行方知れずの少女は眠る。
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青いエプロンドレスの少女を横抱きにして、白ウサギは夢の空間に現れた。
予め彼らが来ることを知っていた夢魔は、ふわりと近づいて少女の顔を覗き込んだ。
少女、アリスは穏やかな眠りに深い呼吸を繰り返している。それを見て、ナイトメアの口元が密やかな笑みを刻んだ。
「君達も酷いことをするものだ。この子にとっても、あの子にとっても…ね」
事情を知る者として、深刻さに欠ける口調で言う。
面白がるような響きさえ含ませたナイトメアに、ペーター=ホワイトは眉間に皺を寄せた。
「アリスをこんなくだらないゲームに巻き込むなんて…。まったく、不本意極まりないですよ」
ペーターは腕の中へ、労りと慈しみの眼差しを落とした。
人為的に眠らされたアリス。もう一人の余所者が絶望的なゲームに参加させられることになったとは、知りもせずに。
不本意と言いながらも、彼女に薬を盛ったのはこの男だった。
「役持ちは全員参加のルールだが、本気でやるかやらないかは個人の勝手だ。適当にやってもいい。参加者が減れば勝率が上がる、それだけのことだよ」
真意を見せない白ウサギに、ナイトメアは事実を口にする。揺さぶろうとするかのように。
ペーターは不意に剣呑さを露にし、爛々とした赤の瞳を細めて睨みつけた。
「…僕に参加するなとでも?」
「誰もそんなことは言っていない。君の好きにするといい」
鋭い視線を平然と受け止めて、静謐な眼差しを返す。
「このまま誰にも邪魔されずアリスと二人きりで過ごすもよし、参戦して〇〇を手に入れるもよし。どちらを取るにしても君の自由さ」
ここにアリスを連れてやってきた時点で、ペーターの意志は決まっているといえよう。
二人は無言で視線を交わした。夢魔に少女の身体が引き渡される。
ペーターは自分ではない男の腕におさまったアリスに、そっと寂しげな目を送った。
だがすぐに、意味深な隻眼から逃れるように背中を向ける。数歩行った先で立ち止まると、振り返らずに声を放った。
「僕はあの余所者を欲しいとは思っていません。…ただ、僕以外の誰かに、あれを好きなようにさせるのが気に食わないだけだ」
愛しい少女に向けた懺悔か、誰かに対する言い訳か、あるいは自分に言い聞かせるための言葉なのか。
ナイトメアはしっかりとアリスを抱き直して、相手の言い分に頷いた。
「ゲームへ参加する理由は人それぞれだ。それも立派な理由になる」
「ものを含んだ言い方はやめてください。不愉快です」
ペーターは肩越しに少し振り向き、抑揚のない声で、
「……あなたは、どうするつもりですか」
「私かい?もちろん参加するよ。この機会を逃す手はないからね」
「アリスは…」
「隠し場所を移す。君も始めからそのつもりだろう?いつまでもこの空間の中に置くのは、さすがにフェアじゃない」
ナイトメアはふと、くつくつと笑いを漏らした。暗い愉悦が滲み出る。
「この世界に逃げ場はない。いつかは必ず追いつめられる。かわいそうに、逃げ道を失った〇〇はどうなる?」
どれだけ根気強く捜し回っても、広い世界から少女一人を見つけ出すのは至難の業。
どう考えても、四方八方から伸ばされる鬼の手に捕まるほうが先だ。
「彼女を救えるのは私だけだと思わないか?鬼に捕まりそうになったそのとき、ここに引きずり込んでやるんだ。どうだ、いい考えだろう?」
「救う?……堕とすの間違いでしょう」
白ウサギは硬質な声で言うと、夢の空間から出て行った。
おやまあ、と夢魔は笑みを深めた。どうやら敵に塩を送るように、彼の背中を押してしまったらしい。
まあいいだろう。反則だ、卑怯だと言われようが、いざとなったらこちらは〇〇を夢の中に引き込むつもりでいるのだから。
「私は夢魔だからね。夢魔は夢魔らしく、この空間を有効活用させてもらおうじゃないか」
鬼に追われることになった余所者が求める少女。その存在が、この腕の中にある。
それだけのことで、〇〇に一番近いところにいるような気がしてしまう。
――さあ、〇〇、逃げてくれ。逃げて逃げて、限界までその足を止めずに逃げ回れ。
