交差
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6、誰かに狙われているようです
「――最近、」
「はい?」
「なんか変わったこと、ないか?」
「変わったことですか?」
「あ、いや……なけりゃいいんだけどよ」
訊いてきた静雄のほうから話を打ち切ったため、●●がその問いに答えることはなかった。
静雄がなにを思って尋ねたのかはわからない。が、実は●●には思い当たる節があった。
とはいえ、それを彼に言うつもりはなかったのだが。
ここのところ、●●は身の危険を感じていた。貞操云々ではなく、そのとおり命の危険である。
人間、一生に一度や二度、事件や事故に巻き込まれることがあっても不思議ではない。
命さえ無事なら、不運だったのだと最終的には折り合いをつけられると思う。
しかし、こう立て続けにその“不運”に見舞われては、さすがの●●も怪しむほかなかった。
●●がこちらの世界に来るのは、少なくとも週に一度。多くて週の半分の日数くらいだ。
そこを狙ったように、所謂“襲撃”を受けている。
たとえば、道を歩いているとき。アパートの三階から植木鉢が降ってきた。
たとえば、 歩道で信号待ちをしているとき。何者かに車道に突き飛ばされた。
いずれも一見事故で片づくような出来事でありながら、運が悪ければ死に至るものばかりだ。
しかし、明らかな悪意を――故意なら善意であるはずがない――感じながら、●●は差し迫った危機ではないと考えていた。
もちろん、すべてを偶然で済ませてしまえるほど鈍感ではない。
だが、頭に植木鉢を落とされようと、危うく車に轢き殺されそうになろうと、●●は傷ひとつ負わずに助かっているのだ。
――そう、こうやって実際、車に撥ねられようとも。
「いったー……く、ないんだよね、これが」
自分を撥ねた車があっという間に走り去るのを、●●は地面に仰向けになった状態で見送った。
綺麗に轢かれた。撥ねられた。宙に舞う感覚は、ジェットコースターに似ている。
むくりと上体を起こした●●は、ここが人通りのない道でよかったと安堵した。
あれだけ見事に轢かれておきながら…というのも変だが、掠り傷すらつかないこの身体を誰かに見られるのはちょっと厄介である。
下手に救急車を呼ばれても困る。身体が丈夫なんですよー、と説明してもきっと納得してもらえない。
衝撃はもろに食らうが、肉体的ダメージは皆無だ。
立ち上がると、ぱんぱんと服の埃を払う。が、見下ろしたそれに少し哀しくなった。
「あーあ…。服が台無しじゃない、もう」
そう。●●自身は傷つかないが、身に着ける衣服は無傷では済まなかった。
轢かれた弾みでアスファルトを転がったために、服は修繕不可能な姿になっていた。
これで何着目だろう、と溜め息が出た。…あ、車のナンバー、控えとけばよかった。
遠くに飛ばされた買い物袋の中も、残念なことになっているに違いない。
いったん家に戻って出直すしかないだろう。
(これってやっぱり、誰かに狙われてるよね?わたし、この世界で命を狙われるようなこと、してないんだけどなあ…)
追記。もちろん元の世界でも、人に恨みを抱かれるようなことはしていない。
なんにせよ、この世界において●●の肉体は頑丈になっていた。
始まりの日、静雄の自動販売機を受けたことに端を発しているような気もする。
怪力になったというわけではなく、ありえないくらいに“丈夫”になったのだ。
それによって不都合があるということもなく、むしろ喜ばしいことであると●●は思う。
(わたしは、静さんのために此処に来たんだから)
静雄の傍にいるには、これくらいがちょうどいいのだ。…ちょこっと、人間離れしているけれども。
なにせ世界を渡れるくらいだ、この程度の変化で頭を悩ます必要はない。
しかし、この“不運”の多発は嫌でも気になった。いったい誰がなんの目的で、仕掛けてくるのか。
その誰かさんは、執拗に●●に危害を加えようとしているように思える。客観的には。
ところが当の●●には、傷を負わせること、ましてや命を奪うことが目的ではないのではないかと感じられた。
(うん、なんていうか……試されてる?)
ケージで飼うマウスを相手に、さまざまな実験を行う、あれみたいな?
