掬われた足に気づかない
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「二人とも、まさかこのままなにもせず帰るってわけじゃないだろう?最近また新しいやつが出来たんだ、よかったら楽しんでいってくれ」
一段落ついたところで、ゴーランドの案内で新アトラクションのある場所に向かうことになった。
本調子にあと一息届かない理由であるだるさも、誰かと一緒にいることでいくらか紛れた。
だが、新にしても旧にしても、今日のところはアトラクションは勘弁してもらおう。〇〇は早くも風邪の名残を免罪符にすることを決めていた。
遊具がスローで安全性抜群なら、考えないこともないのだが。
そうして歩いているうちにあることに気がついた。会話の合間合間にアリスの目が園内を見渡すのである。
「アリス。なにか探しもの?」
尋ねると「ええ…まあ」と曖昧な頷きが返ってきた。
道すがらに探すだけでいいのだろうかと思ったが、口出しするのも差し出がましい。
〇〇は「そう」と相槌を打つに留めた。もし手助けが必要なら彼女から求めるだろう。
言及しない〇〇にアリスは些か拍子抜けしたようだった。話が尻切れになることしばし、彼女のほうから話し出した。
聞くところによると、今日はアリス一人で遊園地に来たのではないという。探しているのはディーとダムだった。
敵地に敵対勢力の人間がいるのは厄介といえば厄介だが…。
「だけど、双子が遊びに来るのはいつものことだ。きっと猫と遊んでるんだろうし、大丈夫なんじゃないの?」
「私もそう思う。…問題はそこじゃないのよ」
では、なにが問題なのか。さすがにここまで聞いては気になるというもの。
〇〇は花束を持ち直し、聞く姿勢を整える。
アリスは先導するゴーランドの背中を気にする素振りを見せた後、小さく手招きをして〇〇の耳に声を落として囁いた。
「実は、一緒に来たのはディーとダムだけじゃないの。どんな用事があるのか私も聞いてないんだけど、もう一人、遊園地に似合わない人が…」
言い終わらないうちに、囁きは一際大きな声に遮られた。前方を行くオーナーがある人物を発見したのだ。
そこにいたのはまさに陽気な場にそぐわない、活気もなければ物憂ささえ窺わせる一人の男。
「帽子屋じゃねえか!自ら遊園地に赴くとは珍しいな。いったい今日はどんな用向きだ?」
アリスの肩が落ちた。ああ、と溜め息をつきたそうに片手を額に当てる。
もはや理解した〇〇はなるほどなと華奢な肩を慰めた。
“遊園地に似合わない”男は歩み寄るゴーランドにふんと笑った。
「そちらから招いておきながら、随分な言い草じゃないか。この私が出向いてやったんだぞ?それも、こんな鬱陶しい陽のもとに、わざわざ」
区切って強調する口調は実にふてぶてしい。
ていうか、催し物を開くつもりだったのか。しかも招待して忘れるなんて。〇〇とアリスの目はゴーランドに集中する。
やっちまった、と失念の事実に気まずそうな表情を浮かべる彼は上手に出られない。
反論できない様子を見ていくらか腹の虫が治まったのか。ブラッドはしかたなさそうに肩を竦め、不意にニヤリとした。
「まあいい。足を運んだ客に報いるくらいのもてなしは期待できるんだろうな、メリー…」
「ブラッドっ!!」
アリスの対応は迅速且つ的確だった。彼女は俊敏な身のこなしでブラッドに飛びついた。
避けられるはずの地雷を好んで踏みに行く男はアリスの手に封じられた。
〇〇もまた、地雷の気を逸らすため行動に出ていた。
両手いっぱいの花をなんとか片手で支え、空いた右手を素早く三つ編みへ。
ごめんと心の中で謝りながら、いざバイオレンス。ぎゅむと掴んでぐいっと引っ張れば、野太い悲鳴が上がった。
