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5、折原臨也の関心事
あの平和島静雄が、女を連れて歩いている。
いつ噂になってもおかしくないような光景を偶然見かけてから、数ヶ月が経とうとしていた。
折原臨也は並々ならぬ関心を抱くと同時に、付随する苛立ちを甘んじて受け入れていた。
おかしい。明らかに尋常でない。
為す術がない、はずがない。だというのに、これはいったいどういうわけか。
「おかしいよ。あの子……いったい何者なんだ?」
一切の情報が掴めない。唯一わかるのは、静雄が呼ぶその名前だけだ。
時間も金もかけて探っているのに、さっぱり手応えがないのである。裏ならいざ知らず(そちらこそ臨也の領分だが)、表の情報さえ掴めないとは。
仮に一般人でないとしても、これはあまりにも異常だった。
さらに、現実では考えられないような事態も起こっている。
臨也がその女を静雄の隣に見たその日、新宿に帰ってから早速、女のことを調べようとした。
しかし、彼はそこではたと気がつく。――女の風貌を、思い出せない。
女、という性別だけが残り、髪色も体型も服装も、おぼろげな印象さえ消え失せていた。
そして翌日、臨也の中から“女”は完全に姿を消した。
次の週、再び女を目撃する。しかし、臨也には二度目という感覚がないも同然だった。
ただ、違和感を覚えて、静雄の隣で笑う女をじっと見つめた。
静雄も名前に似合いの穏やかな顔を見せており、目に入れた瞬間、臨也は即座に吐き気を催した。…なんなのその顔。気持ち悪いよ、シズちゃん。
帰宅後、臨也は静雄にあんな顔をさせた女の正体を知ろうとする。
が、思い出せない。静雄の表情だけがくっきりと記憶に刻まれ、女に関する記憶は霞んでいた。
自分で自分を制御できない、まるで他者に脳を弄られているかのような出来事に、半ば意地になったのかもしれない。
そんなことを三度、四度…と幾度となく繰り返すうち、臨也はようやく“女”を頭に留められるようになった。
最初は、翌日になると意味が解らず捨てていた隠し撮り写真も、メモと共に残すことで保持することに成功した。
臨也は、写真の中の女を見ては、記憶を想起するよう努めた。
女はいつも静雄といた。というより、静雄以外といるところを見たことがない。
女の正体は依然として不明であり、だからこそいっそう静雄との接点が気になった。
あの二人はいつからこうで、いったいどのような間柄なのか。
――静雄に対してなんらかのダメージを与えるのに、女はいい材料になるかもしれない。
それがこの探求の始まりだったが、臨也はいつの間にか女そのものにも関心を向けるようになっていた。
ある日、ついに臨也は唐突に思い出した。
(――そうか、あのときか…!)
スケープゴート。静雄がぶん投げた自販機の直撃を食らった、女。臨也が突き飛ばした、あのときの女だ。
どうして今まで思い出さなかったのか、不思議を通り越して不気味なくらいだった。
今なら思い出せる。よみがえる記憶。
高速で飛ぶ自販機を生身に受け、それでも軽症さえ負わなかった。
何事もなかったかのように立ち上がり、そして(おそらく初対面で)“自動喧嘩人形”に臆することなく抱きついた。
インパクトなら十分にあった。遠目で様子を窺っていた自分も驚いたのだ――と、現在の臨也は思い出した。
臨也は人間が好きだ。だから、知りたいと思う。
知り尽くすことが果たして可能なのかどうか興味があった。あの正体不明の女に関して。
「君は俺の大好きな人間?それとも、化け物なのかなあ」
折原臨也はくるりと椅子を回した。手にした一枚の写真を、頭上に掲げて。
その中では、平凡な顔立ちをした黒髪の女が、なにも知らずに笑っていた。
あの平和島静雄が、女を連れて歩いている。
いつ噂になってもおかしくないような光景を偶然見かけてから、数ヶ月が経とうとしていた。
折原臨也は並々ならぬ関心を抱くと同時に、付随する苛立ちを甘んじて受け入れていた。
おかしい。明らかに尋常でない。
為す術がない、はずがない。だというのに、これはいったいどういうわけか。
「おかしいよ。あの子……いったい何者なんだ?」
一切の情報が掴めない。唯一わかるのは、静雄が呼ぶその名前だけだ。
時間も金もかけて探っているのに、さっぱり手応えがないのである。裏ならいざ知らず(そちらこそ臨也の領分だが)、表の情報さえ掴めないとは。
仮に一般人でないとしても、これはあまりにも異常だった。
さらに、現実では考えられないような事態も起こっている。
臨也がその女を静雄の隣に見たその日、新宿に帰ってから早速、女のことを調べようとした。
しかし、彼はそこではたと気がつく。――女の風貌を、思い出せない。
女、という性別だけが残り、髪色も体型も服装も、おぼろげな印象さえ消え失せていた。
そして翌日、臨也の中から“女”は完全に姿を消した。
次の週、再び女を目撃する。しかし、臨也には二度目という感覚がないも同然だった。
ただ、違和感を覚えて、静雄の隣で笑う女をじっと見つめた。
静雄も名前に似合いの穏やかな顔を見せており、目に入れた瞬間、臨也は即座に吐き気を催した。…なんなのその顔。気持ち悪いよ、シズちゃん。
帰宅後、臨也は静雄にあんな顔をさせた女の正体を知ろうとする。
が、思い出せない。静雄の表情だけがくっきりと記憶に刻まれ、女に関する記憶は霞んでいた。
自分で自分を制御できない、まるで他者に脳を弄られているかのような出来事に、半ば意地になったのかもしれない。
そんなことを三度、四度…と幾度となく繰り返すうち、臨也はようやく“女”を頭に留められるようになった。
最初は、翌日になると意味が解らず捨てていた隠し撮り写真も、メモと共に残すことで保持することに成功した。
臨也は、写真の中の女を見ては、記憶を想起するよう努めた。
女はいつも静雄といた。というより、静雄以外といるところを見たことがない。
女の正体は依然として不明であり、だからこそいっそう静雄との接点が気になった。
あの二人はいつからこうで、いったいどのような間柄なのか。
――静雄に対してなんらかのダメージを与えるのに、女はいい材料になるかもしれない。
それがこの探求の始まりだったが、臨也はいつの間にか女そのものにも関心を向けるようになっていた。
ある日、ついに臨也は唐突に思い出した。
(――そうか、あのときか…!)
スケープゴート。静雄がぶん投げた自販機の直撃を食らった、女。臨也が突き飛ばした、あのときの女だ。
どうして今まで思い出さなかったのか、不思議を通り越して不気味なくらいだった。
今なら思い出せる。よみがえる記憶。
高速で飛ぶ自販機を生身に受け、それでも軽症さえ負わなかった。
何事もなかったかのように立ち上がり、そして(おそらく初対面で)“自動喧嘩人形”に臆することなく抱きついた。
インパクトなら十分にあった。遠目で様子を窺っていた自分も驚いたのだ――と、現在の臨也は思い出した。
臨也は人間が好きだ。だから、知りたいと思う。
知り尽くすことが果たして可能なのかどうか興味があった。あの正体不明の女に関して。
「君は俺の大好きな人間?それとも、化け物なのかなあ」
折原臨也はくるりと椅子を回した。手にした一枚の写真を、頭上に掲げて。
その中では、平凡な顔立ちをした黒髪の女が、なにも知らずに笑っていた。