君のための優しい脅迫
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結局、ユリウスはエースに押し切られて用事を片づけに一人出かけて行った。
可能な限り早く帰ってきそうな勢いには妙に鬼気迫るものがあった。
その背中を見送った〇〇は、ふうと肩で息をついた。――で、この空間をいったいどう扱えというのか。
〇〇が頭痛の波と戦っている間に、話し合いは男二人で決着をつけたようだ。
ちらと目を上げると視界に入るニコニコ顔は、重たい頭にさらに負荷を加えてくれる。
何故か不調がますます悪化しそうな予感がした。
「……なんか、楽しそうだけど?」
ニコニコニコニコ。音まで聞こえてきそうな微笑みようだ。
いっそ見知らぬ他人なら気楽に無害そうな表面を受け取るだけでよかったろうに。
仮面を取ってもなお隠された顔があるのではとつい疑う。
血まみれのマントを脱いだエースは赤のコートを着ていなかった。
内側を悟らせない顔で、彼は話を振ってきた。
「ユリウスもかわいそうな奴だと思ってさ」
「…かわいそう?」
同情なら、この外見内面共に黒い騎士と二人きりにされたあたしにこそしてほしい。
というか、言葉と朗らかな表情がなんともミスマッチだ。
「俺も敵に塩を送るつもりはないんだけど…でも君があんまりあいつの好意を知らん顔で受け流すから、つい口出ししたくなっちゃうんだよな」
好意。声に含まれた響きでどの方面に属すものを指したのか見当がつく。
それはアリスに対して以外は成り立たない種類のものだった。
「ただの、アナタの勘違いだよ」
おかしなことを言うと端から相手にしない〇〇。
エースは適当にそこらに凭れかかると腕を組んで姿勢を定めた。
「そう?だけど、必要以上に俺を牽制してきた。あれってもう立派に恋する一人の男って感じだったよ」
「へえ…そんなもん…?」
上の空で返事をする。〇〇はすでに聞く耳を持たなかった。
身体が熱を逃そうとして、せっせと発汗を促している。
一度べとつきを感じてしまうと、さっぱりしたいという欲求は高まる一方だった。
シャワーが駄目でも、せめて着替えるくらいはしよう。
そう思って視線を彷徨させ、部屋の隅にある荷物に目を留めた。その一角は〇〇の数少ない日用品に占領されていた。
ふらりと立ち上がってそこからごそごそと寝間着代わりの部屋着を探る。
やはりもう一度横になろう。早く治すにはそれが一番だ。
寝るだけならブラジャーは必要ないと思い直して引っ込める。
上下の服とショーツを無心に取り出してから、うっかり忘れていた他人の存在を思い出した。
退出願おうか、いやむしろ自分が浴室にでも行くかと振り向いた口は役目を失った。
つい先程までそこにあったはずの姿はなく、部屋には〇〇一人がぽつんと残されていた。
はて、と首を捻って目をもう一巡させる。誰もいない。
(もしかして、気を利かせてくれたのかな…)
ぼんやりとそう思いながら、それならここでいいかとボタンに手をかける。
これは少なからず無用心であり、また彼がいなくなった理由についても些か早計だった。
外気はするりと寄り添ってくる。特有の肌寒さにぶるりと震えた。
いそいそとブラウスを置き、タンクトップを脱ぎ、下着のホックに手を伸ばしたそのとき。
「――あ。先に始めちゃったんだ?」
手が、止まった。今のは空耳か。残念ながらそうではなく。
「ぇ……なんで……」
果たして彼はそこにいた。いくらなんでも戻ってくるのが早過ぎる。わざとか。そうなのか。
ジーンズはそのままだが上半身下着一枚で呆けた顔をする女に堂々と近づく時点で、まったく配慮がないと言える。
