これは萌えですか、いいえ違います。そのさん
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二度あることは三度あってもおかしくはないが、全力で丁重にお断りしたい。
暴力に訴えて拒否できるというのなら、良心はちっとも痛まないので、全力で挑みたい。
嫌な予感はしていた。これまでの経験から、こうなるかもしれないとは薄々感じていた。
しかし、憶測で仕事をキャンセルすることは気が咎めて、内心祈りながら遊園地にやってきた。
(で、……こうなるわけか)
悪い期待は裏切られることなく、〇〇は哀愁を漂わせてベンチに座っていた。
感情を反映するように、頭上に生えた短い耳がへにゃりと俯く。まあ、もともと垂れ気味の耳なのだが。
ハートの城でウサギの耳が生え、帽子屋屋敷では犬の耳と尻尾。新たな領地を訪ねるたび、余計なオプションがつく仕組みなのか。
遊園地に来た〇〇の頭には、猫の耳が生えていた。何故かスコティッシュフォールドを思わせるあれであることは確認済みである。
またしても尻尾までついているが、これで二度目だ。対処は比較的スムーズだった。
ゴーランドに頼んで急遽女物の服を用意してもらったため、現在尻尾はスカートからその存在を覗かせている。
「うわー…すげー…」
「……ボリス。そろそろ聞き飽きたんだけど」
〇〇は隣に座るチェシャ猫に呆れを向けた。先ほどからずっと同じ感嘆の繰り返しだ。
ベンチに置いた〇〇の手に手を重ね、ぴたりと寄り添うボリス。熱い視線を受け続けるのは背中が痒くなる。
いい加減やめてくれないだろうかと思っているが、嬉しそうに笑いかけられると困ってしまう。
「話には聞いてたけど、まさか猫になったあんたを見られるとは思わなかったなー」
「……出所は双子か」
「あいつら、可愛い〇〇と遊んだって得意げに自慢してくるんだぜ?」
「あたしで遊んだって感じだったけどな…」
「羨ましすぎる話を聞くだけなんて、なんの拷問だよって思ったよ」
ボリスは不満げに唇を尖らせたが、それもすぐに笑みの形に戻った。
「でも、これでおあいこだな。むしろ俺のほうが絶対に自慢できるね。だって、猫になった〇〇は最高に可愛いから――」
擦り寄るボリスを好きにさせていると、びくんと反射的に肩が震えた。思わず振り向いてしまう。
チェシャ猫の尻尾が〇〇の尻尾に器用に絡められ、慣れない刺激を生み出しているのだ。
人間の手に触られるのとはまた異なる、尻尾同士の触れ合いに、〇〇は横に身体を逃がそうとした。
「そ、れ。やめてくれない?」
「それってどれ?これのこと?」
「っ…それだよ、尻尾のそれ。なんか変な感じがする」
ボリスは企み顔でにっと笑って、徐々に体重をかけてきた。
いつもの癖でつい足を開き気味に座っていたせいで、隙だらけの〇〇の太股にするりと手が置かれる。
「いいね、あんたの嫌がる顔。猫耳効果ですごくそそられる…」
最悪な効果である。〇〇の顔がさらに嫌そうに引き攣った。
自分にかかる重みを支えきれず、ずるずる身体が傾いていく。
頬をうっすら染めて寄りかかってくる猫は、なんだか危険な匂いがする。野生の勘を発揮するまでもなかった。
「〇〇……っ」
「ちょっと、ボリスっ、正気に戻って…!」
あわやベンチに押し倒されるかというピンチに、ひょいとチェシャ猫の首根っこを掴む人間がいた。
遊園地のオーナー、ゴーランドである。彼は〇〇からボリスを引き剥がし、じろりと睨んだ。
「こんなところで盛ってんじゃねえよ、この発情猫が」
「……このタイミングで割り込むとか。空気読むって言葉知らないの?」
即座にゴーランドの手から脱したボリスは、ベンチの傍に着地すると肩を竦めてみせた。
ゴーランドは「空気は吸うもんなんだよ」と反論すると、〇〇に手を差し伸べた。
「〇〇、大丈夫か?」
「ありがと、ゴーランド…。あ、もしかしてもう仕事の時間だった?」
余所者の異様な状態を見かねたゴーランドは、就業開始時間を遅らせてくれたのだ。
彼に甘えてベンチで精神を落ち着かせていたが、ゆっくりしすぎてしまったかもしれない。
時間を気にして辺りを見渡せば、ゴーランドは苦笑して首を左右に振った。
