狂う世界の歯車、その渦中で足掻け
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あたしが嘘をついたこと、あった?
その問いは卑怯な手だった。相手が真実を知らなければ、虚偽は成り立たないのだから。
無意味な嘘をつくことはないが、嘘をついたことがないなどとは言えまい。
自分の目的を公言しない〇〇にとって、嘘はこの世界で生きる手段のひとつだ。そうしたほうがいいと思えば、厭わない。
だから同時に、自分が嘘をつかれることがあってもしかたがないと思う。
偽りに踊らされても、騙されても、それより重要な事柄があり、そちらが守られるのなら構わなかった。
〇〇は自身の身に起こった出来事を話した。もちろん、すべてではなく、当たり障りのない範囲をだ。
アリスに対する日頃の態度を白ウサギに咎められた――〇〇が端的に語った“事実”では案の定、ユリウスの疑いを拭い切れなかった。
「それだけではないはずだ。おまえのその身体を見ればわかる」
「確かに今回はちょっと…ね。やり過ぎた感はあると思うけど」
「ちょっとだと?おまえは…奴に殺されることになっても、そんな戯れ言を言うつもりか」
単なる暴力でまとめられた“事実”の真実を、〇〇だけは知っている。
ペーター=ホワイトが殺意を孕む瞳を向けてきたことは多々あった。だが、あの眼は違う。
あんなものは到底受け入れることはできない。一瞬でもそう見えたことすら、打ち消さなければならなかった。
「余所者だからといって、誰もが甘くなるわけではない。…特に白ウサギはな」
〇〇の淹れたコーヒーの香りは、彼の不安定な気持ちにうまく作用したようだ。
ユリウスは別段文句をつけず、高得点は狙えない味であるはずの飲み物を数回に分けて飲み干した。
「わかってる。余所者は余所者でも、あたしはアリスとは違うんだから」
〇〇は独り言のように呟いて、圧倒的にミルクの比率が高いコーヒーに口をつけた。舌が拾い上げた苦みは、思った以上に強い。
「その油断が命取りにならなければいいが。奴はおまえに執着している、それだけは間違いない」
「それは、どういう類い?」
マグカップの中にスプーンで渦を作りながら、〇〇は静かに問うた。
自分の肌で感じたペーターの異常が他人の目にどう見えるのか、知りたかったのかもしれない。
己の手で殺したいと切望するほどの憎しみに映るのなら、変な話、安心して日々を過ごせるような気がした。
しかし、ユリウスは答えに窮したように黙り込んだ。適切な言葉が見つからなかったのか。それとも。
(――……面倒くさい)
〇〇は冷めた息を吐くと、コーヒーを一気に呷った。返答を探すユリウスに「今の質問はなしな」と告げる。
一方的に会話を終わらせ、マグカップを片づけた〇〇は寝支度を整え始めた。
「〇〇、」
「執着だのなんだの、どうでもいい。興味ない。というわけで、あたしは寝る」
コーヒーを飲んだせいで、眠気は覚めてしまったような気がするが。
とにかく、今はなにもかもを放り出して眠りたい。ユリウスは、床に布団を敷く〇〇の腕を掴んで止めた。
「おい。寝るなら私のベッドを使え」
「…なんで?」
「身体が痛むんだろう。そんな薄い敷物では、治るものも悪化する」
煎餅布団というほどではないが、ベッドの柔らかさに敵わないのは事実だ。
〇〇が提案を吟味している間に、ユリウスはさっさと仕事に戻ってしまう。
寝ろ、と無言の圧力のようなものを感じては、好意に甘えるほうがよい選択なのだろう。
それならと梯子を上ってお邪魔したものの、人の寝床を奪ったようで忍びない。ああ、それに。
「ねえ。ユリウスはいないのに、一緒に寝てる気分になるのはなんでだと思う?」
「っ……くだらないことを。早く寝ろ」
「あ、ごめん。仕事の邪魔だったか」
眠れないと言って好意を無下にすることも、仕事の妨害になってしまうのも本意ではない。
もぞもぞと布団に潜りかけた〇〇は、あっと声を上げてもう一度顔を出すと、
「あたし寝相に自信がないから、もしアナタが寝るとき邪魔になってたら、遠慮なく押しのけて」
じゃ、おやすみー。〇〇は掛け布団を胸元まで引き上げると、おとなしく目を瞑った。
あっさり口にしたその言葉は、ともすれば同衾の許しと解釈してしまえるものだった。無防備に眠る女に触れていい、なんて。
