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7、必然的に出会います
「いいいざあああやあああああぁぁ――!!」
こういう場面には遭うべくして遭うものなのだろう。
この世界で、しかも平和島静雄の傍にいる限り、いつかは見ることになると思っていた。
平生の彼はどちらかといえば大人しく、それこそどこにでもいるような普通の青年だ。
●●といるときの静雄は、 そちらの静雄だった。
沸点の低い静雄だが、殊、あの男のことになると著しい。
挑発するように姿を見せた男の名を叫んだ静雄は、ものすごい勢いで走って行ってしまった。
途中、引きちぎるように道端の標識を毟り取ったのを●●は見た。
「静さん……行っちゃったな」
ぽつんと呟いた●●は、ふうと溜め息をついた。置いていかれて、少し寂しくなる。
此処へ来るのは静雄に会うことが目的であり、それ以外にないとも言える。
(あの調子なら、しばらく帰ってこないのかなー)
黙って帰るのもどうかと思うが、かといっていつまでもここで突っ立っているわけにもいかない。
●●は場所を移動しようと、ひとまず歩き出した。
池袋は人が多い。皆が思い思いに、なにかを目指して足を進めている。
雑踏の中を歩きながら、●●は自分が目指すべき場所を想い描いた。
そして、夕食の献立を考える。向こうへの“帰宅”時間を考えると、今晩は一緒に食べられないだろう。
「はあ…残念」
「――なにが、残念なの?」
耳元で思いがけず問われ、次の瞬間には●●は通りから外れた路地に連れ込まれていた。
●●の目の前には、フード付きの黒いコートを着た、黒髪の眉目秀麗な青年がいた。
見覚えがある、どころではない。なぜ彼がここにいるのだろう。
つい先ほど静雄があとを追って走っていった方向は、確か真逆だったはずなのだが。
そしてなにより、どうして自分があの折原臨也に声をかけられているのか、まったくわからなかった。
●●の疑問をよそに、臨也はにこにこと笑って自己紹介をした。
「やあ、初めまして。といっても、本当は一度会ってるんだけど…覚えてる?」
覚えていた。始まりの日、●●を静雄が放った自動販売機の盾代わりにした男だ。
もっとも、それが「関わってはいけない人間」だったと気がついたのは、後々のことだったのだが。
「俺は折原臨也。というのはすでに知ってるのかな、〇〇ちゃん?」
「なんでわたしの名前を…」
「俺が知らないはずないじゃないか。なんといっても君は、あのシズちゃんのウィークポイントみたいだからねえ」
ウィークポイント。弱点。弱み。…わたしが、静さんの?
そう言われて、言葉の意味を理解した●●は警戒よりも純粋な驚きを覚えた。
だが、一方で納得する。静雄が友人と呼べる人間は少なく、だからこそ誰より友人を大切にする人だから。
「わたしが仮にそうだとしたら、どうするつもりなんですか?」
“折原臨也”を前にして、●●は意外にも冷静でいられた。ただ、できれば関わりたくないなあとは思う。
平和島静雄と折原臨也。犬猿の仲。
主に臨也からちょっかいをかけているようだし、その臨也が静雄の傍にいる●●に接触するということは。
(静さんに迷惑をかけちゃうかもしれない)
それはいけない。この男を相手に逃げ切れる自信はまったくないが、いざとなれば“ドア”を使おう。
じっと出方を窺う●●に、臨也は何故か嬉しそうだった。
楽しげに瞳を歪ませて、じっくりと●●を隈なく眺め回す。観察されている、と感じた。
「シズちゃんは君のどこを気に入ったんだろう?やっぱりその体?」
●●の質問には答えず、臨也は一歩距離を縮めた。
「それ、いったい何で出来てるの?見た目は平々凡々としたごく普通の女の子なのに、君って本当に人間?ああ今普通って言葉を使ったけど、ちゃんとした“普通”の人間なら〇〇ちゃんはすでに死んでるはずだよね。頭叩き割られるわ、車に轢かれるわ…。で、君、なんで生きてるの?」
「え……」