「いや、時間はまだだ。俺としちゃあ今日の仕事はなしでも構わないんだがな…」
「耳と尻尾が生えたくらいで甘やかしちゃ駄目だよ、オーナー」
気遣いはありがたいが、いい大人がズル休みをするわけにはいかない。
余所者に獣耳が生えるなど、本来ならば大事だ。しかし、三度目ともなれば吹っ切れるまでの時間も早くなる。
開き直ったというべきか、羞恥心も薄れてきた。たとえ顔見知りが見れば、アニマルなコスプレかと疑われそうな姿だとしても。
ゴーランドは立ち上がった〇〇の全身を改めて眺めた。無遠慮というわけでもないが、好奇心が勝ったらしい。
「あんた、案外猫耳が似合うじゃねえか。首輪でもつけたら、さらによさそうだな」
「……首輪なら、とっくにハートの城で経験した」
「なにっ!?じゃあ、うちでもちょっとつけてみるか?ぜひ俺にも見せてくれ!」
「客寄せに使う気なら、おすすめしないけど」
見世物にしても価値はないと思う。〇〇が真顔で小首を傾げると、ボリスが横合いから抱きついてきた。
甘えるように首筋に顔を擦りつけられるたび、彼の首輪から伸びる鎖がじゃらじゃらと音を立てる。
「首輪なら俺のを貸してやるよ。ていうか、いっそのこと俺の首輪と繋がない?」
「ごめん。言葉の意味を理解できない」
猫と似非猫をくっつけてどうするつもりだ。確実に行動を制限されるだろうし、アリスでないのなら誰の得にもならない。
「おい、ボリス。首輪のついた〇〇は完璧な猫だぞ?居候の猫が猫を飼育しようなんざ笑えるな」
「おっさんが〇〇みたいな可愛い猫を飼おうなんて、それこそ犯罪だろ。そんなこともわかんないわけ?」
「おっさん言うな、俺はまだ若い!」
不毛な言葉の応酬を始めた二人の役持ちの傍らで、〇〇は晴れ渡った青空を見上げた。
(あー……鳥になりたいなー……)
ゆらり。〇〇の後ろで、あるはずのないものが気ままに揺れた。
とりあえず〇〇が考えなければならないことは、如何にしてこの尻尾を極力上向かせないようにするかである。
万が一の対策として着用していた、いつもより股上の浅いショーツが、丸見えになるなどという放送事故が起こらないように。
end。→あとがき
暴力に訴えて拒否できるというのなら、良心はちっとも痛まないので、全力で挑みたい。
嫌な予感はしていた。これまでの経験から、こうなるかもしれないとは薄々感じていた。
しかし、憶測で仕事をキャンセルすることは気が咎めて、内心祈りながら遊園地にやってきた。
(で、……こうなるわけか)
悪い期待は裏切られることなく、〇〇は哀愁を漂わせてベンチに座っていた。
感情を反映するように、頭上に生えた短い耳がへにゃりと俯く。まあ、もともと垂れ気味の耳なのだが。
ハートの城でウサギの耳が生え、帽子屋屋敷では犬の耳と尻尾。新たな領地を訪ねるたび、余計なオプションがつく仕組みなのか。
遊園地に来た〇〇の頭には、猫の耳が生えていた。何故かスコティッシュフォールドを思わせるあれであることは確認済みである。
またしても尻尾までついているが、これで二度目だ。対処は比較的スムーズだった。
ゴーランドに頼んで急遽女物の服を用意してもらったため、現在尻尾はスカートからその存在を覗かせている。
「うわー…すげー…」
「……ボリス。そろそろ聞き飽きたんだけど」
〇〇は隣に座るチェシャ猫に呆れを向けた。先ほどからずっと同じ感嘆の繰り返しだ。
ベンチに置いた〇〇の手に手を重ね、ぴたりと寄り添うボリス。熱い視線を受け続けるのは背中が痒くなる。
いい加減やめてくれないだろうかと思っているが、嬉しそうに笑いかけられると困ってしまう。
「話には聞いてたけど、まさか猫になったあんたを見られるとは思わなかったなー」
「……出所は双子か」
「あいつら、可愛い〇〇と遊んだって得意げに自慢してくるんだぜ?」
「あたしで遊んだって感じだったけどな…」
「羨ましすぎる話を聞くだけなんて、なんの拷問だよって思ったよ」
ボリスは不満げに唇を尖らせたが、それもすぐに笑みの形に戻った。
「でも、これでおあいこだな。むしろ俺のほうが絶対に自慢できるね。だって、猫になった〇〇は最高に可愛いから――」
