標的を誤った争奪戦
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何故そんなことにと考え、記憶を探るとひとつの可能性に思い当たった。というか、あれしか考えられないだろう。
ブラッドから借りた、あのネクタイだ。こそこそするよりは堂々としていたほうがいいだろうと思い、平然と首に巻いた姿で領地内を動き回っていた。
そのことが帽子屋ファミリー内でちょっとした話題になったのは知っていたが、それもすぐに消える程度だったのだ。
双子とボリスが友達だったことを見落としたこちらの手抜かりか。だがまさか、領地の外に話が洩れるとは思わないだろう。
今ここで騒いだところでどうにもならない。とにかく、ボリスにはきっちりと否定しておこう。
「言っとくけど、あたしとブラッドはただの友人だから」
「本当にそれだけ?〇〇はそう思ってても、向こうがどうだかな…」
今日はやけに突っかかった言い方をする。
ゴーランドにアリスを奪われて気が気ではないのだろうか。で、手っ取り早くもうひとりの余所者で気を紛らわそうという魂胆か。
ボリスはとっくに銃をほっぽり、興味の対象を所持者に変更していた。
「帽子屋のウサギさんも、あんたに気があるらしいし…。俺、心配なんだよね。あんたが俺の知らない間に、誰かのものにされないかってさ」
「なんだそれ…」
「――誤魔化しても、しらばっくれても無駄なんだ。見えない拒絶に周りは誘われる。華やかさはなくても、他とは比べものにならないくらい魅力的。…危険なくらいレアなんだよ、〇〇は」
レアなのは“余所者”であって、あたしじゃない。
それに、ボリスには期待しているのだ。他のものになんか気を取られずに、アリスとの距離を縮めることにだけ専念してほしい。そう、アリスだけに。
紛い物の余所者には誰も反応しない。(してはいけない)
アリスだけがこの世界に愛される存在。(そうでなければならない)
なのに。
ボリスはやおら〇〇の口から、銜えていた棒を引っこ抜いた。ちゅぱ、と音が鳴る。
驚く〇〇の頬に、滑るオレンジ。身を引いても追いついた唇の隙間から、赤が覗く。
「っ!」
「うわ…、思った以上に強烈なにんじん味…」
ぬる、と肌を滑る感触。舌。交互に感じる、塊。口に入っていたとき以上に鼻を突く香り。
「ボリス、なにして…」
「んー…なにって、味わってる?」
キャンディーでなぞった後を、舌が追う。
異様な行為に四肢が硬直する。ボリスは自分がなにをしているのかを本当にわかっているのか。
唖然とする〇〇を楽しげに眺め、飴で顔の輪郭を辿る。べとついた部分を這う舌。
「これで身体のライン、全部なぞっていって舐めてあげようか」
「っ…要るか。てか、人の上から避けろ」
「うん。俺も別に飴なんかなくったっていいけどね」
そっちのオプションの有無を言ったんじゃない。それに綺麗に後半部分をスルーしたな。この猫、今度は尻尾を掴んでやろうか。
半ば組み敷いた状態で行為を続けるボリスに、やがて驚きと困惑は去り、呆れが生まれる。
「……それ、楽しいか」
「味がこれなのは気に入らないけど、」
ぴちゃりと跳ねる水音。…いや、やはり呆れている場合でもない。
おかしいだろうこの状況。なにを大人しく甘受している。猫のじゃれつきは、とうに通り越しているというのに。
高い体温が、じわじわと〇〇に浸透していく。
「ボリス…」
「逃げられないぜ?」
逃がさない、と金色が言う。それは、いったいなにから?
「……なに言ってんだか」
いつだって、あたしは逃げてるじゃないか。
返す言葉の裏側にあるもの。自嘲気味に呟いた心の中。底に沈む亡骸は、誰にも見つからないまま、溜まり続けるだろう。
たとえ気まぐれな猫が深淵を覗き込んだとしても、きっとなにも見えない。
「あんたは、いつまで傍観者でいられるんだろう」
それでも、ボリスは企み顔で猫目を細めるのだ。
「きっと誰かが、そう遠くないうちにあんたを渦中に放り込む。もしあんたが俺を選んでくれるなら、優しく引きずり込んであげるけど。…どう?俺にする?」
傍観を約束されているからこそ、この世界を楽しんでいる。それはきっと、この先も変わらないこと。
そう、なにも変わらない。ここはゲーム(作り物)の世界だ。
〇〇はふ、と相好を崩した。
ボリスの手からキャンディーの棒をすいと取り返すと、伸ばした舌でれろりと舐め上げてみせる。絡めた視線は挑むように、逸らさずに。
――揺るがされるなんて、ありえない。
「お誘いありがとう。気持ちだけで充分って言いたいところだけど、それも必要ねーから捨てさせてもらうわ」
すべて、戯れ言。戯れ事。
〇〇は口元で微笑んで目を伏せる。「顔、洗ってくる」
床につけた足。落ちたタオルを拾う。持て余したキャンディーは、再びボリスに奪われた。
「持っててあげるから、行きなよ」
すべてを戯れで済ませた〇〇と同じように、ボリスも笑う。ただし、違う意味を含めて。
そうとは気づかずに背を向け洗面に向かった〇〇に、ボリスの呟く声は届かない。
「――今日だけは逃がしてあげる」
でも、これで最後。
ボリスはキャンディーの棒を指先でくるくる回すと、薄く唇を開いて笑みの形を作った。
ガリッ。
鋭い牙に砕かれたオレンジ色は、もう元には戻らない。
