唇に銃口を、さあカウントダウン
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唐突だが、遊園地の絶叫系アトラクションに対する反応は人それぞれで、いくつかタイプがあると〇〇は考えている。
両腕を広げてスリルを歓迎する人間。彼らは楽しげに悲鳴を上げることができる。
おおっぴらには声を上げずに、人工的な恐怖に身を委ねて堪能する人間もいるだろう。
反対に、恐怖ゆえに本物の悲鳴を迸らせる者もいれば、ただただ翻弄されて固く口を閉ざした貝のように硬直する者もいる。
〇〇は硬直タイプである。汗が滲むほど安全バーを握りしめ、目を瞑ることもできずに、ひたすら耐える。
ようやく無事地上に戻ってくると、どっと脱力してベンチと仲睦まじくなった。
そんな精神的なものを削られた感の漂う〇〇に、そっと冷たい飲み物が差し出された。
「大丈夫か?あんたが自分からジェットコースターに乗るなんて珍しいじゃねえか」
「いや…今日なら行けそうな気がして、さ。……ただの気のせい、だったみたい」
「ははっ、そりゃ残念だったな!」
遊園地のオーナーは豪快に笑うと、紙コップをぴとっと〇〇の頬に当てた。
ふわふわしていた精神が一気に現実に引き戻される。ようやく人心地がつけそうな気分になった。
〇〇は礼を言って飲み物を受け取ったが、ふと先ほどまでいたはずの姿が隣にないことに気づいた。
「あれ、ユリウスは…」
「時計屋ならあっちでへばってるぜ?あいつも行けそうな気がして無理だったクチだろ」
ゴーランドの指差す先では、口元を手で覆ったユリウスが、ジェットコースターの乗り場付近で突っ立っていた。
どうやらあまりの気分の悪さに動けないらしい。同じく絶叫系を苦手とする彼の様子からして、〇〇のほうが軽症のようだ。
「あいつが仕事以外でここに来るとはな。今日は珍しいこと尽くめだが、なんだ、嵐の前触れか?」
「少なくとも天変地異は起こらないから、安心して」
物珍しそうな顔をして顎を摩るゴーランドに、〇〇は苦笑して言った。
最近立て続けに発生した、アリス不在のイベント。それらに関わり被害を被った〇〇の不十分な説明に、ユリウスは不信感を募らせていた。
目を瞑ってくれるかもという期待はあっさり崩され、あわや今度こそ軟禁を通り越した監禁状態に突入しかけた。
さすがに同居人としての度を超している。そう思ったが、強張った真剣な表情を見ては文句が出なかった。
だからといって、おとなしく閉じ込められるなど冗談ではない。そこで、〇〇はついこう言ったのだ。
――そんなに気になるなら、どこに行くにもついてくればいい、と。
(まさか、本当にそうするなんて誰も思わないだろ…)
あの引きこもりのユリウス=モンレーが、である。思わず頭を強打したのかと問いそうになった。
もちろん、監禁よりも同伴のほうが遥かにましだ。ユリウスを伴うことによる(当然アリス関係の)メリットもある。
だが、いつになく積極的な行動をとる彼をどう見るべきか。腑に落ちない、〇〇は簡潔にその一言で現状を打ち切った。
無表情を瞬きひとつで消し去った〇〇は、紙コップから口を離して顔を上げた。
「そういえば、もうすぐ舞踏会があるんだって?」
「ああ、近く開催されるらしい。にしても、耳が早いな。あんたも舞踏会に興味があるのか?」
「まあねー」
舞踏会そのものというよりは、美味なるイベントやアリスの動向に対する関心のほうが強いが。
待ち遠しく思いを馳せる〇〇の顔を見て、キラッと目を輝かせたゴーランドはどんと自分の胸を叩いた。
「だったら、あんたのエスコートをこの俺に任せてくれ!」
「……え?」
エスコート。自身に縁のない単語に、それは必要なものなのかと首を傾げる。
そもそも目的はアリスを見ることだけなのだから、いつもどおり城を訪ねてはいけないのか。
そう考える〇〇の舞踏会に対する認識は、確実にずれている。格好よく決まらなかったゴーランドは、がくっと肩を落とした。
「あんたの日頃の様子を見るに、舞踏会みたいな催し物には不慣れなんじゃないか?」
「あー、確かに」