●●は呆気に取られてぽかんと口を開いた。
生きている理由を問われたわけだが、それ以前に、どうして彼が最近●●の身の回りに起こった出来事を知っているのか。
――いや、本当はなんとなく気づいていたのかもしれない。
●●がこの世界で交流しているのは、静雄ただひとり。
恨みを買う機会もない●●を狙う人間がいるとすれば、その静雄をどうにかしたいと考えている人物――折原臨也。
彼以外に考えられない、と。
彼が明確な悪意をもって接してくるのなら、対処のしようもあっただろう。
人間にも動物としての本能が残っている。こうしている間に衝動的に逃げ出していたはずだ。
しかし、臨也に●●を害そうという気は見られなかった。
「わたしは……人間です、一応」
結果、曖昧な笑みを浮かべて●●はそう口を開いていた。
一応、にはこの世界の人間ではないという意味を暗に込めていた。
●●の返答に、臨也は笑い声を立てた。爽やかさと悪寒を伴うような音が耳に響く。
「面白い!面白いよ〇〇ちゃん!君みたいなのが人間だっていうのなら、俺は俺の中の“人間”の定義を考え直さなくちゃいけないなあ」
「はあ…そうですか」
「そうさ。君が人間だっていうのなら……実に、興味深いよ」
すっと顔から笑顔を消した臨也は、しかし口元にだけその形を残して鋭い眼差しを●●に向けた。
「まったく傷つかない鋼鉄並みの肉体。人の記憶に留まらない異常なほどの存在感の薄さ。まあ、この世にはたとえばデュラハンという妖精が現に存在しているくらいだから、君みたいな人間がいても悪くない。俺は人間を愛してるから、君が本当に人間なら、ちゃんと愛してあげられるよ?ただ――」
そこで一気に間隔を詰めた臨也は、●●を建物の壁に押さえつけた。
「気に食わないのは、いくら乱暴に扱っても壊れないこの身体が、まるであいつのために創られたみたいだってこと…かな」
臨也はぎゅうと●●の二の腕を握りしめ、ああと感嘆の声を漏らす。
「柔らかいねえ。抱きしめたらすごく気持ちよさそうだ」
「あ、あの」
「いやあ、人を雇うのも一苦労だったよ。誰も彼も一日と君に関する記憶が持たないんだから、何度雇い直したことか」
やれやれと肩を竦めてみせる臨也に、うっかり労をねぎらいそうになった。
口振りから、臨也が直接手を下したことはないと窺える。それでも言わば、首謀者とその被害者の関係だ。
ここにきて、臨也が姿を現し直に接触してきたのは、なにが目的なのか。
なにひとつ見逃すまいと具に観察を続ける男は、●●から一度も目を逸らすことなく声音をいっそう軽やかなものに変えた。
「でも、他人を使うのはもう止めだ。これからは、俺が俺自身で君を知っていくことにする」
「えっ」
にこやかな臨也の宣言に、●●は思わず目の前の端整な顔を見つめた。
それは果たして喜ぶべき変更なのか。
無闇に襲われることがなくなる分にはありがたいが、折原臨也が自ら出向くとなると、今までよりも弊害が増すような。
嫌な予感に冷や汗を浮かべる●●。
臨也自身には特に畏怖を感じない。 案ずるのは、これから起こるであろう諸々への胸騒ぎ。
こうなってしまっては、●●に折原臨也を止められるはずがない。
目をつけられたのが、運の尽き。
「さて。〇〇ちゃんとお近づきになれたことだし、今日のところは引き上げるとするかぁ」
ぱっと手を離した臨也は、「ああ、そうだ」と思い出したように上着のポケットから封筒を取り出した。
はいこれ、とポンと差し出され、流れで受け取ってしまう。
「って…なんですか、これ?」
「ほんのお詫びってとこかな」
封を開けて中を覗いた●●は目を瞠った。数名の福沢諭吉が鎮座していたのだ。
はっと思い当たったのは、いつかの独り言だった。
主旨としては、台無しになった衣服や食料を弁償してほしい、というものだったのだが。
つまりこれで臨也は、今までの襲撃が自らの指示によるものだったとはっきり認めたことになる。
(ううん、そんなのはいいの。そんなことより、この人はわたしをどこまで知ってるの?)
