踏み荒らしたい境界線
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女王様直々に声をかけられては、背くわけにもいくまい。
言い付けに従って自室に戻った〇〇は、例によって汗を流すことにした。
仕事終わりにシャワーを浴びることで、心身ともにすっきりする。その上、仕事とプライベートの区切り、切り替えにもなる。
仕事着を脱いでぽいとベッドに放り、下着姿で脱衣所に入った。今度は下着を脱ぎ捨てて、浴室に踏み込む。
(そういえば、侵入者って何者なんだろう…?)
泡立てたスポンジを肌に滑らせつつ、〇〇は再び頭を巻き戻した。
誰にせよ、なかなかいいタイミングだった。おかげで僅かだが猶予を得られたのだ。
(多少先延ばしになったくらいだけどね)
しかし、考えてみよう。
あのことを話すのは、性に関する羞恥以外になんの問題があるだろう。
仮にも余所者としての影響力があったとして、アリスでない限り、この世界の根本は揺るがない。
そもそも、ブラッドと関係を持ったことにたいした意味はないのだから、なんの脅威にもなり得ない。
此処はゲームの中。ヒロインはアリス。彼女を取り巻く役持ち達。
そして、イレギュラーな余所者(あたし)は、傍観者。
真剣に憂慮すべきことが、どこにあろうか。
シャワーでさっぱり泡を洗い落とす頃には、まあなるようになるさと気持ちの軽さを取り戻していた。
持ち込んだタオルに粗方水分を吸わせると、〇〇は浴室を出た。
さて着替えようと見回して、あることに気がついた。肝心の着替えの用意を忘れていた。
しかたなく、〇〇は傍にあったバスローブを素肌に纏って、脱衣所から出ることにした。
(他のことを考えてたせいで、ついど忘れしちゃったな)
部屋の中に戻ったところで、〇〇の目の端にふと、はためくカーテンが映り込んだ。
自分以外の動的な存在に一瞬どきりとして足が止まる。なんてことはない、風の仕業だった。
瞬時に原因を見抜いても、気を抜くことができないのは。
(あたし、開けた覚えがないんだけど…?)
きっと最初から開いていたのだ。そう、気づかなかっただけで。
もっともありえる説明をつけてから、〇〇はそろりとバルコニーに近づいた。
試しにふわふわ揺れるカーテンを思いきり左右に引いてみた。……異常、なし。
〇〇は頭を掠めた“侵入者”の文字を打ち消して、無意識の緊張を笑い飛ばした。
「……あは。ま、そうだよなー」
数ある中から、〇〇の自室と定められたこの場所を出入り口に選ぶ確率は、たいして高くない。
ドラマの見過ぎか、と〇〇は自分に突っ込みを入れた。
バルコニーへ続く扉を閉め、鍵をかけ、カーテンを引く。ほっと息をついたまさに、その直後。
〇〇の後頭部に、ごつりと硬い塊が押し当てられた。鉄のような冷たさがぶわっと鳥肌を起こして、瞬く間に全身へと広がった。
「だ、誰……」
急速に喉が渇いていく。〇〇は囁くような声で問い、全神経を背後に集めた。
「ばーん」
〇〇の耳に吹き込まれたのは、気の抜ける発砲音だった。
瞬間、どっと疲れに襲われた〇〇は掴んでいたカーテンに体重を預けた。破けようがあたしの知ったことか。
恨めしげに振り返った先では、案の定。チェシャ猫が悪戯成功とばかりに、にんまりして立っていた。
「駄目じゃん。外だけじゃなくて、ちゃんと部屋の中まで確認しなきゃ。誰がいるかもわかんないだろ?」
「……バルコニーから入ってくるなんて非常識、誰が想定するよ」
ボリス=エレイの手には本物の銃が握られていた。撃つ気がないとはいえ、なんと性質の悪い悪戯だ。
驚いて損した、とボリスをじとりと睨む。安堵を悟られるのはちょっと癪だった。
心臓の爆走は一時的なものだったため、もう治まりそうだった。
