これは萌えですか、いいえ違います。そのに
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「おい、てめえら!またさぼって遊んでんじゃね……え?」
「なにを騒いでいるんだ、お前達……は?」
いつの間に近くまで来ていたのか、新たな役持ちの登場に〇〇の顔色は青くなった。
わあっ、と一応子供らしく目を手で覆う双子(指の隙間から覗いている)に対して、帽子屋と三月ウサギは目を逸らすそぶりもない。
〇〇は下げたズボンを直すに直せず、不本意なストリップショーを強いられていた。
(その視線はなに、その目はどういう意味なわけ?あたしだってしたくてしてるんじゃない…!)
仮にも年頃の女が半ば尻を出すという際どい格好をしているのには、当然のっぴきならない事情がある。
見ればわかる。尻尾だ。〇〇の腰の下方から、犬の尻尾が伸びていた。
前回のウサギ騒動のときにはなかったものが、それなりに質量のある物体として生えているのだ。
耳と違って自分の目で確認できるそれは、見覚えのある、黒と白色でくるっとした形をしている。
(……柴犬、か?)
柴犬。日本古来の犬種で、飼い主に忠実。と、種類を特定できたところでなんの意味もなかった。
その場にいる者がそれぞれ動かないでいる中、一番に行動に出たのは意外にも三月ウサギだった。
彼は〇〇に飛びつくと、肩から紫のストール(マフラー?)を外して〇〇の腰元にぐるぐる巻きつけた。
「〇〇はっ、あんたは見せ物じゃねえぞ…!」
エリオットは〇〇を叱るように怒鳴った。しかし頬が赤く染まっているのでなんとも言えない。
だから好きで脱いだわけじゃない、そう思いつつも〇〇は黙って厚意を受け入れた。
エリオットをゲームのプレイヤーにたとえると、攻略対象である〇〇の好感度がアップした。ピロリン。そんな感じである。
(まともな気遣いがこんなにも身に染みるなんてな…)
〇〇はエリオットの顔を見上げると、優しく微笑んで礼を言った。
「ありがと、エリオット」
「べっ、別にこれくらいのこと、あんたにならいつでもやってやるぜ!」
いや、頻繁に露出をフォローされるような目には遭いたくない。笑顔の裏できっぱり思う。
エリオットからの借り物をしっかり巻き直していると、傍に立った帽子屋が興味深そうに〇〇をしげしげと眺めた。
「君がそんな趣味を持っていたとは知らなかったよ…。安心してくれ、私は理解のある男だ」
趣味じゃない。不安しかない。〇〇は無言でブラッドに冷めた視線を返した。
今この瞬間にもこの場を立ち去りたかったが、こんな格好では歩きにくいことこのうえない。
しかも今日は仕事をするためにやってきたのだ。賃金を受け取る側の人間として、不誠実な対応は取りたくなかった。
〇〇はしかたなく、先日ハートの城で起こった出来事を話した。
体調にはなんの支障もないため、使用人の服を貸してもらえれば、いつもどおり働けると説明する。
スカート着用はあまり気乗りしないが、尻尾のことを考えればそれしかないように思えた。
「で、二人はこれから出かけるところなんじゃないの?」
「ああ、仕事でね…」
「部下を先に行かせてんだよな…。俺らもそろそろ行かねえと…」
顎に手を当ててなにやら思案するブラッドと、彼と〇〇に視線を行ったり来たりさせるエリオット。
