気まぐれにアナタのもの。
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首筋に顔を埋め、傾けた唇で黒髪の隙間から覗く肌に口づける。
くすぐったさに揺れる肩にブラッドは気をよくしたのか、位置をずらして二度三度と繰り返す。
「――って、待て待てブラッド…っ」
「どうしたお嬢さん。…おや、脈が忙しなくなっているようだが?」
揶揄の声。少し機嫌の回復を見せるブラッドに、精神衛生にあたしを使うんじゃねーと言いたくなる。
「っ、アナタ以外の誰のせいだ、誰の」
だんだんとエスカレートする行為を窘める〇〇に、ブラッドはふっと短く息を漏らして笑った。どことなく満足そうな響きを含んで言うには、
「…そうだな。私以外の誰かであるはずがない」
私以外は認めない。そう呟いた声は小さすぎて〇〇の耳には届かない。
頸動脈の上を柔らかく食んで、唇を押しつける。〇〇はブラッドのそれが徐々に熱くなっているような感じを意識した。
(……やっぱりおかしい。間違ってるってこのシチュエーション)
もしくは、相手があたしだからこその違和感だ。心からそう思うのに抜け出せないのは、一見気怠げなブラッドの拘束があまりにも強固だから。
自分にまったくその気はないのに(当然ブラッドにもだろうが)、よく考えればこれは――あれだ。第三者に誤解されかねない、親密な間柄の男女がするものに似ていた。
気づいてしまえばもちろん、冗談じゃない、と思うわけで。
「ボス、あたしと恋人ごっこなんかして楽しい?」
「ああ、実に楽しいよ。まあ、これは恋人と言うよりも、むしろ…」
一度言葉を切ると、喉を震わせて声を出さずに笑い、
「――つれない女を懸命に口説く男役も、たまには悪くない…」
気怠さ全開のそれのどこが懸命なのか。しかしその態度ゆえに漂う妖艶さに、〇〇は急激に惜しくなる。ああもう、どうしてだ。ここには決定的に足りないものがある。
〇〇は堪らずにブラッドを見つめた。可能な限り振り向いたその顔には、懇願の表情。
その中に強請るような甘さを垣間見たブラッドは、目を細めると愉悦を湛えた口元で微笑んで…。
「〇〇、」
「ブラッド!頼む、アリスを呼んでくれ。そのほうがきっといい。絶対いいって、なっ?」
「……。君はまた、不粋なことを言う」
瞬間的に凍った空気。え。…え?あたし、なんかやっちゃった?
ブラッドは興醒めした顔をし、低い声には責めるようにちらつく刺。なにかいけないことを言っただろうか、と〇〇は本気で考えてしまった。
ちょこっと焦る〇〇をしばらく見下ろしていたブラッドは密着した身体を離し、深々と呆れを表した。
「まったく……君を手懐けるのは骨が折れそうだな」
「は?」
理解不能な台詞に眉を寄せる。が、ブラッドは断りもなく次の行動に移った。軽く腰を折ったかと思えば、一気に〇〇の身体を掬い上げる。
わ、だか、ひゃっ、だかの頓狂な声が上がる。浮遊感は瞬く間にしっかりとした感触に取って代わった。
「へ……?」
〇〇を赤いソファーに座らせ、ブラッド自身はそこに身を横たえた。〇〇の膝を頭の下に敷いて。
しっかりと心地のいい位置を探ると、やがて落ち着きを取り戻す。…無理だ、気まぐれなブラッドの突拍子のなさにはついていけない。
まさかのお昼寝タイムだ。眠るのならベッドに行けばいいのに。いくらゆったりとしたソファーでもさすがに眠るには窮屈そうだ。
(今度はなに、強制的に膝枕デスカ…)
ほとほと困った顔で見下ろせば、一度目を閉じたブラッドが再び目蓋を上げた。いつになく無防備な様子に一瞬面食らう。
ひなたぼっこする猫みたいに気持ち良さそうな蒼の眼。日本人にはない綺麗な瞳の色は、実はひそかな憧れだ。
ついついまんじりと見てしまう〇〇は、不意に見つめ合っている現状にばつが悪くなる。
絡んだ視線を逸らした。行き場のない両手は、相変わらず宙に浮いた状態を保っている。
ああ、アリス。〇〇は心の中で語りかけた。ここはアナタの居るべき場面なのに、なんでアナタじゃなくてあたしがここにいるんだ?
