歪んだ時計の鼓動
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「こんなところでなにをやってるんです」
「―――げ、」
ひやりと冷気漂う声音に、〇〇はひくりと肩を揺らした。
お茶会で楽しいひとときを過ごした後で気分上々の今、何故なんだ。そろそろ帰ろうかという廊下で、よりにもよって厄介な人物と会ってしまった。
社交的に応対する方向にいっても、無視する方向にいっても、おそらくこの白ウサギさんの態度は同じこと。ああほら、彼の手の中ですでに時計は銃に早変わり。
白いウサギさんことペーター=ホワイトは一定の距離までつかつかと歩み寄ると、間隔を保ってぴたりと立ち止まった。
そして、すん、となにかを嗅ぐ仕草をする。
「やはり、アリスの匂いがします。…ついさっきまで一緒にいましたね?」
(……アリス感知機?)
アリスに関することに対しては並以上に感覚器官が発達しているのかと、いつものことながら舌を巻いてしまう。
「あなたは懲りもせずに、また…。わざわざ僕のアリスに会いに来ないでください。あなたは余所者なんですから、そこらの男に可愛がってもらっていればいいでしょう」
(…相変わらずだなあ、この白ウサギさんは)
見事なアリス至上主義。毎度のことながら、〇〇は感心とともに内心にやけてしまう。
ペーターのアリス溺愛っぷりが強調されるほどに、その鬱陶しさが微笑ましい。彼がアリスに近づくだけで楽しませてもらえるなんて実にいい。
どうせなら一対一の今ではなく、もう少し早く来てくれていればよかったのに、と思う。
実はお茶会の後、アリスの部屋にお邪魔していたのだ。そこに飛び込んできてくれたほうが展開としてはよほど面白かったはずだ。
ただし、相応のリスクは伴うだろうが、と彼の手の内にある物騒なものをちらと見る。
目線を上げて、神経質な眼差しを向けるペーターを改めて眺めた。
そうして、ほんの半時間ほど前の会話を思い出す。ああ、そういえばアリス、言ってたっけ。
出会ってしまったついでに、彼女の言った“ある部分”を見出そうと試みるが、なかなか見つからない。
やはり外見的にはなさそうだ。と観察を終えたところで、ペーターの警戒心がひしひしと伝わってきた。〇〇の様子は彼の中にある負の感情をいっそう煽ったようだ。
「なんですか、人を不躾にじろじろと眺め回して。そんなに殺してほしいんですか」
「そうじゃなくて…ただ、言われるほどあたしとアナタのどこが似てるんだろうと思――っと…」
ジャキリ。突きつけられた銃口に思わず両手を天に降参ポーズ。
ペーターは心底嫌そうに、顔を盛大に歪めていた。端正な顔つきが台無しである。
「気持ち悪いことを言わないでください!ああっ、こんなにも鳥肌が…!」
「や、あたしじゃなくてある人がね?」
「誰ですか、そんなおぞましい戯言をほざいたのは。素直に白状すれば、両手両足で今日のところは見逃してあげますよ。だから、」
さあ吐きなさい、なんてそれじゃあ頭と胴体しか残らない。全然見逃してねーよ、と内心突っ込みを入れ、〇〇はにやりと口角を上げた。
口の悪いウサギさんを懲らしめるに相応しい事実。ショックを受けようがあたしの知ったことかと、求めに応じてその名を口にした。アナタが知りたがったんだろ、宰相様?
