踏み荒らしたい境界線
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塵も積もれば山となるというように、いくら綺麗にしていても、日を重ねれば掃除の必要なところが出てくる。
広大な敷地を有するハートの城。
一日かけて散策するのも楽しいかもしれない城内は、それこそ細かいところを気にかければきりがない。
(でも、一度気になるとなーんか放っておけなくなるんだよなー)
と、この日もまた〇〇は仕事に勤しんでいた。仕事といっても、やろうと思えば誰でもできる内容だ。
給料泥棒にはなりたくないので、報酬分はきちんと働いているつもりである。
つい先ほど食器を磨く手伝いを済ませたところで、次は外に出て草むしりでもしようかと考えていた。
まあそことて、庭師(というか兵士達)が抜かりなく手入れをしているのかもしれないが。
〇〇は決して几帳面というわけではなく、結構おおざっぱな性格である。
が、細かい作業はわりと好きで、しかもそれが仕事であれば積極的に重箱の隅にまで目を配ろうとしてしまう。
別に粗探しじゃないんだからな、と誰にともなく弁解しつつ、〇〇は廊下を歩いていた。
すると、後ろから女性の声で呼び止められた。
「あ、ビバルディ」
「相変わらず熱心に働いておるようじゃな」
ビバルディは満足げに仕事着の〇〇を眺めると、軽く手を振って供の兵士を下がらせた。
挨拶を交わすだけでなく、込み入った話でもあるのだろうか。
「なにかあたしに用?」
その問い方がそっけなさすぎたのか、彼女はムッとして眉を吊り上げた。
「用がなくてはおまえに話しかけてはならぬのか?」
「あ、いやいや。女王様…ビバルディにお声をかけていただけるなんて光栄の至りです」
〇〇がおどけて取り繕うと、ふんと鼻を鳴らして面白くなさそうにする。
ビバルディは美しい手を伸ばして、〇〇の頬をするすると撫でた。きめの細やかな手の感触は気持ちいい。
が、意図がわからず、〇〇はなにか粗相しただろうかと困惑する。
さらに二人の距離が縮まった。じいと瞳の奥を見透かそうと覗き込む赤に、知らず背中に汗が滲んだ。
「あのー、ビバルディ?」
呼びかけると、色香のある唇がゆっくりと言葉を紡いだ。
「近頃……うっすらとだが、色気が出てきたではないか」
なんだ、あたしのことじゃないのか。緊張を解いて、〇〇は愛想よく笑った。
「へえ。そうなんだ。で、誰が?」
「寝ぼけたことを。〇〇じゃ、他に誰がおる。おまえに触れた男が誰であろうと、わらわはつまらぬぞ」
「そうかあたしか――って……い、色気ぇ?」
無縁な単語とまさかの指摘に、さすがの〇〇も内心動揺した。あたしのことかよ!?
そういえば前に一度、色気がどうのと言われたことがあった。あのときは風邪の名残が周りにそう思わせたのだ。
しかし現在、〇〇は完璧な健康体である。あのときの言い訳は通用しない。心当たりといえば、風邪とは異なる明確な事情がこちらには存在していた。
(え、なに。アレってやったら周囲にわかっちゃうもんなの?)
ひょっとして無自覚の“変化”がこの身に起こっているのか。
静かに混乱する〇〇を見つめて一転、ビバルディは機嫌のよさそうな笑みを口元に飾った。
「ふふ、わらわとて同じ女。それとなく察してしまうものよ」
そういうものなのだろうか。同性の勘だというのなら…アリスにも?それが事実なら、あまり好ましくない事態だ。
ブラアリに亀裂を入れてしまうようなことにでもなれば、まったくもっていただけない。
お互いがゲームの一環だと割り切った関係も、アリスの目にどう映るか知れたものではない。まさかのメロドラマに発展しようものなら、あたしは即刻退場させてもらうぞ。
さらなる思考に沈もうとする〇〇だったが、ビバルディがそれを許さなかった。
「それで、何処の誰がおまえに触れたのだ。当然、役持ちの誰かであろう?」
なんともストレートな探りを入れてくる。心なしか瞳が輝いているような。
年頃の娘が顔を寄せ合ってお喋りに興じる、そんな光景が〇〇の脳裏を過ぎった。
ハートの女王とガールズトーク。ハードルの高さに早くも戦意喪失だ。
(ビバルディになら、別に話しても支障はない、か…?)