エースは洗面器を抱えていた。うっすら湯気立つ水に浸されているのは、一枚のタオル。
問いかける目に気づいた彼は、にっこりと友好的に笑って言った。
「ほら、これで汗を拭いてから着替えたほうがすっきりするだろ?」
「ああ……どうも」
気の利かせ方が微妙にずれているような気がしないでもない。
とはいえ、せっかく用意してくれたのだから使うのが礼儀だろう。
〇〇は自分を納得させ、ありがたく受け取ろうとする。
しかしエースはその手をすいと避けて洗面器を少し離れた場所に置くと、手袋を外してタオルを絞った。
〇〇の五本の指が行き場を失う。
手早く余分な水分を切ったそれを持った彼は、なにする気だと見上げる黒目を見て、
「じゃあ、まずは腕かな。上げてくれる?」
「上げ…って、」
最初から勝手に手首を掴んで持ち上げる気でいたなら、わざわざ了承を得るように尋ねる必要はない。
行き過ぎたサービスだったが、汗の浮く肌を拭う手つきは抵抗する気力を削いだ。
白状すると、これがなんとも気持ちが良かったのだ。
不快感を一掃する心地良さ。たまらない開放感。
男兄弟の中で育ったせいか、〇〇にはある種の羞恥心がある程度欠落していた。
全裸でないならまあいいかと、今のこの気持ちよさを維持すべく知らずと心が傾いていた。
背凭れのない椅子に座らされ、されるがまま。エースは〇〇の背後に立っていた。
とは言うものの、腕から腕、首筋、肩を伝って背中に落ちたタオルが下着に引っかかったとき、「あ」と咎める思いが甦った。
次の瞬間、今までと明らかに異なる開放感を胸に感じた。
肌から浮いた覆いを咄嗟に引き止める。ずれた肩紐が二の腕に落ちてきた。
「え…?」
「邪魔だから取っちゃおう」
エースはあっけらかんとして円滑にタオルを滑らせる。
手慣れた所業に困惑するほうがおかしいのだと錯覚し、〇〇は黙った。
これが所謂“至れり尽くせり”か、などと熱を持つ頭がぼんやりと働いた。
可能な限り早く帰ってきそうな勢いには妙に鬼気迫るものがあった。
その背中を見送った〇〇は、ふうと肩で息をついた。――で、この空間をいったいどう扱えというのか。
〇〇が頭痛の波と戦っている間に、話し合いは男二人で決着をつけたようだ。
ちらと目を上げると視界に入るニコニコ顔は、重たい頭にさらに負荷を加えてくれる。
何故か不調がますます悪化しそうな予感がした。
「……なんか、楽しそうだけど?」
ニコニコニコニコ。音まで聞こえてきそうな微笑みようだ。
いっそ見知らぬ他人なら気楽に無害そうな表面を受け取るだけでよかったろうに。
仮面を取ってもなお隠された顔があるのではとつい疑う。
血まみれのマントを脱いだエースは赤のコートを着ていなかった。
内側を悟らせない顔で、彼は話を振ってきた。
「ユリウスもかわいそうな奴だと思ってさ」
「…かわいそう?」
同情なら、この外見内面共に黒い騎士と二人きりにされたあたしにこそしてほしい。
というか、言葉と朗らかな表情がなんともミスマッチだ。
「俺も敵に塩を送るつもりはないんだけど…でも君があんまりあいつの好意を知らん顔で受け流すから、つい口出ししたくなっちゃうんだよな」
好意。声に含まれた響きでどの方面に属すものを指したのか見当がつく。
それはアリスに対して以外は成り立たない種類のものだった。
「ただの、アナタの勘違いだよ」
おかしなことを言うと端から相手にしない〇〇。
エースは適当にそこらに凭れかかると腕を組んで姿勢を定めた。
「そう?だけど、必要以上に俺を牽制してきた。あれってもう立派に恋する一人の男って感じだったよ」
「へえ…そんなもん…?」
上の空で返事をする。〇〇はすでに聞く耳を持たなかった。
