GAMEOVER?
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まるで最愛の人と再会したかのように、表情はだらしなくとろけた。
気のせいか瞳は潤み、辛抱できないとばかりに両腕が彼女を求める。
「お願い、アリス。なにも聞かずに、抱かせて…」
願うより早く柔らかな肢体を奪い、ぎゅっと掻き抱く。ああ、決して久しぶりというわけではないのに、染み入るようだ。
ほうと吐き出した息は熱っぽく、それを耳元に受けたアリスが震えた。
「ちょっと、〇〇…っ」
「アリスぅ」
「落ち着いて、ねっ?あなたが甘えたいだけ甘えていいから、とにかく一度離れて…!」
名残惜しい。顔にそう書きながらも、〇〇はそっとアリスを解放した。
会うなり熱烈な抱擁を贈られた彼女は、頬を上気させていた。
友人とはいえ、あまりべたべたスキンシップし合う仲ではないため、慣れない出来事に驚いたらしい。
照れたアリスも可愛いな、と〇〇の顔は崩れてしかたない。
「ど、どうしたの。今日はやけに積極的…っていうのかしら、これ」
「んー。今日はこういう気分、なんだよ」
アリスを愛でたい。というか、愛でられるアリスを心行くまで味わいたい。
枯渇していた潤いだったが、ひとまず抱きつきで急場は凌げたように思う。
いつもは見ない〇〇の行動に、ぽかんと気を取られたのは周りの人間だ。
我に返った三月ウサギは、出遅れたというようにバッと全身で構えた。
「よしっ…〇〇!俺の胸にも飛び込んでこい!」
「……。そっちはいいや」
気持ちだけ受け取っておこう。アリスと違ってクッション性は乏しそうだ。
断られてショックを受けるエリオット。項垂れる彼を尻目に、二人の少年は〇〇に飛びついた。
「じゃあ、僕らが〇〇を抱きしめてあげる!」
「遠慮しないで、サービスするよ?ほら、ぎゅーって」
「うんうん、ぎゅーってね」
「ぎゅーっ」
「それは、あたしじゃなくてアリスに――ぐっ、苦し…」
あまりの遠慮(手加減)のなさに、魂が羽ばたきかけた。
慌てたアリスに救出されるも、今度は腰を力強く持っていかれる。その勢いで括れでもできれば、文句はないのだが。
「はあ……エリオット」
「〇〇、俺だけ扱いが酷くねえか…?」
後ろからぎゅうぎゅう抱きしめながら、エリオットは拗ねた声を出した。
気のせいじゃないか、たぶん。と軽く流して、ふと屋敷の主人が不在であることに気づく。
逆に、門番であるはずの双子が屋敷内にいるのは何故だ。
「ディー、ダム。仕事は?休憩中?」
不思議に思い尋ねると、二人は同じ顔を見合わせた。意味深なアイコンタクトのわけを、溜め息混じりに聞かされた。
「だって、僕達があそこにいても、仕事にならないからさ」
「そうなんだ。あのお姉さんがずっと話しかけてくるから、集中力が切れちゃうんだよね」
(集中力?…いつもそんなもんあったっけ)
「それって、もしかして△△のこと?」
〇〇は疑問を飲み込んだ。アリスの問いに、深い頷きが返る。
「あのお姉さん、見た目は可愛いのになんか残念なんだ」
「見た目と中身が一致してないのかな。なにか隠してるみたいっていうか…すっきりしない」
要するに、絶えず話しかけてくる△△に辟易して、仕事を放り出してきたということか。サボるための体のいい口実じゃないだろうな。
それにしても、滞在地以外でも少女は積極的に活動しているらしい。
役持ちの反応はどうだろうと思っていたが、微妙なところだ。全面的な拒絶ではなく、完全なる好意でもなく。
そこでようやく緩んだ腕から抜け出した〇〇は、腕の持ち主の表情に首を傾げた。
「どうかした、エリオット?」
「なあ……△△は、いい奴なのか?」
思いがけない質問である。そして自分の判断に自信のない三月ウサギを見るのは珍しかった。
いい人か、悪い人か。それは自分がどう感じるかであり、他者に答えを求めるものではないだろう。
「エリオットはどう思う?」
「それがわかんねえんだよ…。根っからの悪い奴ってわけじゃねえ。なんつっても、にんじん料理の素晴らしさを理解してくれてるんだからな」
「……へえ」
それが“いい奴”の判断基準のひとつなのか。