彼女がむやみに口外する人間でないことは確かである。
ああ、これがアリスの話題であれば、一緒になって盛り上がっただろうに。〇〇は思った。
そっち系の話題に乗れないこともないが、生贄が自分のあれこれになると話は別であった。
「聞いても、これっぽっちも面白くないと思うんだけど…」
「面白いか面白くないかはわらわが決める。おまえは包み隠さず、ありのままを語ればよい」
「……」
完全に逃げ道を断たれた。〇〇は大きく溜め息をつき、最後の抵抗とばかりに、
「ほら、あたしはまだ一応仕事中の身だし、ね?」
「では、その仕事内容を変更しよう。これで心置きなくわらわの相手をしてくれるな?」
雇い主のご命令とあらば、従わないわけにもいかず。
仕事が済んでから、という短い猶予もこうしてばっさりと切り捨てられてしまった。
淡い期待すらこうも消し去られてしまうと、もういいやと開き直るしかないじゃないか。
(……ま、話してビバルディの気が済むなら)
と、〇〇が頷いて承諾を示そうとしたそのとき、有事を知らせる慌ただしさが二人のもとにやってきた。
「陛下……っ!」
駆けつけたのは、ビバルディが下がらせた兵士達のようだった。
明らかに急用らしいのに、お喋りを中断させられた女王の不機嫌さが彼らを言い淀ませた。
「わらわと〇〇の憩いを邪魔するとは…。相応の覚悟あってのことであろうな?」
「も、申し訳ございません!」
「し、しかし陛下…!」
職務をまっとうしたにもかかわらず我が身に降りかかるであろう悲劇に、彼らの顔色はすでに棺桶に片足を突っ込んでいる。
蛇に睨まれた蛙となった役なしカードらが哀れで、〇〇はつい口を出していた。
「まあまあ、ビバルディ。落ち着いて。彼らだって悪気があったわけじゃないんだから、な?」
取り成すように〇〇がのんびり言ったことで、場の緊張感がいくらか解れた。
今にも声高らかに斬首を言い渡すかに思えたビバルディは、〇〇を見て、ふっと表情を和らげた。
「…こやつらの首をはねようとも構わないという顔をしておきながら、やはりおまえは甘いのう」
「えっ、そんな顔してた?」
〇〇は思わず自分の顔に手をやった。
ビバルディはますますおかしそうに笑った。かと思うと、すっと表情を引き締め、兵士らに向き直る。女王に応えて、彼らもすぐさま姿勢を正して踵を揃えた。
「陛下、何者かが敷地内に侵入したとの報告が入りました」
兵士の一人が固い口調で告げると、女王は視線を険しくした。
「先ほどから騒々しいのはそのせいか…」
なるほど周囲を探れば、確かに物々しい雰囲気が漂っていた。
ビバルディは「まったく…役立たずの兵士どもめ」と忌々しそうに呟いた。
「侵入者……賊ってこと?」
〇〇も笑顔を引っ込めて神妙な顔になる。
城の厳重な警備の目を掻い潜って侵入したのだ、相手は結構な手練ではないのか。
単独か、複数か。どちらにせよ、厄介なことになったものだ。
〇〇の独り言を耳にしたのだろう、ビバルディは〇〇の頬に手を添えて視線を合わさせた。
泰然とした女王に焦りなど微塵もなく、艶を帯びた余裕のある声で微笑んだ。
「安心おし。なにを目的でやってきたにしろ、おまえには一切手出しをさせはせぬ」
「あ、いや、あたしのことは心配いらないからさ。アナタは早く戻ったほうがいい」
「…わかった。ならば〇〇、おまえも部屋にお戻り。わらわが行くまで誰も部屋に通さぬようにな」
頬にひとつ唇を落として、ビバルディは兵士を従えて颯爽と去っていった。
その背を見送った〇〇もまた、自室を目指して歩き出した。
柔らかな唇が触れた頬を押さえて、軽く笑う。
常々かっこいい女性だと思っていたが、優美な仕草はやはり男顔負けである。
広大な敷地を有するハートの城。
一日かけて散策するのも楽しいかもしれない城内は、それこそ細かいところを気にかければきりがない。
