唇に銃口を、さあカウントダウン
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記憶どおりの城滞在時のドレス姿を視界に入れた途端、〇〇は支えにしていた腕からぱっと離れた。
おぼつかない足取りで、アリス目がけて突進する。危なっかしいことこのうえない。
「アリス!」と名前を呼びながら、倒れ込む勢いで彼女の肩に両手を置いた。
「やっと会えた…っ。寂しかったよ、アリスぅ」
「〇〇…!しばらく顔を見なかったけど、なにかあったの?」
「うう…語り出すと長くなるから、省略」
甘えるようにアリスの肩口に頬を寄せた〇〇は、気を取り直して顔を上げた。
「そのドレス、すごく素敵。もう最高。綺麗だよ、アリス」
「あ、ありがとう…。あなたも似合ってるわよ。まるで別人みたい」
アリスは手放しの賛辞を受けて頬を染め、〇〇のドレス姿を見つめ返した。
彼女がそう言ってくれるのなら、自己評価をもう少しだけ引き上げてもいいかもしれない。
にこにこ、いや、にやにやと顔を緩ませながらアリスを見ていると、不機嫌な女性の声がかかった。
「〇〇。アリスばかりを見つめて、わらわを妬かせるつもりか?」
アリスに一直線だったせいで、恐れ多くも女王様の前を素通りしていたらしい。
〇〇は舞踏会に相応しいドレスに身を包んだビバルディに向き直ると、胸元に手を当てて恭しくお辞儀した。
「妬かせるだなんて滅相もない。ご挨拶が遅れまして…招待もされてないのに来ちゃった余所者です」
本来ならドレスの裾をちょんと摘んで挨拶すればいいのだろうが、〇〇にとってはこちらのほうが自然だった。
一応改まった挨拶を受けた彼女は、「まあよい」と余所者の非礼を許す。
幸い本気で機嫌を損ねたわけではないようで、ビバルディは赤い唇に微笑みを湛えた。
「おまえには招待状を送ってもよかったが、送らずとも来るだろうと思ってな」
白い手のひらが〇〇の頬を撫で、つと顎先を摘む。視線は遠慮なく全身をめぐった。
一通り品定めを終えた女王は、ふむと頷く。
「まずまずの見立てじゃな。わらわならばもっとよいものを仕立てさせるが…あの男ならば、この程度でも褒めてやるべきだろう」
「あは…。それを聞いたら、ユリウスも喜ぶかもね」
評価が厳しいのは、ビバルディだから致し方ない。これでも高評価なのだろう。
〇〇は苦笑するが、再度頬に触れてきた彼女の微笑みはなんだかいつもと違って見えた。
うっとりと恍惚の滲む顔で、〇〇を見つめるビバルディ。その瞳の中に映る自分もまた、なにかが変わった。
「――ようやく剥がれかかった仮面が、〇〇、いっそうおまえを美しく飾って見えるよ」
「え……?」
それは、どういう意味なのだろう。ビバルディはただ、黙って笑みを深めるだけだった。
その笑顔は〇〇の胸を騒がせる。見過ごせないなにかを見た気がして。
けれど、もう揺さぶられる必要はない。今は楽しむことだけを考えよう。
主催者として挨拶をしなければならない。面倒そうにするビバルディに、〇〇は朗らかに言った。
「ねえ、ビバルディ。舞踏会が終わったら、渡したいものがあるんだ」
ビバルディは一瞬怪訝そうな顔をしたが、楽しみにしておこう、その言葉だけを残した。
アリスと話していた騎士を伴って、気高い背中が離れていく。
なんの気なしにその背を見送っていた〇〇はふと、自分の傍からアリスの姿が消えたことに気がついた。
見失ってはなんのために来たのかわからない。と、急いで動こうとしたせいか、またもや足が縺れかけた。
「うわっ、ぁ」
「おっと!あんた大丈夫か――って……〇〇?」
頑丈な壁にでもぶつかったかのように、〇〇の身体は転倒から免れた。
聞き覚えのある声に首を回せば、長い動物の耳が揺れているのが目に入る。
鮮やかな色の髪を伝って視線は壁の正体を捉えた。そこにいたのは、スーツを着た三月ウサギだった。
エリオットは体勢を立て直した〇〇から手を離すと、不躾なほどじっと〇〇の姿を見つめた。
徐々に相手の頬が赤く染まっていくのを、不思議な気持ちで眺める。
「エリオット?」
「あんた、それ……やべえ、な」
「……。まあ、確かに」