もしかしたらどこかの研究員が、わたしの異常な頑丈さを偶然目撃して、その強度を測ろうとしているのかも。
「…なーんて、ね。だとしたら、駄目になった洋服代と食料費くらい、払ってほしいなー」
独り言を呟き、ぐちゃっとなった買い物袋を拾い上げる。
一度戻って服を着替えて、新しく食料を買ってこよう。そう決めた●●は辺りを見渡した。
あっちのほうだと見当をつけて歩くこと間もなく、運よく人に出会う前に“ドア”を見つけることができた。
なにかの店の裏口らしい。そこに、世界を繋ぐ扉が重なっていた。
●●は、出直す時間分だけ静雄と過ごす時間が減ることに嘆息して、ドアノブを回したのだった。
「――最近、」
「はい?」
「なんか変わったこと、ないか?」
「変わったことですか?」
「あ、いや……なけりゃいいんだけどよ」
訊いてきた静雄のほうから話を打ち切ったため、●●がその問いに答えることはなかった。
静雄がなにを思って尋ねたのかはわからない。が、実は●●には思い当たる節があった。
とはいえ、それを彼に言うつもりはなかったのだが。
ここのところ、●●は身の危険を感じていた。貞操云々ではなく、そのとおり命の危険である。
人間、一生に一度や二度、事件や事故に巻き込まれることがあっても不思議ではない。
命さえ無事なら、不運だったのだと最終的には折り合いをつけられると思う。
しかし、こう立て続けにその“不運”に見舞われては、さすがの●●も怪しむほかなかった。
●●がこちらの世界に来るのは、少なくとも週に一度。多くて週の半分の日数くらいだ。
そこを狙ったように、所謂“襲撃”を受けている。
たとえば、道を歩いているとき。アパートの三階から植木鉢が降ってきた。
たとえば、 歩道で信号待ちをしているとき。何者かに車道に突き飛ばされた。
いずれも一見事故で片づくような出来事でありながら、運が悪ければ死に至るものばかりだ。
しかし、明らかな悪意を――故意なら善意であるはずがない――感じながら、●●は差し迫った危機ではないと考えていた。
もちろん、すべてを偶然で済ませてしまえるほど鈍感ではない。
だが、頭に植木鉢を落とされようと、危うく車に轢き殺されそうになろうと、●●は傷ひとつ負わずに助かっているのだ。
――そう、こうやって実際、車に撥ねられようとも。
「いったー……く、ないんだよね、これが」
自分を撥ねた車があっという間に走り去るのを、●●は地面に仰向けになった状態で見送った。
綺麗に轢かれた。撥ねられた。宙に舞う感覚は、ジェットコースターに似ている。
むくりと上体を起こした●●は、ここが人通りのない道でよかったと安堵した。
あれだけ見事に轢かれておきながら…というのも変だが、掠り傷すらつかないこの身体を誰かに見られるのはちょっと厄介である。
下手に救急車を呼ばれても困る。身体が丈夫なんですよー、と説明してもきっと納得してもらえない。
衝撃はもろに食らうが、肉体的ダメージは皆無だ。
立ち上がると、ぱんぱんと服の埃を払う。が、見下ろしたそれに少し哀しくなった。
「あーあ…。服が台無しじゃない、もう」
そう。●●自身は傷つかないが、身に着ける衣服は無傷では済まなかった。
轢かれた弾みでアスファルトを転がったために、服は修繕不可能な姿になっていた。
これで何着目だろう、と溜め息が出た。…あ、車のナンバー、控えとけばよかった。
遠くに飛ばされた買い物袋の中も、残念なことになっているに違いない。
いったん家に戻って出直すしかないだろう。
(これってやっぱり、誰かに狙われてるよね?わたし、この世界で命を狙われるようなこと、してないんだけどなあ…)
追記。もちろん元の世界でも、人に恨みを抱かれるようなことはしていない。
なんにせよ、この世界において●●の肉体は頑丈になっていた。
始まりの日、静雄の自動販売機を受けたことに端を発しているような気もする。
怪力になったというわけではなく、ありえないくらいに“丈夫”になったのだ。
それによって不都合があるということもなく、むしろ喜ばしいことであると●●は思う。
(わたしは、静さんのために此処に来たんだから)
静雄の傍にいるには、これくらいがちょうどいいのだ。…ちょこっと、人間離れしているけれども。
なにせ世界を渡れるくらいだ、この程度の変化で頭を悩ます必要はない。
しかし、この“不運”の多発は嫌でも気になった。いったい誰がなんの目的で、仕掛けてくるのか。
その誰かさんは、執拗に●●に危害を加えようとしているように思える。客観的には。
ところが当の●●には、傷を負わせること、ましてや命を奪うことが目的ではないのではないかと感じられた。
(うん、なんていうか……試されてる?)
ケージで飼うマウスを相手に、さまざまな実験を行う、あれみたいな?
もしかしたらどこかの研究員が、わたしの異常な頑丈さを偶然目撃して、その強度を測ろうとしているのかも。
「…なーんて、ね。だとしたら、駄目になった洋服代と食料費くらい、払ってほしいなー」
独り言を呟き、ぐちゃっとなった買い物袋を拾い上げる。
一度戻って服を着替えて、新しく食料を買ってこよう。そう決めた●●は辺りを見渡した。
あっちのほうだと見当をつけて歩くこと間もなく、運よく人に出会う前に“ドア”を見つけることができた。
なにかの店の裏口らしい。そこに、世界を繋ぐ扉が重なっていた。
●●は、出直す時間分だけ静雄と過ごす時間が減ることに嘆息して、ドアノブを回したのだった。