――もしくは、どこまで“見られていた”のか、だ。
気がつけば、臨也は●●に背を向けて歩き出していた。
●●は手の中の大金を受け取るべきでないと判断したが、口をついて出たのは別の言葉だった。
「あの!……ほどほどに、お願いしますね」
足を止め、肩越しに振り向いた臨也は口の端を吊り上げた。「うん、無理」
あっさり断られた●●は、去る男を引き止めることができず。
封筒を両手で持ったまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。
ごめんなさい、静さん。どうやら、これから厄介なことが起こるようです。
「いいいざあああやあああああぁぁ――!!」
こういう場面には遭うべくして遭うものなのだろう。
この世界で、しかも平和島静雄の傍にいる限り、いつかは見ることになると思っていた。
平生の彼はどちらかといえば大人しく、それこそどこにでもいるような普通の青年だ。
●●といるときの静雄は、 そちらの静雄だった。
沸点の低い静雄だが、殊、あの男のことになると著しい。
挑発するように姿を見せた男の名を叫んだ静雄は、ものすごい勢いで走って行ってしまった。
途中、引きちぎるように道端の標識を毟り取ったのを●●は見た。
「静さん……行っちゃったな」
ぽつんと呟いた●●は、ふうと溜め息をついた。置いていかれて、少し寂しくなる。
此処へ来るのは静雄に会うことが目的であり、それ以外にないとも言える。
(あの調子なら、しばらく帰ってこないのかなー)
黙って帰るのもどうかと思うが、かといっていつまでもここで突っ立っているわけにもいかない。
●●は場所を移動しようと、ひとまず歩き出した。
池袋は人が多い。皆が思い思いに、なにかを目指して足を進めている。
雑踏の中を歩きながら、●●は自分が目指すべき場所を想い描いた。
そして、夕食の献立を考える。向こうへの“帰宅”時間を考えると、今晩は一緒に食べられないだろう。
「はあ…残念」
「――なにが、残念なの?」
耳元で思いがけず問われ、次の瞬間には●●は通りから外れた路地に連れ込まれていた。
●●の目の前には、フード付きの黒いコートを着た、黒髪の眉目秀麗な青年がいた。
見覚えがある、どころではない。なぜ彼がここにいるのだろう。
つい先ほど静雄があとを追って走っていった方向は、確か真逆だったはずなのだが。
そしてなにより、どうして自分があの折原臨也に声をかけられているのか、まったくわからなかった。
●●の疑問をよそに、臨也はにこにこと笑って自己紹介をした。
「やあ、初めまして。といっても、本当は一度会ってるんだけど…覚えてる?」
覚えていた。始まりの日、●●を静雄が放った自動販売機の盾代わりにした男だ。
もっとも、それが「関わってはいけない人間」だったと気がついたのは、後々のことだったのだが。
「俺は折原臨也。というのはすでに知ってるのかな、〇〇ちゃん?」
「なんでわたしの名前を…」
「俺が知らないはずないじゃないか。なんといっても君は、あのシズちゃんのウィークポイントみたいだからねえ」
ウィークポイント。弱点。弱み。…わたしが、静さんの?
そう言われて、言葉の意味を理解した●●は警戒よりも純粋な驚きを覚えた。
だが、一方で納得する。静雄が友人と呼べる人間は少なく、だからこそ誰より友人を大切にする人だから。
「わたしが仮にそうだとしたら、どうするつもりなんですか?」
“折原臨也”を前にして、●●は意外にも冷静でいられた。ただ、できれば関わりたくないなあとは思う。
平和島静雄と折原臨也。犬猿の仲。
主に臨也からちょっかいをかけているようだし、その臨也が静雄の傍にいる●●に接触するということは。
(静さんに迷惑をかけちゃうかもしれない)
それはいけない。この男を相手に逃げ切れる自信はまったくないが、いざとなれば“ドア”を使おう。
じっと出方を窺う●●に、臨也は何故か嬉しそうだった。
楽しげに瞳を歪ませて、じっくりと●●を隈なく眺め回す。観察されている、と感じた。
「シズちゃんは君のどこを気に入ったんだろう?やっぱりその体?」
●●の質問には答えず、臨也は一歩距離を縮めた。
「それ、いったい何で出来てるの?見た目は平々凡々としたごく普通の女の子なのに、君って本当に人間?ああ今普通って言葉を使ったけど、ちゃんとした“普通”の人間なら〇〇ちゃんはすでに死んでるはずだよね。頭叩き割られるわ、車に轢かれるわ…。で、君、なんで生きてるの?」
「え……」
●●は呆気に取られてぽかんと口を開いた。
