唇に銃口を、さあカウントダウン
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取り繕うかのように二人に腕の具合を尋ねられ、大丈夫だと答えたことで、その場の会話は終了した。
ブラッドは紅茶目当てに離れていき、エリオットを言い包めて離した〇〇は、一人歩き出した。
本気でアリスを探さなければ、いい場面を見逃しそうだ。
まだ足元は安定せず、不格好な歩き方になっていることが自分でもわかる。
踵に高さがあるだけでこうも歩行が難しくなるとは。これを履いて美しく歩く世の女性を尊敬する。
(――おっ、発見!)
程なくしてアリスを発見した〇〇は、彼女の傍にいる役持ちを見て目を丸くした。
そういえば帽子屋ファミリーの双子を見ないと思ったら、先にアリスの元にいたらしい。
なんて抜かりないんだと喜びながら近づくと、さらにチェシャ猫の姿を認めた。
「ディー、ダム。それにボリスも。皆さんお揃いで…」
声をかければ、ぱっと振り返った同じ顔が二つ、これまた同じ表情を浮かべた。
「〇〇だ…!うわあ、すごいね!」
「本当に〇〇?すごすぎて違う人みたい!」
双子は口々に言って両脇から纏わりついてくる。すごい、の意味は彼らの表情からして、好意的に考えてもいいようだ。
〇〇は素直にありがとうと返した。相手が子供だからか、他の役持ち達の言葉よりすんなり受け取れた。
自分の周りで騒ぐ二人を宥めつつ、先ほどブラッドとエリオットを見かけたことをアリスに話す。
「後で一緒に会いに行く?いつもと違う二人を見られるよ」
「それは見てみたいかも…」
さりげなく接触の機会を設け、彼女の興味を引けたことに満足する。
それからようやく、〇〇は自分を見つめる金色の瞳に向かって笑いかけた。
「ボリス、その格好似合ってるね」
「…あんたも、似合ってる。そこまでドレスが似合うなんて、意外っていうか、むしろ反則…」
猫は片手で口元を隠し、ぼそぼそと喋った。それだけでは顔色までは隠せていない。
ボリスが照れることこそ意外で、なんだかこちらまで気恥ずかしくなる。
今まで堂々としていた分の付けが回ってきたかのように、頬に熱が上るのを感じ、〇〇はさっと顔を背けた。
「うわー、ボリスが照れてるー」
「照れてる、照れてるー」
「てっ、照れてねーし!」
からかうディーとダムに、ボリスはむきになって言い返す。
よかった、三人にはこちらの様子を悟られていない。〇〇はほっと胸を撫で下ろしたが、くすくすと小さな笑い声が聞こえてハッとした。
なんと、アリスがばっちり見ているではないか。今度こそ赤面決定だ。
〇〇はよろよろとアリスの傍に寄ると、そっと彼女の両手を取って自分の両頬を挟ませた。……後生だ、アリス。隠してくれ。
アリスはハートの城のメイドや兵士に囲まれて、ダンスの練習を始めた。
当然のように〇〇も誘われたが、笑顔で断った。〇〇は端から踊る気などまったくなかったのだ。
それに、踊ろうにも踊れない。アリスのように、練習すれば取り戻せるような勘も存在しない。
踊るという行為は、小学生のときのフォークダンスが最後だ。さすがに舞踏会でマイム・マイムはないだろう。
「せっかくなんだし、〇〇も踊ればいいのに」
少し離れた場所からアリスを眺めつつ、〇〇は小皿に取った料理をつついていた。
ボリスがダンスに興じる男女を視線で示して話しかけてくるのに、含んだ微笑で応える。
「あたしが優雅に踊る姿を想像できる?一対一のダンスなんて、一生経験できなくていいんだよ」
「確かに〇〇の歩き方を見てると、無理っぽいってのはわかるけどさ。もったいないなー」
本当に残念そうに、ボリスは溜め息をついた。しかし、こればかりは頼まれても、さすがにどうしようもない。
いっそ場違いなマイム・マイムでもよければ妥協するのだが。それにしたって、年月が経ち過ぎて記憶が曖昧だった。
そもそも日本人で、このような場に相応しいダンスを踊れる現代人など、そう多くはない。
