君のための優しい脅迫
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帰りがけに偶然出会った遊園地のオーナーと余所者の少女を連れて、ユリウスは足早に長い階段を駆け上がった。
珍しくどの領地でも姿を見かけないことから、消去法でなにか事情を知っているのではないかと時計塔のユリウスにお鉢が回ってきたというわけらしかった。
〇〇が風邪で寝込んでいる事実を隠す理由は見当たらず、急ぎ帰りたかったユリウスは手短に事情を話した。
そして案の定というべきか、見舞いに行きたいと口を揃えた二人と共に帰ってきたのだった。
余所者の動向というのは自然と耳に入ってくるものだが、ここ最近、〇〇は特に注目されているようだった。
妙な引力でも発しているかのように、誰もが興味を示して近づいていくのだ。
ふとした拍子に気になる言動を見せる奇妙な余所者が、この世界の歯車を軋ませる。
白ウサギに引き入れられたアリスならまだしも、〇〇はすべてにおいて不明瞭で危険だ。
だから放っておけないのだと、こじつける。気が急くのは、仮にも時計塔に住まうことを許可した者の責任感がそうさせるのだと。
後ろで困惑と抗議の声が上がる(しかも徐々に弱まり遠のいていく)が構っていられない。
頭にちらついて離れないのは、弱く微笑んで自分を送り出した〇〇の顔。
念のため病人が見舞いを断る可能性を考慮し、私が呼ぶまで入るなと遠い後方に釘を刺して。
部屋に飛び込んだユリウスは己を迎え入れた光景に唖然として、立ち竦んだ。
「おかえり、ユリウス。そんなに息を切らして帰ってくるなんて、本当にこの子が大切なんだな」
のんびりとそう言ったエースの腕の中には、くたりと脱力した〇〇がいた。
さっと血の気が引く思いに、衝動がユリウスを突き動かす。
ほとんど他人に奪われた自分のものを取り返すような動作で〇〇をひったくると、
「あ。そんなに乱暴に扱っちゃ駄目だろ?女の子の身体は柔らかいけど、繊細なんだからさー」
「ッ…エース!」
ユリウスは病人への気遣いも忘れて怒鳴っていた。
「じっと安静にしていたはずのこいつが、私が出かける前より症状を悪化させているとはどういうことだ!?それに服が…違うぞ!」
「さっすがユリウス、目敏いなあ」
エースは屈託なく笑い、気の立った親友に弁解らしくもなく説明した。
「実はさ、汗をかいた〇〇が着替えたいって言うから俺が手伝ったんだ。きっとそのせいだよ。熱があるから、想像以上に体力の消耗が激しかったのかもな~」
ユリウスはすぐに嘘だと悟った。一概に否定したのではなく、隠されたなにかがあると察したのだ。
ただ着替えるだけでこうまでへたばるわけがない。明らかに熱は上がり、意識を飛ばしているのに近い状態だ。
苦しげな息遣いに、紅潮した頬。不意に重なった想像はあまりに不謹慎で、後ろめたさに息が詰まった。
本当に、〇〇はエースに手伝わせたのだろうか。
いくら気心の知れた仲とはいえ、年頃の女が頼むことではない(こいつならやりかねん、とは口に出さないが)。
晒された素肌に触れる男の手。そんな光景が頭を横切って、ぞっとするような、カッとなるような酷い動悸がした。
あれこれ詰問したところで例によってのらりくらりとかわされるのは目に見えている。
あるいは、あっさり白状するかもしれない。確実にこちらに動揺を与える言葉の数々を。
ユリウスは〇〇に対する己の感情に踏み込まれることを恐れていた。
賢明にも口を閉じると、エースは見透かしたように目を細め。
「それじゃあ俺は、外で待たされてる誰かさんに挨拶でもしてこようかな。〇〇のことはおまえに任せたぜ」
小さな足音と話し声がユリウスの耳にも届いていた。
「ああ……悪かったな」
預けたこと自体が過ちだった気がしてならず、せいぜい自己嫌悪と敵意を込めないよう抑えた声で返す。
軽やかに笑って肩を叩き去った騎士と入れ代わりに、しばらくすれば来客二人がやってくるはずだ。
ユリウスは病人を抱え直す。本人の自力がない状態でベッドに上げるのはなかなか難しく思われた。
と、ちょっと動いた拍子にかくっと〇〇の頭が落ちて少し慌てた。
顎が天井を向き、口が僅かに開いている。ふと逸らした目が透けた肌の色を捉え、〇〇の上半身を覆うのが服一枚であることを知ってしまった。
他人にすべてを委ねる様子に、意識がないからだとわかっていても胸を絞られ、ユリウスの表情に苦渋が満ちた。
心が振り回される。引きずり回される。掻き乱される。
おまえは私をどうするつもりだ。なにを、させたい?
