愛の如く、囁く殺意
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謂れのない謗りも、唐突に出されたブラッドの名も、理解のもっとも浅い領域にさえ到達しない。
急になにを言い出すのかと呆気に取られるばかりだ。
そういえば、今日のペーターは会ったときからいつもとどこか違っていた。
自ら距離を縮めるなんて――しかも明らかに彼の許容域オーバーである――尋常でない証だ。
熱、という単語が最初に浮かんだ。正常な判断力を奪う一因になり得る。
色白の顔と淀みない言動がそれを否定しても、他にまともな説明がつかなかった。
「ペーター…なんか変だよ。いったん冷静になったほうがいい」
「変?あなたに言われたくありませんよ。あなたのような余所者に…」
凶器を構える腕の肘が曲がっていても銃口がぶつかるほどの間隔がさらに狭められる。
ペーターの一歩はそのままこちらの一歩になる。〇〇は距離を保つために後退りを余儀なくされていた。
しかし、場所が悪かった。双方気づかぬ間に〇〇の背後が途切れていたのだ。
後退した一歩は地を踏まなかった。階段だという認識は浮遊感に呑まれる。
ふらつく身体がバランスを維持するために反射的に支えを探す。空を掴んだかと思った手に、確かな手応え。
(――っぶなかった……!)
一時の安定を得て閉じていた目を開いた〇〇。しかしほっと息つく間もなく「うわー…」とやっちゃった感たっぷりに冷や汗をかいた。
場所だけではない――支えにした相手も悪すぎた。ペーターの鋭利な暗さは霧散し、顔中が純粋な驚愕に染まった。
「んな…っ」
「ペ、ペーター、すぐ離れるからちょっと我慢してくれ!」
今暴れられては確実に転落してしまう。長い階段を転げ落ちて、軽くても骨折。打ち所が最悪なら死が待っている。
痛いのは嫌だ、といっそう縋る全身に力が入った。
ペーター自身も咄嗟のことだったのだろう。床を踏みしめる両足は、〇〇の体重を加えることでちょうどバランスが保たれていた。
つまり均衡が崩れた場合、二人して階段を真っ逆さま、ということになる。
「……」
「……」
「……うん。やっぱ離れないで」
「……嫌です。喜んで突き放します。落ちるなら一人で思う存分転がってください、さあ」
「だ、駄目だって。今離れたら絶対駄目。落ちる…」
「なら、あなたをクッション代わりにしましょう。それならいいでしょう、いいですよね?」
「よくない。ペーターがあたしを組み敷きたいっていうなら話は別だけどね」
「……」
暴れ出しはしないが能面のようなペーターと、間近に顔を突き合わせて懇願する〇〇。
傍から見ると正真正銘の恋人達も妬くほど密着しながら、似つかわしくない緊迫した空気が両者を包む。
この事態を打開するには安全なペーター側に重心を移すしか手はない。
だからといってすんなり協力してくれるようなウサギさんではないだろう。
非常事態だからとて、内心は即行で〇〇を突き飛ばしたくてたまらないはずだ。それを堪えてくれているだけでも充分。多くは望む勿れ。
〇〇は静かに息を吸うと、独り言のように小さく呟いた。
「先に謝っとく。ごめん」
「? なにを――…っ!?」
均衡の乱れを最小限に抑えることを念頭に、〇〇は一気に勝負に出た。
相手の意識が揺らいだ瞬間に全体重をもって全身をぶつける。体当たりされたペーターは〇〇を伴って床に投げ出された。
さすがに場慣れした者らしく受身を取ったようだ。最少の衝撃だけを受けて二人は見事、暫時の窮地を脱したのだった。
急になにを言い出すのかと呆気に取られるばかりだ。
そういえば、今日のペーターは会ったときからいつもとどこか違っていた。
自ら距離を縮めるなんて――しかも明らかに彼の許容域オーバーである――尋常でない証だ。
熱、という単語が最初に浮かんだ。正常な判断力を奪う一因になり得る。
色白の顔と淀みない言動がそれを否定しても、他にまともな説明がつかなかった。
「ペーター…なんか変だよ。いったん冷静になったほうがいい」
「変?あなたに言われたくありませんよ。あなたのような余所者に…」
凶器を構える腕の肘が曲がっていても銃口がぶつかるほどの間隔がさらに狭められる。
ペーターの一歩はそのままこちらの一歩になる。〇〇は距離を保つために後退りを余儀なくされていた。
しかし、場所が悪かった。双方気づかぬ間に〇〇の背後が途切れていたのだ。
後退した一歩は地を踏まなかった。階段だという認識は浮遊感に呑まれる。
ふらつく身体がバランスを維持するために反射的に支えを探す。空を掴んだかと思った手に、確かな手応え。
(――っぶなかった……!)
一時の安定を得て閉じていた目を開いた〇〇。しかしほっと息つく間もなく「うわー…」とやっちゃった感たっぷりに冷や汗をかいた。
場所だけではない――支えにした相手も悪すぎた。ペーターの鋭利な暗さは霧散し、顔中が純粋な驚愕に染まった。
「んな…っ」
「ペ、ペーター、すぐ離れるからちょっと我慢してくれ!」
今暴れられては確実に転落してしまう。長い階段を転げ落ちて、軽くても骨折。打ち所が最悪なら死が待っている。
痛いのは嫌だ、といっそう縋る全身に力が入った。
ペーター自身も咄嗟のことだったのだろう。床を踏みしめる両足は、〇〇の体重を加えることでちょうどバランスが保たれていた。
つまり均衡が崩れた場合、二人して階段を真っ逆さま、ということになる。
「……」
「……」
「……うん。やっぱ離れないで」
「……嫌です。喜んで突き放します。落ちるなら一人で思う存分転がってください、さあ」
「だ、駄目だって。今離れたら絶対駄目。落ちる…」
「なら、あなたをクッション代わりにしましょう。それならいいでしょう、いいですよね?」
「よくない。ペーターがあたしを組み敷きたいっていうなら話は別だけどね」
「……」
暴れ出しはしないが能面のようなペーターと、間近に顔を突き合わせて懇願する〇〇。
傍から見ると正真正銘の恋人達も妬くほど密着しながら、似つかわしくない緊迫した空気が両者を包む。
この事態を打開するには安全なペーター側に重心を移すしか手はない。
だからといってすんなり協力してくれるようなウサギさんではないだろう。
非常事態だからとて、内心は即行で〇〇を突き飛ばしたくてたまらないはずだ。それを堪えてくれているだけでも充分。多くは望む勿れ。
〇〇は静かに息を吸うと、独り言のように小さく呟いた。
「先に謝っとく。ごめん」
「? なにを――…っ!?」
均衡の乱れを最小限に抑えることを念頭に、〇〇は一気に勝負に出た。
相手の意識が揺らいだ瞬間に全体重をもって全身をぶつける。体当たりされたペーターは〇〇を伴って床に投げ出された。
さすがに場慣れした者らしく受身を取ったようだ。最少の衝撃だけを受けて二人は見事、暫時の窮地を脱したのだった。