歪んだ時計の鼓動
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「誰か、この者の首をはねよ」
(――で、結局こうなるわけだ)
長らく続いた昼ともお別れ。時間帯は美しく空が染まる夕暮れだ。
おそらく時間帯と同じようにずっと続いていたのだろう女王の不機嫌は、ようやく訪れた夕方に見事回復したらしい。
その証拠に、あと一歩というところで間に合わなかった兵士に、上機嫌で斬首を命じた。
「ビバルディっ、ほんのちょっと遅かっただけじゃない。ね、首をはねるほどじゃないわ!」
「…アリス。命令に反した者は、罰せねばならぬ」
甘やかにアリスを見つめ、ビバルディは言う。
無慈悲で傲慢な女王様は、余所者であるアリスをいたく気に入っている。
アリスが処刑に関して進言している姿を見るのはこれで何度目だろう。必死に血を見るのを回避しようと頑張るアリスと、冷酷に処刑を実行に移そうとするビバルディ。
なかなか華やかではないか。女同士でこんなにも楽しめる図なんてそうないだろう。彼女らのやりとりは程よく耳に馴染むBGMだ。
〇〇への命令の内容はなんてことはない、お茶会へのお誘いだった。こういった命令ならばいつでも喜んで受けよう。
ああ、それにしても本当にいいわ、この空間。和むなあ。
「〇〇、あなたもなにか言ってよっ」
「…んあ?」
美味の紅茶とスコーンに舌鼓を打っていた〇〇は、話を振られて首を傾げた。
じれったそうなアリスと目が合い、一瞬不思議な気分になる。観賞者と化していたために、唐突に映画のスクリーンの中に放り込まれたかのような心地になったのだ。
〇〇は唇をぺろりと舌で舐めつつ、
「なにかって言われても。えーっと…なに言えばいい?」
「なにって……な、なんでもいいから!〇〇は彼が処刑されてもいいって言うの!?」
こくんと紅茶で喉を潤す。流した視線は女王へ。彼女もこちらがなにを言うだろうかと興味深げに目を細めた。…なんだろう、その期待に満ちた目は。
「…いやー、下手なこと言って今、あたしの首を飛ばされちゃかなわないし。それに、ビバルディの意に背くのはあんまり好きじゃないんだ」
〇〇の保身的発言に、アリスは目を瞠り、ビバルディはふふと笑う。
ハートの女王ビバルディは常々、〇〇の首を一度でいいからはねてみたいと言って憚らない。当然、一度は一度しかないので「じゃあどうぞ」と快諾できるはずもなく、そこのところは彼女も解っているようで。
ただ、万が一にもなんらかのきっかけがあれば試してみたいという欲求があるらしい。
今か今かと好機を窺うビバルディは、惜しそうに、だが大半は満足げに微笑んで言った。
「おや。いつの間にそのような従順な子になったのじゃ、〇〇?」
「従順?…ちょっと違うと思うけど。あたしはただ、自分の欲望に素直なんだよ」
(この世界では、ね)
罪を問われたのが役持ちなら対処も考えただろうが、彼は役なしだ。特別視して気にかけるほどの存在ではない。アリスの相手はやはり役持ちでなければ面白くない。
あくまでもこの世界をゲームと捉える〇〇は、時として冷淡に映る。〇〇を“同じ”余所者だと思っているアリスには理解できないに違いない。
案の定、ふと垣間見た温度差にアリスは言葉を失っている。一方でビバルディは、赤い唇をにっと吊り上げた。
「おお、そうであったな。おまえは、いつでも己の欲望のままに行動する余所者。…ふふ」
「う、ん…?なんか、まるで危険人物みたいなんだけど、それ」
微妙に納得し損ねた顔を作る。が、〇〇はアリスに笑みを湛えた瞳を向けた。
「でも、他ならぬアリスの頼みだし……ビバルディ」
皆まで言わず、ビバルディを見つめる。
確かにアリスの気持ちもわかるのだ。命の大切さ云々を別にしても、むやみやたらと血を見るのは気分のいいものではない。公開処刑に発展しそうなのも避けたい要因のひとつだ。
ビバルディはアリスと〇〇のそれぞれに目をやり、ふっと短く息を吐き出した。
「……可愛いおまえたちがそこまで言うのなら、今回は見逃してやろう」
(ビバルディ…。そこ、単数形だから)
夕方という時間帯の味方も大きかったのだろう。ビバルディは「次は無いぞ」と兵士を下がらせた。
さあ、女同士の楽しいお茶会の再開だ。
他愛のないお喋りと美味しいお菓子。豊かな紅茶の香りが血生臭い雰囲気を一掃する。
