掬われた足に気づかない
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「そうだ、ちょっとここで待っててくれ。な、すぐ戻ってくっから!」
そう言ってどこかに行ってしまったゴーランドを、そこらに腰かけて待つことにした。
〇〇はほうと息をつく。見上げた空は遠く青い。
完全復活を宣言するには、まだだるさが身体の奥に溜まっていた。あと二回も眠れば取れるだろうか。
この体調に甘んじてしまう前に少しは動いたほうがいいだろうと外に出てきたのだが、歩くだけでもう十分だった。
普段の体力のなさに磨きがかかっている。
「あー…なーんか、だるー…」
眠気はないがごろりと縁側に横たわりたい気分だ。
猫になって伸びていたい。ピンクでパンクな猫みたいなのじゃなくて、本物の三毛猫がいいなあ。
ならば時計塔に戻って眠ればいいじゃないかと思われるかもしれない。
しかし、時は金なり。無為に過ごすわけにはいかない。いつ何時おいしい場面が発生するかもしれないのだから。
そう、この世界での存在意義はただひとつ。〇〇が時間の浪費を惜しむ理由は――「アリス!」
曇り空にぱっと陽が差したように気分が一気に切り替わった。
思いどおりにいかない事態への対処も、彼女に会うための試練と思えば乗り越えられる。…この考え方はどこぞのウサギさんに似ていないか?
〇〇が重たい腰をすっくと上げると、呼び声に気づいたアリスのほうから駆け寄ってきてくれた。
「〇〇!よかった、もう外に出て大丈夫なのね」
「うん。アリスに会うためならたとえ這ってでも、ってね」
回復をアピールするつもりで片目を瞑っておどけてみせると、
「それはさすがに怖いわよ。あ、でも〇〇ならやりかねない…」
「アリス…本気にとらなくていいんだよ」
喜ばれるとは思わなかったが、疑いと懸念は何気にショックだ。
実際、娯楽のためなら多少の犠牲は厭わないつもりではいる。
徹底的に楽しみを追求する姿勢が、ひょっとすると真実味を帯びさせたのだろう。
(どうも最近、緩んできてる、かな)
簡単に内面を気取られるとは。気をつけないと要らぬボロまで出しそうだ。
不意に熱視線を感じた〇〇はそちらに焦点を合わせた。
アリスはその綺麗な色の瞳にじっと〇〇を映し、なにかを見極めようとしていた。この展開は、もしかして。
「ねえ、〇〇…」
「なあにアリス?」
「あの……なにかあったり、しないわよね?」
窺うような上目遣いが〇〇の笑みを誘った。
オーナー曰く、今日の自分は“それらしく”見えるらしい。アリスにそう見えたからといって今さら不思議はない。
もっと直接的な言葉を使ってくれても構わないのに、遠慮がちで遠まわしな言い方が微笑ましい。
ゴーランドのあけっぴろげとは大違いだ。ついつい少しからかいたくなってしまう。
「なにって。アリスには“なに”があったように見える?」
「それは、だから、その…」
「ん?」
恥じらいを忘れないことが、女の子として男の目に可愛く映るポイントかもしれない。
アリスを見てなるほどと勉強させてもらった気分だ。
〇〇はたまに男目線、というか役持ち目線でアリスを見るときがある。
とはいえ、もちろん〇〇にはアリス争奪戦に参加する気はない。
安全を確保しつつ観賞するには、突っ込みすぎず、近づきすぎずが一番なのだ。
ゴーランドから始まった話題は、しかし引き延ばして得するようなものではない。
アリスならまだいいが、他の人間の好奇は面倒な事態を生む恐れがある。
こうして否応なしに慎重にならざるを得ない最近の状況を、〇〇は不服に感じていた。