〇〇は幾度となく感じた覚えのある空気を察知した。そしてそのことを表情に出さずに、頷いた。
「それなら早く出かけたほうがいい。あたしも服を借りて、ちゃんとやっとくからさ」
気をつけていってらっしゃい。彼らを気持ちよく送り出すべく、笑顔で片手を上げた。
が、お約束の流れを回避することはできなかった。〇〇の手を掴んだブラッドは、あっさり予定を変更した。
「今回の仕事はキャンセルだ。その身に起こった異変をぜひとも調査しなくては…そうだろう、お嬢さん?」
「いやいや、先に行って待機してる部下はどうするんだよ」
「もちろん呼び戻すさ。必要がなくなったからな。……エリオット、」
「ああわかった、すぐに誰か使いにやらせるっ!」
アナタが呼び戻しに行くんじゃないのか。ブラッドは特に指示を変えなかった、というか、その隙もなかった。
俄然やる気を出した三月ウサギは、屋敷に駆けていった。あの様子では飛んで帰ってくるだろう。
短くはない付き合いの中で学んだ〇〇は、こうなることを予想できていただけに、重い溜め息をついた。
(調査ってなんだ。単にあたしで遊びたいだけなんじゃないか…)
先日のウサ耳騒動はまだよかった、かもしれない。よくはないが、あの場にはアリスがいた。
しかしここにはなんのメリットもない。哀れな余所者をどうしてやろうかと、楽しげに企む役持ちがいるだけだ。
双子は後で〇〇を借りる約束を勝手に取りつけ、それを勝手に承諾したブラッドは、〇〇にその笑みを向けた。
「さあ行こうか、〇〇。その耳と尻尾がどうなっているのか、じっくりと調べてあげよう」
がっしり握られた手首は振り切れそうにない。ああ、おまけにエリオットがもう戻ってきた。
大の男に挟まれた〇〇は、完全に退路を断たれた。ご丁寧にも屋敷まで連行される。
「なあ〇〇っ、その耳と尻尾ってことは、今は犬なんだろ?」
「うん、まあ…」
「そうだぞ、エリオット。今のお嬢さんは私の可愛い犬だ」
「ブラッドの犬ってことは、つまり俺と同じってことだよなっ!?」
無邪気に喜ぶエリオットにもう一方の手を取られ、気分はさながら捕獲された宇宙人。
表情を作るのも面倒になってきた〇〇は、己を待ち受ける迷惑なイベントを生気のない眼差しで迎えた。
せめて自分の足で歩かせてほしい。腰のあれがずれてきた。あ、尻が出そう。
end。→あとがき
「なにを騒いでいるんだ、お前達……は?」
いつの間に近くまで来ていたのか、新たな役持ちの登場に〇〇の顔色は青くなった。
わあっ、と一応子供らしく目を手で覆う双子(指の隙間から覗いている)に対して、帽子屋と三月ウサギは目を逸らすそぶりもない。
〇〇は下げたズボンを直すに直せず、不本意なストリップショーを強いられていた。
(その視線はなに、その目はどういう意味なわけ?あたしだってしたくてしてるんじゃない…!)
仮にも年頃の女が半ば尻を出すという際どい格好をしているのには、当然のっぴきならない事情がある。
見ればわかる。尻尾だ。〇〇の腰の下方から、犬の尻尾が伸びていた。
前回のウサギ騒動のときにはなかったものが、それなりに質量のある物体として生えているのだ。
耳と違って自分の目で確認できるそれは、見覚えのある、黒と白色でくるっとした形をしている。
(……柴犬、か?)