「だだっ、いで、いででででっ!き、急になんだっつーんだ、〇〇!俺の三つ編みに怨みでもあんのか!?」
「…いや?尊い犠牲になってもらおうかと」
「ぎ、犠牲ぃ?」
昼下がりのホラーを阻止するための、である。
銃の破壊力云々を語られるより、一度の体験がものを言う。百聞は一見にしかず。
ボリスが調子に乗ってゴーランドをからかった末、〇〇は例の危険に巻き添えを食ったことがあった。
いくら刃物より感じる恐怖度が低いといっても、大砲球のように空気を突っ切って飛んでくるのだ。生命の危機を感じないほうがおかしい。
アリスは何度あれを味わったか知らないが、場数を踏んでいるに違いない。賢明な回避選択に涙したいくらいだ。
二人の余所者による連携プレーが功を奏し、今回はなんとか事無きを得た。
積極的だなお嬢さんと口から手を外させるブラッドと、若干涙目で髪の生え際を摩るゴーランド。
――さて。お約束なら、一難去ればまた一難。今度こそ〇〇の歓迎するところが来るはずである。
この顔触れでVSにならずしてなんのためのキャスティングだ。
期待に弾む胸を押し込めて、次の展開を待ち構える。
動くのはゴーランドかブラッドか。どちらにしても楽しめるだろうから、どちらでもいい。
碧眼がちろりと〇〇を舐めたのは、そんなことを思ったときだった。
(なんだ……?)
絡みついた瞳はあっさり解けたが、〇〇の頭に疑問符をひとつ残した。
ブラッドはなにもなかったように、アリスに話しかけた。
「ところでお嬢さん。我らが門番達が君のことを探していたようだが…」
「えっ、そうなの?」
アリスが驚いた声を返す。言うのが遅いという非難を込めて。
ブラッドは「ああ」と我関せずという顔で頷くと、
「そうだな…仮にも私達にとって敵対する者の領土だ。会いに行くなら、粗相のないように君が見てやっていてくれないか」
「――、しょうがないわね」
アリスは文句を飲み込んで、溜め息で承諾を示した。
ブラッドが自ら彼らを見張るなどとは、もとより期待していないのが丸わかりだった。
「ゴーランド。そういうわけだから、私はまた後で楽しませてもらうわ」
「そうか?本当は俺直々のガイド付きで楽しんでもらいたかったんだけどな…」
(え。なんでそんなあっさり?)
VSが勃発するどころか、アリスが掻っ攫われるのを(少し違うが)少しも止めようとしないなんて。
期待外れまくりの展開に内心肩を落とす。が、諦めない。
アリスが行くならあたしも、と思うのに、彼女は〇〇に目配せをした。…二人をよろしくだって?
軽く挨拶をして背を向けるアリスに、〇〇は「いや無理無理」と手早く断りを入れて付き添おうとした。
それを引き止めたのがゴーランドだ。待てよと慌てて肩を引かれ、揺れた腕の中から小さな花びらが舞った。
タイミングを誤る邪魔者に、強烈な蹴りひとつ分ほどの他愛のない衝動が湧いたとしても〇〇の罪にあらず。
「なんで“あたし”を止めるんだ。違うよな、完璧間違ってるよな?」
「なに怒ってんだ…?心配いらねえよ。アリスがいなくても、ちゃんとあんたには案内してやるって」
要らんわ。なにもかもセンス並みにズレた反応してくれやがって。
花束の出来を褒めたことなど遠い過去になっていた。これ、叩き返すか?いや花に罪はない。喜んだことは事実として残しておこう。
なんにせよ、アリスがいなくては総崩れである。
残ったのはキレるとヤバイ遊園地のオーナーに、暇潰しと言ってなにをやらかすかわからない物騒なマフィアのボス。
誰だこんなメンバーを揃えたのは。華であり中和剤である彼女がいなくなった今、まったく面倒としか言いようがない!
