罅割れた夢現
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広大な敷地内にある庭を、あてもなく散策する。
木々が茂る場所だか手入れが行き届いており、落ちてくるのは心地のいい木漏れ日だった。
(たまにはいいな、こういうのも…)
森林浴、と〇〇は微笑み、足を進めた。日の光と影が、緑の中に交互に模様を作っている。
ぶらぶらと歩き、鳥の囀りに耳を傾ければ、心は自然と平穏を愛した。ああ、こういう平和な日々が続けばいい。
自分の周りは常にこうであって、望めば傍らにある赤の世界に足を踏み出せる、そんな自由。――失いつつあるものだと、誰かが囁く幻聴。
「……アリス」
〇〇は足を止めると、ぽつりと呟いた。会いたい。そうだ、彼女に会いに行かなければ。
思えば、会えない時間が長すぎる。不可抗力ともいうべき流れでこうなったのだとしても、今から己の意志で行動すればいいのだ。
〇〇は留まる理由がなくなったにもかかわらず、いまだ帽子屋屋敷にいる自分を叱咤した。
これから、アリスに会いに行こう。いつものように。まずはハートの城を訪れようか。
もしもあの白い宰相に出会ったら――想起を妨害し、求める少女のことだけを思い浮かべた。
がさりと背後でなにかが動いたのはそのときだ。
反射的に振り向いた〇〇の目に、ありえないものが映った。赤。
この領土で目にするには、面積の多すぎるその色の正体は、
「エ、エース…っ!」
この場に相応しくない、というか、いてはいけないハートの騎士は、がさがさと茂みを掻き分けて姿を現した。
予期せぬ登場に唖然とする〇〇の姿を、赤い目が捉える。エースは、あれ?というふうに首を傾げて、
「〇〇…?こんなところでなにしてるんだ?」
「その台詞、丸ごとそのままアナタに返す」
すかさず言い返した〇〇は、脱力感に苛まれて深く溜め息をついた。
「まあ、だいたい見当はつくけど…。エースは旅の途中?」
「おっ、よくわかったな~」
肩についた葉やなにやらを手で払いながら、にこにこと彼は笑う。わからいでか。
「今回はいつもより早く時計塔に着けるように、気合いを入れて出発したんだ」
「……へえ」
「……まあ、君の反応からすると、ここがユリウスのいる場所じゃないことはわかったけど」
おかしいなあ、と首を傾げる騎士を眺めて、確かにおかしいと〇〇は思った。
肝心のアリスに会えないのに、役持ちと過ごす時間はきっちり生じるのは何故だ。
どうせなら、アリスが出てきてくれればよかったのに。いや、彼女なら特別な理由がない限り、こんな登場の仕方はしないが。
(こんな“うっかり”をするのはエースくらいだもんなー…)
迷子ついでに敵地に乗り込むなんて、なかなかやるではないか。
要らぬ火種を蒔くのならくれぐれも巻き込んでくれるな。ぶっちゃけた本心はその一点である。
「…ここは帽子屋ファミリーの領土。少なくともエースに友好的な人はいないところだから、早く離れたほうがいい」
〇〇が良心に従ってそう忠告すると、エースは見慣れた笑顔を浮かべながら胡散臭い口調で、
「残念だなー。君は俺に友好的な態度を取ってくれないのか…」
「なに、今のあたしは友好的じゃないって?」
「うん。違うな」
エースは逡巡もなく爽快に断言した。さすがの〇〇もこれにはむっとしてしまう。
愛想がいいとまでは言えないかもしれないが、会話には前向きに付き合っているつもりだ。
友好的ではないと言われても、なにを望まれているのかわからない。
「あ、そ。それならそれでいいや。じゃあ、あたしは行くから…」
騎士に構う暇があるのなら、一刻も早くアリスに会いに行くべきだ。
このままここにいたら、気分が不本意な方向へ転換される気がする。
背を向けて歩き出そうとした〇〇は、意に反して後退した。
「――逃げるんだ…?」