「誰って――アナタの、愛しのアリスがそう言ったんだよ?」
その声を発して一瞬後、理解が脳に達したペーターに、落雷。
「――ッ!?ア…アリスがそんなことを……ひどい、ひどいですっ」
まさにガーンと衝撃を受けたペーターは、ショックのあまり廊下の隅っこで体育館座りを開始してしまった。…え、なに。そこまであたしが嫌なのか。
さすがに〇〇もペーターの反応の過剰さに若干傷つく――ことはなかった。
自分が疎まれるほどに、ペーターはアリスを本当に好きなんだなと実感できて、やはり微笑ましくなるだけなのだ。断っておくが、あたしは決してマゾヒストではない。
それに、ペーターの毒にやられてしまうほど、神経は繊細にできていないのだろう。
こういう場合、どうするべきだろうか。助けにアリスを呼ぶことは不可能だし、たとえ可能であったとしても、かえって事態を混乱させるだけのような気もする。
〇〇は一応宥めておくかとペーターに近づくが、傷心のウサギさんはぶつぶつと不穏なことを呟いていた。
「いったい僕のどこがこんな余所者と…?ああ嫌だ。こんな思考をすること自体耐え難い。屈辱的だ。殺してしまいたい、いっそこの機会に殺して…」
「ペーター。なにもそこまで嫌がらなくても」
まあまあとつい肩を叩こうとすれば、さっと身をかわされた。あ、そうだった。この手は雑菌だらけだったな。
射殺す眼差しに無害だぞと証明するように手を振ってみせる。
ペーターは睨みで〇〇を殺しそうな目をして立ち上がった。心のほうも、どうやら立ち直ったようだ。名残は見えるがいつもの蔑みを〇〇にくれた。
「……それで、アリスはどこにその忌まわしい類似点があると言ったんです?」
「あれ。興味あるんだ」
てっきり完全拒否、受けつけないものと思っていたが。
「徹底的に似た部分を排除するため以外、僕があなたごときに関心を持つはずがないでしょう。僕を馬鹿にしていますね?」
してないしてない。しかし、これで意外に思えたペーターの興味の理由がはっきりした。ま、類似点だか共通点だかを排除する前に、あたしを射殺体にするっていう解決策を見つけなきゃいいけども。
ともあれ、殺されることさえなければそれでいい。むしろ、ペーターがアリスに対する執着を見せるほどに、〇〇の中には喜びが生まれる。
アリスさえ想われているのなら、自分は蔑ろにされてもいっこうに構わないのだ。
「―――げ、」
ひやりと冷気漂う声音に、〇〇はひくりと肩を揺らした。
お茶会で楽しいひとときを過ごした後で気分上々の今、何故なんだ。そろそろ帰ろうかという廊下で、よりにもよって厄介な人物と会ってしまった。
社交的に応対する方向にいっても、無視する方向にいっても、おそらくこの白ウサギさんの態度は同じこと。ああほら、彼の手の中ですでに時計は銃に早変わり。
白いウサギさんことペーター=ホワイトは一定の距離までつかつかと歩み寄ると、間隔を保ってぴたりと立ち止まった。
そして、すん、となにかを嗅ぐ仕草をする。
「やはり、アリスの匂いがします。…ついさっきまで一緒にいましたね?」
(……アリス感知機?)
