唇に銃口を、さあカウントダウン
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まるで日照りの続いた畑だ。少しの水を撒いても、すぐに乾燥してしまう。
〇〇は渇きを潤すようにグラスの数を重ねた。最初のうちは、あまり度数の高くない酒を。
それでは癒せず、アルコールのせいかと思い水に変えたが、効果はなかった。
(飲み過ぎた、かも…)
アルコールに煽られた身体が熱い。熱くて熱くて堪らない。
それなのに全身から噴き出す汗は冷たく、ぞわりと背筋をなぞった。おかしなことに、心臓が暴れ、足までがくがく震えてくる。
〇〇が普通の酔いの症状ではないことを悟るのに、そう時間はかからなかった。
(なんか……やば、い……?)
気休めに内心で疑問符をつけるが、正直余裕を失いつつあった。
〇〇は周囲に目を彷徨わせると、ずりずりと後ずさった。今のところ、誰にも異変を気づかれていない。
ひとまず客室に行って、酔いを醒ますしかなかった。こんな状態では人前に立っていられない。
アリスの傍から離れるなんて、絶対にしたくなかった。彼女の今後の行く末を見届けるつもりだった。
しかし、〇〇は苦渋の決断を下した。それほど、切羽詰まっていたのだ。
運がよければ、イベント発生に間に合うかもしれない。不調が回復したら、すぐにこの場所に戻ってくる。
そう固く心に決め、〇〇は気を奮い立たせて自分の足を動かした。
人々のざわめきも、場を演出する音楽も、少しずつ背後に遠のいていった。
大広間とは対照的にひっそりと静まり返る廊下。
控えめな明かりが足元を誘い、体調と相俟って未知の領域に踏み出す気分にさせた。
今や〇〇の呼吸は荒れて乱れ、壁を伝わなければ満足に歩くこともできなくなっていた。
意識が朦朧として、目の前が霞む。動くたびにドレスが肌を擦り、その感触が直に神経を刺激してくる。
「はあっ…は、ぁっ……」
遠い。なかなか客室までたどり着けない。
しかし、ここで足を動かさなくなれば、きっと人目も憚らずにとんでもない醜態を晒してしまう。
何故、こんなことになってしまったのか。働かない頭で考えようとした、そのときだった。
「――〇〇っ!一人でどこに行くつもりだ」
足音を立てて、背後から聞き覚えのある声がやってくる。それは、開会前に別れた役持ちのもので。
なんてタイミングの悪い。〇〇は逃げ出したい気持ちでいっぱいになったが、身体は言うことを聞いてくれない。
なんとか手足を動かしても、振り切れるはずがなかった。ついに、彼の手が肩に触れる。
「私の元に戻ると言っておきながら、おまえはまた…」
「っ……!」
〇〇はとうとう膝を折った。壁に体重を預けながら、ずるずると崩れる。
自身の肩を抱いて蹲る。俯いた額から、ぽたり、落ちた汗がドレスに染みを作った。
ぎょっとしたのはユリウスだろう。彼は慌てて傍らに膝をつき、〇〇の顔を覗き込んだ。
「どうした、具合が悪いのか?」
「だい、じょうぶ、だから…」
「その声のどこが大丈夫だと、」
再度〇〇の肩を掴んだユリウスの声が、途切れた。異様なほど熱を発する身体に気づかれてしまったらしい。
強引な気遣いに対して、〇〇はまったくの無力だった。隠した表情を呆気なく暴かれた。
肩を抱く腕にぐったりと身を委ねる。薄く開いた目に映るユリウスは険しい顔つきをしていた。
人間は、どうして見られたくない場面ほど目撃されてしまうものなのか。〇〇は心の中で自嘲する。
それから、くっと唇の端を渾身の力で持ち上げて、歪に笑ってみせた。
「アナタ、は…っ、会場に、戻って」
「っ……馬鹿が。おまえを置いて、私にどこに行けというんだ」