「それなら、経験者の俺が付き添ったほうがなにかと役に立つはずだ。余計な恥をかかなくて済むしな」
「ふうん。そういうもんなの?」
相手の納得が行くよう、彼はその他にも利点を挙げて自分を売り込む。
〇〇は始終「へえ…」と受け流し気味に聞いていたが、なんとなくゴーランドの誘いを受けてもいいような気がしてきた。
とりあえず、損はしないだろう。そう思い首を縦に振りかけたところ、突如として視界に黒い影が立ち塞がった。
屍である。違った、青白い顔をした時計屋である。前傾姿勢で長髪を垂らす姿には、まるで生気がなかった。
「ユリウス、顔が……生きてる?」
「……寄越せ」
低く呻いたユリウスは、〇〇の手から紙コップを奪い取ると一気にあおった。ぐびぐびと喉仏が動く。
大きく息を吐き出したその顔色は、少しだけ赤みを取り戻していた。
「よしっ、時計屋!次はあっちのやつに乗っていくか?」
ゴーランドの笑顔に悪気はない。当然ユリウスが乗り気になるわけがなく、返答代わりに空の紙コップを押しつけた。
さらに彼は〇〇の腕を掴むと、具合の悪さも見せない足取りで歩き出し、
「こいつのエスコートは必要ない。…私が、連れて行く」
「はあっ?おい、ちょっと待てよ――」
ちょうどそのとき従業員に話しかけられたようで、ゴーランドが二人を追いかけてくることはなかった。
引っ張られるようにして遊園地を出た〇〇は、されるがままに相手の歩調に合わせた。
気になるのは先ほどの発言である。どうやらユリウスと共に舞踏会に行くことになったらしい。
この男を時計塔から連れ出せるのは、アリス&エースのタッグだけだと思っていた。
「別に無理しなくていいんだよ?あたし一人でも行こうと思えば行けるんだし…」
「私も行くと言っているだろう。絶対に一人で行くな。他の誰に誘われても断れ」
何故だかわからないが、気合いの入りようがすごい。梃子でも動かない、まるでそんな雰囲気だ。
まあ、一人だろうと役持ちの付き添いがあろうと、行くことには変わりない。
(ユリアリのチャンスが増えたってことで、よしとしますか)
心音に紛れて、時計が針の音を刻む。
時計塔に着くまでの間、ユリウスの手が〇〇から離れることは一度もなかった。
両腕を広げてスリルを歓迎する人間。彼らは楽しげに悲鳴を上げることができる。
おおっぴらには声を上げずに、人工的な恐怖に身を委ねて堪能する人間もいるだろう。
反対に、恐怖ゆえに本物の悲鳴を迸らせる者もいれば、ただただ翻弄されて固く口を閉ざした貝のように硬直する者もいる。
〇〇は硬直タイプである。汗が滲むほど安全バーを握りしめ、目を瞑ることもできずに、ひたすら耐える。
ようやく無事地上に戻ってくると、どっと脱力してベンチと仲睦まじくなった。
そんな精神的なものを削られた感の漂う〇〇に、そっと冷たい飲み物が差し出された。
「大丈夫か?あんたが自分からジェットコースターに乗るなんて珍しいじゃねえか」
「いや…今日なら行けそうな気がして、さ。……ただの気のせい、だったみたい」
「ははっ、そりゃ残念だったな!」
遊園地のオーナーは豪快に笑うと、紙コップをぴとっと〇〇の頬に当てた。
ふわふわしていた精神が一気に現実に引き戻される。ようやく人心地がつけそうな気分になった。
〇〇は礼を言って飲み物を受け取ったが、ふと先ほどまでいたはずの姿が隣にないことに気づいた。
「あれ、ユリウスは…」
「時計屋ならあっちでへばってるぜ?あいつも行けそうな気がして無理だったクチだろ」
ゴーランドの指差す先では、口元を手で覆ったユリウスが、ジェットコースターの乗り場付近で突っ立っていた。
どうやらあまりの気分の悪さに動けないらしい。同じく絶叫系を苦手とする彼の様子からして、〇〇のほうが軽症のようだ。
「あいつが仕事以外でここに来るとはな。今日は珍しいこと尽くめだが、なんだ、嵐の前触れか?」
「少なくとも天変地異は起こらないから、安心して」
物珍しそうな顔をして顎を摩るゴーランドに、〇〇は苦笑して言った。
最近立て続けに発生した、アリス不在のイベント。それらに関わり被害を被った〇〇の不十分な説明に、ユリウスは不信感を募らせていた。
