この手から滑り落ちゆく、自由
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遊園地のオーナーは一瞬不服そうな顔を見せたものの、いつもの笑顔で〇〇に接した。
この間の件はどうやら上手く収まったようだ。アリスがどう説得してくれたのかは知らないが、彼女に任せて正解だった。
仕事以外でも暇を見つけたら来いよというゴーランドの譲歩に、〇〇はひとまず安心した。
これでややこしいことにはならずに済み、今までどおりに過ごせるだろう。
雰囲気よくゴーランドと別れた〇〇を待ち構えていたのは、驚いたことにブラッディ・ツインズだった。
まさかこんな所で出会うとは。しかもありがたくないことに、目敏く〇〇の姿を見つけた双子は「一緒に帰ろう」なんてそれぞれに腕を取って両脇を固めるサービスをしてくれた。誰も帽子屋屋敷に行くとは言っていない。
ほとんど連行される形で、そこに〇〇の意思はなかった(「アリスに会えるかもしれないよ?」という甘言につられたわけではない。…ぐらりときたことは認めよう)。今ここで下手に抵抗するのは自ら首を差し出すようなものだ。
そうして帽子屋ファミリーの領土にやってきた〇〇だったが。
「なんでこうなる…?」
門番達は仕事に戻らず、遊びに興じている。よりによってナイフ投げを選択するのだから、完全に嫌がらせだ。
〇〇は万が一にも的にならないように離れた場所で木を盾にする。
逃げないのは、追っ手があの刃物になるだろうことが想像に易いから。
「〇〇、そんなに遠い所じゃなくて傍においでよ」
「心配しなくてもちゃんと貸してあげるよ」
だから一緒に遊ぼう、と無邪気な悪意に手招きされる。一緒に遊ぶんじゃない、奴らはあたし“で”遊ぶ気だ!
冗談ではない。ぶんぶんを首を横に振って意思表示をすると、彼らは顔を見合わせて「やれやれ」と言いたげに溜め息をついた。
ナイフを弄んだかと思うと、次の瞬間、目にも留まらぬ速さで〇〇の顔の真横に飛んできた。
「――ッ!!」
声を出す間もなかった。どたん、と腰が地面に落ちる。
(さッ……刺さるかと、思った……)
深々と幹に立つ銀色を呆然と見上げる。あれが肌に触れていたらと思うとぞっと震えが走った。
恐怖を与えた当人らはというと、明らかに面白がった様子で近づいてきた。
「大丈夫?顔色悪いよ?」
「もしかして本当に当てると思ったの?」
俯いて黙り込む〇〇を囲んで、無反応に首を傾げる。
〇〇?〇〇?と呼びかけてぺたぺたと頭を撫でたり肩を叩いたりしていたが、身をかがめて顔を覗き込んだダムが「あ」と声を上げた。
「…泣いてる?」
「えっ」
弾かれたように反応して今度はディーが慌てて〇〇の正面に回り込んだ。
「〇〇?…ごめん。そんなに怖かったんだ」
「――っ、泣いてない!」
〇〇はキッと顔を上げた。目尻に涙が滲んでしまったのはこれ以上ないほどの不覚だった。
尻餅をつくほど驚いたのは事実だが、心臓が受けた衝撃をなんとか緩和しているところに喋りかけられて応答できなかっただけだ。
なのに双子はしゃがんで〇〇を慰めようと頭やらなにやら撫でてくる。
子供に子供扱いされている状態に、〇〇は脱力してしまった。こちらの反応に予想以上の手応えがあったせいか、少しだけ反省の色が窺える。その姿は年相応に見えるため、余計になんだかなあと思ってしまう。
「でも〇〇だって悪いんだよ?」
「…は?」
それは聞き捨てならない。あたしのどこに過失があるっていうんだ。
赤と青のツインズを交互に見遣る。この顔は…ひょっとして拗ねている、のだろうか。
「なに?」
「…ボリスに聞いたんだけど、〇〇ってボスの情婦じゃないんだよね?」
「本当に誰のものにもなってない?」
真剣な表情をしてずいと迫る二つの顔に、言いようのない疲労感を覚えた。まだその話を引っ張るか。
