交差
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「なぁ、なんで俺ら逃げてんだ…?」
「…す、すみません。咄嗟のことで…」
悪いことをしたわけではないが、人目から逃れるように走って行き着いた先。
視線を地面に落として肩で息をしていた●●は、深呼吸をするために顔を上げて、そこが公園であることを知った。
●●に引っ張られていた静雄は平気な顔をしている。これが体力の差か。
「大丈夫かよ」
「うん…頑張って走ったのも、無駄じゃなかったみたい、です」
つくづく公園に縁があるようだ。大きく息を吸って呼吸を落ち着けながら、●●は鮮明な記憶を思い出していた。
「――…公園。だな」
「…ですね」
きっと同じことを思い出している、そんな静雄の手を引いて●●はゆっくりと歩き出す。
何人かが公園を通り抜けるが留まる人間はいないようだ。
これなら問題ないだろうと、中ほどまで進んだ足を止めた。静雄も隣に並んだ。
「静さん。今から起こること、驚かないで見ていてくださいね」
「つまり、俺が驚くようなことが起こるんだな?」
「…はい。でも、できれば静かに驚いてください。人目を集めると、もしかしたら大事になるかもしれないので…」
「わかった。努力する」
頷いた静雄に笑いかけた顔は引き攣っていなかっただろうか。大丈夫、やることは簡単だ。
●●は改めて覚悟を確かなものにすると、目の前にある白いドアに手を伸ばした。
この向こう側に異なる世界、自分の生まれた世界が繋がっているはずだ。
どのくらい帰っていないことになっているのだろう。考えると怖くなるが、とりあえずこの不安は後回しにして。
●●の左手がドアノブに触れ、回す。引いて開いた先には、果たして懐かしい光景が広がっていた。
――ああ、帰ってきた。知った匂いがする。ちゃんと、自分の家に帰れるのだ。
俄かに夢見心地になる。顔を綻ばせて、吸い寄せられるように我が家に足を踏み入れようとした、が、
「●●っ!!」
叫ぶように名前を呼ばれて我に返った。いけない、今は帰るときじゃなかった。
力の緩んだ●●の右手を、白く色が変わるほど静雄が強く握っている。
彼の力を受け入れられる体質でなければ骨が砕けていたかもしれない、それくらいの必死さで。
「あ、ごめんなさい。大丈夫ですよ」
「大丈夫なんかじゃねぇだろ!?お前っ、からだが……っ!」
堪えきれなくなったように静雄は体当たりの勢いで抱きしめてきた。取り返すように、引き戻そうとする。
どこか子供じみた拙い抱擁が高校生の頃を彷彿とさせて、●●は慰めるように背の高い彼を抱き返した。
「わたしの身体、どうなってました?」
「……幽霊みてぇに、透けてた。あのときと同じだ……」
僅かに震える呼気を感じた。ああ、また不安にさせてしまったと●●は自身の判断ミスを悔いる。
まずは話すことから始めるべきだった。現実味のない話を聞いても、彼は決して馬鹿にしなかっただろうに。
●●の身に起こる現象が静雄を傷つけることになるのだと、どうして考えが及ばなかったのか。
「●●」
「はい」
「●●」
「うん」
「…●●」
「ちゃんといますよ、ここに。もう勝手にいなくなったりしない」
細く名前を呼び続ける静雄にしっかり両腕を回して、●●は何度も応えた。何度だって応えようと思った。
二人は公園内にあるベンチに並んで腰を下ろしていた。
それぞれの片手は指を絡めて結ばれたまま。どこにも行くなと訴え、どこにも行かないと示すように。
静雄は最初自分の脚の間に●●を引き寄せて座らせようとした。後ろからだっこの体勢である。
が、密着度に狼狽える●●を見て、自重というものを思い出したらしい。ぎゅっと手を繋ぐことで妥協した。
実はもう少しで静雄の望むとおりに受け入れるところだった●●は、ほっとしたような、なんだか惜しいことをしたような気分になった。
「…わりぃ。また情けない姿、見せちまった」
「そんなこと…」
「もっとどっしり構えられたらって思う、けど、お前のことになると途端にこんなだ…」
自嘲的に言う静雄に、嬉しい、と感じてしまうのはきっと不謹慎だ。
けれど、誰かにこれほど影響を与えられるという事実は、●●の心を甘く揺さぶった。
そんなふうに大切に思い、求めるほどの価値が彼にとってあるというのなら、自分の存在を丸ごと明け渡してしまいたくなる。
いつの間にか、●●は微笑んでいた。次第に涙の膜が視界を滲ませたが、それでも笑っていた。
気づいた静雄が驚いたように目を開く。●●、とその表情が名前を呼んだから。
「――……静さん。わたし、ここじゃない世界から、静さんに会いに来ました」
囁くようにそっと打ち明けた声の揺らぎは、まるで愛を伝えるようだった。