【標的を誤った争奪戦】
嘘じゃない あんたなら、本気で誰かと奪い合ってもいいと思ってる
continue…?→あとがき。
ブラッドから借りた、あのネクタイだ。こそこそするよりは堂々としていたほうがいいだろうと思い、平然と首に巻いた姿で領地内を動き回っていた。
そのことが帽子屋ファミリー内でちょっとした話題になったのは知っていたが、それもすぐに消える程度だったのだ。
双子とボリスが友達だったことを見落としたこちらの手抜かりか。だがまさか、領地の外に話が洩れるとは思わないだろう。
今ここで騒いだところでどうにもならない。とにかく、ボリスにはきっちりと否定しておこう。
「言っとくけど、あたしとブラッドはただの友人だから」
「本当にそれだけ?〇〇はそう思ってても、向こうがどうだかな…」
今日はやけに突っかかった言い方をする。
ゴーランドにアリスを奪われて気が気ではないのだろうか。で、手っ取り早くもうひとりの余所者で気を紛らわそうという魂胆か。
ボリスはとっくに銃をほっぽり、興味の対象を所持者に変更していた。
「帽子屋のウサギさんも、あんたに気があるらしいし…。俺、心配なんだよね。あんたが俺の知らない間に、誰かのものにされないかってさ」
「なんだそれ…」
「――誤魔化しても、しらばっくれても無駄なんだ。見えない拒絶に周りは誘われる。華やかさはなくても、他とは比べものにならないくらい魅力的。…危険なくらいレアなんだよ、〇〇は」
レアなのは“余所者”であって、あたしじゃない。
それに、ボリスには期待しているのだ。他のものになんか気を取られずに、アリスとの距離を縮めることにだけ専念してほしい。そう、アリスだけに。
紛い物の余所者には誰も反応しない。(してはいけない)
アリスだけがこの世界に愛される存在。(そうでなければならない)
なのに。
ボリスはやおら〇〇の口から、銜えていた棒を引っこ抜いた。ちゅぱ、と音が鳴る。
驚く〇〇の頬に、滑るオレンジ。身を引いても追いついた唇の隙間から、赤が覗く。
「っ!」
「うわ…、思った以上に強烈なにんじん味…」
ぬる、と肌を滑る感触。舌。交互に感じる、塊。口に入っていたとき以上に鼻を突く香り。
「ボリス、なにして…」
「んー…なにって、味わってる?」
キャンディーでなぞった後を、舌が追う。
異様な行為に四肢が硬直する。ボリスは自分がなにをしているのかを本当にわかっているのか。
唖然とする〇〇を楽しげに眺め、飴で顔の輪郭を辿る。べとついた部分を這う舌。
「これで身体のライン、全部なぞっていって舐めてあげようか」
「っ…要るか。てか、人の上から避けろ」
「うん。俺も別に飴なんかなくったっていいけどね」
そっちのオプションの有無を言ったんじゃない。それに綺麗に後半部分をスルーしたな。この猫、今度は尻尾を掴んでやろうか。
半ば組み敷いた状態で行為を続けるボリスに、やがて驚きと困惑は去り、呆れが生まれる。
「……それ、楽しいか」
「味がこれなのは気に入らないけど、」
ぴちゃりと跳ねる水音。…いや、やはり呆れている場合でもない。
おかしいだろうこの状況。なにを大人しく甘受している。猫のじゃれつきは、とうに通り越しているというのに。
高い体温が、じわじわと〇〇に浸透していく。
「ボリス…」
「逃げられないぜ?」
逃がさない、と金色が言う。それは、いったいなにから?
「……なに言ってんだか」
いつだって、あたしは逃げてるじゃないか。
返す言葉の裏側にあるもの。自嘲気味に呟いた心の中。底に沈む亡骸は、誰にも見つからないまま、溜まり続けるだろう。
たとえ気まぐれな猫が深淵を覗き込んだとしても、きっとなにも見えない。
「あんたは、いつまで傍観者でいられるんだろう」
それでも、ボリスは企み顔で猫目を細めるのだ。
「きっと誰かが、そう遠くないうちにあんたを渦中に放り込む。もしあんたが俺を選んでくれるなら、優しく引きずり込んであげるけど。…どう?俺にする?」
傍観を約束されているからこそ、この世界を楽しんでいる。それはきっと、この先も変わらないこと。
そう、なにも変わらない。ここはゲーム(作り物)の世界だ。
〇〇はふ、と相好を崩した。
ボリスの手からキャンディーの棒をすいと取り返すと、伸ばした舌でれろりと舐め上げてみせる。絡めた視線は挑むように、逸らさずに。
――揺るがされるなんて、ありえない。
「お誘いありがとう。気持ちだけで充分って言いたいところだけど、それも必要ねーから捨てさせてもらうわ」
すべて、戯れ言。戯れ事。
〇〇は口元で微笑んで目を伏せる。「顔、洗ってくる」
床につけた足。落ちたタオルを拾う。持て余したキャンディーは、再びボリスに奪われた。
「持っててあげるから、行きなよ」
すべてを戯れで済ませた〇〇と同じように、ボリスも笑う。ただし、違う意味を含めて。
そうとは気づかずに背を向け洗面に向かった〇〇に、ボリスの呟く声は届かない。
「――今日だけは逃がしてあげる」
でも、これで最後。
ボリスはキャンディーの棒を指先でくるくる回すと、薄く唇を開いて笑みの形を作った。
ガリッ。
鋭い牙に砕かれたオレンジ色は、もう元には戻らない。
【標的を誤った争奪戦】
嘘じゃない あんたなら、本気で誰かと奪い合ってもいいと思ってる
continue…?→あとがき。