心臓の純粋な殺し方。
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あんたに触れたから。それが彼らの時計を止めた理由。死んでもあんたの意識に留まろうとするなんて、許せない。それが更なる残虐行為の理由だった。なんて単純明快なんだろう。
常軌を逸した行動は、言ってしまえばこの世界ではそう珍しくないことだ。
だが、エリオットのその行動を誘発する要因がアリス(そうでなければ可能性があるのはブラッド)でないのは明らかに異常だった。
根元にあるエリオットの感情は、もはや〇〇が目を逸らすことを許されないほど深く狂っていた。
血臭に満ちた空気がほとんど感じられなくなると、エリオットは〇〇の足を止めさせた。
彼の部屋まではまだ距離のある廊下で、唐突に立ち止まる。
手を繋がれているために彼に従うしかない〇〇は、ぴんと張り詰めたウサギの耳を目に入れ、ジリと湧く嫌な予感に背筋を震わせた。
視界を占める大きな背中は微動だにせず、不安をさらに煽った。
「エリオット、なに…?」
「――駄目だ。やっぱ耐えられねえ…」
かろうじて確認できたのは、くるりと振り向いたエリオットの残像。
次にわかったのは、唇を塞ぐ熱と、後頭部に感じた不自然な感触だった。次いで、背中が硬いところに勢いよく押しつけられる。
「ぅ…ッ」
「ん…〇〇…」
性急に口腔に侵入するぬめりに血の気が引く。強い違和感に、毎回のように拒絶したくて堪らなくなる。
いろいろな意味で焦るが、第一に問題なのは場所だった。ここはいつものエリオットの自室ではない。
壁で頭を打ち付けないよう気を遣えるのに、何故最重要の配慮ができないのか。
後頭部にある掌は優しさを一転させ、彼の欲望に〇〇を倣わせようとする。呑まれてなるかと、〇〇は吸いつく唇をもぎ離した。
「っ…落ち着け、エリオット。ここがどこか考えろ。もし誰か来たら――」
「俺、そんなに難しいこと言ってるか…?」
〇〇の焦りと困惑を遮り、エリオットは言葉を零した。ハッとして見上げた先には、本当にわからないという表情の三月ウサギの姿。
だが、切なげに揺れる瞳の中で研ぎ澄まされた歪みが見え隠れする。
「なにも、誰とも喋るなとは言ってねえだろ…?そりゃ確かに、あんたが他の誰かと仲良くしてんのは見たくねえけど…でも、なんとか我慢してるじゃねえか」
「……まあ、そう…かな」
そう言われると、我慢強いとは言えないエリオットにしてはなかなかの忍耐かもしれないと思える。
たとえ数時間帯と経たずに、我慢を示した相手に彼の銃が咆哮を上げるとしても、だ。
その場でぶっ放さないだけでも、成長したと言える…だろうか。
「あんたの自由全部を奪ったりはしない。…ただ、他の誰にも触らせないでくれ。他の奴を受け入れてるあんたを見るなんて、気が狂っちまいそうだ…」
頬を擦り寄せ、低く呻く。〇〇は目の前で揺れる耳を見つめ、なんとも言えない思いにとらわれる。
アリスではなくこの余所者に精一杯の愛情を向けるオレンジ色のウサギに、渦巻くどうしてこうなったのかという感情。
噛み合わない歯車は、悲鳴を上げながらぎしりぎしりと回って止まらない。
「離れるなよ、〇〇。あんたの心がどっかに行っちまったら……俺、自分を止められる自信なんかねえから……」
「そんなこと…」
心の距離も、身体の距離も。離れることを拒むエリオット。
「ああ、でもあんたの意思がどうのっていうより、先に俺がいなくなっちまうかもしれねえよな…そのときはどうすりゃいい…?」
まずありえないと思っている抗争の中で命を落とす可能性をも視野に入れ、エリオットは本気で悩んでいた。
確かにどちらかと言うなら、確率的に〇〇よりも彼のほうが死に近いのだろう。余所者は抗争とは無関係なのだから。
あんたもそのことが気掛かりなんだよな、なんて。
そんな独りよがりなエリオットを突き放せない、これが愛情だとはとても考えられないけれど。
「ぃ…っ」
「――じゃあ、約束してやるよ」
エリオットの大きな手が、〇〇の胸を覆う。指先の圧迫は、時計の下に隠された鼓動を掴むように強く、強く。
「いつか俺が死ぬとき、その前にあんたの“これ”を止めていく」
ブラッドにも頼まない。どんな手を使ってでも。あんたは、俺が終わらせたい。
「――……なあ、〇〇。あんたの全部を独占したくて苦しいんだ……助けてくれよ……」
純粋なる狂気で、エリオットはすでにあたしを占有しているのに。
(もう、あたしは、傍観しているだけの人間じゃいられなくなったんだ)
狂気にまみれた想いをぶつけられながら、〇〇はきつく目を閉じた。
なにも見たくないなんて、子供じみた束の間の逃避行為でさえ許されない。
目を開けろと催促する舌が目蓋の上から眼球をなぞる。濡れた場所がすっと冷えて、心臓が縮み上がる気さえした。
これは夢だ。楽しさはすべて奪われた悪夢。その中で今はただ、一日でも早い現実への帰還を夢見ている。
いつかは必ず元の世界に帰るときがくると解っている。
ゲームの終わりはこの胸の時計の停止。手段はふたつ。“時”が来るか、自分以外の誰かに殺されるかだ。
もし、それが人為であるのなら――それはきっと、エリオットの手によるもの。
