これは萌えですか、いいえ違います。そのよん
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今回もこれまでと同様に、おそらく寝て起きれば元どおりになっているはずだ。
早めの就寝を心がけるとしても、今日という日はまだ始まったばかり。
ならば久しぶりにユリウスの仕事を手伝おうと、〇〇は作業を開始した。が。
(なんていうんだろう、新鮮……?)
他の領地では散々役持ち達に弄られてきたせいか、常識人の傍は大変心地よかった。
結構な頻度で見られているが、むやみに接触してこない。なんと無害な男だろうか。
おかげで、磨り減っていた精神が回復していくのを感じるようだった。
「ユリウス」
「な、なんだ」
視線を咎められると思ったのか、ユリウスは焦ったように返事をした。
別に叱ったりしないのに。〇〇は寛大な気持ちで微笑んだ。
「気になる?これ」
頭上を意識すれば、ありえないほうの耳がぴくっと動いた。
鏡は見ていないが、手触りで形を確認したところ、思い当たる動物がいた。
猫は先日遊園地で経験済みなのだが、連続で同じものが生えてくることもあるらしい。
ただし、種類は異なるようだ。白い尻尾には黒縞の柄があった。
「……物珍しいだけだ。余所者にそのような変化が起こるとは、聞いたことがない」
誤魔化しは通用しないと思ったのか、意外にも素直な答えが返ってくる。
〇〇もそうだろうなと頷き、ふと、こんな言葉がするりと口から出た。
「よかったら、触ってみる?」
ユリウスは目を丸くした。〇〇もまた自身の発言に驚いたが、すぐに納得した。
目の前にいるのがたとえば帽子屋やハートの騎士なら、絶対にこんな提案はしない。
自分から積極的には関わってこない相手だからこそ、ちょっとくらいならいいかという気になるのだ。
〇〇は椅子を引っ張ってユリウスの真横に移動すると、彼に背中を向けた。
相手の出方が見えない無防備なそれは、お好きにどうぞ、の姿勢である。
「ほら」
「……」
返答はなかったが、しばらくすると、背後で椅子を動かす音がした。
頭の耳になにかが触れる。躊躇いがちな触り方がくすぐったく、思わず笑ってしまった。
ユリウスはさっと手を引いたが、今度は意を決したように手のひら全体で触ってきた。
「まるで最初からあったような生え方だな…」
「でしょ?ちゃんと感覚もあるし、本物みたい」
「体調になにか変化はないのか」
「うん。健康そのもの」
体調を気遣われるのもまた新鮮だ。健康面に異常はなかったが、〇〇自身でさえそこには気が回らなかった。
〇〇は身体を後ろに倒して、首を反らせた。ユリウスがどんな顔をしているのか気になったからだ。
だが、相手は思った以上に近くにいた。意図せず、〇〇の頭はユリウスの肩の辺りにぶつかった。
「わっ、ごめん」
「っ、急に倒れてくるな」
「ごめんってば」
一応謝罪しながらも、〇〇はユリウスに背中を預けたままだった。
触れ合っていても嫌な感じはせず、なにより彼が嫌がる様子もなく押し返さなかった。
快適な背もたれを得た〇〇は、なんだこの体勢、と思いつつ耳を他人の手に委ねていた。
(……いつもと違うなあ)
なにがとはわからないが。うっすらとそんな気がしてくる。
(あたしが違うのか。まあ猫耳と尻尾が生えてるしね。それとも、ユリウスが…?)