スムーズに歩くこともできないのだ、付け焼き刃の練習も無意味だろう。そう考えれば、やはり傍観しているほうがよさそうだ。
と思ったのだが、ディーとダムがボリスとの会話を聞いていたようで。
「ねえ〇〇、一対一じゃなければいいんだよね?」
「だったら、僕らと踊ろうよ」
「へっ?」
小皿を取り上げられたかと思うと、両側から手を取られ、ぐいぐいダンスホールへと引っ張っていかれる。
待て待てと制したが、思いがけない強さでずるずると連れて行かれてしまう。
こんな展開は聞いていない。〇〇は味方であろう猫に目で縋ったのだが、
「それなら――俺は、アリスと踊ってこようかな…」
思いついたような口ぶり。瞳は見透かす鋭い光を灯し、〇〇を射抜く。
表情の柔らかさとは相容れないなにかを察する。それが好ましくないものであることも。
竦む心音に代わって、大きくなった時計の音が胸を打つ。
鈍る思考はすぐさま正常な状態を取り戻し、〇〇を微笑ませる。悠然と、綺麗に。
「それがいい。ボリスは、アリスと楽しんで」
「っ、……わかった」
ボリスは一瞬顔を歪めてなにかを言いかけた。結局、口には出さずに、練習を兼ねたダンスに一段落ついたのだろうアリスに近づいていった。
さて、ダンスホールに進み出るしかなかった〇〇は、ダンスなのかなんなのかよくわからない動きをしていた。
そういえば、ゲーム上の双子とアリスの舞踏会も、ダンスらしいダンスはできていなかった。
現状はそれ以上に、いや、それ以下すぎて目も当てられない様だった。
「なんだこれ…なにこの状況…」
「なにって、ダンスでしょう?ね、兄弟」
「そうだよ、兄弟。見るからにダンスだよ」
ぐるり、ぐるり。ターンと言えば聞こえはいいが、実際は単に振り回されているだけだ。
もはやダンス以下のなにかであり、ダンス以外のなにかである。確実に言えるのは、ダンスではないということ。
「うっ……そんな激しくする、な。酔う」
「えっ、それって僕達に酔ってくれてるってこと?」
「嬉しいな~。もっともっとやっちゃおう」
勘弁してくれ!〇〇は若干血の気の引いた顔で、両手に重ねた二つの手をぎゅっと握りしめた。
なんということだ、同じく踊っているはずのボリアリの姿を観賞する余裕もない。
音楽をまるっと無視してあっちにふらふら、こっちにふらふら。肉体につられて、頭の中まで掻き混ぜられそうな勢いだった。
「〇〇ってさ、いつの間にかこの世界に馴染んだよね」
「もうすっかり馴染んだよ。まるで最初からここにいたみたいにね」
口を開くとなにか出そうで、念のため閉じた。
双子がなにかを言っているのはわかるが、答える言葉が思い浮かばない。
「でも、染まりきってないから、まだ駄目だ」
「まだ足りない。もっとずっと深くまで染まってくれないと」
「もっと僕達にのめり込んでよ、〇〇」
「味を占めて貪欲に求めてくれるなら、大歓迎するよ?」
(なに、言って…?だめ、これ以上はもう、無理…)
〇〇は心底楽しそうな少年達に懇願し、どうにか解放してもらうことができた。
物足りないと表情で言う彼らに、それならアリスのところに混ざっておいでと促す。
すると、顔を見合わせた二人は面白いことを思いついた様子でにやっと笑い、〇〇から離れていった。
ボリアリをじっくり堪能するのも悪くないが、こういう乱入があれば、きっとおいしさが増すことだろう。
(アリスなら引く手数多だから、他の役持ちもそのうち絡んでくるはず…)
それにしても、疲れた。足が痛い。先ほど口にした料理もおとなしく胃に戻り、今は喉がカラカラだ。
ひとまずなにか飲もう。そう思い、不安定な足を動かしてダンスホールから移動する。
ああ、どうせならお色直しのように、アリスが他の領土滞在時のときのドレスも着てくれないだろうか。
「そんなサービス、ないよなあ…」
「なにを一人でぶつぶつ言っているんです?相当不気味ですよ、あなた」
横合いからそんな物言いで声をかけられ、思わず足を止めた。
そこに立っていたのは、白いスーツに赤いネクタイを締めた、ペーター=ホワイト。
