踏み荒らしたい境界線
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「じたばたしちゃって、可愛い。これでちょっとは〇〇も懲りればいいんだ」
足首を拘束する手が、するりと膝裏まで滑り込んだ。露出が大きくなる。
「アリスにばっかり構ってるからこういう目に遭うんだぜ?肝心のあんたが自分を疎かにしてちゃ、俺は気が気じゃねーよ」
ちゅ、と口づけを落とし、柔らかく歯を立てる。〇〇は不規則になる自分の呼吸に気づいて思わず息を詰めた。
ボリスは笑って身体を上に引き上げ、真上から〇〇の顔を見下ろした。
「ねえ。あんたも気持ちいいこと、好きだろ?」
「……まあ、苦痛よりは」
「じゃあ、俺としよう?」
相手の頭には最強の動物耳がついているのだ。小首を傾げる仕草は正直可愛い――がしかし、外見に惑わされてはいけない。
獲物を狙う鋭さを秘めた瞳は完全に獣のそれだ。にゃんこのかわいらしさに誘惑されるなよ、あたし!
「俺、あんたに飼われてみたいな」
「…あたしは金魚しか飼育経験がないから無理。言うまでもなく、ペットとあれこれやるような変態でもない」
きっぱり言い切っても、ボリスの目つきは変わらない。
ちろちろと熱の垣間見える眼。唇からうっすら覗く牙。
「別に悪い話じゃないと思うけどなー。ちゃんと奉仕するし、ご主人様が喜んでくれるようになんでもする」
「っ…」
ぺろんと〇〇の頬をひと舐めして、ボリスはシニカルな笑みを浮かべた。
誘うように、それが有効的だと確信した自信のある声で。
「――たとえば、アリスにいろいろしたり……とか、さ?」
もしもチェシャ猫が冗談めかした色を僅かにでも加えていたのなら。
〇〇も単純に受け取って、それはいい考えだなと一緒に笑ったかもしれない。
だが、これは違う。違うのだ。
(なんか……変だ)
彼は気づいているのだろうか。場合によってはアリスを利用すると言っているも同然だということに。
〇〇とて、多少代償を払ってでも、ボリアリを楽しめるのなら構わない。
けれど、これは違う。こんな取り引きで、作為的な絡みを作り出すなんて。
ボリスに悪気はない。悪意もない。アリスに対する感情はあくまで好意だ。
そのままのボリス=エレイが、いったい誰のために、なんのためにこんな申し出をしている?
――自分に圧し掛かる、性差ゆえの重みを〇〇は不意に思い出す。
繰り返し好意を口にして、〇〇の呼吸を押し潰した、オレンジ色のウサギのことを。
(ありえない)
チェシャ猫も三月ウサギと同じだ。錯誤。
そう認識した途端、目が覚めるように事態を客観視する〇〇がいた。平素より上昇していた体温も、ひやりと冷めていく。
表情の強張りは緩やかに解かれ、笑みが形作られる。
「アリスのことをそんなふうに言っちゃ駄目でしょ、ボリス?」
それは、穏便な拒絶だった。先ほどまで確かにあった焦りすら凌いで、悠然と外部を弾くような。
なんと綺麗な微笑みで、こうして触れ合っている事実をも無にするのだろう。
“壁”を目の当たりにしたボリスは、目を見開き、悔しげに奥歯を噛んだ。
「あんたはっ……!」
「ッ、ふ……っ」
衝動的なキスは柔らかな〇〇の唇を傷つけた。尖った歯が皮を裂き、薄く血を滲ませる。
透明な赤色は現れた先からボリスの唇に移り、紅のように映える前に、荒っぽい口づけに消されていった。
痛いほど伝わってくる苛立ちともどかしさを、〇〇は理解することができない。してはいけないと、自分の中のなにかが警鐘を鳴らすから。
ならば、吐き出させるしかない。相手の感情に行き場を与え、鎮まるのを待つだけだ。
「んん、ぅ、く……っ」
「はっ…なあ、苦しい?俺も……苦しいよ」
布一枚を隔てたボリスの手の下で、どくどくと心臓が存在を主張している。
愛おしむ優しさで力をこめて、心音を包み込む。
切なく吐息を落としたボリスは、そっと手を離すと、乱暴にされて鮮やかに色づいた〇〇の唇を撫でた。
「血が……、傷つけて、ごめん」
「は、ぁ……」
お互いに荒い息をしながら、間近で視線を絡めた。
「だけど、キスしたことは…謝りたくない」