帰還を切望する〇〇は嘆くのだ。どうか、“時”があたしを殺してくれますように。
そうでなければ―――目を醒ますことすらも、エリオットの狂った愛の中でだなんて。
end。→あとがき
常軌を逸した行動は、言ってしまえばこの世界ではそう珍しくないことだ。
だが、エリオットのその行動を誘発する要因がアリス(そうでなければ可能性があるのはブラッド)でないのは明らかに異常だった。
根元にあるエリオットの感情は、もはや〇〇が目を逸らすことを許されないほど深く狂っていた。
血臭に満ちた空気がほとんど感じられなくなると、エリオットは〇〇の足を止めさせた。
彼の部屋まではまだ距離のある廊下で、唐突に立ち止まる。
手を繋がれているために彼に従うしかない〇〇は、ぴんと張り詰めたウサギの耳を目に入れ、ジリと湧く嫌な予感に背筋を震わせた。
視界を占める大きな背中は微動だにせず、不安をさらに煽った。
「エリオット、なに…?」
「――駄目だ。やっぱ耐えられねえ…」
かろうじて確認できたのは、くるりと振り向いたエリオットの残像。
次にわかったのは、唇を塞ぐ熱と、後頭部に感じた不自然な感触だった。次いで、背中が硬いところに勢いよく押しつけられる。
「ぅ…ッ」
「ん…〇〇…」
性急に口腔に侵入するぬめりに血の気が引く。強い違和感に、毎回のように拒絶したくて堪らなくなる。
いろいろな意味で焦るが、第一に問題なのは場所だった。ここはいつものエリオットの自室ではない。
壁で頭を打ち付けないよう気を遣えるのに、何故最重要の配慮ができないのか。
後頭部にある掌は優しさを一転させ、彼の欲望に〇〇を倣わせようとする。呑まれてなるかと、〇〇は吸いつく唇をもぎ離した。
「っ…落ち着け、エリオット。ここがどこか考えろ。もし誰か来たら――」
「俺、そんなに難しいこと言ってるか…?」
〇〇の焦りと困惑を遮り、エリオットは言葉を零した。ハッとして見上げた先には、本当にわからないという表情の三月ウサギの姿。
だが、切なげに揺れる瞳の中で研ぎ澄まされた歪みが見え隠れする。
「なにも、誰とも喋るなとは言ってねえだろ…?そりゃ確かに、あんたが他の誰かと仲良くしてんのは見たくねえけど…でも、なんとか我慢してるじゃねえか」
「……まあ、そう…かな」
そう言われると、我慢強いとは言えないエリオットにしてはなかなかの忍耐かもしれないと思える。
たとえ数時間帯と経たずに、我慢を示した相手に彼の銃が咆哮を上げるとしても、だ。
その場でぶっ放さないだけでも、成長したと言える…だろうか。
「あんたの自由全部を奪ったりはしない。…ただ、他の誰にも触らせないでくれ。他の奴を受け入れてるあんたを見るなんて、気が狂っちまいそうだ…」
頬を擦り寄せ、低く呻く。〇〇は目の前で揺れる耳を見つめ、なんとも言えない思いにとらわれる。
アリスではなくこの余所者に精一杯の愛情を向けるオレンジ色のウサギに、渦巻くどうしてこうなったのかという感情。
噛み合わない歯車は、悲鳴を上げながらぎしりぎしりと回って止まらない。
「離れるなよ、〇〇。あんたの心がどっかに行っちまったら……俺、自分を止められる自信なんかねえから……」
「そんなこと…」
心の距離も、身体の距離も。離れることを拒むエリオット。
「ああ、でもあんたの意思がどうのっていうより、先に俺がいなくなっちまうかもしれねえよな…そのときはどうすりゃいい…?」
まずありえないと思っている抗争の中で命を落とす可能性をも視野に入れ、エリオットは本気で悩んでいた。
確かにどちらかと言うなら、確率的に〇〇よりも彼のほうが死に近いのだろう。余所者は抗争とは無関係なのだから。
あんたもそのことが気掛かりなんだよな、なんて。
そんな独りよがりなエリオットを突き放せない、これが愛情だとはとても考えられないけれど。
「ぃ…っ」
「――じゃあ、約束してやるよ」
エリオットの大きな手が、〇〇の胸を覆う。指先の圧迫は、時計の下に隠された鼓動を掴むように強く、強く。
「いつか俺が死ぬとき、その前にあんたの“これ”を止めていく」
ブラッドにも頼まない。どんな手を使ってでも。あんたは、俺が終わらせたい。
「――……なあ、〇〇。あんたの全部を独占したくて苦しいんだ……助けてくれよ……」
純粋なる狂気で、エリオットはすでにあたしを占有しているのに。
(もう、あたしは、傍観しているだけの人間じゃいられなくなったんだ)
狂気にまみれた想いをぶつけられながら、〇〇はきつく目を閉じた。
なにも見たくないなんて、子供じみた束の間の逃避行為でさえ許されない。
目を開けろと催促する舌が目蓋の上から眼球をなぞる。濡れた場所がすっと冷えて、心臓が縮み上がる気さえした。
これは夢だ。楽しさはすべて奪われた悪夢。その中で今はただ、一日でも早い現実への帰還を夢見ている。
いつかは必ず元の世界に帰るときがくると解っている。
ゲームの終わりはこの胸の時計の停止。手段はふたつ。“時”が来るか、自分以外の誰かに殺されるかだ。
もし、それが人為であるのなら――それはきっと、エリオットの手によるもの。
帰還を切望する〇〇は嘆くのだ。どうか、“時”があたしを殺してくれますように。
そうでなければ―――目を醒ますことすらも、エリオットの狂った愛の中でだなんて。
end。→あとがき