愛の如く、囁く殺意
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〇〇は流れで兵士と他愛のない話を続けた。
彼に急ぎの用がないとはいえ、持ち場を長く離れさせるのは適切でない。
そう気がついたのは、何気なく横に逸らした目が向こうから現れた白を確認したときだった。
あ、と本来の目当てを思い出した〇〇の姿がその人物の視界に捉えられた。
瞬時に切り替わる、敵愾心剥き出しの雰囲気。険しい眼差し。その手に素早くお馴染みのものが握られた。
「出ましたねっ、アリスに近づく不届き者が…!」
「……はあ」
やっと来たかと思えば開口一番失礼な奴である。
いつもどおりなのだが、今し方まで言葉を交わしていたのが誠実な人間であるだけに落差が強調される。
ペーターの出現は兵士に畏怖をもたらした。それがなんだか同情を誘う。
〇〇はその強張った肩にぽんと手を置いた。お開きにしようの合図だった。
「引き止めて悪かった。アナタも仕事、頑張って」
「は…」
緊張を解そうとした所作は些か馴れ馴れしかったかもしれない。
よせばよかったかという思いとは裏腹にいい方向の効果を与えられたのだろう、肩の位置が少し下がった。
兵士は持ち場に戻り、〇〇はペーターをアリスと引き合わせる。この後の運びはそうなるはずだった。
が、そこで思いもしない展開が間に割り込んだ。
触れていた手が離れた一瞬間に発砲音が廊下に反響する。
弾の行き先を案じるよりも唖然とした。目の前の兵士の肩が焦げて黒ずんでいたからだ。
わざとぎりぎり外したのだろう。狙いは兵士か、〇〇の手か。
「こんな人気のないところで、いったいなにをしているんですか」
棘を端々に覗かせる。赤の瞳が濃縮したように底知れなさを孕んだ。
「…ていうか、いきなりなに撃って、」
「今は僕が訊いているんですよ。答えなさい」
役なしカードの存在など目にも入れないふうなのに、照準は彼に合わせ、視線を〇〇に固定する。人質のつもりか。
どこかでお目にかかったようなパターンだったが、想起は別の場所でするとして。
〇〇は大袈裟に肩で息をつくと、完全にペーターに向き直った。小声を背後の兵士に放る。
「行って」
「…ですが、〇〇様――」
「大丈夫。このウサギさんはあたしに用があるみたいだし」
背中で戸惑いを感じ取ったが、やがて場を辞す声と足音に変わった。
〇〇はさり気なく銃の軌道を塞ぐように身を動かして、小さくなる兵士の姿を隠した。
ペーターはほんの少し目で追ったものの、あのカードに射殺の必要性はないと判断したのか見逃した。
さて、と。これで予定通り。〇〇は取り成すように言った。
「用件はわかってる。アリスなら、外で洗濯物干してたから今行けばそこで会えるはずだよ」
アリス、と聞いて長い耳が動いた。上々の反応だ。
すぐにでも踵を返すかと思いきや、険しい顔つきは相変わらず。
ぐ、と眉間に皺を深く刻んで低く短く吐き捨てる。尻軽が。
今度は〇〇が顔を顰める番だった。何故このタイミングで今の単語が出る?
