歪んだ時計の鼓動
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銃声は想像以上に大きく頭に響いた。耳にもだ。至近距離のせいもあったのだろう。
正直、今度ばかりは撃たれたと思った。なのに痛みがいっこうに訪れない。
役持ち同士ならいざ知らず、一般人の(ましてや運動神経に自信があるとは言えない)自分に弾を避ける芸当は不可能だ。ペーターが狙いを外すとも考えられない。
苦痛の代わりに、〇〇の身体は他者の体温に包み込まれていた。
はっと目を開ける〇〇のすぐ傍には、場に不釣合いの明るい声。
「――ペーターさんも隅に置けないな~。〇〇にいけないこと、しようとするなんて…」
ガウン!銃声がまたひとつ。直後〇〇は耳を塞いでいた手を離したが、そこに見えたものに危うく悲鳴を上げるところだった。
「エ、エース…っ!?」
「やあ。城の中で会うなんて奇遇だね、〇〇」
後ろから覗き込んだエースは、ニコリと効果音がつくような笑顔を見せる。
〇〇はそれよりも別のものに気を取られてしかたがなかったが、エースの意識はペーターに向かっていた。
「危ないなあ、ペーターさんは」と危機感の欠片もなく嘯く。そして、まったく空気の読めない発言をかました。
「〇〇と二人で盛り上がってるから、てっきり猥談かなにかかと思って混ぜてもらいに来たんだけど……違った?」
どんな理由で近づいてきてんだアナタ。それにどこをどう見て猥談なんていう発想が出てくる。
突っ込みを入れる余裕のない〇〇の目の前を、何度目かの発砲が襲う。それをエースはにこやかに剣を振るって弾いた。足手まといを腕に収めたままの、まさに人間離れした応戦だ。刃毀れの心配はいいのか。
騎士の腕の中に捕われた〇〇は、すぐそこにある鋭い光を放つ刃に血の気を失った。
(あたしにとって一番危ないのはアナタだ、エース…!)
命の恩人(継続中)に抱くべき気持ちでないのは承知の上である。しかし、だ。平和国家に生まれた人間(あたし)には、銃よりもむしろ刃物にこそ脅威を感じるのだ。銃なんて、実感のない凶器。
紙でできる切り傷の痛みでさえ嫌なのに、それがこの世界では斧やら大剣やら…冗談ではない。
なんてもんをあたしに近づけるんだ、と〇〇は可能な限りそれと距離を取ろうとする。そうすればするほどエースと密着することになるが、今の優先順位を考えれば取るに足らないこと。
いかにも切れ味満点のそれを間近に、身がすくむ。力が抜けてしまいそうになる。
真っ直ぐに立つにはエースの腕に縋るしかなく、そんな自分がなんとも情けない。
腰に回された腕をしっかりと掴めば、応えるように、何故か必要以上に深く抱え込まれた。お、この腕。結構しっかり筋肉ついてるんだー…。
(って、んなことどうでもいいんだよ…!)
今はこの状況を逃れることその唯ひとつ。
〇〇は力の入らない自分を叱咤すると、喉を震わせて、
「た……助けてペーター……」
「……。自分でその男の腕に縋りついていながら言う台詞ですか」
白ウサギさんはすっかりいつもの調子を取り戻していた。そもそもの元凶が自分にあることを綺麗に棚に上げ、面倒なことに巻き込まれたと言わんばかりである(考えようによっては、あれを話題に出してしまったこちらに責任があると言えなくもない。が、ペーターの被害者面は納得しかねる)。
ペーターは、がっちりとエースを支えにした状態で救いを求める〇〇を胡散臭そうに眺めた。
ふと、〇〇とエースの接触する箇所に目を留め、いっそう不快そうに眉間の皺を増やす。その手にある銃は先程よりもしっかりとエースのみに照準を合わせたように見える。のは、気のせいだろうか。
身動きの取れない〇〇の耳元で、エースが笑った。耳朶を掠めた唇にぎくりと肩が揺れる。
「っ、」
「ペーターさんの言うとおりだよ。君は俺を選んだんだから、最後まで俺だけに縋ってなくちゃ駄目だぜ?」
「ちょっ、選んだとか違…」
「それに心配しなくても、ちゃんと俺が守ってあげるから、な?」
細めた赤の瞳が、すっとペーターに向けられる。笑みを深めるエースの口元に、ペーターの頬がひくりと痙攣した。
張り詰めた糸が見える。触れると鮮やかに身を切られて、血飛沫が飛び散る、そんな光景が浮かぶほどの切迫。なんだこの空気。誰か、誰か早く打ち破ってくれ息が詰まる!