〇〇は同意した。自分がこんな女らしい格好をすることのヤバさは自覚している。
「確実に解釈を間違えているだろう、お嬢さん」
「誰がお嬢さんだ。ていうか、ブラッドもいたんだ」
散々エリオットの熱視線を浴び続ける〇〇は、やってきたもう一人に目を向けた。
いつもの格好よりもまともな、というか堅気の人間に見える、ブラッド=デュプレ。
見た目の貫禄は減っているが、いつもの気だるげでいて隙のない雰囲気は健在である。
ブラッドは淀みなく〇〇の全身に目を走らせると、ふっと口元を綻ばせた。
〇〇は驚いた。機嫌のいいときでも、彼がこれほど柔らかい微笑を見せることがあっただろうか。
よほどここで用意される紅茶が楽しみなのか。すぐ傍まで近づいてきたブラッドを見て思う。
「君のこの艶姿を一目見られただけでも、舞踏会に来た甲斐があったというものだな」
ブラッドは〇〇の指を掬い取り、手の甲に唇を当てる仕草をしながら気障なことを言う。
できればアリスにしてもらいたい言動だが、肝心の少女はここにはいない。
〇〇は軽く鳥肌を立てて、ぎこちなく笑い返した。自分がされるとどうも居心地が悪い。
それに加え、あまりに真っ直ぐにこちらを見るブラッドの眼に、心臓が嫌な音を立てた気がした。
「…あたし自身はともかく、ドレス自体はいいものだと思うよ」
「この私が褒めているんだ。そう謙遜するな」
ビバルディと似通ったものを感じる台詞である。一応の賛辞はしても、やはり彼も自分が一番なのだ。
そこが面白いんだよなあと思っていると、不意に取られた手を引かれ、前につんのめった。
履き物のせいで、いつになく簡単に相手の力に負けてしまう。
抱きとめたブラッドは〇〇の首筋に手を這わせ、耳の中に意味深な低音を吹き込んだ。
「私の選んだドレスを着せることは叶わなかったが、ぜひともその肌から剥ぎ取る役目を仰せつかりたいものだ」
「……」
追い剥ぎか。思わず突っ込んでやろうかと思ったが、〇〇は無言で男の腕から脱した。
言いたいことは理解できる。だが、今日ばかりは全身全霊で拒否したい。
なにも舞踏会という大イベントの最中にまで、戯れのゲームを持ち込まなくてもいいだろうに。
(連れ込むならあたしじゃなくて、ア・リ・ス!)
声には出さず目に力を込めて訴えるも、「その姿の君に睨まれると、よからぬ気分になってしまうよ」などという意味不明な言葉を頂戴した。
ブラッドとのやりとりに疲労を感じ、溜め息をつく。ついでに、いまだこちらを凝視する眼差しに対しても。
いい加減穴があきそうだ。物珍しいのはわかるが、そろそろ解放してもらいたかった。
「あー、エリオット?その…」
「エリオット。レディに対していつまでその目を向け続けるつもりだ?」
極限まで冷えた水を浴びせられたように、ブラッドの一声にエリオットの肩が震えた。
目の覚めた顔をして、しかしまだ紅潮した頬のまま、彼は〇〇に謝った。
「わ、悪いっ。あんたがすっげえ綺麗で、なんかいろいろ考えちまって…」
「いや、まあ別にいいけどさ」
いろいろってなんだと思ったが、言及はせずに流すことにした。そこで口を出したのがブラッドだ。
「〇〇、容易く男の欲望を許容するのはやめたほうがいい。要らぬ誤解を招くぞ」
男の、欲望。まさかエリオットがなにか邪なことを考えていたとでも言いたいのか。
それは絶対にないだろう。〇〇には断言の自信すらあった、のに。
オレンジ色のウサギが、まるで後ろめたさを感じたように目を逸らす。帽子屋は不愉快そうに鼻を鳴らした。
華やかな舞台に相応しくない、不穏な空気が漂い出す。
最初はブラッドがいつかのように、エリオットとの仲を揶揄し面白がっているのかと思った。
けれど、盗み見た彼の表情は違った。本当に気分を害している様子だった。
(なに、この空気……)
〇〇の思考は停止しかける。なんとか作動させた結果、原因を決めた。
そうだ、ここにはアリスがいない。だから、こんなにも空気が軋みを上げているのだ。
そのとき、高らかなラッパの音が鳴り響き、続いて「静粛に!」という宰相の声が放たれた。
――いよいよ、だ。〇〇は一瞬にして意識を切り替えた。
本来の目的を思い出せば、その他のことはすぐにどうでもよくなる。
