唇に銃口を、さあカウントダウン
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いくら中立地帯にある時計塔の主とはいえ、遊園地ならまだしも、他勢力の地にやすやすと連れ立っていいものなのか。
疑問を解決できなかった〇〇は結局、舞踏会の日まで外出を控えた。
そうして迎えた当日、出不精であるはずの時計屋を伴ってハートの城に足を踏み入れた。
(おおー…やっぱり画面越しと肌で感じるのとはわけが違うなあ…)
広間にはすでに多くの客が集まっていた。正式に招待された者も、そうでない者も。
いつもと異なる雰囲気は煌びやかで眩しいくらいだ。着飾った人々も舞踏会に相応しく優雅だった。
〇〇はちらっと自身の装いを見下ろした。これぞ不相応、明らかに周囲から浮いている。
「ま、いっか」
逡巡に一瞬で決着をつけて歩き出そうとする〇〇に、待てというように同伴者の手の制止がかかる。
しかし、実際に声をかけてきたのは、別方向にいた別の人物だった。
「やあ、〇〇!それにユリウスも。来ると思ってたぜ」
「エース、……」
呼び声にそちらを向くと、正装に着替えた騎士が片手を上げていた。
〇〇はまじまじとエースの格好を見た。いつもどおりの爽やかな笑顔を携えた男は、胡散臭いホストそのものだった。
本人は似合わないと渋っていた白スーツだが、ある意味似合っていると思う。別人のようなチャラさだ。
友人に声をかけられたユリウスは、ふんと不機嫌な顔つきでそっぽを向いた。
「私は来たくて来たわけではない」
「じゃあ〇〇のため?ははっ、ユリウスって見かけに寄らず優しいよな~。あ、それとも人を選ぶとか?」
「エース、友達で遊ぶんじゃないの」
せっかく時計塔から連れ出したのに、機嫌を損ねて帰らせる気か。〇〇はエースを窘めた。
確かに、ユリウスのここまでの行動力と今の発言との溝を問うてみたくはなる。
だが、重要なのは動機よりも結果、成果だ。どんな理由で来たのであれ、アリスと絡んでくれれば万事オッケーなのだ。
エースがスーツ姿ということは、アリスもドレスに着替えているのだろう。
着替えのシーンを見逃したのは残念だが、城に滞在していない〇〇が立ち会うのは端から難しいと思っていた。
ならば、速やかにアリスの傍に移動しよう。できればユリウスを伴いたいが、黙認されているとはいえ、彼を堂々と城の面々の前に出していいものなのか。
まずは自分がアリスに会おうか。それから、頃合いを見計らってユリウスと引き合わせればいい。
「どこに行く気だ、〇〇」
「どこって、アリスのとこだけど」
ふらっと歩き出しかけた〇〇をユリウスが引き止め、エースも横から口を挟んだ。
「二人とも、そろそろ着替えたほうがいいんじゃないか?」
「…ああ、そうだな」
ユリウスは頷くと、着替えるぞ、と言った。彼の視線は〇〇を捉えている。
〇〇は「えっ」と驚きの声を上げた。この普段着のまま舞踏会を楽しむ気でいたのだ。
しかも、まさか自分の分まで着替えが用意されていようとは夢にも思わなかった。
「あたしも着替えるの?……タキシード?」
「ドレスに決まっているだろう」
呆れ顔をしたユリウスが、ぱんっと手を叩く。すると、二人の装いは一瞬にして変化した。
瞬く間に早着替えできるなんて、魔法少女もびっくりだろう。
相手の正装姿をじっくり眺めようと思う前に、〇〇は自身の身が体験したマジックのような出来事に気を取られた。
(これ、ユリウスが用意してくれたんだ…)
アイボリーのドレスはキャミソールのデザインで、ヒール丈。背中は編み上げタイプだ。
シンプルな形だが、全体に施された刺繍が美しい。胸元も背中も思ったよりは露出が少ない。
薄手のストールが、袖なしで気になる二の腕を上手く誤魔化してくれているが、どうやら薄く腕に残る銃傷への配慮のようだった。
鏡がないため〇〇は、手袋を嵌めた手でぺたぺたと触ってドレスを確かめた。…お、ネックレスまである。
最後に、いつもと感覚の違う頭にそっと手をやった。弄れるほどの長さのない黒髪は左側が編み込まれ、耳の上に髪飾りがついていた。
「へえ…結構凝った感じになってんのな。ありがと、ユリウス」
着るつもりのなかったドレスだが、やはりこの格好のほうが場には馴染めるだろう。
〇〇が素直に礼を述べると、ぼんやりした様子のユリウスが慌てたように咳払いした。
「い、いや…その、想像以上に……ましな仕上がりになったな」
「あはははっ、正直に言いなよユリウス~。すっごく似合ってるってさ!」
「私は別に、似合っていないなどとはっ」
「もういいってー、二人とも。無理矢理言わせるようなことじゃないでしょ」