自分は“余所者”の威力を少し侮っていたのかもしれない。
それでも、傍観者の位置から引きずる下ろされるとは、このときはまだ思ってもいなかった。
「もうっ、〇〇、わかって言ってるでしょう?」
「あは、バレた?」
〇〇のちょっとした意地悪に、アリスはやや紅潮した頬で拗ねた顔をしてみせた。
やがて、どちらともなくクスクスと小さな笑みが零れ出す。こういうとき、大人びたアリスが歳相応に見える。
ただ単に冷めた性格のヒロインではないからこそ、〇〇は彼女を気に入っている。
この世界の誰からも愛されるアリス。いずれ意中の相手とも愛し合うようになるだろう。
可能なら、エンディングまで付き合いたい。日増しにそう思う気持ちが強くなる。――密かに〇〇の考えの及ばぬ危惧を伴って。
「だけど本当に…今日の〇〇はいつもとなんだか違うわね」
「それゴーランドにも言われたよ。そんなにあたし、シャキッとしてないかな?」
両腕を広げて、さあご覧あれ。
全身からそこはかとなくだらっとした雰囲気の滲み出る〇〇をアリスはじっくり眺めた。
一人の人間の新たな一面を発見するような、意外性と驚き。
それに気づいたアリスはあっと声を上げて、
「ブラッドだわ!」
「……はい?」
たとえにはまさにこれが的確だとばかりに自信に満ちた声。
ブラッド=デュプレ。現在の話題に飛び入り参加したその名前。
固まる〇〇の耳にアリスの明解な説明が続いた。それを聞くほどに、この脳の処理速度の遅さは無意識の拒否反応のように思えた。
「そのけだるげな雰囲気、ブラッドにそっくりなのよ。あ、マフィアの威圧感は当然あなたにはないんだけど…ちょっと妖しげな感じとか、すごく似てるわ」
「へえー………そうなんだ」
〇〇の口からは一本調子の機械的な呟きが漏れた。おおいに歓迎できない。
身体のだるさはこの身に感じている最中だからよく解る。一方の雰囲気や外見的なそれは、他者でなければ判りづらい。
その点アリスのたとえは画期的な解決策だった。帽子屋ファミリーのボスが纏う独特な空気は想像に易い。
だからといってこの手軽さはありがたくもなんともなかった。
マフィア然とした凄みや鋭さに欠ければ、見かけは怠惰に身を任せたただのぐうたらな人間である。
キャラクター性としては魅力的といえるブラッドの性質。だが、だるだるな人間は二人もいらない。
「…ごめんなさい。私が悪かったから、そんな“終わった”みたいな顔をしないでちょうだい」
アリスが同情的になってしまうほど露骨に表情に出ていたらしい。
確かに褒め言葉じゃなかったわねと反省したアリスは、空気を切り替えようと園内にあるカフェテラスに誘った。
いいねと快諾してから、はたとなにかが〇〇の頭を掠めた。なにか、忘れているような。
そのとき、二人の背後にひとつの駆け足が近づいてきた。
「――待たせたなっ!って、なんだ、アリスも来てたのか」
一足先に振り向いたアリスが途端に目を丸くした。漫画でお馴染みのぽかんと開いた口をここで見られるとは。
視線の端でそれを確認した〇〇も何事かと振り返る、と。
目に飛び込んだ、赤白黄色に薄桃色。カラフルにどぎつい色はなく、優しい色彩の束だった。
持ち主の姿を隠すほどに思えた花の群れの上から、ひょっこりと男くさい顔が覗いた。恐ろしく似合わない、と思ったのはどちらの余所者だったか。
ゴーランドは抱えてきた可憐な花束を、どんと〇〇の腕にそっくり手渡した。
面食らったのは当然渡された人間である。実演することはないと思っていた口ぽかんを見事行う羽目になった。
