罅割れた夢現
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気がつけば、そこは見知った場所だった。
だが何故ここに自分がいるのかがわからない。いつの間にか眠ったのだろうか。
(……あれ、なにか忘れて…)
首を捻る〇〇の上で、その様子をおかしそうに見下ろす顔があった。
「どうだい。気分は」
「…吐血蓑虫?」
「とけ、……まあいい。あ、いやよくないか。確かに私はしばしば吐血するし蓑虫だが、その組み合わせで君に呼ばれるのは嬉しくないな」
目の前に現れた夢魔はそう言って愛称(?)にコメントをつけると、じっと〇〇の顔を覗き込んだ。
ナイトメア。夢魔。ということは、やはりここは夢の中か。眠った覚えはないんだけど、と横になっていた身体を起こす。
浮遊する空間に上下が定まっているかは謎だが、相手を基準にするなら、起き上がったほうがいい。
さりげなく貸される手を取って、〇〇は自問を外に出した。
「あたし、いつ眠ったっけ?」
「君は撃たれたんだよ。正確に言うと、流れ弾に当たった。…違うな、彼を庇った、というべきか」
撃たれた。流れ弾。ぼーっと単語を受け入れたが、唐突に思い出した。
腕に走った強烈な熱。衝撃。〇〇はハッとしてそこを押さえたが、痛みはなかった。痛みどころか、服には穴もなければ血の染みもない。
(どういうこと…?)
夢の中にあるのは精神だ。肉体の状態は反映されないのかもしれない。
「ここにいるってことは、あたしは気を失ったのか」
「いや、私が君をここに引きずり込んだんだ」
「引きずり……、へ?」
なんだそれは。〇〇は言葉を失った。ナイトメアは薄く笑う。
「それで?初めて撃たれた感想でも聞いておこうか」
感想なんて悠長な。しかし、こうして揶揄するくらいだ、状況は切羽詰まっているわけではなさそうだ。
ならば疑問の一つや二つ、ぶつけてもいいだろう。
「あたしを夢に逃がした理由は?」
強引に夢の中に引き込まれることは、今までなかった。
つまり今回は、そうせざるを得ない事態だったということになる。ナイトメアは軽く肩を竦めてみせた。
「肉体が撃たれたショックに耐えられそうになかったからね。君の精神を避難させる必要があったんだ」
ショック死なんて面白みのない終わり方だろう、と見透かすように言う。
確かにそのとおりだ。自身が招いた結末だとしても、不本意すぎる。
それにしても、命の危機ならいざ知らず、弾が掠めたくらいで死ぬ?なんとやわな精神力。
繊細さに欠けるとばかり思っていたのに、一応この心は本来の性別を弁えていたのだろうか。
微妙な心境が顔に出ていたらしく、ナイトメアは説明してくれた。
「〇〇、君は銃とは無縁の世界で生まれ育ったんだろう?ただ、銃で撃たれることが死に繋がるという知識がある。知識しか持たない身に、直接的な衝撃が加わった。程度に個人差があるとはいえ、ショックを受けるのが当たり前なんだよ」
「…そう、なんだ」
「そうだ。つまり、君は至極真っ当な人間というわけだ。当然の反応を示したに過ぎない」
「……」
ないはずの含みを感じて、〇〇は黙った。
銃に馴染みのない一般人なら、当たり前のショック。けれど、自身の生身を突きつけられた気分だ。
ゲームの中にいる自分は、そのものでありながらも、やはりなにかが異なる。そう無意識に思っていたことを、あらためて否定された気がした。
この世界に存在する〇〇は、元の世界を生きる、血肉を持つ〇〇自身であると。
(あ……)
そういえば、気を失った(眠らされた)後、怪我を負った身体のほうはどうなったのだろう。
目の前の男ならきっと、一部始終を知っている。
「ねえ、あの後は…?エリオットのことだから、相手が何人増えようがさっさと片付けたんだろ?」
もとより使い物にならない〇〇が倒れたのだから、邪魔のなくなったエリオットは思う存分やれるはずだ。
終わったら、役立たずの自分はどうなる。往来にバタッと伏せたままなんてみっともない。
介抱しろなどと贅沢は言わない。せめて、場所を移動させてくれていればいいのだが。
「君の言うとおり、相手の人数はまあまあ増えたが…三月ウサギの凄まじさに敵うと思うかい?」
夢魔は口元に指を当て、愉しげに笑った。その眼差しはどことなく、人の居心地を悪くさせた。
「かわいそうに…。偶然とはいえ君を傷つけたばかりに、彼らは地獄を見た。死が甘美なる救済だとは、きっと今日まで知らなかっただろう」
〇〇は唇を開きかけたが、なにを言えばいいのかわからなかった。
赤の世界において、命のやりとりは珍しいことではない。
ましてやエリオット=マーチはマフィアだ。相当の場数を踏んでいる。
しかし、ナイトメアの口から語られるそれは、単なる殺し合いなどではなかった。
情け容赦なく、狩っていく。執拗に苦痛を与え、死への最たる迂回路を選ばせる。
(――……虐殺、だ)
一方的で、惨たらしい。あちらが先に仕掛けたとはいえ、あまりにも非情な返り討ちだった。
「君を抱えて血の海に立つ三月ウサギの姿は壮絶だったよ」
「エリオットは、どうして、そんな…」
「君のため、そして自分のためだろうね。彼は大切な人を傷つけた連中を許せず、庇われた自分に我慢ならなかったんだ」
せいぜい皆殺しで済んでよかったじゃないか、と言うが、それ以上に酷なことがあるかと思う。
いや、最初から一人残らず息の根を止めるつもりだったのだろうが、こんな始末のつけ方を誰が予測できようか。
ナイトメアの擁護の気配さえ漂う口ぶりに、〇〇は血の気の引いた顔を俯かせた。
(あたしは、そこまで価値のある人間じゃない…)
エリオットの行動を左右すべき事柄は、彼の敬愛するブラッドか、世界に愛されるアリスだ。
イレギュラーに重きを置いてはならない。いや、その気になるほうがおかしい。
(……番狂わせは、あたし……?)