「けど、なんか引っかかるんだ。あんたやアリスと同じ余所者なんだろ?なのに、なにが違うんだ?」
「いや、あたしに聞かれても」
「わ、私だってわからないわよ?」
〇〇が即座に答えたことで、エリオットの視線はアリスに向かったが、当然彼女が知るはずもない。
彼が曖昧を強いられるなど、余程のことではなかろうか。
アリスと話す双子や三月ウサギを盗み見つつ、〇〇は考える。
少女がこの世界に来た、いや来られた理由を。△△は本当に、あたしと“同じ”なんだろうか。
そのとき、ディーとダムが唐突に姿勢を正した。
「あ、僕達行かなくちゃ」
「仕事に戻らないと」
「えっ、二人とも急に…?」
走り去る双子の素早いこと。続いてそわそわし出したのはエリオットだった。
長い耳がぴくぴくと神経質そうに動く。なにかを感知したように。
「お、俺も部屋に戻るぜ。そうだ、一緒に行かねえか?」
誘う最中にアリスと〇〇の腕を掴む。そのまま歩き出そうとするものだから、あまりの性急さについていけない。
「ねえっ、待って、エリオット!」
「ちょっ、そんなに急いでなに?」
「急いでねえ。全っ然急いでねえよ。別に俺は逃げようとか、そんなんじゃねえからなっ」
必死に言い訳じみたことを口にし、ぐいぐい引っ張ろうとする。
さっぱりわからない。自然と抗うように足を踏ん張ってしまうのはアリスも同様らしかった。
とりあえず先に理由を、と余所者二人が口を開く前に、広い廊下に新たな少女の声が響いた。
「あっ、いたいた。エリオットー!」
それは第三の余所者――ああ、理由はこれだったのか。
〇〇はハッとして足から力を抜いたが、時すでに遅し。
せめてもの処置として瞬時にエリオットの手を振り払ったが、間に合ったかどうかなど些末なこと。
独占欲が許さないのか、役持ちの傍にいるだけでこの視線の鋭さ。
やってきた△△は、驚いたことに帽子屋を伴っていた。今まで彼と二人でいたのだろうか。
「こんなところにいたの?ずっと探してたんだから~」
「わ、悪い…」
三月ウサギは勢いに押されたように、もごもごと謝った。帽子屋ファミリー№2の面影はない。
相当少女の扱いに困っているようで、彼はいつになく挙動が定まらない。
△△はブラッドの腕から離れると、エリオットに近づいた。
「今はお仕事ないんでしょう?ね、わたしと遊びに行こっ。ブラッドも一緒なの!」
これはおいしくない展開だ。悟った〇〇はすかさず己の望みを果たすために動いた。
アイラインによって目力の増した大きな目がギリリと睨みつけてくる。が、アリスの癒しに満ちた心は怯まない。
〇〇は外向きの笑顔を浮かべ、小柄な少女に向かって片腕を広げた。行く手を遮るように。
「残念ながら、エリオットはこれからアリスと出かけるんだ」
背後で驚く気配がする。なにしろその予定は、たった今〇〇が勝手に作ったのだから。
くるりと身体を反転させ、ぽんとエリオットとアリスの背を押した。行って、と目で訴える。
△△との折り合いが悪いのは〇〇だけではない。アリスも友好的な態度をとられていないと知っている。
ここはあたしに任せて、アリスはエリオットと。通じたのか、彼女は戸惑いながらも小さく頷き、迷うエリオットの手を引いて行った。
(ふっ…。エリアリ、万歳)
遠のく二つの背中を見送り、エールを送る。自分のわがままを通せたことが嬉しかった。
さて、アリスも行ってしまったことだし、今日のところは引き上げるとするか。
邪魔者は消えるに限る、と今さらなことを考え、これ以上は少女を刺激しないように去ることにした。
「――決めた」
しかし、想定外のことはいつ起こるか知れない。
暇を乞うために向き合ったはずの〇〇の前には、いつの間にか男が立っていた。
しかも、かなりの至近距離。と思ったら、流れるような動作で腰を抱かれていた。
「え?」
決めた?いったいなにを。
こちらを見下ろす碧眼は愉快そうに細められている。これはまた、ろくなことを考えていない目だ。
果たして直感は正しかったらしく、彼は誘う笑みで〇〇を硬直させた。
「私達もデートをしようじゃないか、〇〇」
「…はあっ!?」
待て、待て待て待て。完璧に誘う相手を間違えている。
もしやアリスを他の男に渡したことに怒って、嫌がらせをしてやろうと…?