「別に……いいよ」
キスのひとつやふたつ、どうということはない。
気の迷いで片づけようとする〇〇を、ボリスは先ほどより力強い口調で制した。
「舐めたことも、謝らないぜ。そうしたいと思ったから俺は〇〇に触れたんだ。謝ったら、俺は自分の気持ちを否定することになる。だから、絶対謝らない」
揺るがない一筋の意志を宿した眼差しは強かだった。
これが自分一人に向けられているのかと思うと、たじろいでしまうほどに。
果たしてこれがアリス不在の状態で作り出されるべき空気なのだろうか。
(ボリスの、気持ち?…そんなのわからない。エリオットの気持ちだって、あたしは――)
〇〇の呼吸を殺していた雰囲気は、金色の瞳が鋭く扉のほうを睥睨したことで崩された。
こちらが視線を追うより早く、ボリスは再度〇〇に軽く口づけてから、素早い身のこなしで駆け出した。
猫がバルコニーに飛び出したとほぼ同時に、部屋の扉が蹴り開けられた。
間髪なく響いた銃声は侵入者を狙撃したが、紙一重のところで届かなかった。
「チッ……逃がしたか」
苦々しく舌打ちをした彼は、寝台の上で呆気にとられる余所者に向き直った。銃口は下がらず、〇〇を捉えていた。
「……」
「……えーと」
髪の白さに映える赤い瞳がすっと鋭利に細まった。剣呑な眼差しが〇〇に降り注ぐ。
乱れたシーツに、肌蹴たバスローブ。上気した頬と、うっすら血の滲み出た少々腫れぼったい唇。
順々に状況を目で追うごとに、白ウサギの顔が強張っていく。
突き刺さる視線を感じつつ、〇〇は乱れたバスローブを手で軽く整えた。今さら体裁を繕っても無意味だったが。
「あのー……ペーター?」
どうしてここに、というのは愚問だろう。
白ウサギはハートの城の宰相だ。侵入者の件はとっくに耳に入っているはず。
何故この部屋だとわかったのかという疑問は二の次だ。
〇〇の認識がどうであれ、第三者の目には“ヤバイ”場面に映っているに違いないこの状況。
他人にどう思われようが大方たいした問題ではないが、ペーター=ホワイトはまずい。
これ幸いとアリスにあることないこと吹聴されては、〇〇の楽しみが潰されかねない。
決定的なシーンを目撃された救いようのない浮気者みたいだな、と〇〇はひとまず取り繕うように微笑んだ。が。
「――……見苦しい。吐き気がする」
ペーターは不自然なくらい感情の削げ落ちた声でそう言うと、銃を時計に戻して部屋を出て行ってしまった。
あまりにもあっさりと立ち去った彼に、〇〇はすっかり拍子抜けした。
詰問されるよりはよほどましな展開だが……いかんせん、らしくなさすぎて不気味である。
〇〇はぱたりと仰向けにベッドへと倒れた。
(あー……なんだか無性に面倒くせー)
いろいろなことに対して、そう思う。
予想だにしないイベントの発生が、自分の身の回りを徐々に乱していく。
「……バグかな」
ちりと痛んだ唇を舐めて呟いた言葉は、なんとも空々しく耳に付いた。
自分が方々へ原因の種を蒔いているとはまさか思わず、〇〇はのそりと身体を起こした。
蹴破られたドアの修理代はもちろん宰相持ちなんだろうな、と。敢えて呑気な思考になるよう、自分をコントロールしながら。
【踏み荒らしたい境界線】
越えられない壁なんてありはしない
ぶち壊してでも その向こう側へと
continue…?→あとがき。
足首を拘束する手が、するりと膝裏まで滑り込んだ。露出が大きくなる。
「アリスにばっかり構ってるからこういう目に遭うんだぜ?肝心のあんたが自分を疎かにしてちゃ、俺は気が気じゃねーよ」
ちゅ、と口づけを落とし、柔らかく歯を立てる。〇〇は不規則になる自分の呼吸に気づいて思わず息を詰めた。
ボリスは笑って身体を上に引き上げ、真上から〇〇の顔を見下ろした。
「ねえ。あんたも気持ちいいこと、好きだろ?」
「……まあ、苦痛よりは」
「じゃあ、俺としよう?」
相手の頭には最強の動物耳がついているのだ。小首を傾げる仕草は正直可愛い――がしかし、外見に惑わされてはいけない。
獲物を狙う鋭さを秘めた瞳は完全に獣のそれだ。にゃんこのかわいらしさに誘惑されるなよ、あたし!