ブラッドもブラッドだ。もしかして、退屈でなければなんでもいいのだろうか。アリスじゃない余所者でも?
――あたしでもいいの、なんてふと浮かび上がった思いは、泡沫のごとく。〇〇が消え去ったそれを知ることはない。
(最悪誰でもいいとかだったら……さすがにそれは節操がない)
ブラッドのいつになく裏のなさそうな空気に、〇〇の調子は乱される。抵抗感が薄れていた。
ブラッドが宙ぶらりの手を掴み、引き寄せても。指先に熱い唇が押し当てられても。
「君がされるがままでいるとは…珍しい」
「――まあ、ただの気まぐれだよ」
「…ははっ。気まぐれ、か。なるほど、それはいい」
意味深に、ではなく、ブラッドは微笑んだ。普通に、というのもおかしな表現だろうが。
アリスの家庭教師で恋人だった男と同じ容貌だというブラッド。
アリスが外見だけに惚れたということはないだろうが、この顔で微笑まれたときの彼女の恋心を、今なら、ほんの少しだけ解るかもしれない。
そんなことを思ってしまうあたしは、きっと絆されている。
「では、君の気が変わる前に、私はひと眠りさせてもらうことにしよう。君は、実に心地のいい眠りを提供してくれそうだ…」
穏やかな顔をして無防備に身を預けるのは、肩書もなにもない、ただの男のようで。
(――……まあ、いっか)
絆されていても、流されていても。
捕われた〇〇の手は、ブラッドの胸の上。響く時計は規則正しく脈を打つ。
今だけは。ブラッドが目を覚ますまでは、あたしはアナタのものになろう。
「あんまり遅いと、追加料金いただきますよー」
もう一方の自由な手でそっと髪を撫でて。
おやすみの代わりに呟いた声に、ブラッドの口元が微笑んだような気がした。
end。→あとがき
くすぐったさに揺れる肩にブラッドは気をよくしたのか、位置をずらして二度三度と繰り返す。
「――って、待て待てブラッド…っ」
「どうしたお嬢さん。…おや、脈が忙しなくなっているようだが?」
揶揄の声。少し機嫌の回復を見せるブラッドに、精神衛生にあたしを使うんじゃねーと言いたくなる。
「っ、アナタ以外の誰のせいだ、誰の」
だんだんとエスカレートする行為を窘める〇〇に、ブラッドはふっと短く息を漏らして笑った。どことなく満足そうな響きを含んで言うには、
「…そうだな。私以外の誰かであるはずがない」
私以外は認めない。そう呟いた声は小さすぎて〇〇の耳には届かない。
頸動脈の上を柔らかく食んで、唇を押しつける。〇〇はブラッドのそれが徐々に熱くなっているような感じを意識した。
(……やっぱりおかしい。間違ってるってこのシチュエーション)
もしくは、相手があたしだからこその違和感だ。心からそう思うのに抜け出せないのは、一見気怠げなブラッドの拘束があまりにも強固だから。
自分にまったくその気はないのに(当然ブラッドにもだろうが)、よく考えればこれは――あれだ。第三者に誤解されかねない、親密な間柄の男女がするものに似ていた。
気づいてしまえばもちろん、冗談じゃない、と思うわけで。
「ボス、あたしと恋人ごっこなんかして楽しい?」
「ああ、実に楽しいよ。まあ、これは恋人と言うよりも、むしろ…」
一度言葉を切ると、喉を震わせて声を出さずに笑い、
「――つれない女を懸命に口説く男役も、たまには悪くない…」
気怠さ全開のそれのどこが懸命なのか。しかしその態度ゆえに漂う妖艶さに、〇〇は急激に惜しくなる。ああもう、どうしてだ。ここには決定的に足りないものがある。
〇〇は堪らずにブラッドを見つめた。可能な限り振り向いたその顔には、懇願の表情。
その中に強請るような甘さを垣間見たブラッドは、目を細めると愉悦を湛えた口元で微笑んで…。
「〇〇、」
「ブラッド!頼む、アリスを呼んでくれ。そのほうがきっといい。絶対いいって、なっ?」
「……。君はまた、不粋なことを言う」
瞬間的に凍った空気。え。…え?あたし、なんかやっちゃった?