生きている理由を問われたわけだが、それ以前に、どうして彼が最近●●の身の回りに起こった出来事を知っているのか。
――いや、本当はなんとなく気づいていたのかもしれない。
●●がこの世界で交流しているのは、静雄ただひとり。
恨みを買う機会もない●●を狙う人間がいるとすれば、その静雄をどうにかしたいと考えている人物――折原臨也。
彼以外に考えられない、と。
彼が明確な悪意をもって接してくるのなら、対処のしようもあっただろう。
人間にも動物としての本能が残っている。こうしている間に衝動的に逃げ出していたはずだ。
しかし、臨也に●●を害そうという気は見られなかった。
「わたしは……人間です、一応」
結果、曖昧な笑みを浮かべて●●はそう口を開いていた。
一応、にはこの世界の人間ではないという意味を暗に込めていた。
●●の返答に、臨也は笑い声を立てた。爽やかさと悪寒を伴うような音が耳に響く。
「面白い!面白いよ〇〇ちゃん!君みたいなのが人間だっていうのなら、俺は俺の中の“人間”の定義を考え直さなくちゃいけないなあ」
「はあ…そうですか」
「そうさ。君が人間だっていうのなら……実に、興味深いよ」
すっと顔から笑顔を消した臨也は、しかし口元にだけその形を残して鋭い眼差しを●●に向けた。
「まったく傷つかない鋼鉄並みの肉体。人の記憶に留まらない異常なほどの存在感の薄さ。まあ、この世にはたとえばデュラハンという妖精が現に存在しているくらいだから、君みたいな人間がいても悪くない。俺は人間を愛してるから、君が本当に人間なら、ちゃんと愛してあげられるよ?ただ――」
そこで一気に間隔を詰めた臨也は、●●を建物の壁に押さえつけた。
「気に食わないのは、いくら乱暴に扱っても壊れないこの身体が、まるであいつのために創られたみたいだってこと…かな」
臨也はぎゅうと●●の二の腕を握りしめ、ああと感嘆の声を漏らす。
「柔らかいねえ。抱きしめたらすごく気持ちよさそうだ」
「あ、あの」
「いやあ、人を雇うのも一苦労だったよ。誰も彼も一日と君に関する記憶が持たないんだから、何度雇い直したことか」
やれやれと肩を竦めてみせる臨也に、うっかり労をねぎらいそうになった。
口振りから、臨也が直接手を下したことはないと窺える。それでも言わば、首謀者とその被害者の関係だ。
ここにきて、臨也が姿を現し直に接触してきたのは、なにが目的なのか。
なにひとつ見逃すまいと具に観察を続ける男は、●●から一度も目を逸らすことなく声音をいっそう軽やかなものに変えた。
「でも、他人を使うのはもう止めだ。これからは、俺が俺自身で君を知っていくことにする」
「えっ」
にこやかな臨也の宣言に、●●は思わず目の前の端整な顔を見つめた。
それは果たして喜ぶべき変更なのか。
無闇に襲われることがなくなる分にはありがたいが、折原臨也が自ら出向くとなると、今までよりも弊害が増すような。
嫌な予感に冷や汗を浮かべる●●。
臨也自身には特に畏怖を感じない。 案ずるのは、これから起こるであろう諸々への胸騒ぎ。
こうなってしまっては、●●に折原臨也を止められるはずがない。
目をつけられたのが、運の尽き。
「さて。〇〇ちゃんとお近づきになれたことだし、今日のところは引き上げるとするかぁ」
ぱっと手を離した臨也は、「ああ、そうだ」と思い出したように上着のポケットから封筒を取り出した。
はいこれ、とポンと差し出され、流れで受け取ってしまう。
「って…なんですか、これ?」
「ほんのお詫びってとこかな」
封を開けて中を覗いた●●は目を瞠った。数名の福沢諭吉が鎮座していたのだ。
はっと思い当たったのは、いつかの独り言だった。
主旨としては、台無しになった衣服や食料を弁償してほしい、というものだったのだが。
つまりこれで臨也は、今までの襲撃が自らの指示によるものだったとはっきり認めたことになる。
(ううん、そんなのはいいの。そんなことより、この人はわたしをどこまで知ってるの?)
――もしくは、どこまで“見られていた”のか、だ。
気がつけば、臨也は●●に背を向けて歩き出していた。
●●は手の中の大金を受け取るべきでないと判断したが、口をついて出たのは別の言葉だった。
「あの!……ほどほどに、お願いしますね」
足を止め、肩越しに振り向いた臨也は口の端を吊り上げた。「うん、無理」
あっさり断られた●●は、去る男を引き止めることができず。
封筒を両手で持ったまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。
ごめんなさい、静さん。どうやら、これから厄介なことが起こるようです。