耳を触らせるには些か近すぎる距離のせいで、先ほどよりもやりにくそうだが、文句は来ない。
耳というより頭を撫でられているような感じで、〇〇はちらりとユリウスの横顔を見上げた。
きっちりと一番上まで閉じられた襟から伸びる、男らしい喉元。出不精らしく肌は白い。
〇〇はじーっとその場所を凝視した。どこからともなく湧き上がってくる衝動。そして。
「あ」
「ぃッ……!〇〇っ!?」
かぷり。いや、がぶり、だろうか。気がついたとき、〇〇はその色を口に含んでいた。ごく自然に。
ユリウスが素っ頓狂な声を上げ、勢いよく〇〇を引き剥がした。
「なっ、なにを……おまえはなにをしているんだ!?」
「え。なにって……ん?なんだろ」
「他人事のように首を傾げるな!」
顔を上気させたユリウスは、噛みつかれた首を手で押さえながら猛然と責めてくる。
そんなに怒らなくたっていいじゃないか。減るもんじゃないのに。
常の〇〇ならば、明らかにこちらに非があると認めるのだが(そもそもこんな行動に出ない)、何故か理不尽なことを考える。
俄かに反抗心が芽生え、いつになく好戦的な気持ちになる。
椅子から立ち上がってユリウスの首にするりと腕をかけると、〇〇はその膝に乗り上げた。
しかし、今度はユリウスのほうが先に手を打った。
彼はハッとなにかに気づいたように目を見開き、咄嗟に両手を伸ばした。
「これは……まさか!」
「にゃにしゅるの」
〇〇の上唇を両手の親指で捲り上げれば、そこにあったのは立派な鋭い牙。
続いて、耳や尻尾、全身をあらためて確認する。
そうして、ユリウスはようやく事実を誤認していたことを知った。
「〇〇、おまえは猫じゃない……ホワイトタイガーだ」
猫よりやや丸みを帯びた耳。太めの白い尻尾に薄い黒の縞模様。
ホワイトタイガー、ネコ科の肉食獣。なるほど、どうりで猫に似ているわけである。
結論。どうやら連続で同じ動物にはならないらしい。まあ、猫と虎なら間違えるのも無理はない。
ユリウスの両手を掴み返した〇〇は、青い虹彩の目を細めてにやりと笑った。ふうん、白虎かー。
「なにそれかっこいい」
「喜ぶな、馬鹿者!」
椅子ごと押し倒されたユリウスは、床で強かに後頭部を打ちつけながらも、精一杯の突っ込みを入れたのだった。
次の日。耳と尻尾は消えたが、昨日の醜態が記憶から消えてなくなるはずもなく。
アニマル化の影響だったとはいえ、とんでもない行動をしてしまった。
平謝りに謝るしかなかったが、相手が私でよかったな、とユリウスは若干赤い顔で謝罪を受け入れてくれた。
ユリウスには申し訳ないが、被害者が彼一人でよかったと、密かに思う〇〇だった。
end。→あとがき
早めの就寝を心がけるとしても、今日という日はまだ始まったばかり。
ならば久しぶりにユリウスの仕事を手伝おうと、〇〇は作業を開始した。が。
(なんていうんだろう、新鮮……?)
他の領地では散々役持ち達に弄られてきたせいか、常識人の傍は大変心地よかった。
結構な頻度で見られているが、むやみに接触してこない。なんと無害な男だろうか。
おかげで、磨り減っていた精神が回復していくのを感じるようだった。
「ユリウス」
「な、なんだ」
視線を咎められると思ったのか、ユリウスは焦ったように返事をした。
別に叱ったりしないのに。〇〇は寛大な気持ちで微笑んだ。
「気になる?これ」
頭上を意識すれば、ありえないほうの耳がぴくっと動いた。
鏡は見ていないが、手触りで形を確認したところ、思い当たる動物がいた。
猫は先日遊園地で経験済みなのだが、連続で同じものが生えてくることもあるらしい。
ただし、種類は異なるようだ。白い尻尾には黒縞の柄があった。
「……物珍しいだけだ。余所者にそのような変化が起こるとは、聞いたことがない」
誤魔化しは通用しないと思ったのか、意外にも素直な答えが返ってくる。
〇〇もそうだろうなと頷き、ふと、こんな言葉がするりと口から出た。
「よかったら、触ってみる?」
ユリウスは目を丸くした。〇〇もまた自身の発言に驚いたが、すぐに納得した。
目の前にいるのがたとえば帽子屋やハートの騎士なら、絶対にこんな提案はしない。
自分から積極的には関わってこない相手だからこそ、ちょっとくらいならいいかという気になるのだ。
〇〇は椅子を引っ張ってユリウスの真横に移動すると、彼に背中を向けた。
相手の出方が見えない無防備なそれは、お好きにどうぞ、の姿勢である。
「ほら」
「……」
返答はなかったが、しばらくすると、背後で椅子を動かす音がした。
頭の耳になにかが触れる。躊躇いがちな触り方がくすぐったく、思わず笑ってしまった。
ユリウスはさっと手を引いたが、今度は意を決したように手のひら全体で触ってきた。
「まるで最初からあったような生え方だな…」
「でしょ?ちゃんと感覚もあるし、本物みたい」
「体調になにか変化はないのか」
「うん。健康そのもの」
体調を気遣われるのもまた新鮮だ。健康面に異常はなかったが、〇〇自身でさえそこには気が回らなかった。
〇〇は身体を後ろに倒して、首を反らせた。ユリウスがどんな顔をしているのか気になったからだ。
だが、相手は思った以上に近くにいた。意図せず、〇〇の頭はユリウスの肩の辺りにぶつかった。
「わっ、ごめん」
「っ、急に倒れてくるな」
「ごめんってば」
一応謝罪しながらも、〇〇はユリウスに背中を預けたままだった。
触れ合っていても嫌な感じはせず、なにより彼が嫌がる様子もなく押し返さなかった。
快適な背もたれを得た〇〇は、なんだこの体勢、と思いつつ耳を他人の手に委ねていた。
(……いつもと違うなあ)
なにがとはわからないが。うっすらとそんな気がしてくる。
(あたしが違うのか。まあ猫耳と尻尾が生えてるしね。それとも、ユリウスが…?)