予想外の事態に〇〇は驚愕したが、△△はさらに衝撃を受けている様子だった。
呆然としたのもつかの間、早口にブラッドに問う声はかなり焦っていた。
「ねえ!ブラッドは、わたしと一緒に出かける約束だよね?ほらっ、エリオットがいなくても二人で行けば…」
「約束?そんなものをした覚えはないが」
「え……」
言葉を失う△△。なんだこの展開。〇〇は腕から逃れようともがくが、逃げられない。
抱擁で軽々と拘束するブラッドは、〇〇の短い髪に唇を寄せながら言った。
「暇潰しにいいかもしれないとは言ったが、誰も約束はしていない。違うかな、お嬢さん?」
「そ、それはっ……でも、」
「それに私は、君と出かけるよりも、もっと有意義な過ごし方を知っている」
意味深な言い方と、濃い眼差し。漂う雰囲気は秘め事を窺わせる。
これは、駄目だ。〇〇の顔が引き攣っていく。
確かにアリスを優先させたのは自分だ。だが、そこにそれ以上の意味はない。
△△の望みを妨害したいだとか、牽制したいだとか、そこまでの意図を含んではいなかった。
それなのに、ブラッドがまさに与えようとしているのは、少女の夢を踏み躙るもの。
「ブ、ラッド…!」
「外に出かけるデートは今度にしようか。二人きりでゆっくり過ごすのも、悪くないだろう?」
ブラッドはおもむろに上体を傾けてくる。仰け反って避けるも、限界があった。
「すぐに寝室に連れ込んだりはしないさ。まずは、二人で茶を飲もう」
「っ、ぅ……」
“二人”を強調して甘く囁きかける唇が、ついに触れ合った。最初から濃厚に絡む舌が、ぐちゅりと鳴る。
瞬間、弾かれたように駆け出した足音を耳にした〇〇は、思わず相手の柔らかいものに歯を立てた。
「っ…こんなこと、する必要がどこにあるっ?」
突き放せば、意外にもあっさり離れてくれた。
しかし、あれは絶対に誤解された。アリス総受けと言っておきながらこれでは、余計にややこしいことになってしまう。
〇〇はついブラッドを睨んだが、彼は濡れた唇の名残を楽しみながら平然と笑った。
「あの子は少々勘違いしている節があってね。それを正すためだ」
「……勘違い?」
「ああ、そうとも。不本意だったかもしれないが、君の協力に感謝するよ」
お礼に紅茶をご馳走しようという誘いを蹴り、〇〇はさっさと屋敷を後にした。
もちろん、△△とうっかり鉢合わせしないように、細心の注意を払いながら。
何故こうもおかしな方向に進んでしまうのだろう。少女との溝は深まる一方だ。
そのうち夜道で背中を刺されるかもしれない。ゲームオーバーは案外すぐ傍にあったりする、のか?