吐き捨てるやいなや、ユリウスはやや乱暴に〇〇の身体を床から抱き上げた。
その衝撃に〇〇の口から声が零れる。普段の〇〇からは想像もできないような、女、の声が。
ユリウスは一瞬動きを止めたが、ぐっと抱く腕に力を込め、廊下の奥へと足早に歩を進めた。
数ある客室の中のひとつに運び込まれ、ベッドの上に下ろされる。
たどり着くまでの間、〇〇は必死に原因を探っていた。正常な頭ならすぐに導き出せたそれを、ようやく悟る。
内股を動かせば、ぬちりと嫌なぬめりを感じた。明らかに、人為的にもたらされたこの変調。
ハートの城に来てから口にしたものは、誰もが手に取ることのできる料理――そして。
(はっ……そういう、ことか……っ)
〇〇は身体を丸めて震えを抑え込んだ。もっと警戒すべきだったと悔やんでも遅い。
ユリウスがベッドに腰かけ、心配そうに手を伸ばしてくるが、それを目一杯に避ける。
不本意な声が出そうなところを必死に堪え、情けない声で呟いた言葉は、
「ぺーた…ペーターっ、を…」
「……なんだと?」
「お願、い。ペーター、を、呼んで…っ!」
白ウサギに手渡されたグラスの中に入っていたのか、はたまた塗られていたのか。
どちらかなど、事実はどうでもいい。おそらく催淫剤の類いを体内に取り込んでしまったのだろう。
そう仕組んだ本人が、自分に助けを求めろと言った。ならば打開の手立ては、あの男の手の内にある。
効果を消す薬をくれるのか、それとも別の企みがあるのかは不明だが、彼に縋るしかなかった。
「ゆりう、す…ねえ、ぺーたーを…」
だんだん呂律が回らなくなってきた。意識も曖昧になっていく。
全身が感覚だけで満たされ、もう、自分がなにを言っているのかわからない。
乞うようにペーターの名前をただ繰り返す〇〇を前にし、いったいユリウスはどんな顔をしていたのか。
「――……もう、いい。黙れ」
ぺーたー、という最後の呟きはくぐもり、明確な発音を許されなかった。
〇〇は渇きを潤すようにグラスの数を重ねた。最初のうちは、あまり度数の高くない酒を。
それでは癒せず、アルコールのせいかと思い水に変えたが、効果はなかった。
(飲み過ぎた、かも…)
アルコールに煽られた身体が熱い。熱くて熱くて堪らない。
それなのに全身から噴き出す汗は冷たく、ぞわりと背筋をなぞった。おかしなことに、心臓が暴れ、足までがくがく震えてくる。
〇〇が普通の酔いの症状ではないことを悟るのに、そう時間はかからなかった。
(なんか……やば、い……?)
気休めに内心で疑問符をつけるが、正直余裕を失いつつあった。
〇〇は周囲に目を彷徨わせると、ずりずりと後ずさった。今のところ、誰にも異変を気づかれていない。
ひとまず客室に行って、酔いを醒ますしかなかった。こんな状態では人前に立っていられない。
アリスの傍から離れるなんて、絶対にしたくなかった。彼女の今後の行く末を見届けるつもりだった。
しかし、〇〇は苦渋の決断を下した。それほど、切羽詰まっていたのだ。
運がよければ、イベント発生に間に合うかもしれない。不調が回復したら、すぐにこの場所に戻ってくる。
そう固く心に決め、〇〇は気を奮い立たせて自分の足を動かした。
人々のざわめきも、場を演出する音楽も、少しずつ背後に遠のいていった。
大広間とは対照的にひっそりと静まり返る廊下。
控えめな明かりが足元を誘い、体調と相俟って未知の領域に踏み出す気分にさせた。
今や〇〇の呼吸は荒れて乱れ、壁を伝わなければ満足に歩くこともできなくなっていた。
意識が朦朧として、目の前が霞む。動くたびにドレスが肌を擦り、その感触が直に神経を刺激してくる。
「はあっ…は、ぁっ……」
