君のための優しい脅迫
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「そういえば、ペーターさんとなにかあった?」
たった今思い出した些細な疑問を口にする気軽さで尋ねられた。
ペーター=ホワイト。再来する記憶の断片に眉を寄せ、なにもないと首を振ってみせる。
「どうしてそんなこと…」
「うん、アリスの口から君の名前が出たときの、ペーターさんの雰囲気がちょっと気になったんだ」
背骨に沿って手が動く。ん、と小さく声が漏れた。
「――まるで、恋人を愛するが故に殺したくてたまらないっていう男の顔だったから、さ」
面白そうな口振りに反する白々しい笑み。
それをどこか遠くで認知しつつ、〇〇は思う。最近この手の話題が身の回りに増えてきたなと。
この世界において“余所者”にもれなく人を惹きつける性質が備わっているのは知っている。
その影響の余波ともいうべきものを自分が被っていることも。
アリスに対するそれとは別種のなにかによって、それなりに興味を引かれる対象になり得ているようだ。
ともあれ、こちらに向ける関心は僅かばかりでもアリスに注いでほしい。
不要ないざこざに巻き込まれる可能性が一パーセントでもあるなら、予防線を張っておくのもいいかもしれない。
身体の不調も相俟って、〇〇は自らそれを伝えることにさして抵抗を感じなかった。
「一応言っとくけど、“恋人”…なら、あたし間に合ってるから」
だからペーターの態度はアナタの思い過ごしだと言外に告げる。
直接このことを教えたのは双子以来だ。初耳のエースは沈黙を挟んでから「…それは知らなかったな」と呟く。
背中を拭き終えたことを察した〇〇が礼を言おうと仰ぎ見るより先に、黒い腕が深く抱き込んできた。
腹を這うタオルもそうだが、なにより背に触れた冷たさにぎょっとした。
「ひゃっ…ちょっ、と…!」
「ああ、ごめん。冷たかった?」
なにかと思えば、どうやらエースが腰に下げる大剣の柄か鞘かが当たったらしかった。
口先で謝ったところで離れるつもりはないようで、腕が位置を変えるたびにそちらも動いて肌を擦る。
これならいっそ正体を知らないままでいたかった。下着を手で押さえた状態で身を硬直させると、
「あはははっ、〇〇は可愛いなあ。もっと責め苛んでやりたくなるよ」
「……爽やかに薄ら寒いこと、言わないでくれる?」
おそらくエースにはこちらの弱点ともいうべき苦手を知られている。
刃を用いて弄られるのは必至と思っていたが、今その覚悟はない。
肌を晒す危なさを嫌というほどこの瞬間自覚した。しかしそれと同時に、とっくに肉体的な逃げ場を失っていた自分を知ることになった。
「君の恋人に一度会ってみたいな。俺に紹介してくれよ」
「それは――無理、なんだけど…」
「どうして?…俺と君の仲じゃないか」
どんな仲だ。「この人があたしの彼氏なのー」とでも紹介しろと?
そんな無茶な。想像すら困難を極める。なにより連れてくること自体不可能だ。
突っ込みどころ満載だったが、いいタイミングで喉元を拭われて首が持ち上がり言葉に詰まる。
上向いた視界に促す微笑が映り込んだ。――見紛う事なき強要の眼差し。
背筋に当たるのは冷たい凶器。これを脅しと取らずになんとする。
「……だ、から」
「うん?」
「彼は、此処とは違う場所にいるから、会えないんだって…」
(アナタはもちろん、あたしも)
ごちゃごちゃ説明を付けずに答えるならこれで十分だろう。
エースは思案に黙った。〇〇はそろそろ本格的に冷えてきた身体に服を纏いたいところである。
どうして自分がこんな尋問されるような目に遭うのだろう。
おかしな方向に進みつつある空気をどうにかしたいが、こういうときに限っていい案は閃かない。
動くタオルの心地良さと背後の危ない冷たさに翻弄され、思考はまとまらず。
〇〇が打開策を編み出す前に、エースのほうがとてもすっきりした顔で結論付けた。「じゃあ奪ってもいいんだ」
極めて滑らかに放たれた言葉は意味を伴わない音として、危うく〇〇の耳を通過するところだった。
略奪愛。うん、展開としてそれもよかろう。誰しも自分に害の及ばない、例えば小説なら、スパイスを加えるつもりでアリだと思える面があるはずだ。
かくいう自分もキャラ×アリス←キャラの構図にはニヤリとする。
聞き逃せない問題点は、言い出すそのタイミングの不当さだ。それじゃあまるであたしが奪われるポジションに据えられているみたいじゃないか。
気でも違ったのかと窺うように首を回した。冗談を言う眼にしてはからかいの色があまりに薄い。
これが巧妙に仕組まれた姦計なら拍手喝采である。
よくない雰囲気だと頭が言う。目を覚まさせろ。
「あたしとアナタが、そういう関係になるなんて…考えられないだろ?」
「それなら、実際になればいいよ」
(――は…?)
