軌道修正不可のゲーム
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「さあ、お嬢さん。存分に見たまえ。約束通りの光景だろう?」
「…どこがよ。あなたの使用人なんていつも見て――……え?」
そんな声に気がついたのは、透明度を失ったバケツの水をそろそろ捨てようかというときだった。
聞き慣れた二つの声は〇〇が今もっともご遠慮願いたい男と、会いたいがこの姿はちょっと見せられないと思っていた少女のものだった。
〇〇は予期せぬ事態にぎくりと硬直する。対して内心は拳を窓に打ちつけたい衝動で震えていた。
(なんでこの二人がここに?や、ブラッドの屋敷だもんな、別に不自然じゃないか――ていうか、絶対来るってこれ…!)
変な使用人であることなど容易くバレている。案の定、足音は真っ直ぐこちらに向かってきた。
「あの、あなた…?」
疑心が確信に変わろうという声音で、少女の手が肩にかかる。
〇〇はもはやこれまでと観念すると、逆らわずに引かれる力に従って振り向いた。
確信は不信を経て仰天へ。アリスの綺麗な色の瞳が見開かれ、期待を裏切らぬ素っ頓狂な声が上がった。
「やっぱり…〇〇じゃない!どうしたのその格好っ!?」
「ハハ……どうしたって、ねえ?」
乾いた笑顔を作る一方でブラッドを睥睨すると、これまた口の端を吊り上げる笑みで口止めされた。
つまり、賭け事に関しては彼女に言うなと?
この際だからブラッドの悪徳ぶりをアリスに切々と語ってさめざめと泣きつこうかと思ったが、そうすると次の勝負に負けたときに報復されそうな予感がする。お仕置き紛いのパワーアップはごめんだ。
〇〇はまあいいやと投げ出すと、開き直った。人間、諦めが肝心。潔さは美徳だ。
信じられないものを見る目とはまさにこんなふうなのだろう。アリスはまじまじと〇〇を見つめた。
「いつもの仕事着はどうしたの?それにこのメイド服…他の人のものと形が違うわね。どことなく露出が多いような……ブラッド?」
アリスが視線を怪しむものに変えて隣に立つ男を見る。
これまでの交流から、〇〇が自ら進んで着る類のものではないと知っているのだ。
「アリス。君がそういう目で見るなら、露出の多さも気のせいではないだろう。…では、使用人に過度に肌を晒させる私の目的はなんだというんだ?」
ブラッドが実に白々しく尋ね返す。「そ、それは…」と言葉に詰まるアリスの頬が上気した。
ああ、やっぱりこの二人はいつ見てもいい。
どちらかというとブラッド寄りのにやけた顔になっている自分に気づき、〇〇は口元をさっと手で隠した。
楽しませてもらえるのはありがたいが、今ネタにされているのが自分であることを忘れてはならない。
ブラッドと会話する間も、アリスの目は〇〇から離れない。確かに物珍しかろうと思わず苦笑した。
「ま、あたしのことはほどほどにしておいて。それよりアリス、ブラッドとの約束って?」
あからさまに気になるという熱視線で上から下を眺め回していたアリスは、「あ、ごめんなさい」と恥ずかしそうにした。こういう正直さには好感が持てるというものだ。
溢れる好奇心を取り繕うように軽く咳をすると、アリスは答えた。
「ブラッドが、今なら興味深いものを見られるから是非とも来いって…。私、本当は時計塔に行くつもりだったんだけど」
なんと。ユリウスとのツーショットチャンスだったのか。それは惜しいことをと思うも、
「へえ、興味深いもの…?」
〇〇が目を眇めると、ブラッドは堂々と頷いてニヤリとした。
「これを興味深いと言わずになんと言う。お嬢さんに会えたのだから〇〇、君も文句はあるまい?」
見世物にされるのはちっとも嬉しくない。揶揄の顔で勝ち誇るボスには声を大にして文句を言いたい。