(誰かだって?この空間であたし以外にまともな奴は……居ない)
打破可能なのはあたしだけって、まさに選択肢ゼロ。打ちひしがれながら、〇〇は多くの幸福を唇から逃がした。自分でどうにかするしか手はない。
怯む心を励まし、ギラリと自己の存在を主張する物(ぶつ)から精一杯に目を逸らして。
〇〇はきゅっと口を引き結ぶと、頬を引き攣らせつつもなんとか笑みを形作り、
「――あー、自分たちだけの世界を創り出して脇目も振らず見つめ合っちゃうほど二人が“イイ関係”だったとは、あたし知らなかったなー」
含みをいかに持たせるか、が最大のポイントだった。うわ、我ながらなんてわざとらしい。こんな棒読みでは意図がバレバレであろう。
とはいえ武力行使は無理だというわけで、ならばと気力を削ぐほうを試してみたのだが。
ただ、これでシラけて馬鹿らしくなってくれれば結果オーライだが、(特にペーターが)あたしにキレちゃったりとかしたら、さらに状況悪化でもう手に負えない――。
「……」
「……」
内心〇〇はひやひやしていたが、その台詞を聞いた瞬間、ペーターとエースの絡まっていた視線は不自然に逸らされた。
銃口は床に下がり、剣は鞘に収められる。(その際、〇〇はさり気なくエースと距離を取った)
「み、妙なことを言わないでください!万が一にもアリスの耳に入ったらどうするんです。史上最悪の誤解をされてしまうじゃないですかっ。…もしそうなれば〇〇、あなたの身体に責任を取らせますよ」
「あははっ。身体に責任って、響きがやらしいよペーターさん。……あれ?今ペーターさんの顔を見たら、なんだか本気で吐き気を催したんだけど。どうしてだろ?」
ペーターは色白の肌を青くさせ、エースは口元に手を当てて首を捻った。
とりあえず、戦意を喪失させることには無事成功したようである。〇〇はふうと胸を撫で下ろした。
さて。危機を脱したところで、急激な展開にきっかけを失した記憶がやっと甦る。そうだ、この騎士に会ったら是非とも言わねばならないことがあったではないか。
〇〇は思わず今は無き災いの種を蒔かれた首筋を押さえ、せっかく広げた距離を縮めてエースに詰め寄っていた。
「エース!アナタこの前、っていうかもうちょっと前だけど、とにかくあのとき…っ」
「…ん?どうしたんだい、〇〇」
一言言わねば気が済まない、と湧き上がった憤りは、爽やかな笑顔を前に封じられる。いや、そうではなく、〇〇を思いとどまらせたのは第三者の存在だった。
ペーターは立ち去ることなく、不可解そうな顔をしてこちらのやりとりを傍観している。
今この場で例の件を口に出すのは得策ではない、と冷静な脳が判断した。
〇〇は軽く息をつくと、片手を持ち上げてひらひらと振った。
「……や、あの件についてはもういいわ」
「えー」
なんだその不満げな表情は。
「俺としては語り合ってもいいくらいだぜ?…もし〇〇が俺と二人きりで話したいって言うなら、俺を君の部屋に招いてくれるのが一番手っ取り早いんじゃないかな」
「なんだよ語り合いって。却下。文句を言いたいのは山々だけどな、そのためにわざわざあたしが機会を設けるのもなんか癪に障るもんがある」
ふんとそっぽを向く〇〇に、つれないなと笑むエース。その顔は実に愉快そうだ。
「じゃあ、俺が君を部屋に連れていくっていうのは?」
「…何十時間帯かけるつもり?てかさ、エースの旅に付き合うのは当分控えたいんだって」
というわけだから、と〇〇はやや強引に話に終止符を打った。
例の件に関してはもういい。不問に付すということにしておこう。気にすればするほど、奴の術中にはまる気がしてならないから。
確かに多少被害を被ったが、すべては済んだことだ。…実を言えば、蒸し返すのも煩わしくなったのだ。
「それじゃあ、二人とも。また何処かで」
できればアリスとセットでよろしく、と心の中で付け足すと、〇〇は二人をその場に残して立ち去った。
正直、今度ばかりは撃たれたと思った。なのに痛みがいっこうに訪れない。
