もしも狂気を孕んだ鬼ごっこに強制参加させられたら…?
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このまま鬼ごっこを続けて捕まれば、〇〇に自由はない。アリスにだって会えなくなるかもしれない。
ならば、ボリスの“協力”という名の取り引きに応じればどうなるだろう。
ボリスの手引きでアリスを救い出せば、以前と変わらない日々を取り戻せるというのだろうか――そう、表向きは。
「……秘密って」
「本当は世界中の奴らに〇〇は俺のものだって教えてやりたいとこだけど…あんたが黙っててほしいなら、俺達の関係は誰にも言わない」
すっと笑みを消したボリスは、一歩分だけ間隔を埋めた。
「今までの生活を失くしたくないっていう〇〇の気持ちは、俺なりに理解してるつもりだ。だから、俺に関すること以外は今までどおりでもいい」
「今までどおり…」
「滞在地を変えろなんてことも言わない。ただ、俺に会いに来てよ。俺も時計塔まで会いに行く。他の誰よりも俺を優先して、心も身体も俺にだけ開いて、奥深くまで受け入れて、俺をあんたの特別にしてくれよ」
〇〇は足に力を入れ、背中を預けた幹を支えにゆっくりと立ち上がった。
「もしも…その協力を断ったら…?」
「撃つ」
間髪を入れずボリスは銃を抜き、こちらに向けて真っ直ぐに構えた。
息を呑む。役持ちがその気になれば、〇〇の命など取るに足りない、一瞬で摘み取られるのだと思い知らされる。
平凡な一般人である自分が敵うはずもない。だが…解放してもらえるなら、もうなんだっていい。
強張った身体が安堵に弛緩していくのを見透かして、ボリスは銃身を少し下げた。その先にあるのは、〇〇の頭でも心臓でもなく。
「俺を拒むなら、あんたを撃つよ。殺すためじゃない。逃げ出さないように両足を潰して、俺の勝ちだ」
「……っ」
「な、嫌だろ?〇〇、痛いこと嫌いだもんな。俺だって、できればそんなことはしたくない」
だから撃たせないでくれと、猫は優しい声音を使って脅迫する。
〇〇は薄く開いた唇で浅い呼吸を繰り返した。乾いた喉に痛みを覚えたが、痛覚はもはや全身を支配していた。
選択の余地はない。逃げることもできず、迫られた二択は〇〇の意志を受けつけなかった。
(痛いのは嫌だ……自分の全部を奪われるのも、嫌)
それなら、いっそ。ある程度の自由を許された“協力”のほうが。
〇〇は、どうにも逃れようのない現実に直面した精神が屈しようとするのを感じた。
どうしてあたしがこんな目に遭わなければならないんだ。痛いのは嫌。あたしはただ、この世界で、愛でられるアリスを楽しみたかっただけなのに。
「ほら、〇〇。返事は?」
「ぁ、あたしは…」
〇〇は乾いた喉から声を絞り出した。
この間まで一緒に笑いあっていた相手が、〇〇を己のものにせんとして狂気を振り翳す。
アリスを愛するために創造されたはずのキャラクターが、イレギュラーな存在である自分を求めて手を伸ばす。
すべてが狂っている。間違っている。〇〇の居場所はこのようなところにはないというのに。
いくら言葉を連ねても、最終的にたどり着くのはこの思いだった。
――この馬鹿げた、狂気に彩られたゲームを、一刻も早く終わらせたい。
ゲームが始まった当初にあった気丈さも、世界の歪みを実感した今、脆く崩れ去ろうとしていた。
「〇〇。言えよ。協力してやれるのは、俺だけだぜ?」
また一歩距離を狭めたボリスの言葉に、〇〇が虚ろな表情で口を開きかけた、そのときだった。
「ッ……くそっ!」
はっとしたようにボリスは俊敏な動きで後方に飛び退いた。
続けざまに撃ち込まれる銃弾をかわし、合間に応戦する。突如として二人の間に割り込んだ銃声に、〇〇は耳を塞いで目を閉じるしかない。
しばらくして発砲音が止むと、つかの間、刺すような静寂が訪れた。
そろりと目蓋を上げた〇〇の視界に映ったのは、鮮やかなオレンジ色と長い耳。
「……エリオット」
〇〇は呆然として男の名を呟いた。力の抜けた声には、安堵も失望も表れなかった。
チェシャ猫と余所者、そして介入した三月ウサギの位置は、トライアングルの様相を呈した。
「やっぱ外に出てきて正解だったぜ。…〇〇、大丈夫か?」
エリオットは傷だらけの〇〇を見てつらそうに眉根を寄せると、舌打ちをして身に纏う空気を一変させた。
「…誰だよ、あんたをそんなふうにした奴は。てめえか、チェシャ猫」
狂暴な表情でボリスを睨みつける様子は、常のエリオット=マーチとは程遠かった。