しかし〇〇は、同居人が耳を赤く染めて苦悩に頭を抱えたことなど、知りもしないのだ。
その問いは卑怯な手だった。相手が真実を知らなければ、虚偽は成り立たないのだから。
無意味な嘘をつくことはないが、嘘をついたことがないなどとは言えまい。
自分の目的を公言しない〇〇にとって、嘘はこの世界で生きる手段のひとつだ。そうしたほうがいいと思えば、厭わない。
だから同時に、自分が嘘をつかれることがあってもしかたがないと思う。
偽りに踊らされても、騙されても、それより重要な事柄があり、そちらが守られるのなら構わなかった。
〇〇は自身の身に起こった出来事を話した。もちろん、すべてではなく、当たり障りのない範囲をだ。
アリスに対する日頃の態度を白ウサギに咎められた――〇〇が端的に語った“事実”では案の定、ユリウスの疑いを拭い切れなかった。
「それだけではないはずだ。おまえのその身体を見ればわかる」
「確かに今回はちょっと…ね。やり過ぎた感はあると思うけど」
「ちょっとだと?おまえは…奴に殺されることになっても、そんな戯れ言を言うつもりか」
単なる暴力でまとめられた“事実”の真実を、〇〇だけは知っている。
ペーター=ホワイトが殺意を孕む瞳を向けてきたことは多々あった。だが、あの眼は違う。
あんなものは到底受け入れることはできない。一瞬でもそう見えたことすら、打ち消さなければならなかった。
「余所者だからといって、誰もが甘くなるわけではない。…特に白ウサギはな」
〇〇の淹れたコーヒーの香りは、彼の不安定な気持ちにうまく作用したようだ。
ユリウスは別段文句をつけず、高得点は狙えない味であるはずの飲み物を数回に分けて飲み干した。
「わかってる。余所者は余所者でも、あたしはアリスとは違うんだから」
〇〇は独り言のように呟いて、圧倒的にミルクの比率が高いコーヒーに口をつけた。舌が拾い上げた苦みは、思った以上に強い。
「その油断が命取りにならなければいいが。奴はおまえに執着している、それだけは間違いない」
「それは、どういう類い?」
マグカップの中にスプーンで渦を作りながら、〇〇は静かに問うた。
自分の肌で感じたペーターの異常が他人の目にどう見えるのか、知りたかったのかもしれない。
己の手で殺したいと切望するほどの憎しみに映るのなら、変な話、安心して日々を過ごせるような気がした。
しかし、ユリウスは答えに窮したように黙り込んだ。適切な言葉が見つからなかったのか。それとも。
(――……面倒くさい)
〇〇は冷めた息を吐くと、コーヒーを一気に呷った。返答を探すユリウスに「今の質問はなしな」と告げる。
一方的に会話を終わらせ、マグカップを片づけた〇〇は寝支度を整え始めた。
「〇〇、」
「執着だのなんだの、どうでもいい。興味ない。というわけで、あたしは寝る」
コーヒーを飲んだせいで、眠気は覚めてしまったような気がするが。
とにかく、今はなにもかもを放り出して眠りたい。ユリウスは、床に布団を敷く〇〇の腕を掴んで止めた。
「おい。寝るなら私のベッドを使え」
「…なんで?」
「身体が痛むんだろう。そんな薄い敷物では、治るものも悪化する」
煎餅布団というほどではないが、ベッドの柔らかさに敵わないのは事実だ。
〇〇が提案を吟味している間に、ユリウスはさっさと仕事に戻ってしまう。
寝ろ、と無言の圧力のようなものを感じては、好意に甘えるほうがよい選択なのだろう。
それならと梯子を上ってお邪魔したものの、人の寝床を奪ったようで忍びない。ああ、それに。
「ねえ。ユリウスはいないのに、一緒に寝てる気分になるのはなんでだと思う?」
「っ……くだらないことを。早く寝ろ」
「あ、ごめん。仕事の邪魔だったか」
眠れないと言って好意を無下にすることも、仕事の妨害になってしまうのも本意ではない。
もぞもぞと布団に潜りかけた〇〇は、あっと声を上げてもう一度顔を出すと、
「あたし寝相に自信がないから、もしアナタが寝るとき邪魔になってたら、遠慮なく押しのけて」
じゃ、おやすみー。〇〇は掛け布団を胸元まで引き上げると、おとなしく目を瞑った。
あっさり口にしたその言葉は、ともすれば同衾の許しと解釈してしまえるものだった。無防備に眠る女に触れていい、なんて。
しかし〇〇は、同居人が耳を赤く染めて苦悩に頭を抱えたことなど、知りもしないのだ。