罅割れた夢現
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逃げる?どうして逃げる必要があるというのか。知らず冷や汗が滲む。記憶の扉を叩く、何者か。
掴まれた手が自然と拳を握る形になったが、エースは軽く引いて振り向くよう促しただけだった。
強引さのない催促に、とりあえず応えて目を合わせる。
「逃げないでくれよ。あ、そういえば〇〇はもう誰かに聞いた?」
「……なに」
エースは口角を綺麗に上げて笑った。
「舞踏会さ。定期的に行われる催し事なんだけど、近々城で開かれるらしいよ」
舞踏会…!〇〇は思わず目を見開き、エースを凝視した。
それはゲームにおける最大のイベントと言っても過言ではない。
物語が佳境を迎えるのだ。そこでアリスがどのルートを辿っているのかも確認できるだろう。
(あの舞踏会を生で楽しめる…!)
ああ、最高だ。〇〇の表情がとろりと崩れた。あわよくば例の客室での出来事をも垣間見たい。
本当に覗き魔というか、変質者になってしまいそうだが、逃すのも非常に惜しい。
〇〇の浮ついた気分に水をさしたのは、その緩んだ顔を眺めていた騎士だった。
「そんなに舞踏会が楽しみなのか?…ああ、そっか。〇〇は踊るのが好きだもんな」
「あたしは別に、ダンスが楽しみなわけじゃ…」
否定の言葉を遮る、手首の圧迫。思わず顔を顰める〇〇を見下ろして、彼はゆっくりと繰り返した。
「好き、なんだろ?特に、ベッドの上で踊るのが」
「……は?」
〇〇は絶句した。大人同士の会話なら、その譬えは察するに易い。しかし、このタイミングでその話題はおかしいだろう。
つい空を振り仰いで時間帯を確認した。緑の合間に見えるのは、間違いなく健全たる青色だった。
「誰に踊らされたの?相手は帽子屋さんか……それとも、ペーターさんかな」
鋭い。一瞬素直にそう思ったが、すぐに気づいた。この話題で、騎士の口から白ウサギの名が出るのは妙だ。
あの出来事は二者の記憶だけに存在する。目撃者は葬られた、狂気めいた秘め事。
帽子屋との割り切った関係をも凌いだ先にある、容易には触れられない沙汰だった。
ペーターが話したのかとも考えたが、その可能性は低いだろう。万が一にも、愛するアリスの耳には入れたくないに違いない。
どんな思惑による行為だろうと、性を含んだ時点で濃密さを増すのだから。
「ペーターさん、最近変わったと思わないか?」
じりじりとにじり寄るようなこの感覚は、いったいなんだ。〇〇は不快感とも知れない心地に表情を歪めた。
会話の意図がわからない。面倒になって、つい返事が投げやりになってしまう。
「アナタがそうだと思うんなら、そうなんじゃないの」
「へえ…。じゃあ、その原因が君だと俺が思えば、君のせいになるのか」
エースは突然〇〇の手を引いた。咄嗟に身構えたものの、力が強すぎて抵抗できない。
足を払われて体勢を崩された上、体重をかけられればなす術もなく。
周囲を茂みが覆う地面に押し倒された感想は、好ましいものであるはずがなかった。
そこは相手の手腕なのか、身体への衝撃は少なかった。なんの慰めにもならないが。
「っ……なにする、つもり」
「なにって…君の肌に触れようと思ってるだけだけど?」
問題はあるかと素で聞く顔をする。この状況のどこに問題がないというのだ。
顎を掴む相手の片手を掴み返し、〇〇は目に困惑を浮かべた。考えがまったく読めない。
エースはいつもどおりの笑顔でこちらを見下ろすばかりだ。その笑顔が、落ちてくる。
「〇〇。この前のこと、覚えてる?」
「この前…?」
「熱を出した君を、俺が献身的に看病しただろう?あのときのことだよ」
少し曖昧な部分もあるが、確かに〇〇は覚えていた。しかし、記憶をいいように捏造しないでほしい。
僅かも感謝がないとは言わないが、感謝以上に余計なことをされたように思う。その内容は口に出したいとも思わない。
だから、〇〇は言ったのだ。覚えていない、と。そう答えたことで、己の身を差し出したことになろうとは、思いも寄らず。
エースの赤い瞳が色合いを変え、人知れず熱を帯びる。期待したとおりと弧を描いた唇が、ゆっくりと開いた。
「それじゃあ、思い出そうか。今から、二人で」
「ぇ――…っ!」
言葉を奪われる。深く閉ざされ、呼吸ができない。
〇〇は全身で抗ったが、すべての抵抗が押さえ込まれた。
急速に色を変えていく場の雰囲気に呑まれる。引きずり込まれていく。
呻きと布擦れに紛れて、小さな囁きが聞こえたような気がした。
俺を変えてくれよ。他の男を変えたように。
掴まれた手が自然と拳を握る形になったが、エースは軽く引いて振り向くよう促しただけだった。
強引さのない催促に、とりあえず応えて目を合わせる。
「逃げないでくれよ。あ、そういえば〇〇はもう誰かに聞いた?」
「……なに」
エースは口角を綺麗に上げて笑った。
「舞踏会さ。定期的に行われる催し事なんだけど、近々城で開かれるらしいよ」
舞踏会…!〇〇は思わず目を見開き、エースを凝視した。
それはゲームにおける最大のイベントと言っても過言ではない。
物語が佳境を迎えるのだ。そこでアリスがどのルートを辿っているのかも確認できるだろう。
(あの舞踏会を生で楽しめる…!)