「…今だけでいい。素直に私の言うことを聞いて…目を覚まさないでくれ――」
誰の耳にも届かない声で囁いて、顔を近づける。
病人の高熱に負けないくらい熱い唇は、密かな接吻に温度差を生じさせなかった。
子供のままごとのように、ただ触れるだけ。
吐息に織り込まれた感情を、これからはもう否定できそうにない。
「――…〇〇」
汗ばんだ白い喉にひとひらの赤さえ残せない臆病を、頭の中で誰かが嘲った。
「よう、見舞いに来たぜ!」「〇〇、大丈夫なの?」二つの声が室内に響く頃には、ユリウスはいつもの仏頂面に一切を隠していた。
〇〇は彼のベッドで、彼の願いを無自覚に聞き入れたまま目を覚まさない。
ユリウスは吹き荒れる心を紛らわすため、眠る〇〇を気遣って帰ろうとするゴーランドとアリスを無理に引き留めた。
彼らしくない態度を訝しむ二対の瞳が、普段どおりを振る舞い損ねた一人の男の姿を映していた。
【君のための優しい脅迫】
誰も後戻りはできない あとは躊躇うか それとも踏み出すか
continue…?→あとがき。
珍しくどの領地でも姿を見かけないことから、消去法でなにか事情を知っているのではないかと時計塔のユリウスにお鉢が回ってきたというわけらしかった。
〇〇が風邪で寝込んでいる事実を隠す理由は見当たらず、急ぎ帰りたかったユリウスは手短に事情を話した。
そして案の定というべきか、見舞いに行きたいと口を揃えた二人と共に帰ってきたのだった。
余所者の動向というのは自然と耳に入ってくるものだが、ここ最近、〇〇は特に注目されているようだった。
妙な引力でも発しているかのように、誰もが興味を示して近づいていくのだ。
ふとした拍子に気になる言動を見せる奇妙な余所者が、この世界の歯車を軋ませる。
白ウサギに引き入れられたアリスならまだしも、〇〇はすべてにおいて不明瞭で危険だ。
だから放っておけないのだと、こじつける。気が急くのは、仮にも時計塔に住まうことを許可した者の責任感がそうさせるのだと。
後ろで困惑と抗議の声が上がる(しかも徐々に弱まり遠のいていく)が構っていられない。
頭にちらついて離れないのは、弱く微笑んで自分を送り出した〇〇の顔。
念のため病人が見舞いを断る可能性を考慮し、私が呼ぶまで入るなと遠い後方に釘を刺して。
部屋に飛び込んだユリウスは己を迎え入れた光景に唖然として、立ち竦んだ。
「おかえり、ユリウス。そんなに息を切らして帰ってくるなんて、本当にこの子が大切なんだな」
のんびりとそう言ったエースの腕の中には、くたりと脱力した〇〇がいた。
さっと血の気が引く思いに、衝動がユリウスを突き動かす。
ほとんど他人に奪われた自分のものを取り返すような動作で〇〇をひったくると、
「あ。そんなに乱暴に扱っちゃ駄目だろ?女の子の身体は柔らかいけど、繊細なんだからさー」
「ッ…エース!」
ユリウスは病人への気遣いも忘れて怒鳴っていた。
「じっと安静にしていたはずのこいつが、私が出かける前より症状を悪化させているとはどういうことだ!?それに服が…違うぞ!」
「さっすがユリウス、目敏いなあ」
エースは屈託なく笑い、気の立った親友に弁解らしくもなく説明した。