(でも、一度気になるとなーんか放っておけなくなるんだよなー)
と、この日もまた〇〇は仕事に勤しんでいた。仕事といっても、やろうと思えば誰でもできる内容だ。
給料泥棒にはなりたくないので、報酬分はきちんと働いているつもりである。
つい先ほど食器を磨く手伝いを済ませたところで、次は外に出て草むしりでもしようかと考えていた。
まあそことて、庭師(というか兵士達)が抜かりなく手入れをしているのかもしれないが。
〇〇は決して几帳面というわけではなく、結構おおざっぱな性格である。
が、細かい作業はわりと好きで、しかもそれが仕事であれば積極的に重箱の隅にまで目を配ろうとしてしまう。
別に粗探しじゃないんだからな、と誰にともなく弁解しつつ、〇〇は廊下を歩いていた。
すると、後ろから女性の声で呼び止められた。
「あ、ビバルディ」
「相変わらず熱心に働いておるようじゃな」
ビバルディは満足げに仕事着の〇〇を眺めると、軽く手を振って供の兵士を下がらせた。
挨拶を交わすだけでなく、込み入った話でもあるのだろうか。
「なにかあたしに用?」
その問い方がそっけなさすぎたのか、彼女はムッとして眉を吊り上げた。
「用がなくてはおまえに話しかけてはならぬのか?」
「あ、いやいや。女王様…ビバルディにお声をかけていただけるなんて光栄の至りです」
〇〇がおどけて取り繕うと、ふんと鼻を鳴らして面白くなさそうにする。
ビバルディは美しい手を伸ばして、〇〇の頬をするすると撫でた。きめの細やかな手の感触は気持ちいい。
が、意図がわからず、〇〇はなにか粗相しただろうかと困惑する。
さらに二人の距離が縮まった。じいと瞳の奥を見透かそうと覗き込む赤に、知らず背中に汗が滲んだ。
「あのー、ビバルディ?」
呼びかけると、色香のある唇がゆっくりと言葉を紡いだ。
「近頃……うっすらとだが、色気が出てきたではないか」
なんだ、あたしのことじゃないのか。緊張を解いて、〇〇は愛想よく笑った。
「へえ。そうなんだ。で、誰が?」
「寝ぼけたことを。〇〇じゃ、他に誰がおる。おまえに触れた男が誰であろうと、わらわはつまらぬぞ」
「そうかあたしか――って……い、色気ぇ?」
無縁な単語とまさかの指摘に、さすがの〇〇も内心動揺した。あたしのことかよ!?
そういえば前に一度、色気がどうのと言われたことがあった。あのときは風邪の名残が周りにそう思わせたのだ。
しかし現在、〇〇は完璧な健康体である。あのときの言い訳は通用しない。心当たりといえば、風邪とは異なる明確な事情がこちらには存在していた。
(え、なに。アレってやったら周囲にわかっちゃうもんなの?)
ひょっとして無自覚の“変化”がこの身に起こっているのか。
静かに混乱する〇〇を見つめて一転、ビバルディは機嫌のよさそうな笑みを口元に飾った。
「ふふ、わらわとて同じ女。それとなく察してしまうものよ」
そういうものなのだろうか。同性の勘だというのなら…アリスにも?それが事実なら、あまり好ましくない事態だ。
ブラアリに亀裂を入れてしまうようなことにでもなれば、まったくもっていただけない。
お互いがゲームの一環だと割り切った関係も、アリスの目にどう映るか知れたものではない。まさかのメロドラマに発展しようものなら、あたしは即刻退場させてもらうぞ。
さらなる思考に沈もうとする〇〇だったが、ビバルディがそれを許さなかった。
「それで、何処の誰がおまえに触れたのだ。当然、役持ちの誰かであろう?」
なんともストレートな探りを入れてくる。心なしか瞳が輝いているような。
年頃の娘が顔を寄せ合ってお喋りに興じる、そんな光景が〇〇の脳裏を過ぎった。
ハートの女王とガールズトーク。ハードルの高さに早くも戦意喪失だ。
(ビバルディになら、別に話しても支障はない、か…?)