〇〇自身も特に感想を求めていない。どんなに質のいいドレスだろうと、着る人間がこれではかわいそうだと思う。
とにかく、これでようやくアリスに会いに行ける。〇〇は片手を上げて、
「じゃ、ちょっとあたしは行ってくるか、らっ…?」
足を踏み出したところで、よろめく。もちろん足元に障害物はない。
ぐらりと傾きかけた体勢を自分で整えるより早く、騎士が見事な動作で素早く〇〇の腰を抱き取った。
原因はすぐにわかった。慣れないヒールを履いているせいだ。これではしばらく歩き回らないと、足に馴染まないかもしれない。
「すごいな。おめかししただけで、〇〇がか弱い女の子に見えるよ」
身体を支えてくれるエースが感心したように失礼なことを言ったが、気にしない。
そんなことよりも、この男との至近距離が嫌なことを思い出させた。できれば永久に封印してしまいたい、あの行為。
〇〇の様子からなにかを察したのか、エースが少し笑った。口の端を上げる笑みは、爽やかな騎士らしくなく性を匂わせた。
それもつかの間のことで、次の瞬間にはころっと表情を変え、彼は「どうしたの?」といつもの笑顔になる。
そちらがその気ならちょうどいい。ありがたくこちらも忘れさせてもらう。
ああ、そうだ。この失礼な奴をちょっと拝借しよう。〇〇はエースの腕をがっしり握ると、うわべだけ上品に微笑んでみせた。
「騎士様。少し歩きたいので、腕を貸せやコノヤロー」
「あははっ、いいぜ?腕でもなんでも、お姫様のためならすべて差し出しますよ」
軽快に言葉を交わせば、なんだか楽しくなってきた。
〇〇はなにか言いたげなユリウスに後で戻ると告げ、エースと共にその場を離れた。
背中に感じる視線は人々に紛れる。追ってこなかった彼は、アリスに会いたがる〇〇の意思を尊重したのか。
それにしても、歩き出して気づいたことがひとつあった。
(このドレス、スリットがあったのか)
それも腿の半ばより上という、際どいところまで見えるくらい深い。布地の襞のおかげでわからなかった。
動きやすさは抜群だが、動くたびにちら見えする脚の太さが嘆かわしい。
胸元や背中に大胆さがなくて感謝していたのに、これがユリウスの趣味なのか。だとしたら、着せる相手を間違えたな。
隣を歩くエースも当然気づいたらしく、〇〇に身を寄せると、面白そうにこそっと耳打ちした。
「ユリウスってさ、意外とムッツリだと思わない?」
〇〇は、ノーコメント、と小声を出した。その返答までに間があったのは、まあ、気のせいだろう。
疑問を解決できなかった〇〇は結局、舞踏会の日まで外出を控えた。
そうして迎えた当日、出不精であるはずの時計屋を伴ってハートの城に足を踏み入れた。
(おおー…やっぱり画面越しと肌で感じるのとはわけが違うなあ…)
広間にはすでに多くの客が集まっていた。正式に招待された者も、そうでない者も。
いつもと異なる雰囲気は煌びやかで眩しいくらいだ。着飾った人々も舞踏会に相応しく優雅だった。
〇〇はちらっと自身の装いを見下ろした。これぞ不相応、明らかに周囲から浮いている。
「ま、いっか」
逡巡に一瞬で決着をつけて歩き出そうとする〇〇に、待てというように同伴者の手の制止がかかる。
しかし、実際に声をかけてきたのは、別方向にいた別の人物だった。
「やあ、〇〇!それにユリウスも。来ると思ってたぜ」
「エース、……」
呼び声にそちらを向くと、正装に着替えた騎士が片手を上げていた。
〇〇はまじまじとエースの格好を見た。いつもどおりの爽やかな笑顔を携えた男は、胡散臭いホストそのものだった。
本人は似合わないと渋っていた白スーツだが、ある意味似合っていると思う。別人のようなチャラさだ。
友人に声をかけられたユリウスは、ふんと不機嫌な顔つきでそっぽを向いた。
「私は来たくて来たわけではない」
「じゃあ〇〇のため?ははっ、ユリウスって見かけに寄らず優しいよな~。あ、それとも人を選ぶとか?」
「エース、友達で遊ぶんじゃないの」
せっかく時計塔から連れ出したのに、機嫌を損ねて帰らせる気か。〇〇はエースを窘めた。
確かに、ユリウスのここまでの行動力と今の発言との溝を問うてみたくはなる。
だが、重要なのは動機よりも結果、成果だ。どんな理由で来たのであれ、アリスと絡んでくれれば万事オッケーなのだ。
エースがスーツ姿ということは、アリスもドレスに着替えているのだろう。
着替えのシーンを見逃したのは残念だが、城に滞在していない〇〇が立ち会うのは端から難しいと思っていた。
ならば、速やかにアリスの傍に移動しよう。できればユリウスを伴いたいが、黙認されているとはいえ、彼を堂々と城の面々の前に出していいものなのか。