ああ、最高だ。〇〇の表情がとろりと崩れた。あわよくば例の客室での出来事をも垣間見たい。
本当に覗き魔というか、変質者になってしまいそうだが、逃すのも非常に惜しい。
〇〇の浮ついた気分に水をさしたのは、その緩んだ顔を眺めていた騎士だった。
「そんなに舞踏会が楽しみなのか?…ああ、そっか。〇〇は踊るのが好きだもんな」
「あたしは別に、ダンスが楽しみなわけじゃ…」
否定の言葉を遮る、手首の圧迫。思わず顔を顰める〇〇を見下ろして、彼はゆっくりと繰り返した。
「好き、なんだろ?特に、ベッドの上で踊るのが」
「……は?」
〇〇は絶句した。大人同士の会話なら、その譬えは察するに易い。しかし、このタイミングでその話題はおかしいだろう。
つい空を振り仰いで時間帯を確認した。緑の合間に見えるのは、間違いなく健全たる青色だった。
「誰に踊らされたの?相手は帽子屋さんか……それとも、ペーターさんかな」
鋭い。一瞬素直にそう思ったが、すぐに気づいた。この話題で、騎士の口から白ウサギの名が出るのは妙だ。
あの出来事は二者の記憶だけに存在する。目撃者は葬られた、狂気めいた秘め事。
帽子屋との割り切った関係をも凌いだ先にある、容易には触れられない沙汰だった。
ペーターが話したのかとも考えたが、その可能性は低いだろう。万が一にも、愛するアリスの耳には入れたくないに違いない。
どんな思惑による行為だろうと、性を含んだ時点で濃密さを増すのだから。
「ペーターさん、最近変わったと思わないか?」
じりじりとにじり寄るようなこの感覚は、いったいなんだ。〇〇は不快感とも知れない心地に表情を歪めた。
会話の意図がわからない。面倒になって、つい返事が投げやりになってしまう。
「アナタがそうだと思うんなら、そうなんじゃないの」
「へえ…。じゃあ、その原因が君だと俺が思えば、君のせいになるのか」
エースは突然〇〇の手を引いた。咄嗟に身構えたものの、力が強すぎて抵抗できない。
足を払われて体勢を崩された上、体重をかけられればなす術もなく。
周囲を茂みが覆う地面に押し倒された感想は、好ましいものであるはずがなかった。
そこは相手の手腕なのか、身体への衝撃は少なかった。なんの慰めにもならないが。
「っ……なにする、つもり」
「なにって…君の肌に触れようと思ってるだけだけど?」
問題はあるかと素で聞く顔をする。この状況のどこに問題がないというのだ。
顎を掴む相手の片手を掴み返し、〇〇は目に困惑を浮かべた。考えがまったく読めない。
エースはいつもどおりの笑顔でこちらを見下ろすばかりだ。その笑顔が、落ちてくる。
「〇〇。この前のこと、覚えてる?」
「この前…?」
「熱を出した君を、俺が献身的に看病しただろう?あのときのことだよ」
少し曖昧な部分もあるが、確かに〇〇は覚えていた。しかし、記憶をいいように捏造しないでほしい。
僅かも感謝がないとは言わないが、感謝以上に余計なことをされたように思う。その内容は口に出したいとも思わない。
だから、〇〇は言ったのだ。覚えていない、と。そう答えたことで、己の身を差し出したことになろうとは、思いも寄らず。
エースの赤い瞳が色合いを変え、人知れず熱を帯びる。期待したとおりと弧を描いた唇が、ゆっくりと開いた。
「それじゃあ、思い出そうか。今から、二人で」
「ぇ――…っ!」
言葉を奪われる。深く閉ざされ、呼吸ができない。
〇〇は全身で抗ったが、すべての抵抗が押さえ込まれた。
急速に色を変えていく場の雰囲気に呑まれる。引きずり込まれていく。
呻きと布擦れに紛れて、小さな囁きが聞こえたような気がした。
俺を変えてくれよ。他の男を変えたように。