遠い。なかなか客室までたどり着けない。
しかし、ここで足を動かさなくなれば、きっと人目も憚らずにとんでもない醜態を晒してしまう。
何故、こんなことになってしまったのか。働かない頭で考えようとした、そのときだった。
「――〇〇っ!一人でどこに行くつもりだ」
足音を立てて、背後から聞き覚えのある声がやってくる。それは、開会前に別れた役持ちのもので。
なんてタイミングの悪い。〇〇は逃げ出したい気持ちでいっぱいになったが、身体は言うことを聞いてくれない。
なんとか手足を動かしても、振り切れるはずがなかった。ついに、彼の手が肩に触れる。
「私の元に戻ると言っておきながら、おまえはまた…」
「っ……!」
〇〇はとうとう膝を折った。壁に体重を預けながら、ずるずると崩れる。
自身の肩を抱いて蹲る。俯いた額から、ぽたり、落ちた汗がドレスに染みを作った。
ぎょっとしたのはユリウスだろう。彼は慌てて傍らに膝をつき、〇〇の顔を覗き込んだ。
「どうした、具合が悪いのか?」
「だい、じょうぶ、だから…」
「その声のどこが大丈夫だと、」
再度〇〇の肩を掴んだユリウスの声が、途切れた。異様なほど熱を発する身体に気づかれてしまったらしい。
強引な気遣いに対して、〇〇はまったくの無力だった。隠した表情を呆気なく暴かれた。
肩を抱く腕にぐったりと身を委ねる。薄く開いた目に映るユリウスは険しい顔つきをしていた。
人間は、どうして見られたくない場面ほど目撃されてしまうものなのか。〇〇は心の中で自嘲する。
それから、くっと唇の端を渾身の力で持ち上げて、歪に笑ってみせた。
「アナタ、は…っ、会場に、戻って」
「っ……馬鹿が。おまえを置いて、私にどこに行けというんだ」
吐き捨てるやいなや、ユリウスはやや乱暴に〇〇の身体を床から抱き上げた。
その衝撃に〇〇の口から声が零れる。普段の〇〇からは想像もできないような、女、の声が。
ユリウスは一瞬動きを止めたが、ぐっと抱く腕に力を込め、廊下の奥へと足早に歩を進めた。
数ある客室の中のひとつに運び込まれ、ベッドの上に下ろされる。
たどり着くまでの間、〇〇は必死に原因を探っていた。正常な頭ならすぐに導き出せたそれを、ようやく悟る。
内股を動かせば、ぬちりと嫌なぬめりを感じた。明らかに、人為的にもたらされたこの変調。
ハートの城に来てから口にしたものは、誰もが手に取ることのできる料理――そして。
(はっ……そういう、ことか……っ)
〇〇は身体を丸めて震えを抑え込んだ。もっと警戒すべきだったと悔やんでも遅い。
ユリウスがベッドに腰かけ、心配そうに手を伸ばしてくるが、それを目一杯に避ける。
不本意な声が出そうなところを必死に堪え、情けない声で呟いた言葉は、
「ぺーた…ペーターっ、を…」
「……なんだと?」
「お願、い。ペーター、を、呼んで…っ!」
白ウサギに手渡されたグラスの中に入っていたのか、はたまた塗られていたのか。
どちらかなど、事実はどうでもいい。おそらく催淫剤の類いを体内に取り込んでしまったのだろう。
そう仕組んだ本人が、自分に助けを求めろと言った。ならば打開の手立ては、あの男の手の内にある。
効果を消す薬をくれるのか、それとも別の企みがあるのかは不明だが、彼に縋るしかなかった。
「ゆりう、す…ねえ、ぺーたーを…」
だんだん呂律が回らなくなってきた。意識も曖昧になっていく。
全身が感覚だけで満たされ、もう、自分がなにを言っているのかわからない。
乞うようにペーターの名前をただ繰り返す〇〇を前にし、いったいユリウスはどんな顔をしていたのか。
「――……もう、いい。黙れ」
ぺーたー、という最後の呟きはくぐもり、明確な発音を許されなかった。