彼はそれぞれの手にグラスを持ち、本心から気味悪そうに〇〇を見ていた。
が、すぐに〇〇の肌を粟立てるような柔和な笑みを浮かべ、ひとつのグラスを静かに差し出した。
「あんな滅茶苦茶な、ダンスとも呼べない無様な動きを恥ずかしげもなく披露した後です。喉が渇いていませんか?」
「え、ああ、まあ…」
「でしたら、これをどうぞ」
馬鹿にされた、のだろうか。顔は相変わらず不可解な笑顔だが、口調は以前と変わりない。
はっきり言って、自分よりもペーターのほうが不気味である。〇〇は親切に手渡されるグラスを恐る恐る受け取った。
中身は至って普通のシャンパンのようだ。笑顔に押されるように一口飲んで、無害であることを確認する。
〇〇が警戒する様子を見て、ペーターはますます優しげに表情を崩した。
「アリスの手前、あなたをどうこうすることはできませんからね」
「……はあ」
「せいぜい丁寧に扱って、彼女の僕への好感度を上げることにします」
「……そう」
その肝心の少女はというと、向こうで別の男と楽しげに踊っているのだが。
例の嫉妬イベントはいつ来るのだろう。それとも、アリスはペーターを選んだのだろうか。
考えながら、ちびちびとグラスの中身を飲む。血の気の引いていた身体が、徐々に心地のいい火照りを帯びていく。
飲み口のいいシャンパンで、あっという間に飲み干してしまった。
ペーターは〇〇の手からグラスを取り上げ、空になったそれを満足げに眺めた。
「あ、りがと…」
「いい飲みっぷりでしたね」
それから彼は、やや上体を屈めて〇〇に顔を寄せると、
「覚えておいてください、〇〇。……あなたを助けられるのは、僕だけです」
「?」
どういうことなのかと聞き返す前に、ペーターはふいっと方向を変えて歩いていった。
その先にいたのはダンスを終えたアリスで、もうひとつのグラスは彼女のために用意したものだったのだろう。
いや、きっと本命はそちらで、〇〇に渡したのは単なるついでだ。ついでの行為ですら驚きだが。
まあいい。とりあえず、今は目先の楽しみを優先させることにしよう。
白ウサギに構われる少女を見つめながら、〇〇は軽く喉元を摩った。……やけに喉が、渇く。
ブラッドは紅茶目当てに離れていき、エリオットを言い包めて離した〇〇は、一人歩き出した。
本気でアリスを探さなければ、いい場面を見逃しそうだ。
まだ足元は安定せず、不格好な歩き方になっていることが自分でもわかる。
踵に高さがあるだけでこうも歩行が難しくなるとは。これを履いて美しく歩く世の女性を尊敬する。
(――おっ、発見!)
程なくしてアリスを発見した〇〇は、彼女の傍にいる役持ちを見て目を丸くした。
そういえば帽子屋ファミリーの双子を見ないと思ったら、先にアリスの元にいたらしい。
なんて抜かりないんだと喜びながら近づくと、さらにチェシャ猫の姿を認めた。
「ディー、ダム。それにボリスも。皆さんお揃いで…」
声をかければ、ぱっと振り返った同じ顔が二つ、これまた同じ表情を浮かべた。
「〇〇だ…!うわあ、すごいね!」
「本当に〇〇?すごすぎて違う人みたい!」
双子は口々に言って両脇から纏わりついてくる。すごい、の意味は彼らの表情からして、好意的に考えてもいいようだ。
〇〇は素直にありがとうと返した。相手が子供だからか、他の役持ち達の言葉よりすんなり受け取れた。
自分の周りで騒ぐ二人を宥めつつ、先ほどブラッドとエリオットを見かけたことをアリスに話す。
「後で一緒に会いに行く?いつもと違う二人を見られるよ」
「それは見てみたいかも…」
さりげなく接触の機会を設け、彼女の興味を引けたことに満足する。
それからようやく、〇〇は自分を見つめる金色の瞳に向かって笑いかけた。
「ボリス、その格好似合ってるね」
「…あんたも、似合ってる。そこまでドレスが似合うなんて、意外っていうか、むしろ反則…」
猫は片手で口元を隠し、ぼそぼそと喋った。それだけでは顔色までは隠せていない。
ボリスが照れることこそ意外で、なんだかこちらまで気恥ずかしくなる。