彼女がむやみに口外する人間でないことは確かである。
ああ、これがアリスの話題であれば、一緒になって盛り上がっただろうに。〇〇は思った。
そっち系の話題に乗れないこともないが、生贄が自分のあれこれになると話は別であった。
「聞いても、これっぽっちも面白くないと思うんだけど…」
「面白いか面白くないかはわらわが決める。おまえは包み隠さず、ありのままを語ればよい」
「……」
完全に逃げ道を断たれた。〇〇は大きく溜め息をつき、最後の抵抗とばかりに、
「ほら、あたしはまだ一応仕事中の身だし、ね?」
「では、その仕事内容を変更しよう。これで心置きなくわらわの相手をしてくれるな?」
雇い主のご命令とあらば、従わないわけにもいかず。
仕事が済んでから、という短い猶予もこうしてばっさりと切り捨てられてしまった。
淡い期待すらこうも消し去られてしまうと、もういいやと開き直るしかないじゃないか。
(……ま、話してビバルディの気が済むなら)
と、〇〇が頷いて承諾を示そうとしたそのとき、有事を知らせる慌ただしさが二人のもとにやってきた。
「陛下……っ!」
駆けつけたのは、ビバルディが下がらせた兵士達のようだった。
明らかに急用らしいのに、お喋りを中断させられた女王の不機嫌さが彼らを言い淀ませた。
「わらわと〇〇の憩いを邪魔するとは…。相応の覚悟あってのことであろうな?」
「も、申し訳ございません!」
「し、しかし陛下…!」
職務をまっとうしたにもかかわらず我が身に降りかかるであろう悲劇に、彼らの顔色はすでに棺桶に片足を突っ込んでいる。
蛇に睨まれた蛙となった役なしカードらが哀れで、〇〇はつい口を出していた。
「まあまあ、ビバルディ。落ち着いて。彼らだって悪気があったわけじゃないんだから、な?」
取り成すように〇〇がのんびり言ったことで、場の緊張感がいくらか解れた。
今にも声高らかに斬首を言い渡すかに思えたビバルディは、〇〇を見て、ふっと表情を和らげた。
「…こやつらの首をはねようとも構わないという顔をしておきながら、やはりおまえは甘いのう」
「えっ、そんな顔してた?」
〇〇は思わず自分の顔に手をやった。
ビバルディはますますおかしそうに笑った。かと思うと、すっと表情を引き締め、兵士らに向き直る。女王に応えて、彼らもすぐさま姿勢を正して踵を揃えた。
「陛下、何者かが敷地内に侵入したとの報告が入りました」
兵士の一人が固い口調で告げると、女王は視線を険しくした。
「先ほどから騒々しいのはそのせいか…」
なるほど周囲を探れば、確かに物々しい雰囲気が漂っていた。
ビバルディは「まったく…役立たずの兵士どもめ」と忌々しそうに呟いた。
「侵入者……賊ってこと?」
〇〇も笑顔を引っ込めて神妙な顔になる。
城の厳重な警備の目を掻い潜って侵入したのだ、相手は結構な手練ではないのか。
単独か、複数か。どちらにせよ、厄介なことになったものだ。
〇〇の独り言を耳にしたのだろう、ビバルディは〇〇の頬に手を添えて視線を合わさせた。
泰然とした女王に焦りなど微塵もなく、艶を帯びた余裕のある声で微笑んだ。
「安心おし。なにを目的でやってきたにしろ、おまえには一切手出しをさせはせぬ」
「あ、いや、あたしのことは心配いらないからさ。アナタは早く戻ったほうがいい」
「…わかった。ならば〇〇、おまえも部屋にお戻り。わらわが行くまで誰も部屋に通さぬようにな」
頬にひとつ唇を落として、ビバルディは兵士を従えて颯爽と去っていった。
その背を見送った〇〇もまた、自室を目指して歩き出した。
柔らかな唇が触れた頬を押さえて、軽く笑う。
常々かっこいい女性だと思っていたが、優美な仕草はやはり男顔負けである。