水に想いを告げる瞳の警鐘
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――次の授業は教室移動だ。顔の見えない友人と別れて、〇〇は賑わいを抜け出した。
教科書を持たない手を気にすることなく、足は別の教室を目指して迷いない。手足とは別人のように頭が言う。あたしは何処へ向かっているんだろう。
懐かしい風通しの良さを足元に感じた。見下ろせばプリーツ、見え隠れする靴下と上履き。これは制服姿だ。
とくん、とくんと響く鼓動が徐々に速さを増していく。
(――知ってる……この“夢”)
高まる期待と恐れ。あたしは知っている。この先にあるものを。ありえない現実を。
今感じている息苦しさは精神的なものだ。夢は肉体を伴わない精神の領域。
全身が圧迫されたように呼吸しづらい。それでも足は独立した他人のように〇〇を運んでいった。
予感に軋む心が目を背けようと呻いた。思うほど、目は瞬きさえ許されなくなった。
顔のない生徒達があっちで笑い、こっちで笑う。
孤立した〇〇は一人廊下を歩き、笑い声を通り越した。次第に声はひとつ減り、ふたつ減り。
そのとき、なにかを感じ取ったように震えた足が立ち止まった。今度は床に張りついたように動けなくなる。
廊下の真ん中に立つ〇〇の横を、いくつかの足音が駆け抜けていく。
そして、固定された視界に映り込む、一塊の集団。
男女交ざり合った彼らは仲良さげに喋り、時に笑い声を立て、こちらに向かって歩いてくる。
これは夢だ。知っている。
これは夢だ。判っている。
暗示を繰り返す。目を閉じることを阻まれ、せめてと顔を俯けた。やがて集団は〇〇の前までやってきた。
(これは夢だ)
不明瞭な話し声が耳を通り抜けて頭を掻き乱す。
(これは、夢)
何本もの足がこちらに見向きもせずに去っていく。
(これは夢……これは……これは、)
―――夢?
集団は後方に消えていった。ひとつの足を残して。
少年の上履きは〇〇の俯く視界の中にはっきりと残っていた。
心臓がばくばくと高鳴る。抗い切れない期待といつも以上に“夢”と認識できる自分の板挟みになり、〇〇は顔を歪めた。
胸が痛い。目頭が熱い。ゆっくりゆっくりと持ち上がる目線が、否応なしに少年の身体を辿らせる。
規定の上履きである紺色のスリッパ、白の靴下、制服のズボン、手、手首にカッターシャツの白、そのシャツのボタンをひとつ、ふたつ、みっつ…。
微笑む口元だけが鮮やかに脳裏に刻まれる。ないはずの記憶は都合のいい捏造だ。
「ナイトメア……ッ!!」
偽りの光景を切り裂くように叫ぶとほぼ同時に、するりと背後に寄り添った影が〇〇に腕を回した。
片手のひらで両目を奪い、もう一方で身体を抱く。
目の前の少年が発するものと思しき声は、耳朶の裏側に唇を当てるように話しかける声によって隠された。
「君は案外強情なんだな。もっと早くに私を呼ぶこともできたはずなのに」
「…単にアナタの存在を忘れてただけ」
「はは…それが本当なら寂しいよ」
その言葉は嘘を見抜いた人間特有の優しい響きを持っていた。
ひんやりと覆われた手の中で〇〇は目蓋を下ろした。いつの間にか夢魔に抱きかかえられるようにして浮遊していた。
「いつから、見てた?」
「ずっとだ。ここは夢魔である私の領域だから、君の夢の始まりには常に立ち会える」
「領域…。じゃあ、あれもアナタが見せたってこと?」
そうであってほしいと願う気持ちを見透かすように、ナイトメアは期待を裏切った。
「いいや。夢の内容を決めるのは君の心…あれは君自身が望んで作り出した光景だ」
だとすれば、未練がましくて救いようがない。戻りたいと望むわけでもない学校風景を繰り返し夢見てしまうのは、たったひとりの存在が切り離せないから。
ナイトメアはすべてを知っている。そう伝えるのは未だ〇〇を包み込んでいる腕だ。心の細部まで暴くようでいて、守られているようでもあった。
「〇〇。君の悪夢はとても甘い。甘くて…苦くて、煩わしい痛みで出来ている。そして、」
「どんなに足掻いたって、振り切れない」
目を塞いでいた手のひらはそっと下がり、鼻筋を伝い、言葉を導く手つきで静かに〇〇の唇を撫でた。
「抜け出したい?その場凌ぎでも構わないのなら、私が連れ出してあげよう」
〇〇は離れ難く思う気持ちを抑え込み、答えた。
「連れて、いって。ここにいるより、ナイトメアと二人でいるあの空間がいい」
「――私もだよ」
ナイトメアは薄く微笑んだ。
直接心を読むよりも遥かにこの場所は〇〇の心が伝わってくるようで、それが妙に苛立たせる。