〇〇はレースカーテン越しに、窓の外を見下ろした。駆け足で忙しなく動き回る、兵士達の姿。
「なんか面白いものでも見えんの?」とボリスが背中にぴたりと寄り添ってきた。
外の様子から目を離さないまま、〇〇は尋ねた。
「ボリス…。アナタ、ひょっとして彼らとスリル満点の追いかけっこをしてる最中なんじゃないの?」
遊園地の居候が、ハートの城に。では、城中を騒がせている侵入者の正体とは?――この状況がすべてを物語っている。
〇〇の肩に顎を乗せてじゃれつきながら、ボリスは事もなげに言った。
「だって、最近全然会えねーんだもん。ハートの城にいるっていうからさ、会いたくなって来ちゃった」
そんな軽いノリで侵入されては、ハートの城もたまったものではない。
が、そんな事情は余所者には関係なかった。〇〇は嬉々として振り返ると、
「アリス?」
「……あのさー、話聞いてた?俺が会いたかったのはあんただよ、あんた」
途端、〇〇のテンションは急激ダウン。瞳の煌めきは一瞬にして失せた。
「へえ。物好きだな」
淡々と感想を述べる。せっかく危険を顧みず会いに来るんならアリスにしろよ、アリスに。
まさか〇〇が喜ぶとは思わなかったのだろうが、望んだ反応でもなかったらしい。ボリスはつまらなさそうに身体を離した。
ふらりと歩いた先にあったベッドに倒れ込んで「ぁー…」と唸る猫を見て、〇〇は首を傾げた。
「そういえば、なんでここがあたしの部屋だってわかったんだ?」
「……アリスに聞いた。ていうか、俺にはなんの突っ込みも入れてくれないのかよ。さらにダメージ食らうんだけど」
最初の一文以外はぼそぼそと呟くようで聞き取れなかった。
まあいい。とりあえず重要なのはアリスのことだ。
アリスに聞いたということは、ここに来るより先に彼女を訪ねたということで。
それを知るとなんだかすっきりしてしまって、〇〇は「そっか」と満面の笑みを浮かべるのであった。
言い付けに従って自室に戻った〇〇は、例によって汗を流すことにした。
仕事終わりにシャワーを浴びることで、心身ともにすっきりする。その上、仕事とプライベートの区切り、切り替えにもなる。
仕事着を脱いでぽいとベッドに放り、下着姿で脱衣所に入った。今度は下着を脱ぎ捨てて、浴室に踏み込む。
(そういえば、侵入者って何者なんだろう…?)
泡立てたスポンジを肌に滑らせつつ、〇〇は再び頭を巻き戻した。
誰にせよ、なかなかいいタイミングだった。おかげで僅かだが猶予を得られたのだ。
(多少先延ばしになったくらいだけどね)
しかし、考えてみよう。
あのことを話すのは、性に関する羞恥以外になんの問題があるだろう。
仮にも余所者としての影響力があったとして、アリスでない限り、この世界の根本は揺るがない。
そもそも、ブラッドと関係を持ったことにたいした意味はないのだから、なんの脅威にもなり得ない。
此処はゲームの中。ヒロインはアリス。彼女を取り巻く役持ち達。
そして、イレギュラーな余所者(あたし)は、傍観者。
真剣に憂慮すべきことが、どこにあろうか。
シャワーでさっぱり泡を洗い落とす頃には、まあなるようになるさと気持ちの軽さを取り戻していた。
持ち込んだタオルに粗方水分を吸わせると、〇〇は浴室を出た。
さて着替えようと見回して、あることに気がついた。肝心の着替えの用意を忘れていた。
しかたなく、〇〇は傍にあったバスローブを素肌に纏って、脱衣所から出ることにした。
(他のことを考えてたせいで、ついど忘れしちゃったな)
部屋の中に戻ったところで、〇〇の目の端にふと、はためくカーテンが映り込んだ。
自分以外の動的な存在に一瞬どきりとして足が止まる。なんてことはない、風の仕業だった。
瞬時に原因を見抜いても、気を抜くことができないのは。
(あたし、開けた覚えがないんだけど…?)
