もしも狂気を孕んだ鬼ごっこに強制参加させられたら…?
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人間の身体は思った以上に丈夫に出来ているようだ。
木がクッションになったため衝撃が和らいだのだろう、地面に叩きつけられても気を失うようなことはなかった。
じんと痺れた背中に息を乱す。しかし、悠長に寝転がっている暇はない。
呻き声を漏らしながら、仰向けの状態から身体を反転させ、手から弾け飛んだ銃を探した。
だが、どこに行ったのか見回しても見つからない。〇〇が諦めをつけるのは早かった。
(銃はなくてもいい……今は逃げないと、)
〇〇は体勢を整える時間も惜しいとばかりに、もたつきながら起き上がり、走り出した。
割ったガラスでいくつも傷を作った腕を押さえて、痛みに顔を歪める。あたし、切り傷が一番嫌いなのに。
追いつめられたとき、人は思いも寄らない行動に出る。
まさかあの高さから飛び降りようとは自分でも思っていなかった。本当に咄嗟の行動だったのだ。
身体の至るところに痛みがあったが、骨折はしていないのだろう。打撲で済めばラッキーだ。
「――いっそ、自殺が本当に無効なのかどうか、確かめればよかったかな…」
ふと零れた呟きに、自嘲する。切ったらしい頬がひりと痛んだ。なにを馬鹿なことを。
ろくに調べられもしないまま遊園地を脱出した〇〇は、気がつけば森の中にいた。
木々の生い茂ったこの場所は、仮初めの安心感をもたらした。
遊園地から無事に逃げ出せたことは幸運だった。だが、次はどうする。しばらくあそこには近づけまい。
(遊園地は他に比べたら、まだ危険が少ないと思ってたのに…)
遊園地のオーナーは、この狂った世界における数少ない常識人の一人だと思っていた。
そのゴーランドでさえ、ああなのだ。他の役持ち達については考えたくもなかった。…でも。
「――…ユリウス。アナタも、このくだらないゲームに参加してるの…?」
同居人である時計塔の主人を思い、〇〇は空を仰いだ。枝と葉の隙間から見える空は青い。
時間帯が夜になるのを待つほうが無難かもしれない。昼間の行動は控えるべきか。
〇〇は鈍る頭に鞭を打つが、思考力の低下は避けられなかった。木の幹に背をつけ、ずるずると座り込んでいく。
(ユリウスは…もしかしたら、ユリウスだけは違うかもしれない…)
疲労に弱った心身が甘い期待を誘う。ユリウスは、あたしのことなんか欲しくないだろう?
無性に時計塔が恋しくなった。あの変化の少ない、静かで安らぐ空間に帰りたい。
そう、夜になったら。意外と心配性な同居人はきっと、どこに行っていた、顰め面をしてそう言うのだ。
このゲームは夢だと、悪い夢を見ただけなんだと否定して。あたしを安心させてほしい。
「……そうだ、時計塔……」
〇〇は淡く笑って目を閉じた。一度、時計塔に戻ってみよう。いいじゃないか、甘い幻想を抱いたって。
「――時計塔が、なに?」
あるはずのない、問い返す声が、そこに。〇〇は息を止めた。
瞬時に見開いた目は、ピンク色を映し出した。怪しく光る金色の瞳と共に。
まったく気配を感じさせずに現れたチェシャ猫は、身じろぎもできない〇〇に向かってもう一度問いかけた。
「時計塔がどうしたんだよ。もしかして、時計屋さんに助けを求めるとか?」
口を噤む〇〇にボリスは首を横に振った。
「やめとけって。あの人だってこのゲームの参加者なんだからさ」
「…そう言うボリスも、そうなんじゃないの」
〇〇は座り込んだ姿勢のまま、背中を幹に押しつけた。落ちた際の衝撃を引きずる身体に一瞬息をつめて、細く吐き出す。
お世辞にも綺麗とは言えない身形を見て、ボリスは心配そうに眉を寄せた。その表情が作り物とは思えなかった。
「血の匂いがすると思ったら、あんただったんだ。…平気?」
「…心配してくれるんなら、さっさとあたしを解放してほしいね」
視線はボリスの銃へと吸い寄せられた。頭や心臓を撃ち抜かれる、渇望にも似た幻。
だが、ボリスは〇〇の期待を知るかのように裏切ってみせた。
手にした銃を腰に戻して、生き地獄のような現実から解放する気はないことを証明する。にっと口角を上げ、囁くような甘い声で、
「〇〇。俺が、協力してあげよっか」
「協力…?」
「そ、協力」
〇〇が望む解放と、ボリスが口にする協力。この二つの言葉の間には、無視できないほどの大きな差があった。
ボリスはそれ以上距離をつめようとはせず、眼差しの強さで〇〇をその場に縫い止めた。
「あんたはアリスが手元に戻ってくればいいんだろ?…で、俺はあんたを手に入れたい」
「……」
「俺はアリスの居場所を知ってるから、協力して救い出してやれる。そうすれば〇〇の勝ちってことで、あんたの望む日常が戻ってくる」
口元の笑みが顔全体へと広がっていく。猫の鋭い牙がちらりと覗いた。
ああ、と〇〇は絶望感に打ちひしがれた。チェシャ猫も、同じだ。
「ボリス…」
「その代わり、友達ごっこは終わり。〇〇は俺のもの。あ、もしアリスに知られたくないっていうなら、秘密の関係でもいいよ」