〇〇は絶対不釣合いな絵ができてる、と自分と花の組み合わせを客観的に思いながら、
「なに、これ?」
「見舞いの花だ。この間は急いでて手ぶらで行っちまったからな。…ま、復帰祝いにでも受け取ってくれよ」
眼鏡を挟んで視線を合わせたゴーランドが照れくさそうに頬を掻く。
〇〇は改めて、顔が埋まりそうなくらい間近にあるそれを見下ろした。
退院祝いでもこれほど豪華なものはしないだろう花束だ。ただし金をかけた華やかさはない。
気遣いが伝わるような、なんとなく優しさを感じさせるセレクト。オーナーらしい。
人生初の見事な花束のプレゼントを、〇〇は素直に喜ぶことにした。たかが風邪だったのになんて口に出すのは野暮である。
「これをわざわざ取りに戻ってくれてたんだ」
「ああ。なかなかのもんだろ?」
得意げに胸を張る様子からも彼が自ら選んでくれたことがわかった。
センスに関してはあまり信用ならない人物だが、これはたいした出来映えだった。
「本当にすごい花束ね。ゴーランドにしては上出来じゃない」
アリスも〇〇の隣で花を眺めつつ、さりげなく評価に辛さを混ぜた。
「俺にしてはって…」という不満げな呟きをスルーしたアリスは、
「ゴーランドったら一言もなく渡すんだから。〇〇にプロポーズでもする気かと思ったわよ」
と言ってゴーランドに意味深な視線を送った。
確かに後付けで説明があったから解ったようなものだった。
しかし、プロポーズときたか。考えてみるとアリスを差し置いて花束を贈られたわけだ。この状況になにか倒錯を覚えても無理はない。
違和感に眉を寄せる〇〇の傍ら、アリスの言葉に俄に狼狽するゴーランドがいた。
「な、なに言ってんだアリス!これはただの復帰祝いで、別に深い意味があるってわけじゃ…」
「あなたこそなに赤くなってるの。私は見たまま感じたままを言っただけよ?」
したり顔でふふふと笑うアリス。あんたってたまにエスになるよなとぼそりと呟くゴーランド。
小さなやりとりは、思考に沈む〇〇の聴覚には及ばなかった。
その後、〇〇は遅ればせながらアリスにも見舞いの礼を言った。
アリスには、私から花束はないのごめんなさいと含みのある笑顔をもらった。…なんなんだ。
違和感を処理するために頭を使っていたのだが、妙な顔になっていたのかもしれない。
もしかして演奏のほうがよかったのか?などというオーナーの的外れな申し出を全力でお断りしなければならなかった。
そう言ってどこかに行ってしまったゴーランドを、そこらに腰かけて待つことにした。
〇〇はほうと息をつく。見上げた空は遠く青い。
完全復活を宣言するには、まだだるさが身体の奥に溜まっていた。あと二回も眠れば取れるだろうか。
この体調に甘んじてしまう前に少しは動いたほうがいいだろうと外に出てきたのだが、歩くだけでもう十分だった。
普段の体力のなさに磨きがかかっている。
「あー…なーんか、だるー…」
眠気はないがごろりと縁側に横たわりたい気分だ。
猫になって伸びていたい。ピンクでパンクな猫みたいなのじゃなくて、本物の三毛猫がいいなあ。
ならば時計塔に戻って眠ればいいじゃないかと思われるかもしれない。
しかし、時は金なり。無為に過ごすわけにはいかない。いつ何時おいしい場面が発生するかもしれないのだから。
そう、この世界での存在意義はただひとつ。〇〇が時間の浪費を惜しむ理由は――「アリス!」
曇り空にぱっと陽が差したように気分が一気に切り替わった。
思いどおりにいかない事態への対処も、彼女に会うための試練と思えば乗り越えられる。…この考え方はどこぞのウサギさんに似ていないか?
