挑発、触発、そして連鎖
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「あの、ブラッド…?」
「――その冒険とやらに興味が湧いた。是非とも話を聞かせてもらいたい」
部下が部下なら、上司も上司か。態度の変化が唐突過ぎてわけがわからない。
そう、この上司の気まぐれな態度は彼の部下にも読めないものなのだ。
「エリオット。出ろ」
「へっ?」
エリオットが目を瞬く。反応が遅れてしまうほど、唐突な言葉だった。再度ブラッドは命じた。
「外へ出ろと言ったんだ。だが何処へも行くな。廊下で待っていろ」
「あ、ああ……わかった……?」
わけのわからないまま、だがブラッドに忠実なエリオットは、戸惑いながらも指示どおりに部屋を出て行った。
自分のなにかがブラッドの怒りに触れたのだろうかと頭を悩ませながら、延々と廊下に立って待っているだろうことは想像に易い。
もしも原因が見つかったのなら教えてほしい。が、いくらエリオットがうんうん唸ったところで見つかるとは到底思えなかった。
何故って?――タイミングからしても、怒りの矛先は明らかにあたしに向いてるからだよ。
しかもこれは怒りというよりむしろ、どうにも性質の悪い機嫌の損ね方に思えてならないのだが。
「…さて。これで落ち着いて話ができるな、お嬢さん」
こちらに落ち着くつもりはないのだが。
「あのさ、ブラッド。前から思ってたんだけど、その“お嬢さん”っていうのやめてくれない」
「レディー扱いはお気に召さないか?」
「“お嬢さん”が似合うのはアリスだよって話。…だいたい、アナタだってわかってるんじゃないの?」
アリスとは違い、〇〇が庶民なのは明らかだ。そして英国人ではなく、日本の現代人でもある。
その時その場で相応しくない言動がどういったものか、くらいは察しがつくものの、たとえばテーブルマナーの知識などは皆無だ。高級レストランなんて縁遠い。さらに言えば、回っていない寿司屋にも行ったことがない、つまりは単なる一般的で平均的な家庭にいる凡人に過ぎないのだ。
この服装も一見、性別を疑われかねないものだろうと思う。こちらに来てスカートを穿いていない女性を見たことがない。自分の恰好は、実用的なジーパン、タンクトップの上にブラウス。そこに無駄な装飾はなく、唯一の可愛らしさというのなら、ジーパンに施された刺繍のワンポイントくらいだ。
女性らしい服装をした、しとやかで上品な自分など――……想像するだけで薄ら寒くて笑える。
「確かに…君を淑女というには少々無理があるようだ」
ブラッドが椅子から立ち上がり、近づく。腕を引かれる。――衝撃は一瞬だった。
「……だろ?そして、アナタも紳士とは呼べない」
「マフィアだからな。だが、こんな私と君なら似合いだと思わないか」
鈍く打ちつけた頭がぐらぐらする。身体の下には、ソファー。顔を顰めて見上げれば、マフィアのボスの顔と天井が目に映った。
俗に言う、押し倒されたというやつか。思わず溜め息が出た。当然、それに艶かしい色はついていない。
「ボス…この“落ち着いた”体勢で、なにを話せばいいんだ?」
「言っただろう。君の言う冒険とやらに、ひどく興味をそそられてね」
ブラッドの手が〇〇の髪に触れた。「これは寝癖だな」と指摘する。
「え……?」
「私との約束の時間に食い込むほど没頭し、身だしなみを整える暇さえなかった。髪に葉がついていたということは野外か。さぞかし、刺激的な“冒険”だったと見える」
喉の奥で笑い、温度のない鋭利な眼差しを落とされる。含んだ物言いはいつものことだが、この雰囲気は初めてだった。
約束を破ったことがそんなに気に入らなかったのか。それならこちらに非があるわけだし、謝罪を求めるなら応じよう。けれど、なにかズレを感じるのだ。
「相手は誰だ。私の知っている奴か」
「ちょっと待ってよ。今日のブラッド、なんか変…」
「おかしくもなるだろう。私は、自分のものに手を出されるのが我慢ならないんだ」
「それは知ってる…ていうか、あたしはアナタのものじゃないんだけど?」