この騎士の隣に立つのも腕に抱かれるのも、あの少女しかありえないのに。
甘さは皆無、だけど実際に触れ合っているのはあたしだなんて。
思い知らせるように強く締めつけないで。
たった今思い出した些細な疑問を口にする気軽さで尋ねられた。
ペーター=ホワイト。再来する記憶の断片に眉を寄せ、なにもないと首を振ってみせる。
「どうしてそんなこと…」
「うん、アリスの口から君の名前が出たときの、ペーターさんの雰囲気がちょっと気になったんだ」
背骨に沿って手が動く。ん、と小さく声が漏れた。
「――まるで、恋人を愛するが故に殺したくてたまらないっていう男の顔だったから、さ」
面白そうな口振りに反する白々しい笑み。
それをどこか遠くで認知しつつ、〇〇は思う。最近この手の話題が身の回りに増えてきたなと。
この世界において“余所者”にもれなく人を惹きつける性質が備わっているのは知っている。
その影響の余波ともいうべきものを自分が被っていることも。
アリスに対するそれとは別種のなにかによって、それなりに興味を引かれる対象になり得ているようだ。
ともあれ、こちらに向ける関心は僅かばかりでもアリスに注いでほしい。
不要ないざこざに巻き込まれる可能性が一パーセントでもあるなら、予防線を張っておくのもいいかもしれない。
身体の不調も相俟って、〇〇は自らそれを伝えることにさして抵抗を感じなかった。
「一応言っとくけど、“恋人”…なら、あたし間に合ってるから」
だからペーターの態度はアナタの思い過ごしだと言外に告げる。
直接このことを教えたのは双子以来だ。初耳のエースは沈黙を挟んでから「…それは知らなかったな」と呟く。
背中を拭き終えたことを察した〇〇が礼を言おうと仰ぎ見るより先に、黒い腕が深く抱き込んできた。
腹を這うタオルもそうだが、なにより背に触れた冷たさにぎょっとした。
「ひゃっ…ちょっ、と…!」
「ああ、ごめん。冷たかった?」
なにかと思えば、どうやらエースが腰に下げる大剣の柄か鞘かが当たったらしかった。
口先で謝ったところで離れるつもりはないようで、腕が位置を変えるたびにそちらも動いて肌を擦る。
これならいっそ正体を知らないままでいたかった。下着を手で押さえた状態で身を硬直させると、
「あはははっ、〇〇は可愛いなあ。もっと責め苛んでやりたくなるよ」
「……爽やかに薄ら寒いこと、言わないでくれる?」
おそらくエースにはこちらの弱点ともいうべき苦手を知られている。
刃を用いて弄られるのは必至と思っていたが、今その覚悟はない。
肌を晒す危なさを嫌というほどこの瞬間自覚した。しかしそれと同時に、とっくに肉体的な逃げ場を失っていた自分を知ることになった。
「君の恋人に一度会ってみたいな。俺に紹介してくれよ」
「それは――無理、なんだけど…」
「どうして?…俺と君の仲じゃないか」
どんな仲だ。「この人があたしの彼氏なのー」とでも紹介しろと?
そんな無茶な。想像すら困難を極める。なにより連れてくること自体不可能だ。
突っ込みどころ満載だったが、いいタイミングで喉元を拭われて首が持ち上がり言葉に詰まる。
上向いた視界に促す微笑が映り込んだ。――見紛う事なき強要の眼差し。
背筋に当たるのは冷たい凶器。これを脅しと取らずになんとする。
「……だ、から」
「うん?」
「彼は、此処とは違う場所にいるから、会えないんだって…」
(アナタはもちろん、あたしも)
ごちゃごちゃ説明を付けずに答えるならこれで十分だろう。
エースは思案に黙った。〇〇はそろそろ本格的に冷えてきた身体に服を纏いたいところである。
どうして自分がこんな尋問されるような目に遭うのだろう。
おかしな方向に進みつつある空気をどうにかしたいが、こういうときに限っていい案は閃かない。
動くタオルの心地良さと背後の危ない冷たさに翻弄され、思考はまとまらず。
〇〇が打開策を編み出す前に、エースのほうがとてもすっきりした顔で結論付けた。「じゃあ奪ってもいいんだ」
極めて滑らかに放たれた言葉は意味を伴わない音として、危うく〇〇の耳を通過するところだった。
略奪愛。うん、展開としてそれもよかろう。誰しも自分に害の及ばない、例えば小説なら、スパイスを加えるつもりでアリだと思える面があるはずだ。
かくいう自分もキャラ×アリス←キャラの構図にはニヤリとする。
聞き逃せない問題点は、言い出すそのタイミングの不当さだ。それじゃあまるであたしが奪われるポジションに据えられているみたいじゃないか。
気でも違ったのかと窺うように首を回した。冗談を言う眼にしてはからかいの色があまりに薄い。
これが巧妙に仕組まれた姦計なら拍手喝采である。
よくない雰囲気だと頭が言う。目を覚まさせろ。
「あたしとアナタが、そういう関係になるなんて…考えられないだろ?」
「それなら、実際になればいいよ」
(――は…?)
この騎士の隣に立つのも腕に抱かれるのも、あの少女しかありえないのに。
甘さは皆無、だけど実際に触れ合っているのはあたしだなんて。
思い知らせるように強く締めつけないで。