「尻軽…って、誰が」
「あなたですよ。役持ちだけでは飽き足らず、あんなカードにまで媚を売るとは。見下げ果てた性癖、いっそ感心してしまいますね」
いつにも増しての毒舌だ。心を突き破らんとして振りかぶる鋭い刃のよう。
当たっても空気の傷であるからちっとも痛まないが、疑問符は増える一方だ。
アリスのもとへ飛んでいくどころか〇〇とやり合う気満々なのは予想外のリアクションだった。
「あー、と…ペーター?よくわかんないけど、とりあえずアリスんとこ行かない?」
待て待てと片手を広げて制すが、鼻であしらわれた。
「行きません。あなたと歩くなんて論外だ。もとより僕があなたを彼女のところへ行かせるわけがないでしょう」
提案も三重に連ねて一蹴されてしまった。二人でこうして対峙していても埒が明かないのだが。
ああ確かに、とそれを納得する自分をどうかと思っても、ペーターの性格を考えると頷くしかない。
アリスのことを放ってまで〇〇を足止めするのは、やはり彼女を想ってのこと。
しかし、それはそれでなにかが違うのではないかと思ってしまう。うまく言えないが――そう、要するに過剰に反応しすぎでは、と。
「別にアリスを取って食おうなんてつもりはないってば」
「それならその邪な目をどうにかしてください。僕のアリスが穢れます」
「……」
取って食いはしない。別の意味での糧にはしている(妄想とかな)。
ポーカーフェイスは無理だが、そんなに思考垂れ流し状態にはなっていないはずだ。…よほど注意深く意識しない限りはたぶん。
本当にアリスに関しては目敏いというか、過敏というか。
「…ま、真実のほどはともかくとして。今度から気をつければいいんだな?」
反発せずににこりと言う。穏便に済ませてとっとと武装解除願おうというのが本音だった。
ペーターは自分の中に異物でも混入されたような奇妙な顔をしていた。
取り除きたいのに手が届かない、掴めない。正体を求めるように、ゆらりと足を踏み出した。
しげしげと〇〇を眺めたかと思うと、なにかを思い出したように微笑んだ。盛大な悪意を込めて。
「――そういえば、ブラッド=デュプレとは随分と仲が良いんですね」
「は?」
ブラッド。その名を聞いてまず浮かぶのはこの間のメイド服の件である。
が、ペーターとはなんの関わりもない一件であり、そもそもあれを耳にすることもないはず。なのに。
「あの男との相性はどうでしたか。どうして満足するには至らなかったんでしょう?だからあなたは次々と他に手を出す」
ああ、それとも複数と関係を持つのが趣味ですか。
ペーターはせせら笑う。あたしは貶されている…のだろう、おそらく。
いつの間にか煌々と暗く揺らぐ瞳が目と鼻の先に迫っていた。
彼に急ぎの用がないとはいえ、持ち場を長く離れさせるのは適切でない。
そう気がついたのは、何気なく横に逸らした目が向こうから現れた白を確認したときだった。
あ、と本来の目当てを思い出した〇〇の姿がその人物の視界に捉えられた。
瞬時に切り替わる、敵愾心剥き出しの雰囲気。険しい眼差し。その手に素早くお馴染みのものが握られた。
「出ましたねっ、アリスに近づく不届き者が…!」
「……はあ」
やっと来たかと思えば開口一番失礼な奴である。
いつもどおりなのだが、今し方まで言葉を交わしていたのが誠実な人間であるだけに落差が強調される。
ペーターの出現は兵士に畏怖をもたらした。それがなんだか同情を誘う。
〇〇はその強張った肩にぽんと手を置いた。お開きにしようの合図だった。
「引き止めて悪かった。アナタも仕事、頑張って」
「は…」
緊張を解そうとした所作は些か馴れ馴れしかったかもしれない。
よせばよかったかという思いとは裏腹にいい方向の効果を与えられたのだろう、肩の位置が少し下がった。
兵士は持ち場に戻り、〇〇はペーターをアリスと引き合わせる。この後の運びはそうなるはずだった。
が、そこで思いもしない展開が間に割り込んだ。
触れていた手が離れた一瞬間に発砲音が廊下に反響する。
弾の行き先を案じるよりも唖然とした。目の前の兵士の肩が焦げて黒ずんでいたからだ。
わざとぎりぎり外したのだろう。狙いは兵士か、〇〇の手か。
「こんな人気のないところで、いったいなにをしているんですか」
棘を端々に覗かせる。赤の瞳が濃縮したように底知れなさを孕んだ。
「…ていうか、いきなりなに撃って、」
「今は僕が訊いているんですよ。答えなさい」
役なしカードの存在など目にも入れないふうなのに、照準は彼に合わせ、視線を〇〇に固定する。人質のつもりか。
どこかでお目にかかったようなパターンだったが、想起は別の場所でするとして。
〇〇は大袈裟に肩で息をつくと、完全にペーターに向き直った。小声を背後の兵士に放る。
「行って」
「…ですが、〇〇様――」
「大丈夫。このウサギさんはあたしに用があるみたいだし」
背中で戸惑いを感じ取ったが、やがて場を辞す声と足音に変わった。
〇〇はさり気なく銃の軌道を塞ぐように身を動かして、小さくなる兵士の姿を隠した。
ペーターはほんの少し目で追ったものの、あのカードに射殺の必要性はないと判断したのか見逃した。
さて、と。これで予定通り。〇〇は取り成すように言った。
「用件はわかってる。アリスなら、外で洗濯物干してたから今行けばそこで会えるはずだよ」
アリス、と聞いて長い耳が動いた。上々の反応だ。
すぐにでも踵を返すかと思いきや、険しい顔つきは相変わらず。
ぐ、と眉間に皺を深く刻んで低く短く吐き捨てる。尻軽が。
今度は〇〇が顔を顰める番だった。何故このタイミングで今の単語が出る?