アリスに関することに対しては並以上に感覚器官が発達しているのかと、いつものことながら舌を巻いてしまう。
「あなたは懲りもせずに、また…。わざわざ僕のアリスに会いに来ないでください。あなたは余所者なんですから、そこらの男に可愛がってもらっていればいいでしょう」
(…相変わらずだなあ、この白ウサギさんは)
見事なアリス至上主義。毎度のことながら、〇〇は感心とともに内心にやけてしまう。
ペーターのアリス溺愛っぷりが強調されるほどに、その鬱陶しさが微笑ましい。彼がアリスに近づくだけで楽しませてもらえるなんて実にいい。
どうせなら一対一の今ではなく、もう少し早く来てくれていればよかったのに、と思う。
実はお茶会の後、アリスの部屋にお邪魔していたのだ。そこに飛び込んできてくれたほうが展開としてはよほど面白かったはずだ。
ただし、相応のリスクは伴うだろうが、と彼の手の内にある物騒なものをちらと見る。
目線を上げて、神経質な眼差しを向けるペーターを改めて眺めた。
そうして、ほんの半時間ほど前の会話を思い出す。ああ、そういえばアリス、言ってたっけ。
出会ってしまったついでに、彼女の言った“ある部分”を見出そうと試みるが、なかなか見つからない。
やはり外見的にはなさそうだ。と観察を終えたところで、ペーターの警戒心がひしひしと伝わってきた。〇〇の様子は彼の中にある負の感情をいっそう煽ったようだ。
「なんですか、人を不躾にじろじろと眺め回して。そんなに殺してほしいんですか」
「そうじゃなくて…ただ、言われるほどあたしとアナタのどこが似てるんだろうと思――っと…」
ジャキリ。突きつけられた銃口に思わず両手を天に降参ポーズ。
ペーターは心底嫌そうに、顔を盛大に歪めていた。端正な顔つきが台無しである。
「気持ち悪いことを言わないでください!ああっ、こんなにも鳥肌が…!」
「や、あたしじゃなくてある人がね?」
「誰ですか、そんなおぞましい戯言をほざいたのは。素直に白状すれば、両手両足で今日のところは見逃してあげますよ。だから、」
さあ吐きなさい、なんてそれじゃあ頭と胴体しか残らない。全然見逃してねーよ、と内心突っ込みを入れ、〇〇はにやりと口角を上げた。
口の悪いウサギさんを懲らしめるに相応しい事実。ショックを受けようがあたしの知ったことかと、求めに応じてその名を口にした。アナタが知りたがったんだろ、宰相様?
「誰って――アナタの、愛しのアリスがそう言ったんだよ?」
その声を発して一瞬後、理解が脳に達したペーターに、落雷。
「――ッ!?ア…アリスがそんなことを……ひどい、ひどいですっ」
まさにガーンと衝撃を受けたペーターは、ショックのあまり廊下の隅っこで体育館座りを開始してしまった。…え、なに。そこまであたしが嫌なのか。
さすがに〇〇もペーターの反応の過剰さに若干傷つく――ことはなかった。
自分が疎まれるほどに、ペーターはアリスを本当に好きなんだなと実感できて、やはり微笑ましくなるだけなのだ。断っておくが、あたしは決してマゾヒストではない。
それに、ペーターの毒にやられてしまうほど、神経は繊細にできていないのだろう。
こういう場合、どうするべきだろうか。助けにアリスを呼ぶことは不可能だし、たとえ可能であったとしても、かえって事態を混乱させるだけのような気もする。
〇〇は一応宥めておくかとペーターに近づくが、傷心のウサギさんはぶつぶつと不穏なことを呟いていた。
「いったい僕のどこがこんな余所者と…?ああ嫌だ。こんな思考をすること自体耐え難い。屈辱的だ。殺してしまいたい、いっそこの機会に殺して…」
「ペーター。なにもそこまで嫌がらなくても」
まあまあとつい肩を叩こうとすれば、さっと身をかわされた。あ、そうだった。この手は雑菌だらけだったな。
射殺す眼差しに無害だぞと証明するように手を振ってみせる。
ペーターは睨みで〇〇を殺しそうな目をして立ち上がった。心のほうも、どうやら立ち直ったようだ。名残は見えるがいつもの蔑みを〇〇にくれた。
「……それで、アリスはどこにその忌まわしい類似点があると言ったんです?」
「あれ。興味あるんだ」
てっきり完全拒否、受けつけないものと思っていたが。
「徹底的に似た部分を排除するため以外、僕があなたごときに関心を持つはずがないでしょう。僕を馬鹿にしていますね?」
してないしてない。しかし、これで意外に思えたペーターの興味の理由がはっきりした。ま、類似点だか共通点だかを排除する前に、あたしを射殺体にするっていう解決策を見つけなきゃいいけども。
ともあれ、殺されることさえなければそれでいい。むしろ、ペーターがアリスに対する執着を見せるほどに、〇〇の中には喜びが生まれる。
アリスさえ想われているのなら、自分は蔑ろにされてもいっこうに構わないのだ。