夢見る恋人よ、愛を孕め。
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うつらうつらとしていたのは、ほんの僅かな時間だったようだ。
節々に痛覚の訴えを感じながら寝返りを打てば、自分の身体を受け止める感触はベッドの弾力よりも硬い。
ここは野外に設営されたテントの中だ。もちろん〇〇自身が望んでアウトドアを楽しんでいるわけではない。
もう少し歩けばちゃんとした屋根の下で過ごせるというのに、こんな森の中でキャンプをしようとする人間は限られている。
(そうだった……あたし、)
つかの間でも忘れていたかった現実が、鈍く頭を痛ませた。
そのとき、がさりと音を立てて誰かがテント内に入ってきた。〇〇は横たえていた身体をびくっと震わせる。
物音や人の気配に対して過剰に反応するようになったのは、偏にあの鬼ごっこが原因だった。
「あれ。まだ眠れてなかったんだ?」
「……エース」
どんな感情を込めてその名前を呼べばいいのか、〇〇はわからなくなっていた。
ハートの騎士は大剣を腰から下ろし、纏っていた赤いコートを脱いで、すっかり寛ぐ支度をしている。
彼が動くたびに、不快な臭いが鼻腔を刺激する。もはや嗅ぎ慣れたといってもいいそれに、上半身を起こした〇〇は頭を押さえた。
血生臭い。〇〇の傍に跪いた男の頬には、まだ乾いていない赤い液体が付着していた。
「顔色が悪いな。頭が痛いのか?すごく具合が悪そうだ」
「…アナタが近づくと、余計に気分が悪くなる」
顔を伏せて抑揚のない声を出すと、エースは〇〇の頬に手を当てて視線を欲した。
肌に飛んだ血が嫌でも再び視界に入ってしまい、〇〇は眉間に皺を寄せて指摘した。
「ついてる」
「ん?」
「血が、ついてるんだって…」
きょとんとしたエースはようやく気づいたように、ああ、と微笑んだ。
見当をつけて手の甲で顔を拭うと、汚れた手袋を外して置いた。
おそらく脱いだ赤いコートにも同じ色が紛れているに違いなかった。怪我はないかと〇〇がエースの心配をすることはない。どうせ返り血だ。
「最近、以前にも増して送り込まれる刺客の数が多くてさ。あははっ、やっぱり人気者を恋人に持つと苦労が多いなあ!」
だったら手放せばいい、とは口に出せなかった。ちっとも苦労の感じられない明るい声でエースは笑うのだ。
〇〇のせいで命を狙われることが増えたと言われても、嘘だと否定することはできなかった。
自分に強いられている現状こそが、役持ち達に求められたという結果そのものなのだから。
エースは刺客を始末したときの様子を事細かに語って聞かせながら、〇〇の頬を撫でた。
指の腹が優しく摩る目元には、睡眠不足の影響が現れているのだろう。
悪夢を経て健康的な睡眠を満足にとれなくなった〇〇を、騎士はよくその腕に抱いて寝かしつけた。
といっても安らかな眠りとは程遠く、気絶に近い状態で意識を失わせるだけなのだが…。
楽しげに話すエースの爽やかな声とは裏腹に、その内容はとてつもなく凄惨だった。
おかげで〇〇の顔色はますます悪化の一途をたどり、吐き気まで催してくる始末だ。
(いっそのこと、あたしを狙ってくれたらいいのに…)
込み上げてくるものをぐっと堪えて、〇〇は叶わぬ思いを抱く。
二人でいるところを襲撃されることもあるにはあるが、彼らは明らかにエース一人を標的にしていた。
自ら飛び出して命を危険に晒そうにも、顔なしを悠々と片付ける騎士は容易に〇〇の身を守ってしまうのだ。
「あっ、そういえば食事がまだだったよな?食欲はなさそうだけど、胃になにか入れたほうがいいよ」
「食欲が失せる話をしてから言う台詞か…。あたしはいい、いらない」
「駄目だ。動くのが億劫なら、俺が食べさせてあげるから。もちろん口移しで、な?」
「……本気で吐きそ、う」
結局、〇〇の意見をさらっと無視したエースは手ずから果物を食べさせた。