帽子屋ファミリーに仕事で留まる間は、延いてはボスであるブラッド=デュプレのものになっていると言えなくもない。
しかしそれ以外の時間帯に彼の支配力が及ぶことはない。誰と何処でなにをしようが、〇〇の自由だ。
この正当な主張に、ブラッドは舌打ちをした。彼自身、矛盾を理解しているようだった。
「ああ、そうだ。わかっているさ。君は私のものじゃない」
「うん」
「……だが、他の誰のものでもなかったはずだ」
違うか、という問いかけと共に、髪から手が滑る。それは〇〇から離れず、顎を捕らえた。
抗議の間も与えずに強引に持ち上げられ、喉元を晒す破目になった。
「っなん、」
「この、痕を残した男を、私は嬲り殺しにしたくてたまらないんだ」
「……あと……?」
変換が上手くできない。傷痕、だろうか。それなら頬のはずだが、ブラッドが忌々しげに睨む先はもう少し下の、頸部だった。そこにあるものを、〇〇は知らない。
白い肌に咲いた、ひとつの華。
キスマークと言えば愛らしい感じもするが、うっすらと残る噛み痕からは、ともすると狂気染みた欲が見て取れる。
同じ余所者でも、アリスとはなにかが違う。
ふとした瞬間、誰のものにもならないと思わせる一面を持つ余所者――〇〇。
ブラッドは〇〇の首に手をかけた。それにはさすがにひやりとさせられたが、絞まることはなく。
ただ、手袋をしたままでも爪の感触をはっきりと感じる程度には強く、指先を突き立てられた。
「…ここに、なんとも情熱的な痕をつけられていることを、君は知らないとでも?」
く、と圧迫が強まる。それでも、心当たりのない〇〇は困惑するしかない。
ブラッドは嘆息をつくと、すっと指先を引いた。代わりに身を乗り出して、〇〇の肩口に顔を埋めようとする。
その行為を押しのけた〇〇は、ブラッドの肩を掴んでハッとした。“あと”――痕。キスマーク。
「やっと気がついたようだな」
(嘘だろ……そんなもん、誰が―――あ、)
呆れ混じりに囁かれ、居ても立ってもいられなくなる。
自分の目で確かめたいのに、ブラッドが腕を掴んでソファーに押し戻した。
「――その冒険とやらに興味が湧いた。是非とも話を聞かせてもらいたい」
部下が部下なら、上司も上司か。態度の変化が唐突過ぎてわけがわからない。
そう、この上司の気まぐれな態度は彼の部下にも読めないものなのだ。
「エリオット。出ろ」
「へっ?」
エリオットが目を瞬く。反応が遅れてしまうほど、唐突な言葉だった。再度ブラッドは命じた。
「外へ出ろと言ったんだ。だが何処へも行くな。廊下で待っていろ」
「あ、ああ……わかった……?」
わけのわからないまま、だがブラッドに忠実なエリオットは、戸惑いながらも指示どおりに部屋を出て行った。
自分のなにかがブラッドの怒りに触れたのだろうかと頭を悩ませながら、延々と廊下に立って待っているだろうことは想像に易い。
もしも原因が見つかったのなら教えてほしい。が、いくらエリオットがうんうん唸ったところで見つかるとは到底思えなかった。
何故って?――タイミングからしても、怒りの矛先は明らかにあたしに向いてるからだよ。
しかもこれは怒りというよりむしろ、どうにも性質の悪い機嫌の損ね方に思えてならないのだが。
「…さて。これで落ち着いて話ができるな、お嬢さん」
こちらに落ち着くつもりはないのだが。
「あのさ、ブラッド。前から思ってたんだけど、その“お嬢さん”っていうのやめてくれない」
「レディー扱いはお気に召さないか?」
「“お嬢さん”が似合うのはアリスだよって話。…だいたい、アナタだってわかってるんじゃないの?」
アリスとは違い、〇〇が庶民なのは明らかだ。そして英国人ではなく、日本の現代人でもある。
その時その場で相応しくない言動がどういったものか、くらいは察しがつくものの、たとえばテーブルマナーの知識などは皆無だ。高級レストランなんて縁遠い。さらに言えば、回っていない寿司屋にも行ったことがない、つまりは単なる一般的で平均的な家庭にいる凡人に過ぎないのだ。