いまだ歪な空間の中にいながらも、〇〇は今し方の出来事も忘れて、開会の挨拶をする女王の姿を食い入るように見つめるのだった。
おぼつかない足取りで、アリス目がけて突進する。危なっかしいことこのうえない。
「アリス!」と名前を呼びながら、倒れ込む勢いで彼女の肩に両手を置いた。
「やっと会えた…っ。寂しかったよ、アリスぅ」
「〇〇…!しばらく顔を見なかったけど、なにかあったの?」
「うう…語り出すと長くなるから、省略」
甘えるようにアリスの肩口に頬を寄せた〇〇は、気を取り直して顔を上げた。
「そのドレス、すごく素敵。もう最高。綺麗だよ、アリス」
「あ、ありがとう…。あなたも似合ってるわよ。まるで別人みたい」
アリスは手放しの賛辞を受けて頬を染め、〇〇のドレス姿を見つめ返した。
彼女がそう言ってくれるのなら、自己評価をもう少しだけ引き上げてもいいかもしれない。
にこにこ、いや、にやにやと顔を緩ませながらアリスを見ていると、不機嫌な女性の声がかかった。
「〇〇。アリスばかりを見つめて、わらわを妬かせるつもりか?」
アリスに一直線だったせいで、恐れ多くも女王様の前を素通りしていたらしい。
〇〇は舞踏会に相応しいドレスに身を包んだビバルディに向き直ると、胸元に手を当てて恭しくお辞儀した。
「妬かせるだなんて滅相もない。ご挨拶が遅れまして…招待もされてないのに来ちゃった余所者です」
本来ならドレスの裾をちょんと摘んで挨拶すればいいのだろうが、〇〇にとってはこちらのほうが自然だった。
一応改まった挨拶を受けた彼女は、「まあよい」と余所者の非礼を許す。
幸い本気で機嫌を損ねたわけではないようで、ビバルディは赤い唇に微笑みを湛えた。
「おまえには招待状を送ってもよかったが、送らずとも来るだろうと思ってな」
白い手のひらが〇〇の頬を撫で、つと顎先を摘む。視線は遠慮なく全身をめぐった。
一通り品定めを終えた女王は、ふむと頷く。
「まずまずの見立てじゃな。わらわならばもっとよいものを仕立てさせるが…あの男ならば、この程度でも褒めてやるべきだろう」
「あは…。それを聞いたら、ユリウスも喜ぶかもね」
評価が厳しいのは、ビバルディだから致し方ない。これでも高評価なのだろう。
〇〇は苦笑するが、再度頬に触れてきた彼女の微笑みはなんだかいつもと違って見えた。
うっとりと恍惚の滲む顔で、〇〇を見つめるビバルディ。その瞳の中に映る自分もまた、なにかが変わった。
「――ようやく剥がれかかった仮面が、〇〇、いっそうおまえを美しく飾って見えるよ」
「え……?」
それは、どういう意味なのだろう。ビバルディはただ、黙って笑みを深めるだけだった。
その笑顔は〇〇の胸を騒がせる。見過ごせないなにかを見た気がして。
けれど、もう揺さぶられる必要はない。今は楽しむことだけを考えよう。
主催者として挨拶をしなければならない。面倒そうにするビバルディに、〇〇は朗らかに言った。
「ねえ、ビバルディ。舞踏会が終わったら、渡したいものがあるんだ」
ビバルディは一瞬怪訝そうな顔をしたが、楽しみにしておこう、その言葉だけを残した。
アリスと話していた騎士を伴って、気高い背中が離れていく。
なんの気なしにその背を見送っていた〇〇はふと、自分の傍からアリスの姿が消えたことに気がついた。
見失ってはなんのために来たのかわからない。と、急いで動こうとしたせいか、またもや足が縺れかけた。
「うわっ、ぁ」
「おっと!あんた大丈夫か――って……〇〇?」
頑丈な壁にでもぶつかったかのように、〇〇の身体は転倒から免れた。
聞き覚えのある声に首を回せば、長い動物の耳が揺れているのが目に入る。
鮮やかな色の髪を伝って視線は壁の正体を捉えた。そこにいたのは、スーツを着た三月ウサギだった。
エリオットは体勢を立て直した〇〇から手を離すと、不躾なほどじっと〇〇の姿を見つめた。
徐々に相手の頬が赤く染まっていくのを、不思議な気持ちで眺める。
「エリオット?」
「あんた、それ……やべえ、な」
「……。まあ、確かに」
〇〇は同意した。自分がこんな女らしい格好をすることのヤバさは自覚している。
「確実に解釈を間違えているだろう、お嬢さん」