私には読めない君の心が野晒しにされた此処は、なんてもどかしいんだろう。
この悪夢に存在していいのは、君と、あの少年だけだとでもいうように。
教科書を持たない手を気にすることなく、足は別の教室を目指して迷いない。手足とは別人のように頭が言う。あたしは何処へ向かっているんだろう。
懐かしい風通しの良さを足元に感じた。見下ろせばプリーツ、見え隠れする靴下と上履き。これは制服姿だ。
とくん、とくんと響く鼓動が徐々に速さを増していく。
(――知ってる……この“夢”)
高まる期待と恐れ。あたしは知っている。この先にあるものを。ありえない現実を。
今感じている息苦しさは精神的なものだ。夢は肉体を伴わない精神の領域。
全身が圧迫されたように呼吸しづらい。それでも足は独立した他人のように〇〇を運んでいった。
予感に軋む心が目を背けようと呻いた。思うほど、目は瞬きさえ許されなくなった。
顔のない生徒達があっちで笑い、こっちで笑う。
孤立した〇〇は一人廊下を歩き、笑い声を通り越した。次第に声はひとつ減り、ふたつ減り。
そのとき、なにかを感じ取ったように震えた足が立ち止まった。今度は床に張りついたように動けなくなる。
廊下の真ん中に立つ〇〇の横を、いくつかの足音が駆け抜けていく。
そして、固定された視界に映り込む、一塊の集団。
男女交ざり合った彼らは仲良さげに喋り、時に笑い声を立て、こちらに向かって歩いてくる。
これは夢だ。知っている。
これは夢だ。判っている。
暗示を繰り返す。目を閉じることを阻まれ、せめてと顔を俯けた。やがて集団は〇〇の前までやってきた。
(これは夢だ)
不明瞭な話し声が耳を通り抜けて頭を掻き乱す。
(これは、夢)
何本もの足がこちらに見向きもせずに去っていく。
(これは夢……これは……これは、)
―――夢?
集団は後方に消えていった。ひとつの足を残して。
少年の上履きは〇〇の俯く視界の中にはっきりと残っていた。
心臓がばくばくと高鳴る。抗い切れない期待といつも以上に“夢”と認識できる自分の板挟みになり、〇〇は顔を歪めた。
胸が痛い。目頭が熱い。ゆっくりゆっくりと持ち上がる目線が、否応なしに少年の身体を辿らせる。
規定の上履きである紺色のスリッパ、白の靴下、制服のズボン、手、手首にカッターシャツの白、そのシャツのボタンをひとつ、ふたつ、みっつ…。
微笑む口元だけが鮮やかに脳裏に刻まれる。ないはずの記憶は都合のいい捏造だ。
「ナイトメア……ッ!!」
偽りの光景を切り裂くように叫ぶとほぼ同時に、するりと背後に寄り添った影が〇〇に腕を回した。
片手のひらで両目を奪い、もう一方で身体を抱く。
目の前の少年が発するものと思しき声は、耳朶の裏側に唇を当てるように話しかける声によって隠された。
「君は案外強情なんだな。もっと早くに私を呼ぶこともできたはずなのに」
「…単にアナタの存在を忘れてただけ」
「はは…それが本当なら寂しいよ」
その言葉は嘘を見抜いた人間特有の優しい響きを持っていた。
ひんやりと覆われた手の中で〇〇は目蓋を下ろした。いつの間にか夢魔に抱きかかえられるようにして浮遊していた。
「いつから、見てた?」
「ずっとだ。ここは夢魔である私の領域だから、君の夢の始まりには常に立ち会える」
「領域…。じゃあ、あれもアナタが見せたってこと?」
そうであってほしいと願う気持ちを見透かすように、ナイトメアは期待を裏切った。
「いいや。夢の内容を決めるのは君の心…あれは君自身が望んで作り出した光景だ」
だとすれば、未練がましくて救いようがない。戻りたいと望むわけでもない学校風景を繰り返し夢見てしまうのは、たったひとりの存在が切り離せないから。
ナイトメアはすべてを知っている。そう伝えるのは未だ〇〇を包み込んでいる腕だ。心の細部まで暴くようでいて、守られているようでもあった。
「〇〇。君の悪夢はとても甘い。甘くて…苦くて、煩わしい痛みで出来ている。そして、」
「どんなに足掻いたって、振り切れない」
目を塞いでいた手のひらはそっと下がり、鼻筋を伝い、言葉を導く手つきで静かに〇〇の唇を撫でた。
「抜け出したい?その場凌ぎでも構わないのなら、私が連れ出してあげよう」
〇〇は離れ難く思う気持ちを抑え込み、答えた。
「連れて、いって。ここにいるより、ナイトメアと二人でいるあの空間がいい」
「――私もだよ」
ナイトメアは薄く微笑んだ。
直接心を読むよりも遥かにこの場所は〇〇の心が伝わってくるようで、それが妙に苛立たせる。
私には読めない君の心が野晒しにされた此処は、なんてもどかしいんだろう。
この悪夢に存在していいのは、君と、あの少年だけだとでもいうように。