にんじんケーキを目の前にして狂喜する顔。友人に向ける親しみのこもった笑顔。あのエリオットは、どこに。
まるで別人のような形相を見た〇〇は、普段のエリオットとの対照さに目眩がした。
ボリスの誘惑に負けそうになっていた〇〇にとって、彼の登場は助けとなるのか――否。
(……違う。これは違う。そんなんじゃない。だって、エリオットは――)
〇〇は足元が崩れ落ちていくような感覚に襲われながら、懸命に問いかけた。
「エリ、オット……なんで…」
「あんたが俺の知らないところで他の奴のもんになってたらって思うと、じっとしてられなかったんだ」
帽子屋屋敷から飛び出してきたというエリオットは、暗い色をした瞳を向けて〇〇を硬直させた。
それは〇〇の知る彼には似つかわしくない、背筋の凍るような冷たさと烈火が混在した瞳で。
マフィアだからとか、そんな理屈は通用しない、心の奥底にある病んだ感情の露呈だった。
「だって、そうだろ?奪われるなんて冗談じゃねえ。あんたを欲しがる奴はみんなぶっ殺してやる。誰であったとしても……たとえそれが、ブラッドでもだ」
「っ……エリオット」
やめてやめて。そんなことを、そんなふうに言わないで。
ブラッドを敬愛するのがエリオット=マーチじゃないか。帽子屋を心から慕う、腹心の部下。それがアナタのはずだろう。
やめてくれ。お願いだから、変わらないで。そんなこと、あたしは望んじゃいないんだ。
「へえ…。ウサギのお兄さんはてっきり上司と手を組んでくるのかと思ってたけど…今回ばかりは単独行動か。面白いじゃん」
「そう言うてめえも一人で動いてんだろうが。他の奴らだって同じだ。上司だの友人だので譲れるもんじゃねえよ」
銃を突きつけ合いながら、共通する想いを確認して、二人は皮肉げに唇を歪めた。
互いの切実さを理解するがゆえに、煩わしそうに。殺意を新たに増長させて。
呼吸を押し潰す空気に〇〇は、やめて、と声にならない声で喘いだ。
もう僅かな笑みさえ失ったボリスを前にして、一瞬の油断さえ命取りになる雰囲気だというのに、エリオットはその目で〇〇を捉えた。
「そこでおとなしく待ってろよ、〇〇。こいつを片づけたら、俺があんたを捕まえてやるから」
そうしたら、もう誰にも邪魔させない。二人きりだ。そう言って三月ウサギは幸せそうに笑った。
無数の銃声が高らかに空に響き渡る。やがて場が静寂を取り戻したとき、余所者の絶望の涙が地面を色濃く染めた。
end。→あとがき
ならば、ボリスの“協力”という名の取り引きに応じればどうなるだろう。
ボリスの手引きでアリスを救い出せば、以前と変わらない日々を取り戻せるというのだろうか――そう、表向きは。
「……秘密って」
「本当は世界中の奴らに〇〇は俺のものだって教えてやりたいとこだけど…あんたが黙っててほしいなら、俺達の関係は誰にも言わない」
すっと笑みを消したボリスは、一歩分だけ間隔を埋めた。
「今までの生活を失くしたくないっていう〇〇の気持ちは、俺なりに理解してるつもりだ。だから、俺に関すること以外は今までどおりでもいい」
「今までどおり…」
「滞在地を変えろなんてことも言わない。ただ、俺に会いに来てよ。俺も時計塔まで会いに行く。他の誰よりも俺を優先して、心も身体も俺にだけ開いて、奥深くまで受け入れて、俺をあんたの特別にしてくれよ」
〇〇は足に力を入れ、背中を預けた幹を支えにゆっくりと立ち上がった。
「もしも…その協力を断ったら…?」
「撃つ」
間髪を入れずボリスは銃を抜き、こちらに向けて真っ直ぐに構えた。
息を呑む。役持ちがその気になれば、〇〇の命など取るに足りない、一瞬で摘み取られるのだと思い知らされる。
平凡な一般人である自分が敵うはずもない。だが…解放してもらえるなら、もうなんだっていい。
強張った身体が安堵に弛緩していくのを見透かして、ボリスは銃身を少し下げた。その先にあるのは、〇〇の頭でも心臓でもなく。
「俺を拒むなら、あんたを撃つよ。殺すためじゃない。逃げ出さないように両足を潰して、俺の勝ちだ」
「……っ」
「な、嫌だろ?〇〇、痛いこと嫌いだもんな。俺だって、できればそんなことはしたくない」
だから撃たせないでくれと、猫は優しい声音を使って脅迫する。
〇〇は薄く開いた唇で浅い呼吸を繰り返した。乾いた喉に痛みを覚えたが、痛覚はもはや全身を支配していた。
選択の余地はない。逃げることもできず、迫られた二択は〇〇の意志を受けつけなかった。
(痛いのは嫌だ……自分の全部を奪われるのも、嫌)
それなら、いっそ。ある程度の自由を許された“協力”のほうが。