俺から、と囁く声は真後ろに。握り込まれてはいないのに、手首をめぐった手のひらはまるで枷のようだった。
木々が茂る場所だか手入れが行き届いており、落ちてくるのは心地のいい木漏れ日だった。
(たまにはいいな、こういうのも…)
森林浴、と〇〇は微笑み、足を進めた。日の光と影が、緑の中に交互に模様を作っている。
ぶらぶらと歩き、鳥の囀りに耳を傾ければ、心は自然と平穏を愛した。ああ、こういう平和な日々が続けばいい。
自分の周りは常にこうであって、望めば傍らにある赤の世界に足を踏み出せる、そんな自由。――失いつつあるものだと、誰かが囁く幻聴。
「……アリス」
〇〇は足を止めると、ぽつりと呟いた。会いたい。そうだ、彼女に会いに行かなければ。
思えば、会えない時間が長すぎる。不可抗力ともいうべき流れでこうなったのだとしても、今から己の意志で行動すればいいのだ。
〇〇は留まる理由がなくなったにもかかわらず、いまだ帽子屋屋敷にいる自分を叱咤した。
これから、アリスに会いに行こう。いつものように。まずはハートの城を訪れようか。
もしもあの白い宰相に出会ったら――想起を妨害し、求める少女のことだけを思い浮かべた。
がさりと背後でなにかが動いたのはそのときだ。
反射的に振り向いた〇〇の目に、ありえないものが映った。赤。
この領土で目にするには、面積の多すぎるその色の正体は、
「エ、エース…っ!」
この場に相応しくない、というか、いてはいけないハートの騎士は、がさがさと茂みを掻き分けて姿を現した。
予期せぬ登場に唖然とする〇〇の姿を、赤い目が捉える。エースは、あれ?というふうに首を傾げて、
「〇〇…?こんなところでなにしてるんだ?」
「その台詞、丸ごとそのままアナタに返す」
すかさず言い返した〇〇は、脱力感に苛まれて深く溜め息をついた。
「まあ、だいたい見当はつくけど…。エースは旅の途中?」
「おっ、よくわかったな~」
肩についた葉やなにやらを手で払いながら、にこにこと彼は笑う。わからいでか。
「今回はいつもより早く時計塔に着けるように、気合いを入れて出発したんだ」
「……へえ」
「……まあ、君の反応からすると、ここがユリウスのいる場所じゃないことはわかったけど」
おかしいなあ、と首を傾げる騎士を眺めて、確かにおかしいと〇〇は思った。
肝心のアリスに会えないのに、役持ちと過ごす時間はきっちり生じるのは何故だ。
どうせなら、アリスが出てきてくれればよかったのに。いや、彼女なら特別な理由がない限り、こんな登場の仕方はしないが。
(こんな“うっかり”をするのはエースくらいだもんなー…)
迷子ついでに敵地に乗り込むなんて、なかなかやるではないか。
要らぬ火種を蒔くのならくれぐれも巻き込んでくれるな。ぶっちゃけた本心はその一点である。
「…ここは帽子屋ファミリーの領土。少なくともエースに友好的な人はいないところだから、早く離れたほうがいい」
〇〇が良心に従ってそう忠告すると、エースは見慣れた笑顔を浮かべながら胡散臭い口調で、
「残念だなー。君は俺に友好的な態度を取ってくれないのか…」
「なに、今のあたしは友好的じゃないって?」
「うん。違うな」
エースは逡巡もなく爽快に断言した。さすがの〇〇もこれにはむっとしてしまう。
愛想がいいとまでは言えないかもしれないが、会話には前向きに付き合っているつもりだ。
友好的ではないと言われても、なにを望まれているのかわからない。
「あ、そ。それならそれでいいや。じゃあ、あたしは行くから…」
騎士に構う暇があるのなら、一刻も早くアリスに会いに行くべきだ。
このままここにいたら、気分が不本意な方向へ転換される気がする。
背を向けて歩き出そうとした〇〇は、意に反して後退した。
「――逃げるんだ…?」
俺から、と囁く声は真後ろに。握り込まれてはいないのに、手首をめぐった手のひらはまるで枷のようだった。