そんな中。アリスだけが納得のいかない顔で、もうひとりの余所者をじっと見つめていた。
(――で、結局こうなるわけだ)
長らく続いた昼ともお別れ。時間帯は美しく空が染まる夕暮れだ。
おそらく時間帯と同じようにずっと続いていたのだろう女王の不機嫌は、ようやく訪れた夕方に見事回復したらしい。
その証拠に、あと一歩というところで間に合わなかった兵士に、上機嫌で斬首を命じた。
「ビバルディっ、ほんのちょっと遅かっただけじゃない。ね、首をはねるほどじゃないわ!」
「…アリス。命令に反した者は、罰せねばならぬ」
甘やかにアリスを見つめ、ビバルディは言う。
無慈悲で傲慢な女王様は、余所者であるアリスをいたく気に入っている。
アリスが処刑に関して進言している姿を見るのはこれで何度目だろう。必死に血を見るのを回避しようと頑張るアリスと、冷酷に処刑を実行に移そうとするビバルディ。
なかなか華やかではないか。女同士でこんなにも楽しめる図なんてそうないだろう。彼女らのやりとりは程よく耳に馴染むBGMだ。
〇〇への命令の内容はなんてことはない、お茶会へのお誘いだった。こういった命令ならばいつでも喜んで受けよう。
ああ、それにしても本当にいいわ、この空間。和むなあ。
「〇〇、あなたもなにか言ってよっ」
「…んあ?」
美味の紅茶とスコーンに舌鼓を打っていた〇〇は、話を振られて首を傾げた。
じれったそうなアリスと目が合い、一瞬不思議な気分になる。観賞者と化していたために、唐突に映画のスクリーンの中に放り込まれたかのような心地になったのだ。
〇〇は唇をぺろりと舌で舐めつつ、
「なにかって言われても。えーっと…なに言えばいい?」
「なにって……な、なんでもいいから!〇〇は彼が処刑されてもいいって言うの!?」
こくんと紅茶で喉を潤す。流した視線は女王へ。彼女もこちらがなにを言うだろうかと興味深げに目を細めた。…なんだろう、その期待に満ちた目は。
「…いやー、下手なこと言って今、あたしの首を飛ばされちゃかなわないし。それに、ビバルディの意に背くのはあんまり好きじゃないんだ」
〇〇の保身的発言に、アリスは目を瞠り、ビバルディはふふと笑う。
ハートの女王ビバルディは常々、〇〇の首を一度でいいからはねてみたいと言って憚らない。当然、一度は一度しかないので「じゃあどうぞ」と快諾できるはずもなく、そこのところは彼女も解っているようで。
ただ、万が一にもなんらかのきっかけがあれば試してみたいという欲求があるらしい。
今か今かと好機を窺うビバルディは、惜しそうに、だが大半は満足げに微笑んで言った。
「おや。いつの間にそのような従順な子になったのじゃ、〇〇?」
「従順?…ちょっと違うと思うけど。あたしはただ、自分の欲望に素直なんだよ」
(この世界では、ね)
罪を問われたのが役持ちなら対処も考えただろうが、彼は役なしだ。特別視して気にかけるほどの存在ではない。アリスの相手はやはり役持ちでなければ面白くない。
あくまでもこの世界をゲームと捉える〇〇は、時として冷淡に映る。〇〇を“同じ”余所者だと思っているアリスには理解できないに違いない。
案の定、ふと垣間見た温度差にアリスは言葉を失っている。一方でビバルディは、赤い唇をにっと吊り上げた。
「おお、そうであったな。おまえは、いつでも己の欲望のままに行動する余所者。…ふふ」
「う、ん…?なんか、まるで危険人物みたいなんだけど、それ」
微妙に納得し損ねた顔を作る。が、〇〇はアリスに笑みを湛えた瞳を向けた。
「でも、他ならぬアリスの頼みだし……ビバルディ」
皆まで言わず、ビバルディを見つめる。
確かにアリスの気持ちもわかるのだ。命の大切さ云々を別にしても、むやみやたらと血を見るのは気分のいいものではない。公開処刑に発展しそうなのも避けたい要因のひとつだ。
ビバルディはアリスと〇〇のそれぞれに目をやり、ふっと短く息を吐き出した。
「……可愛いおまえたちがそこまで言うのなら、今回は見逃してやろう」
(ビバルディ…。そこ、単数形だから)
夕方という時間帯の味方も大きかったのだろう。ビバルディは「次は無いぞ」と兵士を下がらせた。
さあ、女同士の楽しいお茶会の再開だ。
他愛のないお喋りと美味しいお菓子。豊かな紅茶の香りが血生臭い雰囲気を一掃する。
そんな中。アリスだけが納得のいかない顔で、もうひとりの余所者をじっと見つめていた。