身体が熱を逃そうとして、せっせと発汗を促している。
一度べとつきを感じてしまうと、さっぱりしたいという欲求は高まる一方だった。
シャワーが駄目でも、せめて着替えるくらいはしよう。
そう思って視線を彷徨させ、部屋の隅にある荷物に目を留めた。その一角は〇〇の数少ない日用品に占領されていた。
ふらりと立ち上がってそこからごそごそと寝間着代わりの部屋着を探る。
やはりもう一度横になろう。早く治すにはそれが一番だ。
寝るだけならブラジャーは必要ないと思い直して引っ込める。
上下の服とショーツを無心に取り出してから、うっかり忘れていた他人の存在を思い出した。
退出願おうか、いやむしろ自分が浴室にでも行くかと振り向いた口は役目を失った。
つい先程までそこにあったはずの姿はなく、部屋には〇〇一人がぽつんと残されていた。
はて、と首を捻って目をもう一巡させる。誰もいない。
(もしかして、気を利かせてくれたのかな…)
ぼんやりとそう思いながら、それならここでいいかとボタンに手をかける。
これは少なからず無用心であり、また彼がいなくなった理由についても些か早計だった。
外気はするりと寄り添ってくる。特有の肌寒さにぶるりと震えた。
いそいそとブラウスを置き、タンクトップを脱ぎ、下着のホックに手を伸ばしたそのとき。
「――あ。先に始めちゃったんだ?」
手が、止まった。今のは空耳か。残念ながらそうではなく。
「ぇ……なんで……」
果たして彼はそこにいた。いくらなんでも戻ってくるのが早過ぎる。わざとか。そうなのか。
ジーンズはそのままだが上半身下着一枚で呆けた顔をする女に堂々と近づく時点で、まったく配慮がないと言える。
エースは洗面器を抱えていた。うっすら湯気立つ水に浸されているのは、一枚のタオル。
問いかける目に気づいた彼は、にっこりと友好的に笑って言った。
「ほら、これで汗を拭いてから着替えたほうがすっきりするだろ?」
「ああ……どうも」
気の利かせ方が微妙にずれているような気がしないでもない。
とはいえ、せっかく用意してくれたのだから使うのが礼儀だろう。
〇〇は自分を納得させ、ありがたく受け取ろうとする。
しかしエースはその手をすいと避けて洗面器を少し離れた場所に置くと、手袋を外してタオルを絞った。
〇〇の五本の指が行き場を失う。
手早く余分な水分を切ったそれを持った彼は、なにする気だと見上げる黒目を見て、
「じゃあ、まずは腕かな。上げてくれる?」
「上げ…って、」
最初から勝手に手首を掴んで持ち上げる気でいたなら、わざわざ了承を得るように尋ねる必要はない。
行き過ぎたサービスだったが、汗の浮く肌を拭う手つきは抵抗する気力を削いだ。
白状すると、これがなんとも気持ちが良かったのだ。
不快感を一掃する心地良さ。たまらない開放感。
男兄弟の中で育ったせいか、〇〇にはある種の羞恥心がある程度欠落していた。
全裸でないならまあいいかと、今のこの気持ちよさを維持すべく知らずと心が傾いていた。
背凭れのない椅子に座らされ、されるがまま。エースは〇〇の背後に立っていた。
とは言うものの、腕から腕、首筋、肩を伝って背中に落ちたタオルが下着に引っかかったとき、「あ」と咎める思いが甦った。
次の瞬間、今までと明らかに異なる開放感を胸に感じた。
肌から浮いた覆いを咄嗟に引き止める。ずれた肩紐が二の腕に落ちてきた。
「え…?」
「邪魔だから取っちゃおう」
エースはあっけらかんとして円滑にタオルを滑らせる。
手慣れた所業に困惑するほうがおかしいのだと錯覚し、〇〇は黙った。
これが所謂“至れり尽くせり”か、などと熱を持つ頭がぼんやりと働いた。