目を瞑ってくれるかもという期待はあっさり崩され、あわや今度こそ軟禁を通り越した監禁状態に突入しかけた。
さすがに同居人としての度を超している。そう思ったが、強張った真剣な表情を見ては文句が出なかった。
だからといって、おとなしく閉じ込められるなど冗談ではない。そこで、〇〇はついこう言ったのだ。
――そんなに気になるなら、どこに行くにもついてくればいい、と。
(まさか、本当にそうするなんて誰も思わないだろ…)
あの引きこもりのユリウス=モンレーが、である。思わず頭を強打したのかと問いそうになった。
もちろん、監禁よりも同伴のほうが遥かにましだ。ユリウスを伴うことによる(当然アリス関係の)メリットもある。
だが、いつになく積極的な行動をとる彼をどう見るべきか。腑に落ちない、〇〇は簡潔にその一言で現状を打ち切った。
無表情を瞬きひとつで消し去った〇〇は、紙コップから口を離して顔を上げた。
「そういえば、もうすぐ舞踏会があるんだって?」
「ああ、近く開催されるらしい。にしても、耳が早いな。あんたも舞踏会に興味があるのか?」
「まあねー」
舞踏会そのものというよりは、美味なるイベントやアリスの動向に対する関心のほうが強いが。
待ち遠しく思いを馳せる〇〇の顔を見て、キラッと目を輝かせたゴーランドはどんと自分の胸を叩いた。
「だったら、あんたのエスコートをこの俺に任せてくれ!」
「……え?」
エスコート。自身に縁のない単語に、それは必要なものなのかと首を傾げる。
そもそも目的はアリスを見ることだけなのだから、いつもどおり城を訪ねてはいけないのか。
そう考える〇〇の舞踏会に対する認識は、確実にずれている。格好よく決まらなかったゴーランドは、がくっと肩を落とした。
「あんたの日頃の様子を見るに、舞踏会みたいな催し物には不慣れなんじゃないか?」
「あー、確かに」
「それなら、経験者の俺が付き添ったほうがなにかと役に立つはずだ。余計な恥をかかなくて済むしな」
「ふうん。そういうもんなの?」
相手の納得が行くよう、彼はその他にも利点を挙げて自分を売り込む。
〇〇は始終「へえ…」と受け流し気味に聞いていたが、なんとなくゴーランドの誘いを受けてもいいような気がしてきた。
とりあえず、損はしないだろう。そう思い首を縦に振りかけたところ、突如として視界に黒い影が立ち塞がった。
屍である。違った、青白い顔をした時計屋である。前傾姿勢で長髪を垂らす姿には、まるで生気がなかった。
「ユリウス、顔が……生きてる?」
「……寄越せ」
低く呻いたユリウスは、〇〇の手から紙コップを奪い取ると一気にあおった。ぐびぐびと喉仏が動く。
大きく息を吐き出したその顔色は、少しだけ赤みを取り戻していた。
「よしっ、時計屋!次はあっちのやつに乗っていくか?」
ゴーランドの笑顔に悪気はない。当然ユリウスが乗り気になるわけがなく、返答代わりに空の紙コップを押しつけた。
さらに彼は〇〇の腕を掴むと、具合の悪さも見せない足取りで歩き出し、
「こいつのエスコートは必要ない。…私が、連れて行く」
「はあっ?おい、ちょっと待てよ――」
ちょうどそのとき従業員に話しかけられたようで、ゴーランドが二人を追いかけてくることはなかった。
引っ張られるようにして遊園地を出た〇〇は、されるがままに相手の歩調に合わせた。
気になるのは先ほどの発言である。どうやらユリウスと共に舞踏会に行くことになったらしい。
この男を時計塔から連れ出せるのは、アリス&エースのタッグだけだと思っていた。
「別に無理しなくていいんだよ?あたし一人でも行こうと思えば行けるんだし…」
「私も行くと言っているだろう。絶対に一人で行くな。他の誰に誘われても断れ」
何故だかわからないが、気合いの入りようがすごい。梃子でも動かない、まるでそんな雰囲気だ。
まあ、一人だろうと役持ちの付き添いがあろうと、行くことには変わりない。
(ユリアリのチャンスが増えたってことで、よしとしますか)
心音に紛れて、時計が針の音を刻む。
時計塔に着くまでの間、ユリウスの手が〇〇から離れることは一度もなかった。