この服装も一見、性別を疑われかねないものだろうと思う。こちらに来てスカートを穿いていない女性を見たことがない。自分の恰好は、実用的なジーパン、タンクトップの上にブラウス。そこに無駄な装飾はなく、唯一の可愛らしさというのなら、ジーパンに施された刺繍のワンポイントくらいだ。
女性らしい服装をした、しとやかで上品な自分など――……想像するだけで薄ら寒くて笑える。
「確かに…君を淑女というには少々無理があるようだ」
ブラッドが椅子から立ち上がり、近づく。腕を引かれる。――衝撃は一瞬だった。
「……だろ?そして、アナタも紳士とは呼べない」
「マフィアだからな。だが、こんな私と君なら似合いだと思わないか」
鈍く打ちつけた頭がぐらぐらする。身体の下には、ソファー。顔を顰めて見上げれば、マフィアのボスの顔と天井が目に映った。
俗に言う、押し倒されたというやつか。思わず溜め息が出た。当然、それに艶かしい色はついていない。
「ボス…この“落ち着いた”体勢で、なにを話せばいいんだ?」
「言っただろう。君の言う冒険とやらに、ひどく興味をそそられてね」
ブラッドの手が〇〇の髪に触れた。「これは寝癖だな」と指摘する。
「え……?」
「私との約束の時間に食い込むほど没頭し、身だしなみを整える暇さえなかった。髪に葉がついていたということは野外か。さぞかし、刺激的な“冒険”だったと見える」
喉の奥で笑い、温度のない鋭利な眼差しを落とされる。含んだ物言いはいつものことだが、この雰囲気は初めてだった。
約束を破ったことがそんなに気に入らなかったのか。それならこちらに非があるわけだし、謝罪を求めるなら応じよう。けれど、なにかズレを感じるのだ。
「相手は誰だ。私の知っている奴か」
「ちょっと待ってよ。今日のブラッド、なんか変…」
「おかしくもなるだろう。私は、自分のものに手を出されるのが我慢ならないんだ」
「それは知ってる…ていうか、あたしはアナタのものじゃないんだけど?」
帽子屋ファミリーに仕事で留まる間は、延いてはボスであるブラッド=デュプレのものになっていると言えなくもない。
しかしそれ以外の時間帯に彼の支配力が及ぶことはない。誰と何処でなにをしようが、〇〇の自由だ。
この正当な主張に、ブラッドは舌打ちをした。彼自身、矛盾を理解しているようだった。
「ああ、そうだ。わかっているさ。君は私のものじゃない」
「うん」
「……だが、他の誰のものでもなかったはずだ」
違うか、という問いかけと共に、髪から手が滑る。それは〇〇から離れず、顎を捕らえた。
抗議の間も与えずに強引に持ち上げられ、喉元を晒す破目になった。
「っなん、」
「この、痕を残した男を、私は嬲り殺しにしたくてたまらないんだ」
「……あと……?」
変換が上手くできない。傷痕、だろうか。それなら頬のはずだが、ブラッドが忌々しげに睨む先はもう少し下の、頸部だった。そこにあるものを、〇〇は知らない。
白い肌に咲いた、ひとつの華。
キスマークと言えば愛らしい感じもするが、うっすらと残る噛み痕からは、ともすると狂気染みた欲が見て取れる。
同じ余所者でも、アリスとはなにかが違う。
ふとした瞬間、誰のものにもならないと思わせる一面を持つ余所者――〇〇。
ブラッドは〇〇の首に手をかけた。それにはさすがにひやりとさせられたが、絞まることはなく。
ただ、手袋をしたままでも爪の感触をはっきりと感じる程度には強く、指先を突き立てられた。
「…ここに、なんとも情熱的な痕をつけられていることを、君は知らないとでも?」
く、と圧迫が強まる。それでも、心当たりのない〇〇は困惑するしかない。
ブラッドは嘆息をつくと、すっと指先を引いた。代わりに身を乗り出して、〇〇の肩口に顔を埋めようとする。
その行為を押しのけた〇〇は、ブラッドの肩を掴んでハッとした。“あと”――痕。キスマーク。
「やっと気がついたようだな」
(嘘だろ……そんなもん、誰が―――あ、)
呆れ混じりに囁かれ、居ても立ってもいられなくなる。
自分の目で確かめたいのに、ブラッドが腕を掴んでソファーに押し戻した。