生物の生々しさもなく爽やかな甘さを漂わせるものを、〇〇の肉体は精神を押しのけ喜んで摂取した。
節々に痛覚の訴えを感じながら寝返りを打てば、自分の身体を受け止める感触はベッドの弾力よりも硬い。
ここは野外に設営されたテントの中だ。もちろん〇〇自身が望んでアウトドアを楽しんでいるわけではない。
もう少し歩けばちゃんとした屋根の下で過ごせるというのに、こんな森の中でキャンプをしようとする人間は限られている。
(そうだった……あたし、)
つかの間でも忘れていたかった現実が、鈍く頭を痛ませた。
そのとき、がさりと音を立てて誰かがテント内に入ってきた。〇〇は横たえていた身体をびくっと震わせる。
物音や人の気配に対して過剰に反応するようになったのは、偏にあの鬼ごっこが原因だった。
「あれ。まだ眠れてなかったんだ?」
「……エース」
どんな感情を込めてその名前を呼べばいいのか、〇〇はわからなくなっていた。
ハートの騎士は大剣を腰から下ろし、纏っていた赤いコートを脱いで、すっかり寛ぐ支度をしている。
彼が動くたびに、不快な臭いが鼻腔を刺激する。もはや嗅ぎ慣れたといってもいいそれに、上半身を起こした〇〇は頭を押さえた。
血生臭い。〇〇の傍に跪いた男の頬には、まだ乾いていない赤い液体が付着していた。
「顔色が悪いな。頭が痛いのか?すごく具合が悪そうだ」
「…アナタが近づくと、余計に気分が悪くなる」
顔を伏せて抑揚のない声を出すと、エースは〇〇の頬に手を当てて視線を欲した。
肌に飛んだ血が嫌でも再び視界に入ってしまい、〇〇は眉間に皺を寄せて指摘した。
「ついてる」
「ん?」
「血が、ついてるんだって…」
きょとんとしたエースはようやく気づいたように、ああ、と微笑んだ。
見当をつけて手の甲で顔を拭うと、汚れた手袋を外して置いた。
おそらく脱いだ赤いコートにも同じ色が紛れているに違いなかった。怪我はないかと〇〇がエースの心配をすることはない。どうせ返り血だ。
「最近、以前にも増して送り込まれる刺客の数が多くてさ。あははっ、やっぱり人気者を恋人に持つと苦労が多いなあ!」
だったら手放せばいい、とは口に出せなかった。ちっとも苦労の感じられない明るい声でエースは笑うのだ。
〇〇のせいで命を狙われることが増えたと言われても、嘘だと否定することはできなかった。
自分に強いられている現状こそが、役持ち達に求められたという結果そのものなのだから。
エースは刺客を始末したときの様子を事細かに語って聞かせながら、〇〇の頬を撫でた。
指の腹が優しく摩る目元には、睡眠不足の影響が現れているのだろう。
悪夢を経て健康的な睡眠を満足にとれなくなった〇〇を、騎士はよくその腕に抱いて寝かしつけた。
といっても安らかな眠りとは程遠く、気絶に近い状態で意識を失わせるだけなのだが…。
楽しげに話すエースの爽やかな声とは裏腹に、その内容はとてつもなく凄惨だった。
おかげで〇〇の顔色はますます悪化の一途をたどり、吐き気まで催してくる始末だ。
(いっそのこと、あたしを狙ってくれたらいいのに…)
込み上げてくるものをぐっと堪えて、〇〇は叶わぬ思いを抱く。
二人でいるところを襲撃されることもあるにはあるが、彼らは明らかにエース一人を標的にしていた。
自ら飛び出して命を危険に晒そうにも、顔なしを悠々と片付ける騎士は容易に〇〇の身を守ってしまうのだ。
「あっ、そういえば食事がまだだったよな?食欲はなさそうだけど、胃になにか入れたほうがいいよ」
「食欲が失せる話をしてから言う台詞か…。あたしはいい、いらない」
「駄目だ。動くのが億劫なら、俺が食べさせてあげるから。もちろん口移しで、な?」
「……本気で吐きそ、う」
結局、〇〇の意見をさらっと無視したエースは手ずから果物を食べさせた。
生物の生々しさもなく爽やかな甘さを漂わせるものを、〇〇の肉体は精神を押しのけ喜んで摂取した。