というか、真相をボリス経由で知るのはなにか間違っている気がする。もとはこのファミリー内でのみ束の間流れた根も葉もない噂だ(いや、〇〇の格好が根や葉になったのか)。収束がついたのだから、つまり噂はただの噂として消えていったはずだ。それなのに疑う人間がまだいて、しかもそれが外に洩らした張本人達であるとは。
偽りを一切許さない二対の瞳に、確実に届くようにきちんと答えた。
「情婦なんて論外。もちろん、誰かのものになった覚えもないよ」
「じゃあ処女?」
「や、もう済んでるけど」
ってなに答えてるんだあたし。じろじろと見られて「文句あるか」と視線を返せば、にこりと笑われた。待て。笑顔は、もしや。
「興味あるなー、〇〇の初体験の相手。ね、兄弟」
「うんうん。どんな感じだったのかも気になるね」
やっぱりか。予感が当たったが全然嬉しくない。
そんな興味津々になられても、聞いたって面白くないだろうに。
明らかに気が乗らない様子の〇〇を、二人はお構いなしに取り囲んだ。
「相手の男はやっぱり〇〇の恋人?」
「…元、な」
「へえ、別れたんだ。じゃあ、今は?」
「恋人がいるのかいないのかって?まあ…いると言えば、いる…かな」
判然としないと自分でも思う。だが、自分と彼を恋人という定義に嵌めることは難しい。
好きだと言われた。僕が勝手に君を好きになったんだ。だから君はそのままでいいんだよ、と。
それに対してあたしが思ったのは――返した言葉は――。
ぼんやりと考え事に耽りそうになっていた〇〇だったが、双子の発言に一気に引き戻された。
「兄弟。やっぱりナイフ、持ってこようか」
「うん、兄弟。吐かせるにはそれが一番かも」
「!ちょっと、本気でやめてくれる?」
立ち上がる二人の手を掴む。が、容易に振り解かれてしまった。
「だって、〇〇はすぐに隠し事するから」
「当たり障りのない事ばっかり言うし」
「誰のものでもないから、僕らはもっと踏み込むよ」
「もっといろんな顔も見たいしね。…泣き顔、可愛かった」
子供らしい笑顔に子供に似つかわしくないものを織り交ぜて残し、双子は〇〇から離れて行ってしまった。
ナイフを手に二人が戻ってくることに恐怖するよりも、彼らの言ったことに気を取られていた。
納得のいかないことばかり、言いたいように言われたような。
この間の件はどうやら上手く収まったようだ。アリスがどう説得してくれたのかは知らないが、彼女に任せて正解だった。
仕事以外でも暇を見つけたら来いよというゴーランドの譲歩に、〇〇はひとまず安心した。
これでややこしいことにはならずに済み、今までどおりに過ごせるだろう。
雰囲気よくゴーランドと別れた〇〇を待ち構えていたのは、驚いたことにブラッディ・ツインズだった。
まさかこんな所で出会うとは。しかもありがたくないことに、目敏く〇〇の姿を見つけた双子は「一緒に帰ろう」なんてそれぞれに腕を取って両脇を固めるサービスをしてくれた。誰も帽子屋屋敷に行くとは言っていない。
ほとんど連行される形で、そこに〇〇の意思はなかった(「アリスに会えるかもしれないよ?」という甘言につられたわけではない。…ぐらりときたことは認めよう)。今ここで下手に抵抗するのは自ら首を差し出すようなものだ。
そうして帽子屋ファミリーの領土にやってきた〇〇だったが。
「なんでこうなる…?」
門番達は仕事に戻らず、遊びに興じている。よりによってナイフ投げを選択するのだから、完全に嫌がらせだ。
〇〇は万が一にも的にならないように離れた場所で木を盾にする。
逃げないのは、追っ手があの刃物になるだろうことが想像に易いから。
「〇〇、そんなに遠い所じゃなくて傍においでよ」
「心配しなくてもちゃんと貸してあげるよ」
だから一緒に遊ぼう、と無邪気な悪意に手招きされる。一緒に遊ぶんじゃない、奴らはあたし“で”遊ぶ気だ!