〇〇が重たい腰をすっくと上げると、呼び声に気づいたアリスのほうから駆け寄ってきてくれた。
「〇〇!よかった、もう外に出て大丈夫なのね」
「うん。アリスに会うためならたとえ這ってでも、ってね」
回復をアピールするつもりで片目を瞑っておどけてみせると、
「それはさすがに怖いわよ。あ、でも〇〇ならやりかねない…」
「アリス…本気にとらなくていいんだよ」
喜ばれるとは思わなかったが、疑いと懸念は何気にショックだ。
実際、娯楽のためなら多少の犠牲は厭わないつもりではいる。
徹底的に楽しみを追求する姿勢が、ひょっとすると真実味を帯びさせたのだろう。
(どうも最近、緩んできてる、かな)
簡単に内面を気取られるとは。気をつけないと要らぬボロまで出しそうだ。
不意に熱視線を感じた〇〇はそちらに焦点を合わせた。
アリスはその綺麗な色の瞳にじっと〇〇を映し、なにかを見極めようとしていた。この展開は、もしかして。
「ねえ、〇〇…」
「なあにアリス?」
「あの……なにかあったり、しないわよね?」
窺うような上目遣いが〇〇の笑みを誘った。
オーナー曰く、今日の自分は“それらしく”見えるらしい。アリスにそう見えたからといって今さら不思議はない。
もっと直接的な言葉を使ってくれても構わないのに、遠慮がちで遠まわしな言い方が微笑ましい。
ゴーランドのあけっぴろげとは大違いだ。ついつい少しからかいたくなってしまう。
「なにって。アリスには“なに”があったように見える?」
「それは、だから、その…」
「ん?」
恥じらいを忘れないことが、女の子として男の目に可愛く映るポイントかもしれない。
アリスを見てなるほどと勉強させてもらった気分だ。
〇〇はたまに男目線、というか役持ち目線でアリスを見るときがある。
とはいえ、もちろん〇〇にはアリス争奪戦に参加する気はない。
安全を確保しつつ観賞するには、突っ込みすぎず、近づきすぎずが一番なのだ。
ゴーランドから始まった話題は、しかし引き延ばして得するようなものではない。
アリスならまだいいが、他の人間の好奇は面倒な事態を生む恐れがある。
こうして否応なしに慎重にならざるを得ない最近の状況を、〇〇は不服に感じていた。
自分は“余所者”の威力を少し侮っていたのかもしれない。
それでも、傍観者の位置から引きずる下ろされるとは、このときはまだ思ってもいなかった。
「もうっ、〇〇、わかって言ってるでしょう?」
「あは、バレた?」
〇〇のちょっとした意地悪に、アリスはやや紅潮した頬で拗ねた顔をしてみせた。
やがて、どちらともなくクスクスと小さな笑みが零れ出す。こういうとき、大人びたアリスが歳相応に見える。
ただ単に冷めた性格のヒロインではないからこそ、〇〇は彼女を気に入っている。
この世界の誰からも愛されるアリス。いずれ意中の相手とも愛し合うようになるだろう。
可能なら、エンディングまで付き合いたい。日増しにそう思う気持ちが強くなる。――密かに〇〇の考えの及ばぬ危惧を伴って。
「だけど本当に…今日の〇〇はいつもとなんだか違うわね」
「それゴーランドにも言われたよ。そんなにあたし、シャキッとしてないかな?」
両腕を広げて、さあご覧あれ。
全身からそこはかとなくだらっとした雰囲気の滲み出る〇〇をアリスはじっくり眺めた。
一人の人間の新たな一面を発見するような、意外性と驚き。
それに気づいたアリスはあっと声を上げて、
「ブラッドだわ!」
「……はい?」
たとえにはまさにこれが的確だとばかりに自信に満ちた声。
ブラッド=デュプレ。現在の話題に飛び入り参加したその名前。
固まる〇〇の耳にアリスの明解な説明が続いた。それを聞くほどに、この脳の処理速度の遅さは無意識の拒否反応のように思えた。
「そのけだるげな雰囲気、ブラッドにそっくりなのよ。あ、マフィアの威圧感は当然あなたにはないんだけど…ちょっと妖しげな感じとか、すごく似てるわ」
「へえー………そうなんだ」
〇〇の口からは一本調子の機械的な呟きが漏れた。おおいに歓迎できない。
身体のだるさはこの身に感じている最中だからよく解る。一方の雰囲気や外見的なそれは、他者でなければ判りづらい。