今まで堂々としていた分の付けが回ってきたかのように、頬に熱が上るのを感じ、〇〇はさっと顔を背けた。
「うわー、ボリスが照れてるー」
「照れてる、照れてるー」
「てっ、照れてねーし!」
からかうディーとダムに、ボリスはむきになって言い返す。
よかった、三人にはこちらの様子を悟られていない。〇〇はほっと胸を撫で下ろしたが、くすくすと小さな笑い声が聞こえてハッとした。
なんと、アリスがばっちり見ているではないか。今度こそ赤面決定だ。
〇〇はよろよろとアリスの傍に寄ると、そっと彼女の両手を取って自分の両頬を挟ませた。……後生だ、アリス。隠してくれ。
アリスはハートの城のメイドや兵士に囲まれて、ダンスの練習を始めた。
当然のように〇〇も誘われたが、笑顔で断った。〇〇は端から踊る気などまったくなかったのだ。
それに、踊ろうにも踊れない。アリスのように、練習すれば取り戻せるような勘も存在しない。
踊るという行為は、小学生のときのフォークダンスが最後だ。さすがに舞踏会でマイム・マイムはないだろう。
「せっかくなんだし、〇〇も踊ればいいのに」
少し離れた場所からアリスを眺めつつ、〇〇は小皿に取った料理をつついていた。
ボリスがダンスに興じる男女を視線で示して話しかけてくるのに、含んだ微笑で応える。
「あたしが優雅に踊る姿を想像できる?一対一のダンスなんて、一生経験できなくていいんだよ」
「確かに〇〇の歩き方を見てると、無理っぽいってのはわかるけどさ。もったいないなー」
本当に残念そうに、ボリスは溜め息をついた。しかし、こればかりは頼まれても、さすがにどうしようもない。
いっそ場違いなマイム・マイムでもよければ妥協するのだが。それにしたって、年月が経ち過ぎて記憶が曖昧だった。
そもそも日本人で、このような場に相応しいダンスを踊れる現代人など、そう多くはない。
スムーズに歩くこともできないのだ、付け焼き刃の練習も無意味だろう。そう考えれば、やはり傍観しているほうがよさそうだ。
と思ったのだが、ディーとダムがボリスとの会話を聞いていたようで。
「ねえ〇〇、一対一じゃなければいいんだよね?」
「だったら、僕らと踊ろうよ」
「へっ?」
小皿を取り上げられたかと思うと、両側から手を取られ、ぐいぐいダンスホールへと引っ張っていかれる。
待て待てと制したが、思いがけない強さでずるずると連れて行かれてしまう。
こんな展開は聞いていない。〇〇は味方であろう猫に目で縋ったのだが、
「それなら――俺は、アリスと踊ってこようかな…」
思いついたような口ぶり。瞳は見透かす鋭い光を灯し、〇〇を射抜く。
表情の柔らかさとは相容れないなにかを察する。それが好ましくないものであることも。
竦む心音に代わって、大きくなった時計の音が胸を打つ。
鈍る思考はすぐさま正常な状態を取り戻し、〇〇を微笑ませる。悠然と、綺麗に。
「それがいい。ボリスは、アリスと楽しんで」
「っ、……わかった」
ボリスは一瞬顔を歪めてなにかを言いかけた。結局、口には出さずに、練習を兼ねたダンスに一段落ついたのだろうアリスに近づいていった。
さて、ダンスホールに進み出るしかなかった〇〇は、ダンスなのかなんなのかよくわからない動きをしていた。
そういえば、ゲーム上の双子とアリスの舞踏会も、ダンスらしいダンスはできていなかった。
現状はそれ以上に、いや、それ以下すぎて目も当てられない様だった。
「なんだこれ…なにこの状況…」
「なにって、ダンスでしょう?ね、兄弟」
「そうだよ、兄弟。見るからにダンスだよ」
ぐるり、ぐるり。ターンと言えば聞こえはいいが、実際は単に振り回されているだけだ。
もはやダンス以下のなにかであり、ダンス以外のなにかである。確実に言えるのは、ダンスではないということ。
「うっ……そんな激しくする、な。酔う」
「えっ、それって僕達に酔ってくれてるってこと?」
「嬉しいな~。もっともっとやっちゃおう」
勘弁してくれ!〇〇は若干血の気の引いた顔で、両手に重ねた二つの手をぎゅっと握りしめた。