「俺、あんたに飼われてみたいな」
「…あたしは金魚しか飼育経験がないから無理。言うまでもなく、ペットとあれこれやるような変態でもない」
きっぱり言い切っても、ボリスの目つきは変わらない。
ちろちろと熱の垣間見える眼。唇からうっすら覗く牙。
「別に悪い話じゃないと思うけどなー。ちゃんと奉仕するし、ご主人様が喜んでくれるようになんでもする」
「っ…」
ぺろんと〇〇の頬をひと舐めして、ボリスはシニカルな笑みを浮かべた。
誘うように、それが有効的だと確信した自信のある声で。
「――たとえば、アリスにいろいろしたり……とか、さ?」
もしもチェシャ猫が冗談めかした色を僅かにでも加えていたのなら。
〇〇も単純に受け取って、それはいい考えだなと一緒に笑ったかもしれない。
だが、これは違う。違うのだ。
(なんか……変だ)
彼は気づいているのだろうか。場合によってはアリスを利用すると言っているも同然だということに。
〇〇とて、多少代償を払ってでも、ボリアリを楽しめるのなら構わない。
けれど、これは違う。こんな取り引きで、作為的な絡みを作り出すなんて。
ボリスに悪気はない。悪意もない。アリスに対する感情はあくまで好意だ。
そのままのボリス=エレイが、いったい誰のために、なんのためにこんな申し出をしている?
――自分に圧し掛かる、性差ゆえの重みを〇〇は不意に思い出す。
繰り返し好意を口にして、〇〇の呼吸を押し潰した、オレンジ色のウサギのことを。
(ありえない)
チェシャ猫も三月ウサギと同じだ。錯誤。
そう認識した途端、目が覚めるように事態を客観視する〇〇がいた。平素より上昇していた体温も、ひやりと冷めていく。
表情の強張りは緩やかに解かれ、笑みが形作られる。
「アリスのことをそんなふうに言っちゃ駄目でしょ、ボリス?」
それは、穏便な拒絶だった。先ほどまで確かにあった焦りすら凌いで、悠然と外部を弾くような。
なんと綺麗な微笑みで、こうして触れ合っている事実をも無にするのだろう。
“壁”を目の当たりにしたボリスは、目を見開き、悔しげに奥歯を噛んだ。
「あんたはっ……!」
「ッ、ふ……っ」
衝動的なキスは柔らかな〇〇の唇を傷つけた。尖った歯が皮を裂き、薄く血を滲ませる。
透明な赤色は現れた先からボリスの唇に移り、紅のように映える前に、荒っぽい口づけに消されていった。
痛いほど伝わってくる苛立ちともどかしさを、〇〇は理解することができない。してはいけないと、自分の中のなにかが警鐘を鳴らすから。
ならば、吐き出させるしかない。相手の感情に行き場を与え、鎮まるのを待つだけだ。
「んん、ぅ、く……っ」
「はっ…なあ、苦しい?俺も……苦しいよ」
布一枚を隔てたボリスの手の下で、どくどくと心臓が存在を主張している。
愛おしむ優しさで力をこめて、心音を包み込む。
切なく吐息を落としたボリスは、そっと手を離すと、乱暴にされて鮮やかに色づいた〇〇の唇を撫でた。
「血が……、傷つけて、ごめん」
「は、ぁ……」
お互いに荒い息をしながら、間近で視線を絡めた。
「だけど、キスしたことは…謝りたくない」
「別に……いいよ」
キスのひとつやふたつ、どうということはない。