ブラッドは興醒めした顔をし、低い声には責めるようにちらつく刺。なにかいけないことを言っただろうか、と〇〇は本気で考えてしまった。
ちょこっと焦る〇〇をしばらく見下ろしていたブラッドは密着した身体を離し、深々と呆れを表した。
「まったく……君を手懐けるのは骨が折れそうだな」
「は?」
理解不能な台詞に眉を寄せる。が、ブラッドは断りもなく次の行動に移った。軽く腰を折ったかと思えば、一気に〇〇の身体を掬い上げる。
わ、だか、ひゃっ、だかの頓狂な声が上がる。浮遊感は瞬く間にしっかりとした感触に取って代わった。
「へ……?」
〇〇を赤いソファーに座らせ、ブラッド自身はそこに身を横たえた。〇〇の膝を頭の下に敷いて。
しっかりと心地のいい位置を探ると、やがて落ち着きを取り戻す。…無理だ、気まぐれなブラッドの突拍子のなさにはついていけない。
まさかのお昼寝タイムだ。眠るのならベッドに行けばいいのに。いくらゆったりとしたソファーでもさすがに眠るには窮屈そうだ。
(今度はなに、強制的に膝枕デスカ…)
ほとほと困った顔で見下ろせば、一度目を閉じたブラッドが再び目蓋を上げた。いつになく無防備な様子に一瞬面食らう。
ひなたぼっこする猫みたいに気持ち良さそうな蒼の眼。日本人にはない綺麗な瞳の色は、実はひそかな憧れだ。
ついついまんじりと見てしまう〇〇は、不意に見つめ合っている現状にばつが悪くなる。
絡んだ視線を逸らした。行き場のない両手は、相変わらず宙に浮いた状態を保っている。
ああ、アリス。〇〇は心の中で語りかけた。ここはアナタの居るべき場面なのに、なんでアナタじゃなくてあたしがここにいるんだ?
ブラッドもブラッドだ。もしかして、退屈でなければなんでもいいのだろうか。アリスじゃない余所者でも?
――あたしでもいいの、なんてふと浮かび上がった思いは、泡沫のごとく。〇〇が消え去ったそれを知ることはない。
(最悪誰でもいいとかだったら……さすがにそれは節操がない)
ブラッドのいつになく裏のなさそうな空気に、〇〇の調子は乱される。抵抗感が薄れていた。
ブラッドが宙ぶらりの手を掴み、引き寄せても。指先に熱い唇が押し当てられても。
「君がされるがままでいるとは…珍しい」
「――まあ、ただの気まぐれだよ」
「…ははっ。気まぐれ、か。なるほど、それはいい」
意味深に、ではなく、ブラッドは微笑んだ。普通に、というのもおかしな表現だろうが。
アリスの家庭教師で恋人だった男と同じ容貌だというブラッド。
アリスが外見だけに惚れたということはないだろうが、この顔で微笑まれたときの彼女の恋心を、今なら、ほんの少しだけ解るかもしれない。
そんなことを思ってしまうあたしは、きっと絆されている。
「では、君の気が変わる前に、私はひと眠りさせてもらうことにしよう。君は、実に心地のいい眠りを提供してくれそうだ…」
穏やかな顔をして無防備に身を預けるのは、肩書もなにもない、ただの男のようで。
(――……まあ、いっか)
絆されていても、流されていても。
捕われた〇〇の手は、ブラッドの胸の上。響く時計は規則正しく脈を打つ。
今だけは。ブラッドが目を覚ますまでは、あたしはアナタのものになろう。
「あんまり遅いと、追加料金いただきますよー」
もう一方の自由な手でそっと髪を撫でて。
おやすみの代わりに呟いた声に、ブラッドの口元が微笑んだような気がした。
end。→あとがき