擦り寄るボリスを好きにさせていると、びくんと反射的に肩が震えた。思わず振り向いてしまう。
チェシャ猫の尻尾が〇〇の尻尾に器用に絡められ、慣れない刺激を生み出しているのだ。
人間の手に触られるのとはまた異なる、尻尾同士の触れ合いに、〇〇は横に身体を逃がそうとした。
「そ、れ。やめてくれない?」
「それってどれ?これのこと?」
「っ…それだよ、尻尾のそれ。なんか変な感じがする」
ボリスは企み顔でにっと笑って、徐々に体重をかけてきた。
いつもの癖でつい足を開き気味に座っていたせいで、隙だらけの〇〇の太股にするりと手が置かれる。
「いいね、あんたの嫌がる顔。猫耳効果ですごくそそられる…」
最悪な効果である。〇〇の顔がさらに嫌そうに引き攣った。
自分にかかる重みを支えきれず、ずるずる身体が傾いていく。
頬をうっすら染めて寄りかかってくる猫は、なんだか危険な匂いがする。野生の勘を発揮するまでもなかった。
「〇〇……っ」
「ちょっと、ボリスっ、正気に戻って…!」
あわやベンチに押し倒されるかというピンチに、ひょいとチェシャ猫の首根っこを掴む人間がいた。
遊園地のオーナー、ゴーランドである。彼は〇〇からボリスを引き剥がし、じろりと睨んだ。
「こんなところで盛ってんじゃねえよ、この発情猫が」
「……このタイミングで割り込むとか。空気読むって言葉知らないの?」
即座にゴーランドの手から脱したボリスは、ベンチの傍に着地すると肩を竦めてみせた。
ゴーランドは「空気は吸うもんなんだよ」と反論すると、〇〇に手を差し伸べた。
「〇〇、大丈夫か?」
「ありがと、ゴーランド…。あ、もしかしてもう仕事の時間だった?」
余所者の異様な状態を見かねたゴーランドは、就業開始時間を遅らせてくれたのだ。
彼に甘えてベンチで精神を落ち着かせていたが、ゆっくりしすぎてしまったかもしれない。
時間を気にして辺りを見渡せば、ゴーランドは苦笑して首を左右に振った。
「いや、時間はまだだ。俺としちゃあ今日の仕事はなしでも構わないんだがな…」
「耳と尻尾が生えたくらいで甘やかしちゃ駄目だよ、オーナー」
気遣いはありがたいが、いい大人がズル休みをするわけにはいかない。
余所者に獣耳が生えるなど、本来ならば大事だ。しかし、三度目ともなれば吹っ切れるまでの時間も早くなる。
開き直ったというべきか、羞恥心も薄れてきた。たとえ顔見知りが見れば、アニマルなコスプレかと疑われそうな姿だとしても。
ゴーランドは立ち上がった〇〇の全身を改めて眺めた。無遠慮というわけでもないが、好奇心が勝ったらしい。
「あんた、案外猫耳が似合うじゃねえか。首輪でもつけたら、さらによさそうだな」
「……首輪なら、とっくにハートの城で経験した」
「なにっ!?じゃあ、うちでもちょっとつけてみるか?ぜひ俺にも見せてくれ!」
「客寄せに使う気なら、おすすめしないけど」
見世物にしても価値はないと思う。〇〇が真顔で小首を傾げると、ボリスが横合いから抱きついてきた。
甘えるように首筋に顔を擦りつけられるたび、彼の首輪から伸びる鎖がじゃらじゃらと音を立てる。
「首輪なら俺のを貸してやるよ。ていうか、いっそのこと俺の首輪と繋がない?」
「ごめん。言葉の意味を理解できない」
猫と似非猫をくっつけてどうするつもりだ。確実に行動を制限されるだろうし、アリスでないのなら誰の得にもならない。
「おい、ボリス。首輪のついた〇〇は完璧な猫だぞ?居候の猫が猫を飼育しようなんざ笑えるな」
「おっさんが〇〇みたいな可愛い猫を飼おうなんて、それこそ犯罪だろ。そんなこともわかんないわけ?」
「おっさん言うな、俺はまだ若い!」
不毛な言葉の応酬を始めた二人の役持ちの傍らで、〇〇は晴れ渡った青空を見上げた。
(あー……鳥になりたいなー……)
ゆらり。〇〇の後ろで、あるはずのないものが気ままに揺れた。
とりあえず〇〇が考えなければならないことは、如何にしてこの尻尾を極力上向かせないようにするかである。
万が一の対策として着用していた、いつもより股上の浅いショーツが、丸見えになるなどという放送事故が起こらないように。
end。→あとがき