とにかく落ち着けと、まずは平静を自身に呼びかけた。
完全には調子を取り戻していない心身に負担を強いるものではない。
こうなっては、一刻も早く暇を告げるのがベストだろう。本格的なトラブルが起こらないうちに。
(ごめんアリス。あたしは逃げるよ)
一段落ついたところで、ゴーランドの案内で新アトラクションのある場所に向かうことになった。
本調子にあと一息届かない理由であるだるさも、誰かと一緒にいることでいくらか紛れた。
だが、新にしても旧にしても、今日のところはアトラクションは勘弁してもらおう。〇〇は早くも風邪の名残を免罪符にすることを決めていた。
遊具がスローで安全性抜群なら、考えないこともないのだが。
そうして歩いているうちにあることに気がついた。会話の合間合間にアリスの目が園内を見渡すのである。
「アリス。なにか探しもの?」
尋ねると「ええ…まあ」と曖昧な頷きが返ってきた。
道すがらに探すだけでいいのだろうかと思ったが、口出しするのも差し出がましい。
〇〇は「そう」と相槌を打つに留めた。もし手助けが必要なら彼女から求めるだろう。
言及しない〇〇にアリスは些か拍子抜けしたようだった。話が尻切れになることしばし、彼女のほうから話し出した。
聞くところによると、今日はアリス一人で遊園地に来たのではないという。探しているのはディーとダムだった。
敵地に敵対勢力の人間がいるのは厄介といえば厄介だが…。
「だけど、双子が遊びに来るのはいつものことだ。きっと猫と遊んでるんだろうし、大丈夫なんじゃないの?」
「私もそう思う。…問題はそこじゃないのよ」
では、なにが問題なのか。さすがにここまで聞いては気になるというもの。
〇〇は花束を持ち直し、聞く姿勢を整える。
アリスは先導するゴーランドの背中を気にする素振りを見せた後、小さく手招きをして〇〇の耳に声を落として囁いた。
「実は、一緒に来たのはディーとダムだけじゃないの。どんな用事があるのか私も聞いてないんだけど、もう一人、遊園地に似合わない人が…」
言い終わらないうちに、囁きは一際大きな声に遮られた。前方を行くオーナーがある人物を発見したのだ。
そこにいたのはまさに陽気な場にそぐわない、活気もなければ物憂ささえ窺わせる一人の男。
「帽子屋じゃねえか!自ら遊園地に赴くとは珍しいな。いったい今日はどんな用向きだ?」
アリスの肩が落ちた。ああ、と溜め息をつきたそうに片手を額に当てる。
もはや理解した〇〇はなるほどなと華奢な肩を慰めた。
“遊園地に似合わない”男は歩み寄るゴーランドにふんと笑った。
「そちらから招いておきながら、随分な言い草じゃないか。この私が出向いてやったんだぞ?それも、こんな鬱陶しい陽のもとに、わざわざ」
区切って強調する口調は実にふてぶてしい。
ていうか、催し物を開くつもりだったのか。しかも招待して忘れるなんて。〇〇とアリスの目はゴーランドに集中する。
やっちまった、と失念の事実に気まずそうな表情を浮かべる彼は上手に出られない。
反論できない様子を見ていくらか腹の虫が治まったのか。ブラッドはしかたなさそうに肩を竦め、不意にニヤリとした。
「まあいい。足を運んだ客に報いるくらいのもてなしは期待できるんだろうな、メリー…」
「ブラッドっ!!」
アリスの対応は迅速且つ的確だった。彼女は俊敏な身のこなしでブラッドに飛びついた。
避けられるはずの地雷を好んで踏みに行く男はアリスの手に封じられた。
〇〇もまた、地雷の気を逸らすため行動に出ていた。
両手いっぱいの花をなんとか片手で支え、空いた右手を素早く三つ編みへ。
ごめんと心の中で謝りながら、いざバイオレンス。ぎゅむと掴んでぐいっと引っ張れば、野太い悲鳴が上がった。
「だだっ、いで、いででででっ!き、急になんだっつーんだ、〇〇!俺の三つ編みに怨みでもあんのか!?」