〇〇は、どうにも逃れようのない現実に直面した精神が屈しようとするのを感じた。
どうしてあたしがこんな目に遭わなければならないんだ。痛いのは嫌。あたしはただ、この世界で、愛でられるアリスを楽しみたかっただけなのに。
「ほら、〇〇。返事は?」
「ぁ、あたしは…」
〇〇は乾いた喉から声を絞り出した。
この間まで一緒に笑いあっていた相手が、〇〇を己のものにせんとして狂気を振り翳す。
アリスを愛するために創造されたはずのキャラクターが、イレギュラーな存在である自分を求めて手を伸ばす。
すべてが狂っている。間違っている。〇〇の居場所はこのようなところにはないというのに。
いくら言葉を連ねても、最終的にたどり着くのはこの思いだった。
――この馬鹿げた、狂気に彩られたゲームを、一刻も早く終わらせたい。
ゲームが始まった当初にあった気丈さも、世界の歪みを実感した今、脆く崩れ去ろうとしていた。
「〇〇。言えよ。協力してやれるのは、俺だけだぜ?」
また一歩距離を狭めたボリスの言葉に、〇〇が虚ろな表情で口を開きかけた、そのときだった。
「ッ……くそっ!」
はっとしたようにボリスは俊敏な動きで後方に飛び退いた。
続けざまに撃ち込まれる銃弾をかわし、合間に応戦する。突如として二人の間に割り込んだ銃声に、〇〇は耳を塞いで目を閉じるしかない。
しばらくして発砲音が止むと、つかの間、刺すような静寂が訪れた。
そろりと目蓋を上げた〇〇の視界に映ったのは、鮮やかなオレンジ色と長い耳。
「……エリオット」
〇〇は呆然として男の名を呟いた。力の抜けた声には、安堵も失望も表れなかった。
チェシャ猫と余所者、そして介入した三月ウサギの位置は、トライアングルの様相を呈した。
「やっぱ外に出てきて正解だったぜ。…〇〇、大丈夫か?」
エリオットは傷だらけの〇〇を見てつらそうに眉根を寄せると、舌打ちをして身に纏う空気を一変させた。
「…誰だよ、あんたをそんなふうにした奴は。てめえか、チェシャ猫」
狂暴な表情でボリスを睨みつける様子は、常のエリオット=マーチとは程遠かった。
にんじんケーキを目の前にして狂喜する顔。友人に向ける親しみのこもった笑顔。あのエリオットは、どこに。
まるで別人のような形相を見た〇〇は、普段のエリオットとの対照さに目眩がした。
ボリスの誘惑に負けそうになっていた〇〇にとって、彼の登場は助けとなるのか――否。
(……違う。これは違う。そんなんじゃない。だって、エリオットは――)
〇〇は足元が崩れ落ちていくような感覚に襲われながら、懸命に問いかけた。
「エリ、オット……なんで…」
「あんたが俺の知らないところで他の奴のもんになってたらって思うと、じっとしてられなかったんだ」
帽子屋屋敷から飛び出してきたというエリオットは、暗い色をした瞳を向けて〇〇を硬直させた。
それは〇〇の知る彼には似つかわしくない、背筋の凍るような冷たさと烈火が混在した瞳で。
マフィアだからとか、そんな理屈は通用しない、心の奥底にある病んだ感情の露呈だった。
「だって、そうだろ?奪われるなんて冗談じゃねえ。あんたを欲しがる奴はみんなぶっ殺してやる。誰であったとしても……たとえそれが、ブラッドでもだ」
「っ……エリオット」
やめてやめて。そんなことを、そんなふうに言わないで。
ブラッドを敬愛するのがエリオット=マーチじゃないか。帽子屋を心から慕う、腹心の部下。それがアナタのはずだろう。
やめてくれ。お願いだから、変わらないで。そんなこと、あたしは望んじゃいないんだ。
「へえ…。ウサギのお兄さんはてっきり上司と手を組んでくるのかと思ってたけど…今回ばかりは単独行動か。面白いじゃん」
「そう言うてめえも一人で動いてんだろうが。他の奴らだって同じだ。上司だの友人だので譲れるもんじゃねえよ」
銃を突きつけ合いながら、共通する想いを確認して、二人は皮肉げに唇を歪めた。
互いの切実さを理解するがゆえに、煩わしそうに。殺意を新たに増長させて。
呼吸を押し潰す空気に〇〇は、やめて、と声にならない声で喘いだ。
もう僅かな笑みさえ失ったボリスを前にして、一瞬の油断さえ命取りになる雰囲気だというのに、エリオットはその目で〇〇を捉えた。
「そこでおとなしく待ってろよ、〇〇。こいつを片づけたら、俺があんたを捕まえてやるから」
そうしたら、もう誰にも邪魔させない。二人きりだ。そう言って三月ウサギは幸せそうに笑った。
無数の銃声が高らかに空に響き渡る。やがて場が静寂を取り戻したとき、余所者の絶望の涙が地面を色濃く染めた。
end。→あとがき