〇〇は視線をここではないどこかに向けて、起伏のない声で尋ねた。
仮定だが、この先起こり得ないとは言い切れない可能性を。
「もし…あたしが命を落とすような事態になったとして」
「ああ」
「アナタが見殺しにすることは、ある?」
それは純粋な疑問であったかもしれず、また、核心を突く質問であったかもしれなかった。
心を読めない夢魔が、〇〇の中を見通す目をする。飾り気のない口調で、ただ事実を述べた。
「それは来たるべき時か、君が望んで死ぬ時だ。君が望まない限り、私は何度でも君を助けるよ」
「……そう」
〇〇は目を伏せることで、話題を打ち切った。
そろそろ目を覚ますべきだろう。いつまでも逃げてはいられない。
誰がこれほどまでに複雑にしてしまったのか、わからないけれど。
「ナイトメア」
すべてをひた隠しにして、今は微笑んでみせよう。
「――舞踏会。楽しみだな」
笑顔の下で呟いた。潮時は、近い。
【罅割れた夢現】
いつかは終わりが来る それが夢(ゲーム)
continue…?→あとがき。
だが何故ここに自分がいるのかがわからない。いつの間にか眠ったのだろうか。
(……あれ、なにか忘れて…)
首を捻る〇〇の上で、その様子をおかしそうに見下ろす顔があった。
「どうだい。気分は」
「…吐血蓑虫?」
「とけ、……まあいい。あ、いやよくないか。確かに私はしばしば吐血するし蓑虫だが、その組み合わせで君に呼ばれるのは嬉しくないな」
目の前に現れた夢魔はそう言って愛称(?)にコメントをつけると、じっと〇〇の顔を覗き込んだ。
ナイトメア。夢魔。ということは、やはりここは夢の中か。眠った覚えはないんだけど、と横になっていた身体を起こす。
浮遊する空間に上下が定まっているかは謎だが、相手を基準にするなら、起き上がったほうがいい。
さりげなく貸される手を取って、〇〇は自問を外に出した。
「あたし、いつ眠ったっけ?」
「君は撃たれたんだよ。正確に言うと、流れ弾に当たった。…違うな、彼を庇った、というべきか」
撃たれた。流れ弾。ぼーっと単語を受け入れたが、唐突に思い出した。
腕に走った強烈な熱。衝撃。〇〇はハッとしてそこを押さえたが、痛みはなかった。痛みどころか、服には穴もなければ血の染みもない。
(どういうこと…?)