しかし、だ。自分の恥とブラアリのどちらを取るかと迫られたら。
(この世界に来た時点で、すでに選択したようなもんだろ…)
ユリアリを逃したことになっても結局、甘んじて現状を受け入れるしかないのである。
〇〇は覆いの取り去られた己の肌を視界から追い出すと、雑巾をバケツにぽいと放り込んだ。
べらりと縁に引っかかったのを確認して、「…で?」と片手を腰に当てる。
「あたしは勤務時間中の使用人ですが、ボス。なにかご用でも?」
仕事が済んだらとっとと着替えてこの二人を堪能しに行こうと考える。この機会を逃すものか。
ブラッドはどういう目で見られているのかを知ってか知らずか、目を細めて〇〇を見つめた。
「…いや。単純に君をアリスに見せびらかしたかっただけだ。邪魔をしてすまないね」
仕事を再開してくれと軽い口調で言われ、納得のいかない面持ちでとりあえず首を縦に振っておく。
見せびらかすほど価値のあるたいそうなものでないのは、誰の目から見ても明らかだろう。
だが、彼は本当にそれだけのために来たらしい。
〇〇とのやりとりに複雑な表情をちらつかせるアリスの肩を、さり気ない動作で抱いて立ち去ろうとする。
そんな姿を見せつけられては、〇〇はつい締まりのない目をしてしまう。
やはりお似合いだ。アリスは多少嫌そうにしているが、ステッキを持っていてもその腕が引く気配はない。ナイス、ボス。
(贅沢を言えば、もうちょっとベタベタしてくれてもいいんだけどなあ…)
そのほうがあたし好み。と心の中で付け加える〇〇の傍を通り過ぎる二人。
ブラッドはアリスに顔を向けているため、〇〇からはその横顔が見えるだけだったが、
(――え?)
アリスを抱く腕とは反対側の手が〇〇に伸ばされた。
唐突さと予想外のことに反応が追いつかない。
それは瞬間的に。擦れ違いざま、宥めるように喉元をするりと、軽やかにだが無視できない手つきで撫でていく。
「……っ」
産毛が逆立つ感覚。背筋がぞわりとした。
そこに意味ありげな一瞥を残されれば、性的な匂いさえ漂わせる仕草。
身体が勝手に後ずさりをしそうになるのを意思が留めた。何故逃げる必要がある。ブラッドの背中は離れていくだけなのに。
アリスは一方で行われた一瞬の出来事に気づかなかったようだ。
どういう魂胆であれ、退いてしまったらブラッドの思う壺ではないか。
そう思い、声を発さずに黙って彼らを見送った。指先の感触を鋭く掴んだ神経を落ち着かせるように、喉を手で押さえて。
「…どこがよ。あなたの使用人なんていつも見て――……え?」
そんな声に気がついたのは、透明度を失ったバケツの水をそろそろ捨てようかというときだった。
聞き慣れた二つの声は〇〇が今もっともご遠慮願いたい男と、会いたいがこの姿はちょっと見せられないと思っていた少女のものだった。
〇〇は予期せぬ事態にぎくりと硬直する。対して内心は拳を窓に打ちつけたい衝動で震えていた。
(なんでこの二人がここに?や、ブラッドの屋敷だもんな、別に不自然じゃないか――ていうか、絶対来るってこれ…!)
変な使用人であることなど容易くバレている。案の定、足音は真っ直ぐこちらに向かってきた。
「あの、あなた…?」
疑心が確信に変わろうという声音で、少女の手が肩にかかる。
〇〇はもはやこれまでと観念すると、逆らわずに引かれる力に従って振り向いた。
確信は不信を経て仰天へ。アリスの綺麗な色の瞳が見開かれ、期待を裏切らぬ素っ頓狂な声が上がった。
「やっぱり…〇〇じゃない!どうしたのその格好っ!?」
「ハハ……どうしたって、ねえ?」
乾いた笑顔を作る一方でブラッドを睥睨すると、これまた口の端を吊り上げる笑みで口止めされた。
つまり、賭け事に関しては彼女に言うなと?
