舐め回すように、とは多少異なるが、全身を透視する勢いで眺め尽くされていく。
「な、なに…?」
「うーん。やっぱりこのままじゃ限界があるな」
〇〇の戸惑いを流し、呟いた彼はごく自然な動作で〇〇の服に手をかけた。
あまりに違和感がなく、突っ込みが作動するまでそれなりの時間を要した。
鈍い〇〇の代わりにビバルディが杖で騎士の頭を打ち(いい音がした)、そこで我に返ることができた。
「なにをしておる、不埒者め」
「…ありがと、ビバルディ。ていうかエース、本当になに?」
女の冷めた目を向けられても、エースは後頭部を摩りながら悪びれることなく笑う。
「いやー、身体のどこかに怪我をしていないかと思ってさ」
「怪我?」
それはまた唐突な。〇〇は訝しげに眉根を寄せた。
これといって面倒事に巻き込まれてはおらず――少女の件は別として――心配される覚えはない。
怪我の有無を確認するためとはいえ脱がせようとするな、の言葉はとりあえず引っ込んだ。
「なんであたしが怪我するわけ?」
〇〇は目の前の男から、穏やかでない雰囲気を嗅ぎ取った。
与り知らぬ場所で、よくないなにかが起こっている。それはどうやら自分と無関係ではないと、勘が告げていた。
エースは読めない顔をして、剣の柄に手を置き薄く微笑んだ。
「それは、君が誰かさんに恨まれているからだよ。心当たりがあるだろう?」
彼の物騒な物言いから鋭く事実を掴んだのはビバルディだ。
「なるほど、な。△△がなにかしらよからぬ企みでも漏らしたか」
「まあ、そんなところですね」
「え……」
〇〇は驚いた。好かれていないことは承知していたが、まさか傷つけたいと思われるほどになっていたとは。
「それって、あの子から直接聞いた…?」
「うん。ちょっとつついたら、清々しいくらいにぶちまけてくれたぜ?」
「……」
アナタがつついたのか。思いどおりにいかず苛々し、鬱憤が溜まっているに違いない少女を。
好青年然としたその笑顔で、いったいどんな腹黒さを見せたことやら。思わず無言になる〇〇にエースは、
「だから、俺がこうして君の安否を確かめに来たんだけど…ははっ、無事でなによりだ!」
と楽しげに言った。ただでさえ思わしくない現状を引っ掻き回してくれるな。
つまり、△△は現在この城の中にいて、且つ騎士によって放置されているということだ。
一度爆発したことで、少女が今後どのような行動に出るのか、まったく予測不能になってしまった。
しかし、俄に始まった頭痛は、女王の何気ない一言でさらに騒ぎ出した。
「それで…エース。おまえはホワイトと△△を残してきたと?」
(……なんだって?)
ぎょっとして勢いよくエースを見遣れば、〇〇の視線を受けた彼は爽快感たっぷりに嘯いた。
「あれ、言わなかったっけ?俺が〇〇の様子を見に来て――あの人が今、彼女の相手をしてるんだよ」
最悪、だ――。何処かで轟いた銃声を耳にした〇〇は、強く床を蹴った。
血相を変えて走り出した余所者を見た騎士はただ笑い、女王はただ呆れた。二人がその場を動くことはなかった。
〇〇が音だけを頼りにどうにか駆けつけると、△△が力なく廊下に座り込んでいた。
少女を見下ろす位置には、銃を構えた白ウサギの姿がある。
血の気が引く思いをしながら、〇〇は両者の間に身を滑り込ませた。
「なにしてんの、ペーター…!」
「……なんの用ですか」
硝子玉のように無感動な赤の瞳に晒されたのは一瞬のこと。
すぐさま鬱陶しそうに歪められた顔は、見慣れたペーター=ホワイトのものだった。
身震いするような威圧感も失せ、先ほど見た表情は見間違いだったかと思わせる。けれど、〇〇の後ろで震える少女が事実を物語っていた。
「なんの用、じゃない。か弱い女の子に向かって撃つなんて、どういうつもり?」
そう言いつつ、立ち塞がったまま肩越しに状況を確認する。△△に出血は見られず、弾丸は壁にめり込んでいるようだった。
本気で殺す気があったのなら、ペーターが狙いを外すわけがない。そう気づき、少しだけ安心した。ほんの気休め程度に、だが。
「これは僕とその余所者の問題です。部外者は引っ込んでいてください」
「部外者ってねえ…」
つっけんどんな言い方が相変わらずのため、こちらもいつもの調子になってしまう。
ペーターが会話に応じるということは、事態は思うほど深刻ではないのだろうか。
そもそも、どうして彼が少女に銃口を向けることになった?