協力。友好的な響きのそれは、結局のところ、〇〇にとって悪夢の継続に他ならない。
木がクッションになったため衝撃が和らいだのだろう、地面に叩きつけられても気を失うようなことはなかった。
じんと痺れた背中に息を乱す。しかし、悠長に寝転がっている暇はない。
呻き声を漏らしながら、仰向けの状態から身体を反転させ、手から弾け飛んだ銃を探した。
だが、どこに行ったのか見回しても見つからない。〇〇が諦めをつけるのは早かった。
(銃はなくてもいい……今は逃げないと、)
〇〇は体勢を整える時間も惜しいとばかりに、もたつきながら起き上がり、走り出した。
割ったガラスでいくつも傷を作った腕を押さえて、痛みに顔を歪める。あたし、切り傷が一番嫌いなのに。
追いつめられたとき、人は思いも寄らない行動に出る。
まさかあの高さから飛び降りようとは自分でも思っていなかった。本当に咄嗟の行動だったのだ。
身体の至るところに痛みがあったが、骨折はしていないのだろう。打撲で済めばラッキーだ。
「――いっそ、自殺が本当に無効なのかどうか、確かめればよかったかな…」
ふと零れた呟きに、自嘲する。切ったらしい頬がひりと痛んだ。なにを馬鹿なことを。
ろくに調べられもしないまま遊園地を脱出した〇〇は、気がつけば森の中にいた。
木々の生い茂ったこの場所は、仮初めの安心感をもたらした。
遊園地から無事に逃げ出せたことは幸運だった。だが、次はどうする。しばらくあそこには近づけまい。
(遊園地は他に比べたら、まだ危険が少ないと思ってたのに…)
遊園地のオーナーは、この狂った世界における数少ない常識人の一人だと思っていた。
そのゴーランドでさえ、ああなのだ。他の役持ち達については考えたくもなかった。…でも。
「――…ユリウス。アナタも、このくだらないゲームに参加してるの…?」
同居人である時計塔の主人を思い、〇〇は空を仰いだ。枝と葉の隙間から見える空は青い。
時間帯が夜になるのを待つほうが無難かもしれない。昼間の行動は控えるべきか。
〇〇は鈍る頭に鞭を打つが、思考力の低下は避けられなかった。木の幹に背をつけ、ずるずると座り込んでいく。
(ユリウスは…もしかしたら、ユリウスだけは違うかもしれない…)
疲労に弱った心身が甘い期待を誘う。ユリウスは、あたしのことなんか欲しくないだろう?
無性に時計塔が恋しくなった。あの変化の少ない、静かで安らぐ空間に帰りたい。
そう、夜になったら。意外と心配性な同居人はきっと、どこに行っていた、顰め面をしてそう言うのだ。
このゲームは夢だと、悪い夢を見ただけなんだと否定して。あたしを安心させてほしい。
「……そうだ、時計塔……」
〇〇は淡く笑って目を閉じた。一度、時計塔に戻ってみよう。いいじゃないか、甘い幻想を抱いたって。
「――時計塔が、なに?」
あるはずのない、問い返す声が、そこに。〇〇は息を止めた。
瞬時に見開いた目は、ピンク色を映し出した。怪しく光る金色の瞳と共に。
まったく気配を感じさせずに現れたチェシャ猫は、身じろぎもできない〇〇に向かってもう一度問いかけた。
「時計塔がどうしたんだよ。もしかして、時計屋さんに助けを求めるとか?」
口を噤む〇〇にボリスは首を横に振った。
「やめとけって。あの人だってこのゲームの参加者なんだからさ」
「…そう言うボリスも、そうなんじゃないの」
〇〇は座り込んだ姿勢のまま、背中を幹に押しつけた。落ちた際の衝撃を引きずる身体に一瞬息をつめて、細く吐き出す。
お世辞にも綺麗とは言えない身形を見て、ボリスは心配そうに眉を寄せた。その表情が作り物とは思えなかった。
「血の匂いがすると思ったら、あんただったんだ。…平気?」
「…心配してくれるんなら、さっさとあたしを解放してほしいね」
視線はボリスの銃へと吸い寄せられた。頭や心臓を撃ち抜かれる、渇望にも似た幻。
だが、ボリスは〇〇の期待を知るかのように裏切ってみせた。
手にした銃を腰に戻して、生き地獄のような現実から解放する気はないことを証明する。にっと口角を上げ、囁くような甘い声で、
「〇〇。俺が、協力してあげよっか」
「協力…?」
「そ、協力」
〇〇が望む解放と、ボリスが口にする協力。この二つの言葉の間には、無視できないほどの大きな差があった。
ボリスはそれ以上距離をつめようとはせず、眼差しの強さで〇〇をその場に縫い止めた。
「あんたはアリスが手元に戻ってくればいいんだろ?…で、俺はあんたを手に入れたい」
「……」
「俺はアリスの居場所を知ってるから、協力して救い出してやれる。そうすれば〇〇の勝ちってことで、あんたの望む日常が戻ってくる」
口元の笑みが顔全体へと広がっていく。猫の鋭い牙がちらりと覗いた。
ああ、と〇〇は絶望感に打ちひしがれた。チェシャ猫も、同じだ。
「ボリス…」
「その代わり、友達ごっこは終わり。〇〇は俺のもの。あ、もしアリスに知られたくないっていうなら、秘密の関係でもいいよ」
協力。友好的な響きのそれは、結局のところ、〇〇にとって悪夢の継続に他ならない。