なんということだ、同じく踊っているはずのボリアリの姿を観賞する余裕もない。
音楽をまるっと無視してあっちにふらふら、こっちにふらふら。肉体につられて、頭の中まで掻き混ぜられそうな勢いだった。
「〇〇ってさ、いつの間にかこの世界に馴染んだよね」
「もうすっかり馴染んだよ。まるで最初からここにいたみたいにね」
口を開くとなにか出そうで、念のため閉じた。
双子がなにかを言っているのはわかるが、答える言葉が思い浮かばない。
「でも、染まりきってないから、まだ駄目だ」
「まだ足りない。もっとずっと深くまで染まってくれないと」
「もっと僕達にのめり込んでよ、〇〇」
「味を占めて貪欲に求めてくれるなら、大歓迎するよ?」
(なに、言って…?だめ、これ以上はもう、無理…)
〇〇は心底楽しそうな少年達に懇願し、どうにか解放してもらうことができた。
物足りないと表情で言う彼らに、それならアリスのところに混ざっておいでと促す。
すると、顔を見合わせた二人は面白いことを思いついた様子でにやっと笑い、〇〇から離れていった。
ボリアリをじっくり堪能するのも悪くないが、こういう乱入があれば、きっとおいしさが増すことだろう。
(アリスなら引く手数多だから、他の役持ちもそのうち絡んでくるはず…)
それにしても、疲れた。足が痛い。先ほど口にした料理もおとなしく胃に戻り、今は喉がカラカラだ。
ひとまずなにか飲もう。そう思い、不安定な足を動かしてダンスホールから移動する。
ああ、どうせならお色直しのように、アリスが他の領土滞在時のときのドレスも着てくれないだろうか。
「そんなサービス、ないよなあ…」
「なにを一人でぶつぶつ言っているんです?相当不気味ですよ、あなた」
横合いからそんな物言いで声をかけられ、思わず足を止めた。
そこに立っていたのは、白いスーツに赤いネクタイを締めた、ペーター=ホワイト。
彼はそれぞれの手にグラスを持ち、本心から気味悪そうに〇〇を見ていた。
が、すぐに〇〇の肌を粟立てるような柔和な笑みを浮かべ、ひとつのグラスを静かに差し出した。
「あんな滅茶苦茶な、ダンスとも呼べない無様な動きを恥ずかしげもなく披露した後です。喉が渇いていませんか?」
「え、ああ、まあ…」
「でしたら、これをどうぞ」
馬鹿にされた、のだろうか。顔は相変わらず不可解な笑顔だが、口調は以前と変わりない。
はっきり言って、自分よりもペーターのほうが不気味である。〇〇は親切に手渡されるグラスを恐る恐る受け取った。
中身は至って普通のシャンパンのようだ。笑顔に押されるように一口飲んで、無害であることを確認する。
〇〇が警戒する様子を見て、ペーターはますます優しげに表情を崩した。
「アリスの手前、あなたをどうこうすることはできませんからね」
「……はあ」
「せいぜい丁寧に扱って、彼女の僕への好感度を上げることにします」
「……そう」
その肝心の少女はというと、向こうで別の男と楽しげに踊っているのだが。
例の嫉妬イベントはいつ来るのだろう。それとも、アリスはペーターを選んだのだろうか。
考えながら、ちびちびとグラスの中身を飲む。血の気の引いていた身体が、徐々に心地のいい火照りを帯びていく。
飲み口のいいシャンパンで、あっという間に飲み干してしまった。
ペーターは〇〇の手からグラスを取り上げ、空になったそれを満足げに眺めた。
「あ、りがと…」
「いい飲みっぷりでしたね」
それから彼は、やや上体を屈めて〇〇に顔を寄せると、
「覚えておいてください、〇〇。……あなたを助けられるのは、僕だけです」
「?」
どういうことなのかと聞き返す前に、ペーターはふいっと方向を変えて歩いていった。
その先にいたのはダンスを終えたアリスで、もうひとつのグラスは彼女のために用意したものだったのだろう。
いや、きっと本命はそちらで、〇〇に渡したのは単なるついでだ。ついでの行為ですら驚きだが。
まあいい。とりあえず、今は目先の楽しみを優先させることにしよう。
白ウサギに構われる少女を見つめながら、〇〇は軽く喉元を摩った。……やけに喉が、渇く。