エースはああ言っていたが、たとえ本当のことだとしても、それこそペーターには関係のない話だ。
(あたしのことで白ウサギさんが怒るなんて、まずありえないし…)
ならば、なにが彼の気に障ったのか。追及するのも面倒になりそうで、事なきを得たならそれでいいかという気になる。
ペーターもすでに銃を時計に戻し、危害を加える気配はない。〇〇は彼に背を向けると、△△の傍らに跪いた。
「大丈夫?ペーターに悪気はない、と思うんだけど…ごめんね」
「言っておきますけど、僕に謝罪の意思はありませんから」
「ちょっ、アナタは少し黙ってて」
懲りない背後の声を遮り、〇〇は少女に手を貸そうとする。しかし、ぱんっと軽い音を立てて払いのけられた。
△△の震えは今や、恐怖とは別のものに変わったようだった。俯いたまま、きつく拳を握る。
「おかしい、よ」
「え…?」
「なんで、あんたが謝るの。それで親密さをアピールしてるつもりとか?……ふざけないで」
親密などという言葉を、どうすれば白ウサギとの間に成立させることができるのか、ぜひとも知りたい。
誤解は積み重なる一方で、この様子ではおそらく弁解も通じない。
「えー…と、ね?確かに、あたしが代わりに謝るのもどうかと思うよ、うん」
「うるさい。だいたい、あんたってなんなの」
顔を上げた少女の目は爛々と怒りに燃えていた。これは、まずい。
罵詈雑言を受け止める覚悟はあるが、それを少女が役持ちの前で吐き出しては心証が悪すぎる。
今さらだと言ってしまえばそれまでだが、それでも。
落ち着いてと声をかけるのも逆効果だろうと思えば、〇〇に止める手立てはなかった。
「あの、△△ちゃん、」
「気安く呼ばないで。……ねえ、どうやったの?やっぱり体?わたしより年上のくせして色気皆無なのに、よくたらしこめたよね」
つい視線は少女の豊満な胸に移る。……色気皆無、認めます。
「たらしこむって…」
「だってそうでしょう?みんながおかしいのは、あんたがなにかしたからに決まってる」
こうも面と向かって嫌悪をぶつけられるのは、生まれて初めてのことだった。
ショックを受けるというよりも、戸惑いを隠せない。
「わたしのほうが何十倍も可愛いのに、なんでみんなはわたしを選ばないの?」
「それは、アリスが…」
「アリスアリスって、もう嫌っ、うんざりする!」
△△は髪を振り乱した。あまりの剣幕に〇〇はたじろいだ。
「お、落ち着…」
「わたしが好きだったのは、こんな場所じゃない!全然違う!」
取り乱した少女の細い腕が撓る。頬を張られる、そう思ったが防ぎようがなかった。
「ヒロインなんて関係ないっ、この世界をおかしくしてるのは――…!」
振り上げられた手の衝撃を迎えるために目を瞑った〇〇は、何故か後ろにひっくり返った。
首根っこを掴まれて尻餅をついたのだ。おかげで平手を回避できたが、背後を見上げた〇〇はぽかんと口を開けた。
埃を落とすように手のひらを払う男の頭の上で、長い耳が揺れている。
白ウサギは他者と接触した手を嫌そうに見たが、それ以上に不機嫌な顔つきで△△を睨み据えた。
「この余所者に手を出さないでくれますか」
「ぺ、ペーター……まさかあなたまで、この女のことが、好き…?」
絶え入るような声で尋ねる少女に、ペーターは心底心外だという表情をした。
「なにを勘違いしているのか知りませんが、これを傷つけていいのは僕一人…ただそれだけのことです」
「うそ、嘘、絶対に好きなんだ…!」
「ああ、鬱陶しい。ヒステリーはやめてください」
端整な顔を顰めて、片手を振る。〇〇を一瞥する眼差しは、お世辞にも好意的とは言い難かった。
「それに、これを好きだなんて冗談じゃない。間違っても言い触らさないでくださいよ。もし僕の愛しい人の耳に入ろうものなら、次こそ殺します」
用は済んだとばかりに背を向けるペーター。