寝覚めがそれじゃ気持ちよくないよなあと思うも、可能性がないとも断言できず、〇〇は笑うに笑えなかった。
気のせいか瞳は潤み、辛抱できないとばかりに両腕が彼女を求める。
「お願い、アリス。なにも聞かずに、抱かせて…」
願うより早く柔らかな肢体を奪い、ぎゅっと掻き抱く。ああ、決して久しぶりというわけではないのに、染み入るようだ。
ほうと吐き出した息は熱っぽく、それを耳元に受けたアリスが震えた。
「ちょっと、〇〇…っ」
「アリスぅ」
「落ち着いて、ねっ?あなたが甘えたいだけ甘えていいから、とにかく一度離れて…!」
名残惜しい。顔にそう書きながらも、〇〇はそっとアリスを解放した。
会うなり熱烈な抱擁を贈られた彼女は、頬を上気させていた。
友人とはいえ、あまりべたべたスキンシップし合う仲ではないため、慣れない出来事に驚いたらしい。
照れたアリスも可愛いな、と〇〇の顔は崩れてしかたない。
「ど、どうしたの。今日はやけに積極的…っていうのかしら、これ」
「んー。今日はこういう気分、なんだよ」
アリスを愛でたい。というか、愛でられるアリスを心行くまで味わいたい。
枯渇していた潤いだったが、ひとまず抱きつきで急場は凌げたように思う。
いつもは見ない〇〇の行動に、ぽかんと気を取られたのは周りの人間だ。
我に返った三月ウサギは、出遅れたというようにバッと全身で構えた。
「よしっ…〇〇!俺の胸にも飛び込んでこい!」
「……。そっちはいいや」
気持ちだけ受け取っておこう。アリスと違ってクッション性は乏しそうだ。
断られてショックを受けるエリオット。項垂れる彼を尻目に、二人の少年は〇〇に飛びついた。
「じゃあ、僕らが〇〇を抱きしめてあげる!」
「遠慮しないで、サービスするよ?ほら、ぎゅーって」
「うんうん、ぎゅーってね」
「ぎゅーっ」
「それは、あたしじゃなくてアリスに――ぐっ、苦し…」
あまりの遠慮(手加減)のなさに、魂が羽ばたきかけた。
慌てたアリスに救出されるも、今度は腰を力強く持っていかれる。その勢いで括れでもできれば、文句はないのだが。
「はあ……エリオット」
「〇〇、俺だけ扱いが酷くねえか…?」
後ろからぎゅうぎゅう抱きしめながら、エリオットは拗ねた声を出した。
気のせいじゃないか、たぶん。と軽く流して、ふと屋敷の主人が不在であることに気づく。
逆に、門番であるはずの双子が屋敷内にいるのは何故だ。
「ディー、ダム。仕事は?休憩中?」
不思議に思い尋ねると、二人は同じ顔を見合わせた。意味深なアイコンタクトのわけを、溜め息混じりに聞かされた。
「だって、僕達があそこにいても、仕事にならないからさ」
「そうなんだ。あのお姉さんがずっと話しかけてくるから、集中力が切れちゃうんだよね」
(集中力?…いつもそんなもんあったっけ)
「それって、もしかして△△のこと?」
〇〇は疑問を飲み込んだ。アリスの問いに、深い頷きが返る。
「あのお姉さん、見た目は可愛いのになんか残念なんだ」
「見た目と中身が一致してないのかな。なにか隠してるみたいっていうか…すっきりしない」
要するに、絶えず話しかけてくる△△に辟易して、仕事を放り出してきたということか。サボるための体のいい口実じゃないだろうな。
それにしても、滞在地以外でも少女は積極的に活動しているらしい。
役持ちの反応はどうだろうと思っていたが、微妙なところだ。全面的な拒絶ではなく、完全なる好意でもなく。
そこでようやく緩んだ腕から抜け出した〇〇は、腕の持ち主の表情に首を傾げた。
「どうかした、エリオット?」
「なあ……△△は、いい奴なのか?」
思いがけない質問である。そして自分の判断に自信のない三月ウサギを見るのは珍しかった。
いい人か、悪い人か。それは自分がどう感じるかであり、他者に答えを求めるものではないだろう。
「エリオットはどう思う?」
「それがわかんねえんだよ…。根っからの悪い奴ってわけじゃねえ。なんつっても、にんじん料理の素晴らしさを理解してくれてるんだからな」
「……へえ」
それが“いい奴”の判断基準のひとつなのか。
「けど、なんか引っかかるんだ。あんたやアリスと同じ余所者なんだろ?なのに、なにが違うんだ?」