まずは自分がアリスに会おうか。それから、頃合いを見計らってユリウスと引き合わせればいい。
「どこに行く気だ、〇〇」
「どこって、アリスのとこだけど」
ふらっと歩き出しかけた〇〇をユリウスが引き止め、エースも横から口を挟んだ。
「二人とも、そろそろ着替えたほうがいいんじゃないか?」
「…ああ、そうだな」
ユリウスは頷くと、着替えるぞ、と言った。彼の視線は〇〇を捉えている。
〇〇は「えっ」と驚きの声を上げた。この普段着のまま舞踏会を楽しむ気でいたのだ。
しかも、まさか自分の分まで着替えが用意されていようとは夢にも思わなかった。
「あたしも着替えるの?……タキシード?」
「ドレスに決まっているだろう」
呆れ顔をしたユリウスが、ぱんっと手を叩く。すると、二人の装いは一瞬にして変化した。
瞬く間に早着替えできるなんて、魔法少女もびっくりだろう。
相手の正装姿をじっくり眺めようと思う前に、〇〇は自身の身が体験したマジックのような出来事に気を取られた。
(これ、ユリウスが用意してくれたんだ…)
アイボリーのドレスはキャミソールのデザインで、ヒール丈。背中は編み上げタイプだ。
シンプルな形だが、全体に施された刺繍が美しい。胸元も背中も思ったよりは露出が少ない。
薄手のストールが、袖なしで気になる二の腕を上手く誤魔化してくれているが、どうやら薄く腕に残る銃傷への配慮のようだった。
鏡がないため〇〇は、手袋を嵌めた手でぺたぺたと触ってドレスを確かめた。…お、ネックレスまである。
最後に、いつもと感覚の違う頭にそっと手をやった。弄れるほどの長さのない黒髪は左側が編み込まれ、耳の上に髪飾りがついていた。
「へえ…結構凝った感じになってんのな。ありがと、ユリウス」
着るつもりのなかったドレスだが、やはりこの格好のほうが場には馴染めるだろう。
〇〇が素直に礼を述べると、ぼんやりした様子のユリウスが慌てたように咳払いした。
「い、いや…その、想像以上に……ましな仕上がりになったな」
「あはははっ、正直に言いなよユリウス~。すっごく似合ってるってさ!」
「私は別に、似合っていないなどとはっ」
「もういいってー、二人とも。無理矢理言わせるようなことじゃないでしょ」
〇〇自身も特に感想を求めていない。どんなに質のいいドレスだろうと、着る人間がこれではかわいそうだと思う。
とにかく、これでようやくアリスに会いに行ける。〇〇は片手を上げて、
「じゃ、ちょっとあたしは行ってくるか、らっ…?」
足を踏み出したところで、よろめく。もちろん足元に障害物はない。
ぐらりと傾きかけた体勢を自分で整えるより早く、騎士が見事な動作で素早く〇〇の腰を抱き取った。
原因はすぐにわかった。慣れないヒールを履いているせいだ。これではしばらく歩き回らないと、足に馴染まないかもしれない。
「すごいな。おめかししただけで、〇〇がか弱い女の子に見えるよ」
身体を支えてくれるエースが感心したように失礼なことを言ったが、気にしない。
そんなことよりも、この男との至近距離が嫌なことを思い出させた。できれば永久に封印してしまいたい、あの行為。
〇〇の様子からなにかを察したのか、エースが少し笑った。口の端を上げる笑みは、爽やかな騎士らしくなく性を匂わせた。
それもつかの間のことで、次の瞬間にはころっと表情を変え、彼は「どうしたの?」といつもの笑顔になる。
そちらがその気ならちょうどいい。ありがたくこちらも忘れさせてもらう。
ああ、そうだ。この失礼な奴をちょっと拝借しよう。〇〇はエースの腕をがっしり握ると、うわべだけ上品に微笑んでみせた。
「騎士様。少し歩きたいので、腕を貸せやコノヤロー」
「あははっ、いいぜ?腕でもなんでも、お姫様のためならすべて差し出しますよ」
軽快に言葉を交わせば、なんだか楽しくなってきた。
〇〇はなにか言いたげなユリウスに後で戻ると告げ、エースと共にその場を離れた。
背中に感じる視線は人々に紛れる。追ってこなかった彼は、アリスに会いたがる〇〇の意思を尊重したのか。
それにしても、歩き出して気づいたことがひとつあった。
(このドレス、スリットがあったのか)
それも腿の半ばより上という、際どいところまで見えるくらい深い。布地の襞のおかげでわからなかった。
動きやすさは抜群だが、動くたびにちら見えする脚の太さが嘆かわしい。
胸元や背中に大胆さがなくて感謝していたのに、これがユリウスの趣味なのか。だとしたら、着せる相手を間違えたな。
隣を歩くエースも当然気づいたらしく、〇〇に身を寄せると、面白そうにこそっと耳打ちした。
「ユリウスってさ、意外とムッツリだと思わない?」
〇〇は、ノーコメント、と小声を出した。その返答までに間があったのは、まあ、気のせいだろう。