いくらか進んだところでふと足を止め、振り向いてなにかを確認すると、小さく舌打ちした。
「いつまでその間抜けな顔を晒しているつもりですか。…行きますよ」
「ぇ……あ、あたし…?」
「はっ、他に間抜け面がいますか?自分の容姿にくらい自覚を持ってくださいね」
辛辣な言葉にびしびし打たれつつ、〇〇はよろよろと立ち上がって足を動かした。
精神状態の不安定な少女を置き去りにするのは、少々気が引ける。
しかし、この場から逃がしてくれるペーターの意外な助けを頼らない手はなかった。
ちらりと振り返った〇〇の目には、一人ぽつんと残された、打ちひしがれる少女の姿が映った。
当初は表立って嫌悪を露にすることのなかった少女だが、最近はふとした瞬間に露呈する。
まだ幼さの残る年頃だ、感情を制御しきれないのだろう。よほど鈍感でない限り、誰もが少女の負の面を垣間見るまでになっていた。
余所者の動向は自ずと役持ち達の関心を集める。
今のところ、アリスよりもこちらに対する不快感が勝っているようである。それなら構わないが、〇〇の心配は別のところにあった。
(アリスにきつく当たるようになれば、役持ちが黙ってないだろうな…)
不仲とはいえ、同じ世界の人間が攻撃されている光景は見たくない。ましてや殺されるなどあってはならないことだ。
この世界にはアリスがいる。だから、△△が逆ハーレムになることはない。
だが、自分次第で彼らと友人になることはできるのだ。〇〇のように。
(誰か、気づかせてあげて)
あたしの声じゃ届かない。少女が好かれたいと願う彼らのうちの誰かなら、きっと声を届けることができる。
「歩み寄ることを諦めたのだろう?ならば、もう捨て置けばよいではないか」
ビバルディは美しく冷淡に微笑んだ。きっぱりと言い放つ無慈悲さは、女王様らしい。
しかし、余所者を愛する彼女には似つかわしくない台詞でもあった。
「諦めたんじゃなくて、様子見。機会を窺ってるんだよ」
〇〇は訂正した。仲良くなれる時が来るまで待つつもりだと。
ハートの城を訪れた〇〇は、偶然廊下でビバルディと顔を合わせた。
部屋に誘われたが、その前にと△△の話を持ちかけたのである。内容は主に少女を擁護するものであった。
「あやつは、わらわの可愛いおまえを相当嫌っておるようだが…?」
「まあ、うん。人間、反りが合わない奴もいるってことじゃない?」
指摘されるとなんとなく居心地が悪い。誤魔化すこともできず、若干視線を逸らして答えた。
「ふふ…庇うかと思えば突き放す、おまえはほんに飽きぬ余所者じゃ」
「それは……どうも?」
彼女は艶やかに笑って〇〇の頬を撫でた。
おそらくその矛盾は立場の違いが生み出すものだ。創作の世界であるという認識を持つ者同士の軋轢ゆえに。
「――あははっ、こんなところで堂々と逢い引きですか、陛下?」
優しげな女王様の機嫌を損ねたのは、男の飄々とした声だった。
ハートの騎士はいつの間に近くまで来たのか、二人の間に爽やかに割って入った。
「なんだ、自ら首をはねられに来たか?」
「嫌だな~。そんな自虐趣味、俺にはありませんよ」
受け答えをしたエースは、くるりとこちらに向き直った。〇〇は反射的に身構えた。
赤い目はまず〇〇の顔を隅々まで見て、次に衣服から露出した肌色に移る。
舐め回すように、とは多少異なるが、全身を透視する勢いで眺め尽くされていく。
「な、なに…?」
「うーん。やっぱりこのままじゃ限界があるな」
〇〇の戸惑いを流し、呟いた彼はごく自然な動作で〇〇の服に手をかけた。
あまりに違和感がなく、突っ込みが作動するまでそれなりの時間を要した。
鈍い〇〇の代わりにビバルディが杖で騎士の頭を打ち(いい音がした)、そこで我に返ることができた。
「なにをしておる、不埒者め」
「…ありがと、ビバルディ。ていうかエース、本当になに?」
