君のための優しい脅迫
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風邪を引くなどまったく不測の事態だった。
どこで菌をもらってきたのかわからないが、この状態ではアリス探しを断念するしかない。
ああ、ユリウスとエースが揃う美味しいシチュエーションに彼女が不在だなんて!
あたしがいたところでなんの足しにもならない。
アリスを呼びに誰かを走らせることもできず、〇〇の欲求不満を解消する手立てはなかった。
物が室内から取り除かれたおかげで血臭はだいぶ薄まってきた。
少し気分が回復した〇〇は、横になれと言うユリウスに首を振って椅子に身体を落ち着けた。
起きているのが辛いというほどの重症ではない。むしろユリウスのほうがそわそわとして落ち着きがなかった。集中力が散漫しているのが周りから見てよくわかるほど。
〇〇は熱っぽさの溜まった身体で、温めたミルクを啜った。
「少しはじっとしたら、ユリウス?」
なんとはなしに言うと顰め面を返された。怖いよ。
「人をがさつく子供のように言うな」
「でも…」
「はははっ、実際そうなんだからしかたないよな。あっちに行ったりこっちに行ったりうろうろしてさ。いい加減、鬱陶しいくらいだぜ?」
爽やかに本音を飛ばすエースに、鋭い指摘を受けたユリウスはぐっと口を噤む。
彼自身、逡巡する自分に苛立ちを覚えていたらしい。
やがて長身は〇〇の前に立つと、重たい口を開いた。
「……〇〇。実は、私はこれから出かけなければならないんだ」
「あ、そうなんだ」
なにをそんなに思い悩んでいたのだと軽く拍子抜けした。
「ああ。できるだけ早く帰るつもりだが、寝込むおまえを放ってというのは…」
寝込むなんて大袈裟な。しかし、口籠もるユリウスが心配して気にかけてくれているのが伝わってくる。
何度も言うがたかが風邪である。こじらせては少々厄介かもしれないが、寝覚めの悪い事態がそうそう起こることはない。
すべて杞憂に終わると考えて間違いなかった。
単なる居候を親身に気遣いすぎたと思い、そつなく笑顔を作った。
「あたしのことは気にしなくていいから、早く出かけて?」
「だが、一人で放っておくときっとろくなことがない」
どれだけあたしを素行の悪い人間だと思ってるんだ。
反省してみるが自分ではよくわからず、疑念そのものを流すことにする。
「それこそガキじゃあるまいし。やっていいことと悪いことの分別くらい、この頭でもちゃんと判るって」
苦い顔をするユリウスがここまで渋る理由はなんなのだろう。こんな応酬、するだけ時間の無駄ではないか。
見下ろしてくる目の中に見え隠れする揺らぎに〇〇は首を傾げる。
と、ユリウスの肩にぐいと第三者の腕が寄りかかった。
エースだ。思えば彼を置き去りにして話を進めていたようだ。
彼は「俺のこと、忘れないでほしいなあ」と緩やかに間に入ると、
「そんなに心配なら、ユリウスが帰ってくるまで俺が代わりにここにいようか?」
愛想よく留守番を買って出た。え、と思ったのは時計屋と余所者だった。
用が済んだらまた性懲りもなく旅に出るのだろうという暗黙の了解を、その当人が裏切ったのである。
〇〇は今回は誘われずに済むだろうと安心していたのだが、ここにじっとしていられるくらいならアリスを探しに行けとせっつきたかった。
ユリウスの驚きはエースの存在が頭からすっぽり抜けていたことも理由のひとつだったが、
(確かに、それなら一人にせずに済むが――)
よりによって、この男を?思わず吟味するように見つめてしまう。
人の良さそうな笑みを浮かべる騎士。申し出た意図に邪心はないように見える。あくまでそう“見える”のであって、腹のうちはわかったものではないが。
…待て。こいつの場合、常に腹に一物あると考えるのが無難なのではないか。
エースは親友の懸念を見抜いたように、殊更笑顔になった。
「これでなにも心配することはなくなっただろ?俺とこの子の仲がいいのはユリウスだって知ってるだろうから、問題ないよな。ほらほら、急がないと時間に遅れるぜ!」
そう言って病人の後ろに回り込み、ぽんと親しげにその両手を肩に乗せる。
ごほ、と軽く噎せた〇〇が傍目からどう控えめに見ても迷惑そうな視線を背後に投げた。
正直なところ、ユリウスは不安になった。非常に、とてつもなく不安である。
だが着々と時間は迫っているし、すっぽかすわけにもいかない。
この場合、傍に誰もいないよりは幾分かマシかもしれないと強引にポジティブに考える他ない。
たとえこの根暗な機械マニアには到底無理な相談であったとしても。
どこで菌をもらってきたのかわからないが、この状態ではアリス探しを断念するしかない。
ああ、ユリウスとエースが揃う美味しいシチュエーションに彼女が不在だなんて!