「…す、すみません。咄嗟のことで…」
悪いことをしたわけではないが、人目から逃れるように走って行き着いた先。
視線を地面に落として肩で息をしていた●●は、深呼吸をするために顔を上げて、そこが公園であることを知った。
●●に引っ張られていた静雄は平気な顔をしている。これが体力の差か。
「大丈夫かよ」
「うん…頑張って走ったのも、無駄じゃなかったみたい、です」
つくづく公園に縁があるようだ。大きく息を吸って呼吸を落ち着けながら、●●は鮮明な記憶を思い出していた。
「――…公園。だな」
「…ですね」
きっと同じことを思い出している、そんな静雄の手を引いて●●はゆっくりと歩き出す。
何人かが公園を通り抜けるが留まる人間はいないようだ。
これなら問題ないだろうと、中ほどまで進んだ足を止めた。静雄も隣に並んだ。
「静さん。今から起こること、驚かないで見ていてくださいね」
「つまり、俺が驚くようなことが起こるんだな?」
「…はい。でも、できれば静かに驚いてください。人目を集めると、もしかしたら大事になるかもしれないので…」
「わかった。努力する」
頷いた静雄に笑いかけた顔は引き攣っていなかっただろうか。大丈夫、やることは簡単だ。
●●は改めて覚悟を確かなものにすると、目の前にある白いドアに手を伸ばした。
この向こう側に異なる世界、自分の生まれた世界が繋がっているはずだ。
どのくらい帰っていないことになっているのだろう。考えると怖くなるが、とりあえずこの不安は後回しにして。
●●の左手がドアノブに触れ、回す。引いて開いた先には、果たして懐かしい光景が広がっていた。
――ああ、帰ってきた。知った匂いがする。ちゃんと、自分の家に帰れるのだ。
俄かに夢見心地になる。顔を綻ばせて、吸い寄せられるように我が家に足を踏み入れようとした、が、
「●●っ!!」
叫ぶように名前を呼ばれて我に返った。いけない、今は帰るときじゃなかった。
力の緩んだ●●の右手を、白く色が変わるほど静雄が強く握っている。
彼の力を受け入れられる体質でなければ骨が砕けていたかもしれない、それくらいの必死さで。
「あ、ごめんなさい。大丈夫ですよ」
「大丈夫なんかじゃねぇだろ!?お前っ、からだが……っ!」
堪えきれなくなったように静雄は体当たりの勢いで抱きしめてきた。取り返すように、引き戻そうとする。
どこか子供じみた拙い抱擁が高校生の頃を彷彿とさせて、●●は慰めるように背の高い彼を抱き返した。
「わたしの身体、どうなってました?」
「……幽霊みてぇに、透けてた。あのときと同じだ……」
僅かに震える呼気を感じた。ああ、また不安にさせてしまったと●●は自身の判断ミスを悔いる。
まずは話すことから始めるべきだった。現実味のない話を聞いても、彼は決して馬鹿にしなかっただろうに。
●●の身に起こる現象が静雄を傷つけることになるのだと、どうして考えが及ばなかったのか。
「●●」
「はい」
「●●」
「うん」
「…●●」
「ちゃんといますよ、ここに。もう勝手にいなくなったりしない」
細く名前を呼び続ける静雄にしっかり両腕を回して、●●は何度も応えた。何度だって応えようと思った。
二人は公園内にあるベンチに並んで腰を下ろしていた。
それぞれの片手は指を絡めて結ばれたまま。どこにも行くなと訴え、どこにも行かないと示すように。
静雄は最初自分の脚の間に●●を引き寄せて座らせようとした。後ろからだっこの体勢である。
が、密着度に狼狽える●●を見て、自重というものを思い出したらしい。ぎゅっと手を繋ぐことで妥協した。
実はもう少しで静雄の望むとおりに受け入れるところだった●●は、ほっとしたような、なんだか惜しいことをしたような気分になった。
「…わりぃ。また情けない姿、見せちまった」
「そんなこと…」
「もっとどっしり構えられたらって思う、けど、お前のことになると途端にこんなだ…」
自嘲的に言う静雄に、嬉しい、と感じてしまうのはきっと不謹慎だ。
けれど、誰かにこれほど影響を与えられるという事実は、●●の心を甘く揺さぶった。
そんなふうに大切に思い、求めるほどの価値が彼にとってあるというのなら、自分の存在を丸ごと明け渡してしまいたくなる。
いつの間にか、●●は微笑んでいた。次第に涙の膜が視界を滲ませたが、それでも笑っていた。
気づいた静雄が驚いたように目を開く。●●、とその表情が名前を呼んだから。
「――……静さん。わたし、ここじゃない世界から、静さんに会いに来ました」
囁くようにそっと打ち明けた声の揺らぎは、まるで愛を伝えるようだった。
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