女の冷めた目を向けられても、エースは後頭部を摩りながら悪びれることなく笑う。
「いやー、身体のどこかに怪我をしていないかと思ってさ」
「怪我?」
それはまた唐突な。〇〇は訝しげに眉根を寄せた。
これといって面倒事に巻き込まれてはおらず――少女の件は別として――心配される覚えはない。
怪我の有無を確認するためとはいえ脱がせようとするな、の言葉はとりあえず引っ込んだ。
「なんであたしが怪我するわけ?」
〇〇は目の前の男から、穏やかでない雰囲気を嗅ぎ取った。
与り知らぬ場所で、よくないなにかが起こっている。それはどうやら自分と無関係ではないと、勘が告げていた。
エースは読めない顔をして、剣の柄に手を置き薄く微笑んだ。
「それは、君が誰かさんに恨まれているからだよ。心当たりがあるだろう?」
彼の物騒な物言いから鋭く事実を掴んだのはビバルディだ。
「なるほど、な。△△がなにかしらよからぬ企みでも漏らしたか」
「まあ、そんなところですね」
「え……」
〇〇は驚いた。好かれていないことは承知していたが、まさか傷つけたいと思われるほどになっていたとは。
「それって、あの子から直接聞いた…?」
「うん。ちょっとつついたら、清々しいくらいにぶちまけてくれたぜ?」
「……」
アナタがつついたのか。思いどおりにいかず苛々し、鬱憤が溜まっているに違いない少女を。
好青年然としたその笑顔で、いったいどんな腹黒さを見せたことやら。思わず無言になる〇〇にエースは、
「だから、俺がこうして君の安否を確かめに来たんだけど…ははっ、無事でなによりだ!」
と楽しげに言った。ただでさえ思わしくない現状を引っ掻き回してくれるな。
つまり、△△は現在この城の中にいて、且つ騎士によって放置されているということだ。
一度爆発したことで、少女が今後どのような行動に出るのか、まったく予測不能になってしまった。
しかし、俄に始まった頭痛は、女王の何気ない一言でさらに騒ぎ出した。
「それで…エース。おまえはホワイトと△△を残してきたと?」
(……なんだって?)
ぎょっとして勢いよくエースを見遣れば、〇〇の視線を受けた彼は爽快感たっぷりに嘯いた。
「あれ、言わなかったっけ?俺が〇〇の様子を見に来て――あの人が今、彼女の相手をしてるんだよ」
最悪、だ――。何処かで轟いた銃声を耳にした〇〇は、強く床を蹴った。
血相を変えて走り出した余所者を見た騎士はただ笑い、女王はただ呆れた。二人がその場を動くことはなかった。
〇〇が音だけを頼りにどうにか駆けつけると、△△が力なく廊下に座り込んでいた。
少女を見下ろす位置には、銃を構えた白ウサギの姿がある。
血の気が引く思いをしながら、〇〇は両者の間に身を滑り込ませた。
「なにしてんの、ペーター…!」
「……なんの用ですか」
硝子玉のように無感動な赤の瞳に晒されたのは一瞬のこと。
すぐさま鬱陶しそうに歪められた顔は、見慣れたペーター=ホワイトのものだった。
身震いするような威圧感も失せ、先ほど見た表情は見間違いだったかと思わせる。けれど、〇〇の後ろで震える少女が事実を物語っていた。
「なんの用、じゃない。か弱い女の子に向かって撃つなんて、どういうつもり?」
そう言いつつ、立ち塞がったまま肩越しに状況を確認する。△△に出血は見られず、弾丸は壁にめり込んでいるようだった。
本気で殺す気があったのなら、ペーターが狙いを外すわけがない。そう気づき、少しだけ安心した。ほんの気休め程度に、だが。
「これは僕とその余所者の問題です。部外者は引っ込んでいてください」
「部外者ってねえ…」
つっけんどんな言い方が相変わらずのため、こちらもいつもの調子になってしまう。
ペーターが会話に応じるということは、事態は思うほど深刻ではないのだろうか。
そもそも、どうして彼が少女に銃口を向けることになった?