柴犬。日本古来の犬種で、飼い主に忠実。と、種類を特定できたところでなんの意味もなかった。
その場にいる者がそれぞれ動かないでいる中、一番に行動に出たのは意外にも三月ウサギだった。
彼は〇〇に飛びつくと、肩から紫のストール(マフラー?)を外して〇〇の腰元にぐるぐる巻きつけた。
「〇〇はっ、あんたは見せ物じゃねえぞ…!」
エリオットは〇〇を叱るように怒鳴った。しかし頬が赤く染まっているのでなんとも言えない。
だから好きで脱いだわけじゃない、そう思いつつも〇〇は黙って厚意を受け入れた。
エリオットをゲームのプレイヤーにたとえると、攻略対象である〇〇の好感度がアップした。ピロリン。そんな感じである。
(まともな気遣いがこんなにも身に染みるなんてな…)
〇〇はエリオットの顔を見上げると、優しく微笑んで礼を言った。
「ありがと、エリオット」
「べっ、別にこれくらいのこと、あんたにならいつでもやってやるぜ!」
いや、頻繁に露出をフォローされるような目には遭いたくない。笑顔の裏できっぱり思う。
エリオットからの借り物をしっかり巻き直していると、傍に立った帽子屋が興味深そうに〇〇をしげしげと眺めた。
「君がそんな趣味を持っていたとは知らなかったよ…。安心してくれ、私は理解のある男だ」
趣味じゃない。不安しかない。〇〇は無言でブラッドに冷めた視線を返した。
今この瞬間にもこの場を立ち去りたかったが、こんな格好では歩きにくいことこのうえない。
しかも今日は仕事をするためにやってきたのだ。賃金を受け取る側の人間として、不誠実な対応は取りたくなかった。
〇〇はしかたなく、先日ハートの城で起こった出来事を話した。
体調にはなんの支障もないため、使用人の服を貸してもらえれば、いつもどおり働けると説明する。
スカート着用はあまり気乗りしないが、尻尾のことを考えればそれしかないように思えた。
「で、二人はこれから出かけるところなんじゃないの?」
「ああ、仕事でね…」
「部下を先に行かせてんだよな…。俺らもそろそろ行かねえと…」
顎に手を当ててなにやら思案するブラッドと、彼と〇〇に視線を行ったり来たりさせるエリオット。
〇〇は幾度となく感じた覚えのある空気を察知した。そしてそのことを表情に出さずに、頷いた。
「それなら早く出かけたほうがいい。あたしも服を借りて、ちゃんとやっとくからさ」
気をつけていってらっしゃい。彼らを気持ちよく送り出すべく、笑顔で片手を上げた。
が、お約束の流れを回避することはできなかった。〇〇の手を掴んだブラッドは、あっさり予定を変更した。
「今回の仕事はキャンセルだ。その身に起こった異変をぜひとも調査しなくては…そうだろう、お嬢さん?」
「いやいや、先に行って待機してる部下はどうするんだよ」
「もちろん呼び戻すさ。必要がなくなったからな。……エリオット、」
「ああわかった、すぐに誰か使いにやらせるっ!」
アナタが呼び戻しに行くんじゃないのか。ブラッドは特に指示を変えなかった、というか、その隙もなかった。
俄然やる気を出した三月ウサギは、屋敷に駆けていった。あの様子では飛んで帰ってくるだろう。
短くはない付き合いの中で学んだ〇〇は、こうなることを予想できていただけに、重い溜め息をついた。
(調査ってなんだ。単にあたしで遊びたいだけなんじゃないか…)
先日のウサ耳騒動はまだよかった、かもしれない。よくはないが、あの場にはアリスがいた。
しかしここにはなんのメリットもない。哀れな余所者をどうしてやろうかと、楽しげに企む役持ちがいるだけだ。
双子は後で〇〇を借りる約束を勝手に取りつけ、それを勝手に承諾したブラッドは、〇〇にその笑みを向けた。
「さあ行こうか、〇〇。その耳と尻尾がどうなっているのか、じっくりと調べてあげよう」
がっしり握られた手首は振り切れそうにない。ああ、おまけにエリオットがもう戻ってきた。
大の男に挟まれた〇〇は、完全に退路を断たれた。ご丁寧にも屋敷まで連行される。
「なあ〇〇っ、その耳と尻尾ってことは、今は犬なんだろ?」
「うん、まあ…」
「そうだぞ、エリオット。今のお嬢さんは私の可愛い犬だ」
「ブラッドの犬ってことは、つまり俺と同じってことだよなっ!?」
無邪気に喜ぶエリオットにもう一方の手を取られ、気分はさながら捕獲された宇宙人。
表情を作るのも面倒になってきた〇〇は、己を待ち受ける迷惑なイベントを生気のない眼差しで迎えた。
せめて自分の足で歩かせてほしい。腰のあれがずれてきた。あ、尻が出そう。
end。→あとがき