役持ち同士ならいざ知らず、一般人の(ましてや運動神経に自信があるとは言えない)自分に弾を避ける芸当は不可能だ。ペーターが狙いを外すとも考えられない。
苦痛の代わりに、〇〇の身体は他者の体温に包み込まれていた。
はっと目を開ける〇〇のすぐ傍には、場に不釣合いの明るい声。
「――ペーターさんも隅に置けないな~。〇〇にいけないこと、しようとするなんて…」
ガウン!銃声がまたひとつ。直後〇〇は耳を塞いでいた手を離したが、そこに見えたものに危うく悲鳴を上げるところだった。
「エ、エース…っ!?」
「やあ。城の中で会うなんて奇遇だね、〇〇」
後ろから覗き込んだエースは、ニコリと効果音がつくような笑顔を見せる。
〇〇はそれよりも別のものに気を取られてしかたがなかったが、エースの意識はペーターに向かっていた。
「危ないなあ、ペーターさんは」と危機感の欠片もなく嘯く。そして、まったく空気の読めない発言をかました。
「〇〇と二人で盛り上がってるから、てっきり猥談かなにかかと思って混ぜてもらいに来たんだけど……違った?」
どんな理由で近づいてきてんだアナタ。それにどこをどう見て猥談なんていう発想が出てくる。
突っ込みを入れる余裕のない〇〇の目の前を、何度目かの発砲が襲う。それをエースはにこやかに剣を振るって弾いた。足手まといを腕に収めたままの、まさに人間離れした応戦だ。刃毀れの心配はいいのか。
騎士の腕の中に捕われた〇〇は、すぐそこにある鋭い光を放つ刃に血の気を失った。
(あたしにとって一番危ないのはアナタだ、エース…!)
命の恩人(継続中)に抱くべき気持ちでないのは承知の上である。しかし、だ。平和国家に生まれた人間(あたし)には、銃よりもむしろ刃物にこそ脅威を感じるのだ。銃なんて、実感のない凶器。
紙でできる切り傷の痛みでさえ嫌なのに、それがこの世界では斧やら大剣やら…冗談ではない。
なんてもんをあたしに近づけるんだ、と〇〇は可能な限りそれと距離を取ろうとする。そうすればするほどエースと密着することになるが、今の優先順位を考えれば取るに足らないこと。
いかにも切れ味満点のそれを間近に、身がすくむ。力が抜けてしまいそうになる。
真っ直ぐに立つにはエースの腕に縋るしかなく、そんな自分がなんとも情けない。
腰に回された腕をしっかりと掴めば、応えるように、何故か必要以上に深く抱え込まれた。お、この腕。結構しっかり筋肉ついてるんだー…。
(って、んなことどうでもいいんだよ…!)
今はこの状況を逃れることその唯ひとつ。
〇〇は力の入らない自分を叱咤すると、喉を震わせて、
「た……助けてペーター……」
「……。自分でその男の腕に縋りついていながら言う台詞ですか」
白ウサギさんはすっかりいつもの調子を取り戻していた。そもそもの元凶が自分にあることを綺麗に棚に上げ、面倒なことに巻き込まれたと言わんばかりである(考えようによっては、あれを話題に出してしまったこちらに責任があると言えなくもない。が、ペーターの被害者面は納得しかねる)。
ペーターは、がっちりとエースを支えにした状態で救いを求める〇〇を胡散臭そうに眺めた。
ふと、〇〇とエースの接触する箇所に目を留め、いっそう不快そうに眉間の皺を増やす。その手にある銃は先程よりもしっかりとエースのみに照準を合わせたように見える。のは、気のせいだろうか。
身動きの取れない〇〇の耳元で、エースが笑った。耳朶を掠めた唇にぎくりと肩が揺れる。
「っ、」
「ペーターさんの言うとおりだよ。君は俺を選んだんだから、最後まで俺だけに縋ってなくちゃ駄目だぜ?」
「ちょっ、選んだとか違…」
「それに心配しなくても、ちゃんと俺が守ってあげるから、な?」
細めた赤の瞳が、すっとペーターに向けられる。笑みを深めるエースの口元に、ペーターの頬がひくりと痙攣した。
張り詰めた糸が見える。触れると鮮やかに身を切られて、血飛沫が飛び散る、そんな光景が浮かぶほどの切迫。なんだこの空気。誰か、誰か早く打ち破ってくれ息が詰まる!