エースはああ言っていたが、たとえ本当のことだとしても、それこそペーターには関係のない話だ。
(あたしのことで白ウサギさんが怒るなんて、まずありえないし…)
ならば、なにが彼の気に障ったのか。追及するのも面倒になりそうで、事なきを得たならそれでいいかという気になる。
ペーターもすでに銃を時計に戻し、危害を加える気配はない。〇〇は彼に背を向けると、△△の傍らに跪いた。
「大丈夫?ペーターに悪気はない、と思うんだけど…ごめんね」
「言っておきますけど、僕に謝罪の意思はありませんから」
「ちょっ、アナタは少し黙ってて」
懲りない背後の声を遮り、〇〇は少女に手を貸そうとする。しかし、ぱんっと軽い音を立てて払いのけられた。
△△の震えは今や、恐怖とは別のものに変わったようだった。俯いたまま、きつく拳を握る。
「おかしい、よ」
「え…?」
「なんで、あんたが謝るの。それで親密さをアピールしてるつもりとか?……ふざけないで」
親密などという言葉を、どうすれば白ウサギとの間に成立させることができるのか、ぜひとも知りたい。
誤解は積み重なる一方で、この様子ではおそらく弁解も通じない。
「えー…と、ね?確かに、あたしが代わりに謝るのもどうかと思うよ、うん」
「うるさい。だいたい、あんたってなんなの」
顔を上げた少女の目は爛々と怒りに燃えていた。これは、まずい。
罵詈雑言を受け止める覚悟はあるが、それを少女が役持ちの前で吐き出しては心証が悪すぎる。
今さらだと言ってしまえばそれまでだが、それでも。
落ち着いてと声をかけるのも逆効果だろうと思えば、〇〇に止める手立てはなかった。
「あの、△△ちゃん、」
「気安く呼ばないで。……ねえ、どうやったの?やっぱり体?わたしより年上のくせして色気皆無なのに、よくたらしこめたよね」
つい視線は少女の豊満な胸に移る。……色気皆無、認めます。
「たらしこむって…」
「だってそうでしょう?みんながおかしいのは、あんたがなにかしたからに決まってる」
こうも面と向かって嫌悪をぶつけられるのは、生まれて初めてのことだった。
ショックを受けるというよりも、戸惑いを隠せない。
「わたしのほうが何十倍も可愛いのに、なんでみんなはわたしを選ばないの?」
「それは、アリスが…」
「アリスアリスって、もう嫌っ、うんざりする!」
△△は髪を振り乱した。あまりの剣幕に〇〇はたじろいだ。
「お、落ち着…」
「わたしが好きだったのは、こんな場所じゃない!全然違う!」
取り乱した少女の細い腕が撓る。頬を張られる、そう思ったが防ぎようがなかった。
「ヒロインなんて関係ないっ、この世界をおかしくしてるのは――…!」
振り上げられた手の衝撃を迎えるために目を瞑った〇〇は、何故か後ろにひっくり返った。
首根っこを掴まれて尻餅をついたのだ。おかげで平手を回避できたが、背後を見上げた〇〇はぽかんと口を開けた。
埃を落とすように手のひらを払う男の頭の上で、長い耳が揺れている。
白ウサギは他者と接触した手を嫌そうに見たが、それ以上に不機嫌な顔つきで△△を睨み据えた。
「この余所者に手を出さないでくれますか」
「ぺ、ペーター……まさかあなたまで、この女のことが、好き…?」
絶え入るような声で尋ねる少女に、ペーターは心底心外だという表情をした。
「なにを勘違いしているのか知りませんが、これを傷つけていいのは僕一人…ただそれだけのことです」
「うそ、嘘、絶対に好きなんだ…!」
「ああ、鬱陶しい。ヒステリーはやめてください」
端整な顔を顰めて、片手を振る。〇〇を一瞥する眼差しは、お世辞にも好意的とは言い難かった。
「それに、これを好きだなんて冗談じゃない。間違っても言い触らさないでくださいよ。もし僕の愛しい人の耳に入ろうものなら、次こそ殺します」
用は済んだとばかりに背を向けるペーター。
いくらか進んだところでふと足を止め、振り向いてなにかを確認すると、小さく舌打ちした。
「いつまでその間抜けな顔を晒しているつもりですか。…行きますよ」
「ぇ……あ、あたし…?」
「はっ、他に間抜け面がいますか?自分の容姿にくらい自覚を持ってくださいね」
辛辣な言葉にびしびし打たれつつ、〇〇はよろよろと立ち上がって足を動かした。
精神状態の不安定な少女を置き去りにするのは、少々気が引ける。
しかし、この場から逃がしてくれるペーターの意外な助けを頼らない手はなかった。
ちらりと振り返った〇〇の目には、一人ぽつんと残された、打ちひしがれる少女の姿が映った。