あたしがいたところでなんの足しにもならない。
アリスを呼びに誰かを走らせることもできず、〇〇の欲求不満を解消する手立てはなかった。
物が室内から取り除かれたおかげで血臭はだいぶ薄まってきた。
少し気分が回復した〇〇は、横になれと言うユリウスに首を振って椅子に身体を落ち着けた。
起きているのが辛いというほどの重症ではない。むしろユリウスのほうがそわそわとして落ち着きがなかった。集中力が散漫しているのが周りから見てよくわかるほど。
〇〇は熱っぽさの溜まった身体で、温めたミルクを啜った。
「少しはじっとしたら、ユリウス?」
なんとはなしに言うと顰め面を返された。怖いよ。
「人をがさつく子供のように言うな」
「でも…」
「はははっ、実際そうなんだからしかたないよな。あっちに行ったりこっちに行ったりうろうろしてさ。いい加減、鬱陶しいくらいだぜ?」
爽やかに本音を飛ばすエースに、鋭い指摘を受けたユリウスはぐっと口を噤む。
彼自身、逡巡する自分に苛立ちを覚えていたらしい。
やがて長身は〇〇の前に立つと、重たい口を開いた。
「……〇〇。実は、私はこれから出かけなければならないんだ」
「あ、そうなんだ」
なにをそんなに思い悩んでいたのだと軽く拍子抜けした。
「ああ。できるだけ早く帰るつもりだが、寝込むおまえを放ってというのは…」
寝込むなんて大袈裟な。しかし、口籠もるユリウスが心配して気にかけてくれているのが伝わってくる。
何度も言うがたかが風邪である。こじらせては少々厄介かもしれないが、寝覚めの悪い事態がそうそう起こることはない。
すべて杞憂に終わると考えて間違いなかった。
単なる居候を親身に気遣いすぎたと思い、そつなく笑顔を作った。
「あたしのことは気にしなくていいから、早く出かけて?」
「だが、一人で放っておくときっとろくなことがない」
どれだけあたしを素行の悪い人間だと思ってるんだ。
反省してみるが自分ではよくわからず、疑念そのものを流すことにする。
「それこそガキじゃあるまいし。やっていいことと悪いことの分別くらい、この頭でもちゃんと判るって」
苦い顔をするユリウスがここまで渋る理由はなんなのだろう。こんな応酬、するだけ時間の無駄ではないか。
見下ろしてくる目の中に見え隠れする揺らぎに〇〇は首を傾げる。
と、ユリウスの肩にぐいと第三者の腕が寄りかかった。
エースだ。思えば彼を置き去りにして話を進めていたようだ。
彼は「俺のこと、忘れないでほしいなあ」と緩やかに間に入ると、
「そんなに心配なら、ユリウスが帰ってくるまで俺が代わりにここにいようか?」
愛想よく留守番を買って出た。え、と思ったのは時計屋と余所者だった。
用が済んだらまた性懲りもなく旅に出るのだろうという暗黙の了解を、その当人が裏切ったのである。
〇〇は今回は誘われずに済むだろうと安心していたのだが、ここにじっとしていられるくらいならアリスを探しに行けとせっつきたかった。
ユリウスの驚きはエースの存在が頭からすっぽり抜けていたことも理由のひとつだったが、
(確かに、それなら一人にせずに済むが――)
よりによって、この男を?思わず吟味するように見つめてしまう。
人の良さそうな笑みを浮かべる騎士。申し出た意図に邪心はないように見える。あくまでそう“見える”のであって、腹のうちはわかったものではないが。
…待て。こいつの場合、常に腹に一物あると考えるのが無難なのではないか。
エースは親友の懸念を見抜いたように、殊更笑顔になった。
「これでなにも心配することはなくなっただろ?俺とこの子の仲がいいのはユリウスだって知ってるだろうから、問題ないよな。ほらほら、急がないと時間に遅れるぜ!」
そう言って病人の後ろに回り込み、ぽんと親しげにその両手を肩に乗せる。
ごほ、と軽く噎せた〇〇が傍目からどう控えめに見ても迷惑そうな視線を背後に投げた。
正直なところ、ユリウスは不安になった。非常に、とてつもなく不安である。
だが着々と時間は迫っているし、すっぽかすわけにもいかない。
この場合、傍に誰もいないよりは幾分かマシかもしれないと強引にポジティブに考える他ない。
たとえこの根暗な機械マニアには到底無理な相談であったとしても。