「…いや?尊い犠牲になってもらおうかと」
「ぎ、犠牲ぃ?」
昼下がりのホラーを阻止するための、である。
銃の破壊力云々を語られるより、一度の体験がものを言う。百聞は一見にしかず。
ボリスが調子に乗ってゴーランドをからかった末、〇〇は例の危険に巻き添えを食ったことがあった。
いくら刃物より感じる恐怖度が低いといっても、大砲球のように空気を突っ切って飛んでくるのだ。生命の危機を感じないほうがおかしい。
アリスは何度あれを味わったか知らないが、場数を踏んでいるに違いない。賢明な回避選択に涙したいくらいだ。
二人の余所者による連携プレーが功を奏し、今回はなんとか事無きを得た。
積極的だなお嬢さんと口から手を外させるブラッドと、若干涙目で髪の生え際を摩るゴーランド。
――さて。お約束なら、一難去ればまた一難。今度こそ〇〇の歓迎するところが来るはずである。
この顔触れでVSにならずしてなんのためのキャスティングだ。
期待に弾む胸を押し込めて、次の展開を待ち構える。
動くのはゴーランドかブラッドか。どちらにしても楽しめるだろうから、どちらでもいい。
碧眼がちろりと〇〇を舐めたのは、そんなことを思ったときだった。
(なんだ……?)
絡みついた瞳はあっさり解けたが、〇〇の頭に疑問符をひとつ残した。
ブラッドはなにもなかったように、アリスに話しかけた。
「ところでお嬢さん。我らが門番達が君のことを探していたようだが…」
「えっ、そうなの?」
アリスが驚いた声を返す。言うのが遅いという非難を込めて。
ブラッドは「ああ」と我関せずという顔で頷くと、
「そうだな…仮にも私達にとって敵対する者の領土だ。会いに行くなら、粗相のないように君が見てやっていてくれないか」
「――、しょうがないわね」
アリスは文句を飲み込んで、溜め息で承諾を示した。
ブラッドが自ら彼らを見張るなどとは、もとより期待していないのが丸わかりだった。
「ゴーランド。そういうわけだから、私はまた後で楽しませてもらうわ」
「そうか?本当は俺直々のガイド付きで楽しんでもらいたかったんだけどな…」
(え。なんでそんなあっさり?)
VSが勃発するどころか、アリスが掻っ攫われるのを(少し違うが)少しも止めようとしないなんて。
期待外れまくりの展開に内心肩を落とす。が、諦めない。
アリスが行くならあたしも、と思うのに、彼女は〇〇に目配せをした。…二人をよろしくだって?
軽く挨拶をして背を向けるアリスに、〇〇は「いや無理無理」と手早く断りを入れて付き添おうとした。
それを引き止めたのがゴーランドだ。待てよと慌てて肩を引かれ、揺れた腕の中から小さな花びらが舞った。
タイミングを誤る邪魔者に、強烈な蹴りひとつ分ほどの他愛のない衝動が湧いたとしても〇〇の罪にあらず。
「なんで“あたし”を止めるんだ。違うよな、完璧間違ってるよな?」
「なに怒ってんだ…?心配いらねえよ。アリスがいなくても、ちゃんとあんたには案内してやるって」
要らんわ。なにもかもセンス並みにズレた反応してくれやがって。
花束の出来を褒めたことなど遠い過去になっていた。これ、叩き返すか?いや花に罪はない。喜んだことは事実として残しておこう。
なんにせよ、アリスがいなくては総崩れである。
残ったのはキレるとヤバイ遊園地のオーナーに、暇潰しと言ってなにをやらかすかわからない物騒なマフィアのボス。
誰だこんなメンバーを揃えたのは。華であり中和剤である彼女がいなくなった今、まったく面倒としか言いようがない!
とにかく落ち着けと、まずは平静を自身に呼びかけた。
完全には調子を取り戻していない心身に負担を強いるものではない。
こうなっては、一刻も早く暇を告げるのがベストだろう。本格的なトラブルが起こらないうちに。
(ごめんアリス。あたしは逃げるよ)