「いや、あたしに聞かれても」
「わ、私だってわからないわよ?」
〇〇が即座に答えたことで、エリオットの視線はアリスに向かったが、当然彼女が知るはずもない。
彼が曖昧を強いられるなど、余程のことではなかろうか。
アリスと話す双子や三月ウサギを盗み見つつ、〇〇は考える。
少女がこの世界に来た、いや来られた理由を。△△は本当に、あたしと“同じ”なんだろうか。
そのとき、ディーとダムが唐突に姿勢を正した。
「あ、僕達行かなくちゃ」
「仕事に戻らないと」
「えっ、二人とも急に…?」
走り去る双子の素早いこと。続いてそわそわし出したのはエリオットだった。
長い耳がぴくぴくと神経質そうに動く。なにかを感知したように。
「お、俺も部屋に戻るぜ。そうだ、一緒に行かねえか?」
誘う最中にアリスと〇〇の腕を掴む。そのまま歩き出そうとするものだから、あまりの性急さについていけない。
「ねえっ、待って、エリオット!」
「ちょっ、そんなに急いでなに?」
「急いでねえ。全っ然急いでねえよ。別に俺は逃げようとか、そんなんじゃねえからなっ」
必死に言い訳じみたことを口にし、ぐいぐい引っ張ろうとする。
さっぱりわからない。自然と抗うように足を踏ん張ってしまうのはアリスも同様らしかった。
とりあえず先に理由を、と余所者二人が口を開く前に、広い廊下に新たな少女の声が響いた。
「あっ、いたいた。エリオットー!」
それは第三の余所者――ああ、理由はこれだったのか。
〇〇はハッとして足から力を抜いたが、時すでに遅し。
せめてもの処置として瞬時にエリオットの手を振り払ったが、間に合ったかどうかなど些末なこと。
独占欲が許さないのか、役持ちの傍にいるだけでこの視線の鋭さ。
やってきた△△は、驚いたことに帽子屋を伴っていた。今まで彼と二人でいたのだろうか。
「こんなところにいたの?ずっと探してたんだから~」
「わ、悪い…」
三月ウサギは勢いに押されたように、もごもごと謝った。帽子屋ファミリー№2の面影はない。
相当少女の扱いに困っているようで、彼はいつになく挙動が定まらない。
△△はブラッドの腕から離れると、エリオットに近づいた。
「今はお仕事ないんでしょう?ね、わたしと遊びに行こっ。ブラッドも一緒なの!」
これはおいしくない展開だ。悟った〇〇はすかさず己の望みを果たすために動いた。
アイラインによって目力の増した大きな目がギリリと睨みつけてくる。が、アリスの癒しに満ちた心は怯まない。
〇〇は外向きの笑顔を浮かべ、小柄な少女に向かって片腕を広げた。行く手を遮るように。
「残念ながら、エリオットはこれからアリスと出かけるんだ」
背後で驚く気配がする。なにしろその予定は、たった今〇〇が勝手に作ったのだから。
くるりと身体を反転させ、ぽんとエリオットとアリスの背を押した。行って、と目で訴える。
△△との折り合いが悪いのは〇〇だけではない。アリスも友好的な態度をとられていないと知っている。
ここはあたしに任せて、アリスはエリオットと。通じたのか、彼女は戸惑いながらも小さく頷き、迷うエリオットの手を引いて行った。
(ふっ…。エリアリ、万歳)
遠のく二つの背中を見送り、エールを送る。自分のわがままを通せたことが嬉しかった。
さて、アリスも行ってしまったことだし、今日のところは引き上げるとするか。
邪魔者は消えるに限る、と今さらなことを考え、これ以上は少女を刺激しないように去ることにした。
「――決めた」
しかし、想定外のことはいつ起こるか知れない。
暇を乞うために向き合ったはずの〇〇の前には、いつの間にか男が立っていた。
しかも、かなりの至近距離。と思ったら、流れるような動作で腰を抱かれていた。
「え?」
決めた?いったいなにを。
こちらを見下ろす碧眼は愉快そうに細められている。これはまた、ろくなことを考えていない目だ。
果たして直感は正しかったらしく、彼は誘う笑みで〇〇を硬直させた。
「私達もデートをしようじゃないか、〇〇」
「…はあっ!?」
待て、待て待て待て。完璧に誘う相手を間違えている。
もしやアリスを他の男に渡したことに怒って、嫌がらせをしてやろうと…?