耳を触らせるには些か近すぎる距離のせいで、先ほどよりもやりにくそうだが、文句は来ない。
耳というより頭を撫でられているような感じで、〇〇はちらりとユリウスの横顔を見上げた。
きっちりと一番上まで閉じられた襟から伸びる、男らしい喉元。出不精らしく肌は白い。
〇〇はじーっとその場所を凝視した。どこからともなく湧き上がってくる衝動。そして。
「あ」
「ぃッ……!〇〇っ!?」
かぷり。いや、がぶり、だろうか。気がついたとき、〇〇はその色を口に含んでいた。ごく自然に。
ユリウスが素っ頓狂な声を上げ、勢いよく〇〇を引き剥がした。
「なっ、なにを……おまえはなにをしているんだ!?」
「え。なにって……ん?なんだろ」
「他人事のように首を傾げるな!」
顔を上気させたユリウスは、噛みつかれた首を手で押さえながら猛然と責めてくる。
そんなに怒らなくたっていいじゃないか。減るもんじゃないのに。
常の〇〇ならば、明らかにこちらに非があると認めるのだが(そもそもこんな行動に出ない)、何故か理不尽なことを考える。
俄かに反抗心が芽生え、いつになく好戦的な気持ちになる。
椅子から立ち上がってユリウスの首にするりと腕をかけると、〇〇はその膝に乗り上げた。
しかし、今度はユリウスのほうが先に手を打った。
彼はハッとなにかに気づいたように目を見開き、咄嗟に両手を伸ばした。
「これは……まさか!」
「にゃにしゅるの」
〇〇の上唇を両手の親指で捲り上げれば、そこにあったのは立派な鋭い牙。
続いて、耳や尻尾、全身をあらためて確認する。
そうして、ユリウスはようやく事実を誤認していたことを知った。
「〇〇、おまえは猫じゃない……ホワイトタイガーだ」
猫よりやや丸みを帯びた耳。太めの白い尻尾に薄い黒の縞模様。
ホワイトタイガー、ネコ科の肉食獣。なるほど、どうりで猫に似ているわけである。
結論。どうやら連続で同じ動物にはならないらしい。まあ、猫と虎なら間違えるのも無理はない。
ユリウスの両手を掴み返した〇〇は、青い虹彩の目を細めてにやりと笑った。ふうん、白虎かー。
「なにそれかっこいい」
「喜ぶな、馬鹿者!」
椅子ごと押し倒されたユリウスは、床で強かに後頭部を打ちつけながらも、精一杯の突っ込みを入れたのだった。
次の日。耳と尻尾は消えたが、昨日の醜態が記憶から消えてなくなるはずもなく。
アニマル化の影響だったとはいえ、とんでもない行動をしてしまった。
平謝りに謝るしかなかったが、相手が私でよかったな、とユリウスは若干赤い顔で謝罪を受け入れてくれた。
ユリウスには申し訳ないが、被害者が彼一人でよかったと、密かに思う〇〇だった。
end。→あとがき