きっと最初から開いていたのだ。そう、気づかなかっただけで。
もっともありえる説明をつけてから、〇〇はそろりとバルコニーに近づいた。
試しにふわふわ揺れるカーテンを思いきり左右に引いてみた。……異常、なし。
〇〇は頭を掠めた“侵入者”の文字を打ち消して、無意識の緊張を笑い飛ばした。
「……あは。ま、そうだよなー」
数ある中から、〇〇の自室と定められたこの場所を出入り口に選ぶ確率は、たいして高くない。
ドラマの見過ぎか、と〇〇は自分に突っ込みを入れた。
バルコニーへ続く扉を閉め、鍵をかけ、カーテンを引く。ほっと息をついたまさに、その直後。
〇〇の後頭部に、ごつりと硬い塊が押し当てられた。鉄のような冷たさがぶわっと鳥肌を起こして、瞬く間に全身へと広がった。
「だ、誰……」
急速に喉が渇いていく。〇〇は囁くような声で問い、全神経を背後に集めた。
「ばーん」
〇〇の耳に吹き込まれたのは、気の抜ける発砲音だった。
瞬間、どっと疲れに襲われた〇〇は掴んでいたカーテンに体重を預けた。破けようがあたしの知ったことか。
恨めしげに振り返った先では、案の定。チェシャ猫が悪戯成功とばかりに、にんまりして立っていた。
「駄目じゃん。外だけじゃなくて、ちゃんと部屋の中まで確認しなきゃ。誰がいるかもわかんないだろ?」
「……バルコニーから入ってくるなんて非常識、誰が想定するよ」
ボリス=エレイの手には本物の銃が握られていた。撃つ気がないとはいえ、なんと性質の悪い悪戯だ。
驚いて損した、とボリスをじとりと睨む。安堵を悟られるのはちょっと癪だった。
心臓の爆走は一時的なものだったため、もう治まりそうだった。
〇〇はレースカーテン越しに、窓の外を見下ろした。駆け足で忙しなく動き回る、兵士達の姿。
「なんか面白いものでも見えんの?」とボリスが背中にぴたりと寄り添ってきた。
外の様子から目を離さないまま、〇〇は尋ねた。
「ボリス…。アナタ、ひょっとして彼らとスリル満点の追いかけっこをしてる最中なんじゃないの?」
遊園地の居候が、ハートの城に。では、城中を騒がせている侵入者の正体とは?――この状況がすべてを物語っている。
〇〇の肩に顎を乗せてじゃれつきながら、ボリスは事もなげに言った。
「だって、最近全然会えねーんだもん。ハートの城にいるっていうからさ、会いたくなって来ちゃった」
そんな軽いノリで侵入されては、ハートの城もたまったものではない。
が、そんな事情は余所者には関係なかった。〇〇は嬉々として振り返ると、
「アリス?」
「……あのさー、話聞いてた?俺が会いたかったのはあんただよ、あんた」
途端、〇〇のテンションは急激ダウン。瞳の煌めきは一瞬にして失せた。
「へえ。物好きだな」
淡々と感想を述べる。せっかく危険を顧みず会いに来るんならアリスにしろよ、アリスに。
まさか〇〇が喜ぶとは思わなかったのだろうが、望んだ反応でもなかったらしい。ボリスはつまらなさそうに身体を離した。
ふらりと歩いた先にあったベッドに倒れ込んで「ぁー…」と唸る猫を見て、〇〇は首を傾げた。
「そういえば、なんでここがあたしの部屋だってわかったんだ?」
「……アリスに聞いた。ていうか、俺にはなんの突っ込みも入れてくれないのかよ。さらにダメージ食らうんだけど」
最初の一文以外はぼそぼそと呟くようで聞き取れなかった。
まあいい。とりあえず重要なのはアリスのことだ。
アリスに聞いたということは、ここに来るより先に彼女を訪ねたということで。
それを知るとなんだかすっきりしてしまって、〇〇は「そっか」と満面の笑みを浮かべるのであった。