「実はさ、汗をかいた〇〇が着替えたいって言うから俺が手伝ったんだ。きっとそのせいだよ。熱があるから、想像以上に体力の消耗が激しかったのかもな~」
ユリウスはすぐに嘘だと悟った。一概に否定したのではなく、隠されたなにかがあると察したのだ。
ただ着替えるだけでこうまでへたばるわけがない。明らかに熱は上がり、意識を飛ばしているのに近い状態だ。
苦しげな息遣いに、紅潮した頬。不意に重なった想像はあまりに不謹慎で、後ろめたさに息が詰まった。
本当に、〇〇はエースに手伝わせたのだろうか。
いくら気心の知れた仲とはいえ、年頃の女が頼むことではない(こいつならやりかねん、とは口に出さないが)。
晒された素肌に触れる男の手。そんな光景が頭を横切って、ぞっとするような、カッとなるような酷い動悸がした。
あれこれ詰問したところで例によってのらりくらりとかわされるのは目に見えている。
あるいは、あっさり白状するかもしれない。確実にこちらに動揺を与える言葉の数々を。
ユリウスは〇〇に対する己の感情に踏み込まれることを恐れていた。
賢明にも口を閉じると、エースは見透かしたように目を細め。
「それじゃあ俺は、外で待たされてる誰かさんに挨拶でもしてこようかな。〇〇のことはおまえに任せたぜ」
小さな足音と話し声がユリウスの耳にも届いていた。
「ああ……悪かったな」
預けたこと自体が過ちだった気がしてならず、せいぜい自己嫌悪と敵意を込めないよう抑えた声で返す。
軽やかに笑って肩を叩き去った騎士と入れ代わりに、しばらくすれば来客二人がやってくるはずだ。
ユリウスは病人を抱え直す。本人の自力がない状態でベッドに上げるのはなかなか難しく思われた。
と、ちょっと動いた拍子にかくっと〇〇の頭が落ちて少し慌てた。
顎が天井を向き、口が僅かに開いている。ふと逸らした目が透けた肌の色を捉え、〇〇の上半身を覆うのが服一枚であることを知ってしまった。
他人にすべてを委ねる様子に、意識がないからだとわかっていても胸を絞られ、ユリウスの表情に苦渋が満ちた。
心が振り回される。引きずり回される。掻き乱される。
おまえは私をどうするつもりだ。なにを、させたい?
「…今だけでいい。素直に私の言うことを聞いて…目を覚まさないでくれ――」
誰の耳にも届かない声で囁いて、顔を近づける。
病人の高熱に負けないくらい熱い唇は、密かな接吻に温度差を生じさせなかった。
子供のままごとのように、ただ触れるだけ。
吐息に織り込まれた感情を、これからはもう否定できそうにない。
「――…〇〇」
汗ばんだ白い喉にひとひらの赤さえ残せない臆病を、頭の中で誰かが嘲った。
「よう、見舞いに来たぜ!」「〇〇、大丈夫なの?」二つの声が室内に響く頃には、ユリウスはいつもの仏頂面に一切を隠していた。
〇〇は彼のベッドで、彼の願いを無自覚に聞き入れたまま目を覚まさない。
ユリウスは吹き荒れる心を紛らわすため、眠る〇〇を気遣って帰ろうとするゴーランドとアリスを無理に引き留めた。
彼らしくない態度を訝しむ二対の瞳が、普段どおりを振る舞い損ねた一人の男の姿を映していた。
【君のための優しい脅迫】
誰も後戻りはできない あとは躊躇うか それとも踏み出すか
continue…?→あとがき。