気の迷いで片づけようとする〇〇を、ボリスは先ほどより力強い口調で制した。
「舐めたことも、謝らないぜ。そうしたいと思ったから俺は〇〇に触れたんだ。謝ったら、俺は自分の気持ちを否定することになる。だから、絶対謝らない」
揺るがない一筋の意志を宿した眼差しは強かだった。
これが自分一人に向けられているのかと思うと、たじろいでしまうほどに。
果たしてこれがアリス不在の状態で作り出されるべき空気なのだろうか。
(ボリスの、気持ち?…そんなのわからない。エリオットの気持ちだって、あたしは――)
〇〇の呼吸を殺していた雰囲気は、金色の瞳が鋭く扉のほうを睥睨したことで崩された。
こちらが視線を追うより早く、ボリスは再度〇〇に軽く口づけてから、素早い身のこなしで駆け出した。
猫がバルコニーに飛び出したとほぼ同時に、部屋の扉が蹴り開けられた。
間髪なく響いた銃声は侵入者を狙撃したが、紙一重のところで届かなかった。
「チッ……逃がしたか」
苦々しく舌打ちをした彼は、寝台の上で呆気にとられる余所者に向き直った。銃口は下がらず、〇〇を捉えていた。
「……」
「……えーと」
髪の白さに映える赤い瞳がすっと鋭利に細まった。剣呑な眼差しが〇〇に降り注ぐ。
乱れたシーツに、肌蹴たバスローブ。上気した頬と、うっすら血の滲み出た少々腫れぼったい唇。
順々に状況を目で追うごとに、白ウサギの顔が強張っていく。
突き刺さる視線を感じつつ、〇〇は乱れたバスローブを手で軽く整えた。今さら体裁を繕っても無意味だったが。
「あのー……ペーター?」
どうしてここに、というのは愚問だろう。
白ウサギはハートの城の宰相だ。侵入者の件はとっくに耳に入っているはず。
何故この部屋だとわかったのかという疑問は二の次だ。
〇〇の認識がどうであれ、第三者の目には“ヤバイ”場面に映っているに違いないこの状況。
他人にどう思われようが大方たいした問題ではないが、ペーター=ホワイトはまずい。
これ幸いとアリスにあることないこと吹聴されては、〇〇の楽しみが潰されかねない。
決定的なシーンを目撃された救いようのない浮気者みたいだな、と〇〇はひとまず取り繕うように微笑んだ。が。
「――……見苦しい。吐き気がする」
ペーターは不自然なくらい感情の削げ落ちた声でそう言うと、銃を時計に戻して部屋を出て行ってしまった。
あまりにもあっさりと立ち去った彼に、〇〇はすっかり拍子抜けした。
詰問されるよりはよほどましな展開だが……いかんせん、らしくなさすぎて不気味である。
〇〇はぱたりと仰向けにベッドへと倒れた。
(あー……なんだか無性に面倒くせー)
いろいろなことに対して、そう思う。
予想だにしないイベントの発生が、自分の身の回りを徐々に乱していく。
「……バグかな」
ちりと痛んだ唇を舐めて呟いた言葉は、なんとも空々しく耳に付いた。
自分が方々へ原因の種を蒔いているとはまさか思わず、〇〇はのそりと身体を起こした。
蹴破られたドアの修理代はもちろん宰相持ちなんだろうな、と。敢えて呑気な思考になるよう、自分をコントロールしながら。
【踏み荒らしたい境界線】
越えられない壁なんてありはしない
ぶち壊してでも その向こう側へと
continue…?→あとがき。