冗談ではない。ぶんぶんを首を横に振って意思表示をすると、彼らは顔を見合わせて「やれやれ」と言いたげに溜め息をついた。
ナイフを弄んだかと思うと、次の瞬間、目にも留まらぬ速さで〇〇の顔の真横に飛んできた。
「――ッ!!」
声を出す間もなかった。どたん、と腰が地面に落ちる。
(さッ……刺さるかと、思った……)
深々と幹に立つ銀色を呆然と見上げる。あれが肌に触れていたらと思うとぞっと震えが走った。
恐怖を与えた当人らはというと、明らかに面白がった様子で近づいてきた。
「大丈夫?顔色悪いよ?」
「もしかして本当に当てると思ったの?」
俯いて黙り込む〇〇を囲んで、無反応に首を傾げる。
〇〇?〇〇?と呼びかけてぺたぺたと頭を撫でたり肩を叩いたりしていたが、身をかがめて顔を覗き込んだダムが「あ」と声を上げた。
「…泣いてる?」
「えっ」
弾かれたように反応して今度はディーが慌てて〇〇の正面に回り込んだ。
「〇〇?…ごめん。そんなに怖かったんだ」
「――っ、泣いてない!」
〇〇はキッと顔を上げた。目尻に涙が滲んでしまったのはこれ以上ないほどの不覚だった。
尻餅をつくほど驚いたのは事実だが、心臓が受けた衝撃をなんとか緩和しているところに喋りかけられて応答できなかっただけだ。
なのに双子はしゃがんで〇〇を慰めようと頭やらなにやら撫でてくる。
子供に子供扱いされている状態に、〇〇は脱力してしまった。こちらの反応に予想以上の手応えがあったせいか、少しだけ反省の色が窺える。その姿は年相応に見えるため、余計になんだかなあと思ってしまう。
「でも〇〇だって悪いんだよ?」
「…は?」
それは聞き捨てならない。あたしのどこに過失があるっていうんだ。
赤と青のツインズを交互に見遣る。この顔は…ひょっとして拗ねている、のだろうか。
「なに?」
「…ボリスに聞いたんだけど、〇〇ってボスの情婦じゃないんだよね?」
「本当に誰のものにもなってない?」
真剣な表情をしてずいと迫る二つの顔に、言いようのない疲労感を覚えた。まだその話を引っ張るか。
というか、真相をボリス経由で知るのはなにか間違っている気がする。もとはこのファミリー内でのみ束の間流れた根も葉もない噂だ(いや、〇〇の格好が根や葉になったのか)。収束がついたのだから、つまり噂はただの噂として消えていったはずだ。それなのに疑う人間がまだいて、しかもそれが外に洩らした張本人達であるとは。
偽りを一切許さない二対の瞳に、確実に届くようにきちんと答えた。
「情婦なんて論外。もちろん、誰かのものになった覚えもないよ」
「じゃあ処女?」
「や、もう済んでるけど」
ってなに答えてるんだあたし。じろじろと見られて「文句あるか」と視線を返せば、にこりと笑われた。待て。笑顔は、もしや。
「興味あるなー、〇〇の初体験の相手。ね、兄弟」
「うんうん。どんな感じだったのかも気になるね」
やっぱりか。予感が当たったが全然嬉しくない。
そんな興味津々になられても、聞いたって面白くないだろうに。
明らかに気が乗らない様子の〇〇を、二人はお構いなしに取り囲んだ。
「相手の男はやっぱり〇〇の恋人?」
「…元、な」
「へえ、別れたんだ。じゃあ、今は?」
「恋人がいるのかいないのかって?まあ…いると言えば、いる…かな」
判然としないと自分でも思う。だが、自分と彼を恋人という定義に嵌めることは難しい。
好きだと言われた。僕が勝手に君を好きになったんだ。だから君はそのままでいいんだよ、と。
それに対してあたしが思ったのは――返した言葉は――。
ぼんやりと考え事に耽りそうになっていた〇〇だったが、双子の発言に一気に引き戻された。
「兄弟。やっぱりナイフ、持ってこようか」
「うん、兄弟。吐かせるにはそれが一番かも」
「!ちょっと、本気でやめてくれる?」
立ち上がる二人の手を掴む。が、容易に振り解かれてしまった。
「だって、〇〇はすぐに隠し事するから」
「当たり障りのない事ばっかり言うし」
「誰のものでもないから、僕らはもっと踏み込むよ」
「もっといろんな顔も見たいしね。…泣き顔、可愛かった」
子供らしい笑顔に子供に似つかわしくないものを織り交ぜて残し、双子は〇〇から離れて行ってしまった。
ナイフを手に二人が戻ってくることに恐怖するよりも、彼らの言ったことに気を取られていた。
納得のいかないことばかり、言いたいように言われたような。