「誰がお嬢さんだ。ていうか、ブラッドもいたんだ」
散々エリオットの熱視線を浴び続ける〇〇は、やってきたもう一人に目を向けた。
いつもの格好よりもまともな、というか堅気の人間に見える、ブラッド=デュプレ。
見た目の貫禄は減っているが、いつもの気だるげでいて隙のない雰囲気は健在である。
ブラッドは淀みなく〇〇の全身に目を走らせると、ふっと口元を綻ばせた。
〇〇は驚いた。機嫌のいいときでも、彼がこれほど柔らかい微笑を見せることがあっただろうか。
よほどここで用意される紅茶が楽しみなのか。すぐ傍まで近づいてきたブラッドを見て思う。
「君のこの艶姿を一目見られただけでも、舞踏会に来た甲斐があったというものだな」
ブラッドは〇〇の指を掬い取り、手の甲に唇を当てる仕草をしながら気障なことを言う。
できればアリスにしてもらいたい言動だが、肝心の少女はここにはいない。
〇〇は軽く鳥肌を立てて、ぎこちなく笑い返した。自分がされるとどうも居心地が悪い。
それに加え、あまりに真っ直ぐにこちらを見るブラッドの眼に、心臓が嫌な音を立てた気がした。
「…あたし自身はともかく、ドレス自体はいいものだと思うよ」
「この私が褒めているんだ。そう謙遜するな」
ビバルディと似通ったものを感じる台詞である。一応の賛辞はしても、やはり彼も自分が一番なのだ。
そこが面白いんだよなあと思っていると、不意に取られた手を引かれ、前につんのめった。
履き物のせいで、いつになく簡単に相手の力に負けてしまう。
抱きとめたブラッドは〇〇の首筋に手を這わせ、耳の中に意味深な低音を吹き込んだ。
「私の選んだドレスを着せることは叶わなかったが、ぜひともその肌から剥ぎ取る役目を仰せつかりたいものだ」
「……」
追い剥ぎか。思わず突っ込んでやろうかと思ったが、〇〇は無言で男の腕から脱した。
言いたいことは理解できる。だが、今日ばかりは全身全霊で拒否したい。
なにも舞踏会という大イベントの最中にまで、戯れのゲームを持ち込まなくてもいいだろうに。
(連れ込むならあたしじゃなくて、ア・リ・ス!)
声には出さず目に力を込めて訴えるも、「その姿の君に睨まれると、よからぬ気分になってしまうよ」などという意味不明な言葉を頂戴した。
ブラッドとのやりとりに疲労を感じ、溜め息をつく。ついでに、いまだこちらを凝視する眼差しに対しても。
いい加減穴があきそうだ。物珍しいのはわかるが、そろそろ解放してもらいたかった。
「あー、エリオット?その…」
「エリオット。レディに対していつまでその目を向け続けるつもりだ?」
極限まで冷えた水を浴びせられたように、ブラッドの一声にエリオットの肩が震えた。
目の覚めた顔をして、しかしまだ紅潮した頬のまま、彼は〇〇に謝った。
「わ、悪いっ。あんたがすっげえ綺麗で、なんかいろいろ考えちまって…」
「いや、まあ別にいいけどさ」
いろいろってなんだと思ったが、言及はせずに流すことにした。そこで口を出したのがブラッドだ。
「〇〇、容易く男の欲望を許容するのはやめたほうがいい。要らぬ誤解を招くぞ」
男の、欲望。まさかエリオットがなにか邪なことを考えていたとでも言いたいのか。
それは絶対にないだろう。〇〇には断言の自信すらあった、のに。
オレンジ色のウサギが、まるで後ろめたさを感じたように目を逸らす。帽子屋は不愉快そうに鼻を鳴らした。
華やかな舞台に相応しくない、不穏な空気が漂い出す。
最初はブラッドがいつかのように、エリオットとの仲を揶揄し面白がっているのかと思った。
けれど、盗み見た彼の表情は違った。本当に気分を害している様子だった。
(なに、この空気……)
〇〇の思考は停止しかける。なんとか作動させた結果、原因を決めた。
そうだ、ここにはアリスがいない。だから、こんなにも空気が軋みを上げているのだ。
そのとき、高らかなラッパの音が鳴り響き、続いて「静粛に!」という宰相の声が放たれた。
――いよいよ、だ。〇〇は一瞬にして意識を切り替えた。
本来の目的を思い出せば、その他のことはすぐにどうでもよくなる。
いまだ歪な空間の中にいながらも、〇〇は今し方の出来事も忘れて、開会の挨拶をする女王の姿を食い入るように見つめるのだった。