この際だからブラッドの悪徳ぶりをアリスに切々と語ってさめざめと泣きつこうかと思ったが、そうすると次の勝負に負けたときに報復されそうな予感がする。お仕置き紛いのパワーアップはごめんだ。
〇〇はまあいいやと投げ出すと、開き直った。人間、諦めが肝心。潔さは美徳だ。
信じられないものを見る目とはまさにこんなふうなのだろう。アリスはまじまじと〇〇を見つめた。
「いつもの仕事着はどうしたの?それにこのメイド服…他の人のものと形が違うわね。どことなく露出が多いような……ブラッド?」
アリスが視線を怪しむものに変えて隣に立つ男を見る。
これまでの交流から、〇〇が自ら進んで着る類のものではないと知っているのだ。
「アリス。君がそういう目で見るなら、露出の多さも気のせいではないだろう。…では、使用人に過度に肌を晒させる私の目的はなんだというんだ?」
ブラッドが実に白々しく尋ね返す。「そ、それは…」と言葉に詰まるアリスの頬が上気した。
ああ、やっぱりこの二人はいつ見てもいい。
どちらかというとブラッド寄りのにやけた顔になっている自分に気づき、〇〇は口元をさっと手で隠した。
楽しませてもらえるのはありがたいが、今ネタにされているのが自分であることを忘れてはならない。
ブラッドと会話する間も、アリスの目は〇〇から離れない。確かに物珍しかろうと思わず苦笑した。
「ま、あたしのことはほどほどにしておいて。それよりアリス、ブラッドとの約束って?」
あからさまに気になるという熱視線で上から下を眺め回していたアリスは、「あ、ごめんなさい」と恥ずかしそうにした。こういう正直さには好感が持てるというものだ。
溢れる好奇心を取り繕うように軽く咳をすると、アリスは答えた。
「ブラッドが、今なら興味深いものを見られるから是非とも来いって…。私、本当は時計塔に行くつもりだったんだけど」
なんと。ユリウスとのツーショットチャンスだったのか。それは惜しいことをと思うも、
「へえ、興味深いもの…?」
〇〇が目を眇めると、ブラッドは堂々と頷いてニヤリとした。
「これを興味深いと言わずになんと言う。お嬢さんに会えたのだから〇〇、君も文句はあるまい?」
見世物にされるのはちっとも嬉しくない。揶揄の顔で勝ち誇るボスには声を大にして文句を言いたい。
しかし、だ。自分の恥とブラアリのどちらを取るかと迫られたら。
(この世界に来た時点で、すでに選択したようなもんだろ…)
ユリアリを逃したことになっても結局、甘んじて現状を受け入れるしかないのである。
〇〇は覆いの取り去られた己の肌を視界から追い出すと、雑巾をバケツにぽいと放り込んだ。
べらりと縁に引っかかったのを確認して、「…で?」と片手を腰に当てる。
「あたしは勤務時間中の使用人ですが、ボス。なにかご用でも?」
仕事が済んだらとっとと着替えてこの二人を堪能しに行こうと考える。この機会を逃すものか。
ブラッドはどういう目で見られているのかを知ってか知らずか、目を細めて〇〇を見つめた。
「…いや。単純に君をアリスに見せびらかしたかっただけだ。邪魔をしてすまないね」
仕事を再開してくれと軽い口調で言われ、納得のいかない面持ちでとりあえず首を縦に振っておく。
見せびらかすほど価値のあるたいそうなものでないのは、誰の目から見ても明らかだろう。
だが、彼は本当にそれだけのために来たらしい。
〇〇とのやりとりに複雑な表情をちらつかせるアリスの肩を、さり気ない動作で抱いて立ち去ろうとする。
そんな姿を見せつけられては、〇〇はつい締まりのない目をしてしまう。
やはりお似合いだ。アリスは多少嫌そうにしているが、ステッキを持っていてもその腕が引く気配はない。ナイス、ボス。
(贅沢を言えば、もうちょっとベタベタしてくれてもいいんだけどなあ…)
そのほうがあたし好み。と心の中で付け加える〇〇の傍を通り過ぎる二人。
ブラッドはアリスに顔を向けているため、〇〇からはその横顔が見えるだけだったが、
(――え?)
アリスを抱く腕とは反対側の手が〇〇に伸ばされた。
唐突さと予想外のことに反応が追いつかない。
それは瞬間的に。擦れ違いざま、宥めるように喉元をするりと、軽やかにだが無視できない手つきで撫でていく。
「……っ」
産毛が逆立つ感覚。背筋がぞわりとした。
そこに意味ありげな一瞥を残されれば、性的な匂いさえ漂わせる仕草。
身体が勝手に後ずさりをしそうになるのを意思が留めた。何故逃げる必要がある。ブラッドの背中は離れていくだけなのに。
アリスは一方で行われた一瞬の出来事に気づかなかったようだ。
どういう魂胆であれ、退いてしまったらブラッドの思う壺ではないか。
そう思い、声を発さずに黙って彼らを見送った。指先の感触を鋭く掴んだ神経を落ち着かせるように、喉を手で押さえて。