夢の中にあるのは精神だ。肉体の状態は反映されないのかもしれない。
「ここにいるってことは、あたしは気を失ったのか」
「いや、私が君をここに引きずり込んだんだ」
「引きずり……、へ?」
なんだそれは。〇〇は言葉を失った。ナイトメアは薄く笑う。
「それで?初めて撃たれた感想でも聞いておこうか」
感想なんて悠長な。しかし、こうして揶揄するくらいだ、状況は切羽詰まっているわけではなさそうだ。
ならば疑問の一つや二つ、ぶつけてもいいだろう。
「あたしを夢に逃がした理由は?」
強引に夢の中に引き込まれることは、今までなかった。
つまり今回は、そうせざるを得ない事態だったということになる。ナイトメアは軽く肩を竦めてみせた。
「肉体が撃たれたショックに耐えられそうになかったからね。君の精神を避難させる必要があったんだ」
ショック死なんて面白みのない終わり方だろう、と見透かすように言う。
確かにそのとおりだ。自身が招いた結末だとしても、不本意すぎる。
それにしても、命の危機ならいざ知らず、弾が掠めたくらいで死ぬ?なんとやわな精神力。
繊細さに欠けるとばかり思っていたのに、一応この心は本来の性別を弁えていたのだろうか。
微妙な心境が顔に出ていたらしく、ナイトメアは説明してくれた。
「〇〇、君は銃とは無縁の世界で生まれ育ったんだろう?ただ、銃で撃たれることが死に繋がるという知識がある。知識しか持たない身に、直接的な衝撃が加わった。程度に個人差があるとはいえ、ショックを受けるのが当たり前なんだよ」
「…そう、なんだ」
「そうだ。つまり、君は至極真っ当な人間というわけだ。当然の反応を示したに過ぎない」
「……」
ないはずの含みを感じて、〇〇は黙った。
銃に馴染みのない一般人なら、当たり前のショック。けれど、自身の生身を突きつけられた気分だ。
ゲームの中にいる自分は、そのものでありながらも、やはりなにかが異なる。そう無意識に思っていたことを、あらためて否定された気がした。
この世界に存在する〇〇は、元の世界を生きる、血肉を持つ〇〇自身であると。
(あ……)
そういえば、気を失った(眠らされた)後、怪我を負った身体のほうはどうなったのだろう。
目の前の男ならきっと、一部始終を知っている。
「ねえ、あの後は…?エリオットのことだから、相手が何人増えようがさっさと片付けたんだろ?」
もとより使い物にならない〇〇が倒れたのだから、邪魔のなくなったエリオットは思う存分やれるはずだ。
終わったら、役立たずの自分はどうなる。往来にバタッと伏せたままなんてみっともない。
介抱しろなどと贅沢は言わない。せめて、場所を移動させてくれていればいいのだが。
「君の言うとおり、相手の人数はまあまあ増えたが…三月ウサギの凄まじさに敵うと思うかい?」
夢魔は口元に指を当て、愉しげに笑った。その眼差しはどことなく、人の居心地を悪くさせた。
「かわいそうに…。偶然とはいえ君を傷つけたばかりに、彼らは地獄を見た。死が甘美なる救済だとは、きっと今日まで知らなかっただろう」
〇〇は唇を開きかけたが、なにを言えばいいのかわからなかった。
赤の世界において、命のやりとりは珍しいことではない。
ましてやエリオット=マーチはマフィアだ。相当の場数を踏んでいる。
しかし、ナイトメアの口から語られるそれは、単なる殺し合いなどではなかった。
情け容赦なく、狩っていく。執拗に苦痛を与え、死への最たる迂回路を選ばせる。
(――……虐殺、だ)
一方的で、惨たらしい。あちらが先に仕掛けたとはいえ、あまりにも非情な返り討ちだった。
「君を抱えて血の海に立つ三月ウサギの姿は壮絶だったよ」
「エリオットは、どうして、そんな…」
「君のため、そして自分のためだろうね。彼は大切な人を傷つけた連中を許せず、庇われた自分に我慢ならなかったんだ」
せいぜい皆殺しで済んでよかったじゃないか、と言うが、それ以上に酷なことがあるかと思う。
いや、最初から一人残らず息の根を止めるつもりだったのだろうが、こんな始末のつけ方を誰が予測できようか。
ナイトメアの擁護の気配さえ漂う口ぶりに、〇〇は血の気の引いた顔を俯かせた。
(あたしは、そこまで価値のある人間じゃない…)
エリオットの行動を左右すべき事柄は、彼の敬愛するブラッドか、世界に愛されるアリスだ。
イレギュラーに重きを置いてはならない。いや、その気になるほうがおかしい。
(……番狂わせは、あたし……?)
〇〇は視線をここではないどこかに向けて、起伏のない声で尋ねた。
仮定だが、この先起こり得ないとは言い切れない可能性を。
「もし…あたしが命を落とすような事態になったとして」
「ああ」
「アナタが見殺しにすることは、ある?」
それは純粋な疑問であったかもしれず、また、核心を突く質問であったかもしれなかった。
心を読めない夢魔が、〇〇の中を見通す目をする。飾り気のない口調で、ただ事実を述べた。
「それは来たるべき時か、君が望んで死ぬ時だ。君が望まない限り、私は何度でも君を助けるよ」
「……そう」
〇〇は目を伏せることで、話題を打ち切った。
そろそろ目を覚ますべきだろう。いつまでも逃げてはいられない。
誰がこれほどまでに複雑にしてしまったのか、わからないけれど。
「ナイトメア」
すべてをひた隠しにして、今は微笑んでみせよう。
「――舞踏会。楽しみだな」
笑顔の下で呟いた。潮時は、近い。
【罅割れた夢現】
いつかは終わりが来る それが夢(ゲーム)
continue…?→あとがき。