――そして、最後には救いを求めてくれ。そうすれば、私がすぐに助けてあげるから。
誰の手も届かない、この夢の世界へと。
end。→あとがき
予め彼らが来ることを知っていた夢魔は、ふわりと近づいて少女の顔を覗き込んだ。
少女、アリスは穏やかな眠りに深い呼吸を繰り返している。それを見て、ナイトメアの口元が密やかな笑みを刻んだ。
「君達も酷いことをするものだ。この子にとっても、あの子にとっても…ね」
事情を知る者として、深刻さに欠ける口調で言う。
面白がるような響きさえ含ませたナイトメアに、ペーター=ホワイトは眉間に皺を寄せた。
「アリスをこんなくだらないゲームに巻き込むなんて…。まったく、不本意極まりないですよ」
ペーターは腕の中へ、労りと慈しみの眼差しを落とした。
人為的に眠らされたアリス。もう一人の余所者が絶望的なゲームに参加させられることになったとは、知りもせずに。
不本意と言いながらも、彼女に薬を盛ったのはこの男だった。
「役持ちは全員参加のルールだが、本気でやるかやらないかは個人の勝手だ。適当にやってもいい。参加者が減れば勝率が上がる、それだけのことだよ」
真意を見せない白ウサギに、ナイトメアは事実を口にする。揺さぶろうとするかのように。
ペーターは不意に剣呑さを露にし、爛々とした赤の瞳を細めて睨みつけた。
「…僕に参加するなとでも?」
「誰もそんなことは言っていない。君の好きにするといい」
鋭い視線を平然と受け止めて、静謐な眼差しを返す。
「このまま誰にも邪魔されずアリスと二人きりで過ごすもよし、参戦して〇〇を手に入れるもよし。どちらを取るにしても君の自由さ」
ここにアリスを連れてやってきた時点で、ペーターの意志は決まっているといえよう。
二人は無言で視線を交わした。夢魔に少女の身体が引き渡される。
ペーターは自分ではない男の腕におさまったアリスに、そっと寂しげな目を送った。
だがすぐに、意味深な隻眼から逃れるように背中を向ける。数歩行った先で立ち止まると、振り返らずに声を放った。
「僕はあの余所者を欲しいとは思っていません。…ただ、僕以外の誰かに、あれを好きなようにさせるのが気に食わないだけだ」
愛しい少女に向けた懺悔か、誰かに対する言い訳か、あるいは自分に言い聞かせるための言葉なのか。
ナイトメアはしっかりとアリスを抱き直して、相手の言い分に頷いた。
「ゲームへ参加する理由は人それぞれだ。それも立派な理由になる」
「ものを含んだ言い方はやめてください。不愉快です」
ペーターは肩越しに少し振り向き、抑揚のない声で、
「……あなたは、どうするつもりですか」
「私かい?もちろん参加するよ。この機会を逃す手はないからね」
「アリスは…」
「隠し場所を移す。君も始めからそのつもりだろう?いつまでもこの空間の中に置くのは、さすがにフェアじゃない」
ナイトメアはふと、くつくつと笑いを漏らした。暗い愉悦が滲み出る。
「この世界に逃げ場はない。いつかは必ず追いつめられる。かわいそうに、逃げ道を失った〇〇はどうなる?」
どれだけ根気強く捜し回っても、広い世界から少女一人を見つけ出すのは至難の業。
どう考えても、四方八方から伸ばされる鬼の手に捕まるほうが先だ。
「彼女を救えるのは私だけだと思わないか?鬼に捕まりそうになったそのとき、ここに引きずり込んでやるんだ。どうだ、いい考えだろう?」
「救う?……堕とすの間違いでしょう」
白ウサギは硬質な声で言うと、夢の空間から出て行った。
おやまあ、と夢魔は笑みを深めた。どうやら敵に塩を送るように、彼の背中を押してしまったらしい。
まあいいだろう。反則だ、卑怯だと言われようが、いざとなったらこちらは〇〇を夢の中に引き込むつもりでいるのだから。
「私は夢魔だからね。夢魔は夢魔らしく、この空間を有効活用させてもらおうじゃないか」
鬼に追われることになった余所者が求める少女。その存在が、この腕の中にある。
それだけのことで、〇〇に一番近いところにいるような気がしてしまう。
――さあ、〇〇、逃げてくれ。逃げて逃げて、限界までその足を止めずに逃げ回れ。
――そして、最後には救いを求めてくれ。そうすれば、私がすぐに助けてあげるから。
誰の手も届かない、この夢の世界へと。
end。→あとがき