予想外の事態に〇〇は驚愕したが、△△はさらに衝撃を受けている様子だった。
呆然としたのもつかの間、早口にブラッドに問う声はかなり焦っていた。
「ねえ!ブラッドは、わたしと一緒に出かける約束だよね?ほらっ、エリオットがいなくても二人で行けば…」
「約束?そんなものをした覚えはないが」
「え……」
言葉を失う△△。なんだこの展開。〇〇は腕から逃れようともがくが、逃げられない。
抱擁で軽々と拘束するブラッドは、〇〇の短い髪に唇を寄せながら言った。
「暇潰しにいいかもしれないとは言ったが、誰も約束はしていない。違うかな、お嬢さん?」
「そ、それはっ……でも、」
「それに私は、君と出かけるよりも、もっと有意義な過ごし方を知っている」
意味深な言い方と、濃い眼差し。漂う雰囲気は秘め事を窺わせる。
これは、駄目だ。〇〇の顔が引き攣っていく。
確かにアリスを優先させたのは自分だ。だが、そこにそれ以上の意味はない。
△△の望みを妨害したいだとか、牽制したいだとか、そこまでの意図を含んではいなかった。
それなのに、ブラッドがまさに与えようとしているのは、少女の夢を踏み躙るもの。
「ブ、ラッド…!」
「外に出かけるデートは今度にしようか。二人きりでゆっくり過ごすのも、悪くないだろう?」
ブラッドはおもむろに上体を傾けてくる。仰け反って避けるも、限界があった。
「すぐに寝室に連れ込んだりはしないさ。まずは、二人で茶を飲もう」
「っ、ぅ……」
“二人”を強調して甘く囁きかける唇が、ついに触れ合った。最初から濃厚に絡む舌が、ぐちゅりと鳴る。
瞬間、弾かれたように駆け出した足音を耳にした〇〇は、思わず相手の柔らかいものに歯を立てた。
「っ…こんなこと、する必要がどこにあるっ?」
突き放せば、意外にもあっさり離れてくれた。
しかし、あれは絶対に誤解された。アリス総受けと言っておきながらこれでは、余計にややこしいことになってしまう。
〇〇はついブラッドを睨んだが、彼は濡れた唇の名残を楽しみながら平然と笑った。
「あの子は少々勘違いしている節があってね。それを正すためだ」
「……勘違い?」
「ああ、そうとも。不本意だったかもしれないが、君の協力に感謝するよ」
お礼に紅茶をご馳走しようという誘いを蹴り、〇〇はさっさと屋敷を後にした。
もちろん、△△とうっかり鉢合わせしないように、細心の注意を払いながら。
何故こうもおかしな方向に進んでしまうのだろう。少女との溝は深まる一方だ。
そのうち夜道で背中を刺されるかもしれない。ゲームオーバーは案外すぐ傍にあったりする、のか?
寝覚めがそれじゃ気持ちよくないよなあと思うも、可能性がないとも断言できず、〇〇は笑うに笑えなかった。