「尻軽…って、誰が」
「あなたですよ。役持ちだけでは飽き足らず、あんなカードにまで媚を売るとは。見下げ果てた性癖、いっそ感心してしまいますね」
いつにも増しての毒舌だ。心を突き破らんとして振りかぶる鋭い刃のよう。
当たっても空気の傷であるからちっとも痛まないが、疑問符は増える一方だ。
アリスのもとへ飛んでいくどころか〇〇とやり合う気満々なのは予想外のリアクションだった。
「あー、と…ペーター?よくわかんないけど、とりあえずアリスんとこ行かない?」
待て待てと片手を広げて制すが、鼻であしらわれた。
「行きません。あなたと歩くなんて論外だ。もとより僕があなたを彼女のところへ行かせるわけがないでしょう」
提案も三重に連ねて一蹴されてしまった。二人でこうして対峙していても埒が明かないのだが。
ああ確かに、とそれを納得する自分をどうかと思っても、ペーターの性格を考えると頷くしかない。
アリスのことを放ってまで〇〇を足止めするのは、やはり彼女を想ってのこと。
しかし、それはそれでなにかが違うのではないかと思ってしまう。うまく言えないが――そう、要するに過剰に反応しすぎでは、と。
「別にアリスを取って食おうなんてつもりはないってば」
「それならその邪な目をどうにかしてください。僕のアリスが穢れます」
「……」
取って食いはしない。別の意味での糧にはしている(妄想とかな)。
ポーカーフェイスは無理だが、そんなに思考垂れ流し状態にはなっていないはずだ。…よほど注意深く意識しない限りはたぶん。
本当にアリスに関しては目敏いというか、過敏というか。
「…ま、真実のほどはともかくとして。今度から気をつければいいんだな?」
反発せずににこりと言う。穏便に済ませてとっとと武装解除願おうというのが本音だった。
ペーターは自分の中に異物でも混入されたような奇妙な顔をしていた。
取り除きたいのに手が届かない、掴めない。正体を求めるように、ゆらりと足を踏み出した。
しげしげと〇〇を眺めたかと思うと、なにかを思い出したように微笑んだ。盛大な悪意を込めて。
「――そういえば、ブラッド=デュプレとは随分と仲が良いんですね」
「は?」
ブラッド。その名を聞いてまず浮かぶのはこの間のメイド服の件である。
が、ペーターとはなんの関わりもない一件であり、そもそもあれを耳にすることもないはず。なのに。
「あの男との相性はどうでしたか。どうして満足するには至らなかったんでしょう?だからあなたは次々と他に手を出す」
ああ、それとも複数と関係を持つのが趣味ですか。
ペーターはせせら笑う。あたしは貶されている…のだろう、おそらく。
いつの間にか煌々と暗く揺らぐ瞳が目と鼻の先に迫っていた。