(誰かだって?この空間であたし以外にまともな奴は……居ない)
打破可能なのはあたしだけって、まさに選択肢ゼロ。打ちひしがれながら、〇〇は多くの幸福を唇から逃がした。自分でどうにかするしか手はない。
怯む心を励まし、ギラリと自己の存在を主張する物(ぶつ)から精一杯に目を逸らして。
〇〇はきゅっと口を引き結ぶと、頬を引き攣らせつつもなんとか笑みを形作り、
「――あー、自分たちだけの世界を創り出して脇目も振らず見つめ合っちゃうほど二人が“イイ関係”だったとは、あたし知らなかったなー」
含みをいかに持たせるか、が最大のポイントだった。うわ、我ながらなんてわざとらしい。こんな棒読みでは意図がバレバレであろう。
とはいえ武力行使は無理だというわけで、ならばと気力を削ぐほうを試してみたのだが。
ただ、これでシラけて馬鹿らしくなってくれれば結果オーライだが、(特にペーターが)あたしにキレちゃったりとかしたら、さらに状況悪化でもう手に負えない――。
「……」
「……」
内心〇〇はひやひやしていたが、その台詞を聞いた瞬間、ペーターとエースの絡まっていた視線は不自然に逸らされた。
銃口は床に下がり、剣は鞘に収められる。(その際、〇〇はさり気なくエースと距離を取った)
「み、妙なことを言わないでください!万が一にもアリスの耳に入ったらどうするんです。史上最悪の誤解をされてしまうじゃないですかっ。…もしそうなれば〇〇、あなたの身体に責任を取らせますよ」
「あははっ。身体に責任って、響きがやらしいよペーターさん。……あれ?今ペーターさんの顔を見たら、なんだか本気で吐き気を催したんだけど。どうしてだろ?」
ペーターは色白の肌を青くさせ、エースは口元に手を当てて首を捻った。
とりあえず、戦意を喪失させることには無事成功したようである。〇〇はふうと胸を撫で下ろした。
さて。危機を脱したところで、急激な展開にきっかけを失した記憶がやっと甦る。そうだ、この騎士に会ったら是非とも言わねばならないことがあったではないか。
〇〇は思わず今は無き災いの種を蒔かれた首筋を押さえ、せっかく広げた距離を縮めてエースに詰め寄っていた。
「エース!アナタこの前、っていうかもうちょっと前だけど、とにかくあのとき…っ」
「…ん?どうしたんだい、〇〇」
一言言わねば気が済まない、と湧き上がった憤りは、爽やかな笑顔を前に封じられる。いや、そうではなく、〇〇を思いとどまらせたのは第三者の存在だった。
ペーターは立ち去ることなく、不可解そうな顔をしてこちらのやりとりを傍観している。
今この場で例の件を口に出すのは得策ではない、と冷静な脳が判断した。
〇〇は軽く息をつくと、片手を持ち上げてひらひらと振った。
「……や、あの件についてはもういいわ」
「えー」
なんだその不満げな表情は。
「俺としては語り合ってもいいくらいだぜ?…もし〇〇が俺と二人きりで話したいって言うなら、俺を君の部屋に招いてくれるのが一番手っ取り早いんじゃないかな」
「なんだよ語り合いって。却下。文句を言いたいのは山々だけどな、そのためにわざわざあたしが機会を設けるのもなんか癪に障るもんがある」
ふんとそっぽを向く〇〇に、つれないなと笑むエース。その顔は実に愉快そうだ。
「じゃあ、俺が君を部屋に連れていくっていうのは?」
「…何十時間帯かけるつもり?てかさ、エースの旅に付き合うのは当分控えたいんだって」
というわけだから、と〇〇はやや強引に話に終止符を打った。
例の件に関してはもういい。不問に付すということにしておこう。気にすればするほど、奴の術中にはまる気がしてならないから。
確かに多少被害を被ったが、すべては済んだことだ。…実を言えば、蒸し返すのも煩わしくなったのだ。
「それじゃあ、二人とも。また何処かで」
できればアリスとセットでよろしく、と心の中で付け足すと、〇〇は二人をその場に残して立ち去った。