その点アリスのたとえは画期的な解決策だった。帽子屋ファミリーのボスが纏う独特な空気は想像に易い。
だからといってこの手軽さはありがたくもなんともなかった。
マフィア然とした凄みや鋭さに欠ければ、見かけは怠惰に身を任せたただのぐうたらな人間である。
キャラクター性としては魅力的といえるブラッドの性質。だが、だるだるな人間は二人もいらない。
「…ごめんなさい。私が悪かったから、そんな“終わった”みたいな顔をしないでちょうだい」
アリスが同情的になってしまうほど露骨に表情に出ていたらしい。
確かに褒め言葉じゃなかったわねと反省したアリスは、空気を切り替えようと園内にあるカフェテラスに誘った。
いいねと快諾してから、はたとなにかが〇〇の頭を掠めた。なにか、忘れているような。
そのとき、二人の背後にひとつの駆け足が近づいてきた。
「――待たせたなっ!って、なんだ、アリスも来てたのか」
一足先に振り向いたアリスが途端に目を丸くした。漫画でお馴染みのぽかんと開いた口をここで見られるとは。
視線の端でそれを確認した〇〇も何事かと振り返る、と。
目に飛び込んだ、赤白黄色に薄桃色。カラフルにどぎつい色はなく、優しい色彩の束だった。
持ち主の姿を隠すほどに思えた花の群れの上から、ひょっこりと男くさい顔が覗いた。恐ろしく似合わない、と思ったのはどちらの余所者だったか。
ゴーランドは抱えてきた可憐な花束を、どんと〇〇の腕にそっくり手渡した。
面食らったのは当然渡された人間である。実演することはないと思っていた口ぽかんを見事行う羽目になった。
〇〇は絶対不釣合いな絵ができてる、と自分と花の組み合わせを客観的に思いながら、
「なに、これ?」
「見舞いの花だ。この間は急いでて手ぶらで行っちまったからな。…ま、復帰祝いにでも受け取ってくれよ」
眼鏡を挟んで視線を合わせたゴーランドが照れくさそうに頬を掻く。
〇〇は改めて、顔が埋まりそうなくらい間近にあるそれを見下ろした。
退院祝いでもこれほど豪華なものはしないだろう花束だ。ただし金をかけた華やかさはない。
気遣いが伝わるような、なんとなく優しさを感じさせるセレクト。オーナーらしい。
人生初の見事な花束のプレゼントを、〇〇は素直に喜ぶことにした。たかが風邪だったのになんて口に出すのは野暮である。
「これをわざわざ取りに戻ってくれてたんだ」
「ああ。なかなかのもんだろ?」
得意げに胸を張る様子からも彼が自ら選んでくれたことがわかった。
センスに関してはあまり信用ならない人物だが、これはたいした出来映えだった。
「本当にすごい花束ね。ゴーランドにしては上出来じゃない」
アリスも〇〇の隣で花を眺めつつ、さりげなく評価に辛さを混ぜた。
「俺にしてはって…」という不満げな呟きをスルーしたアリスは、
「ゴーランドったら一言もなく渡すんだから。〇〇にプロポーズでもする気かと思ったわよ」
と言ってゴーランドに意味深な視線を送った。
確かに後付けで説明があったから解ったようなものだった。
しかし、プロポーズときたか。考えてみるとアリスを差し置いて花束を贈られたわけだ。この状況になにか倒錯を覚えても無理はない。
違和感に眉を寄せる〇〇の傍ら、アリスの言葉に俄に狼狽するゴーランドがいた。
「な、なに言ってんだアリス!これはただの復帰祝いで、別に深い意味があるってわけじゃ…」
「あなたこそなに赤くなってるの。私は見たまま感じたままを言っただけよ?」
したり顔でふふふと笑うアリス。あんたってたまにエスになるよなとぼそりと呟くゴーランド。
小さなやりとりは、思考に沈む〇〇の聴覚には及ばなかった。
その後、〇〇は遅ればせながらアリスにも見舞いの礼を言った。
アリスには、私から花束はないのごめんなさいと含みのある笑顔をもらった。…なんなんだ。
違和感を処理するために頭を使っていたのだが、妙な顔になっていたのかもしれない。
もしかして演奏のほうがよかったのか?などというオーナーの的外れな申し出を全力でお断りしなければならなかった。