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37、清らかな夜
小学生でもまだ眠っていないだろう時間に、二人は一つのベッドにいた。
照明を落とした静かな空間に、自分のものではない呼吸がある。それだけのことが尊く思えた。
静雄と●●は半人分ほどの空間を置いて横になり、その中心で手を繋いでいた。
●●に関する記憶を徐々に失い、忘れてしまってからも、深く眠れずにいたことを静雄は思い出していた。
隣に●●がいることによる安心感で、久々に眠気が戻ってくる。
しかし、まだ不安のほうが大きくて、このまま安心して眠っていいのかわからなかった。
「……俺、変だよな」
天井を見るともなく見ていた静雄は、ぽつりと呟いた。
●●の顔が動くのを視界の端に捉え、合わせるように横を向く。
「こんなガキみてぇな態度……らしくねぇってのは、わかってる」
それでも、不安でしかたない。――また●●を失ったら、そう考えると。
形振り構わず行動して、言葉の限りを尽くせば確かな証を得られるというのなら、一も二もなくそうするだろう。
暗がりの中、●●は身体の向きを変え、繋いだ手にもう一方の手を重ねた。
「…わたしのせい、ですよね」
「違う、お前のせいじゃねえ」
「ううん、わたしのせいです」
静雄も彼女と向き合うように身体を横にした。二人の距離が縮まる。
暗さに慣れた目を凝らし、よく見えない相手の表情を読もうとする。
「わたしが勝手にいなくなったから…」
「●●」
「どうすれば、静さんは安心できますか…?」
失踪が●●の意思に反するものだったということは、説明がなくとも察することができた。
それなのに自分に非があると考え、静雄のことを思いやる。
優しさは彼女の長所だが、それが災いしてトラブルに巻き込まれやしないかと時折心配になってしまう。
●●に関して自分が知っていることは、きっとほんの一握り程度だ。
今回の件で身に染みて理解した。最悪の事態になってから気づくなど、遅すぎる。
だが今までは、それでも構わないと心の片隅では思っていたことも否めない。
(お前が傍にいてくれることが、俺にとっては一番大切なことだった)
何処の誰かといった情報よりも、目の前の事実がなによりも大事だった。
それだけでは駄目なのだと、今となってはひしひしと感じている。
「●●…。もっとこっちに…」
「静さん…?」
静雄は繋いだ手を引き、もう片方の腕も使って●●を引き寄せた。二人の距離がゼロになる。
●●はもぞもぞと動いたが、静雄が身を寄せて深く息をつくと、おとなしく腕の中におさまった。
どうすればこの不安を拭い去れるのか。これだと断言できる方法は、残念ながら思いつかない。
●●の抱擁はいつも形のない、特別なものを与えてくれた。
自分も彼女から受け取るだけでなく、なにか返すことができるだろうか。
(……触りてぇな……)
静雄は腰を抱いていた手の位置を静かに下げた。スウェットの裾にたどり着く。
必然的に●●の腿に触れることになり、抱いた身体が驚いたように揺れた。
ぱっと顔を上げた●●と視線が間近で交差する。静雄は意を決して、緊張で乾いた唇を開いた。
――今夜は●●のぬくもりをずっと感じていたい。誰よりも、近くで。
視覚を聴覚で補うように、衣擦れの音がやけに大きく聞こえた。
静雄は服を脱ぎ捨てて下着一枚になった。向かい合って座った●●もまた、着ていたスウェットを脱いだ。
暗闇の中に、●●の肌と下着の白い色が淡く浮かび上がる。
胸元には硬質な輝きがちらりと見えた。アクセサリーの類いだろうか。
再び抱き寄せようと伸ばした手が下着の肩紐に触れると、「いつもは着けて寝ないんですよ」と●●が早口で喋った。
羞恥を誤魔化すために咄嗟に口走ったと思われるが、なんとも扇情的な情報である。
「…それじゃあ、今日も着けずに寝るか?」
「わ、あっ」
静雄は笑みを含んでからかい、●●を抱きしめて寝転がった。二人の上に掛け布団を引き上げる。
裸の胸に触れた●●の頬が熱い。きっと馬鹿みたいに速い鼓動に気づかれた。
静雄も相手の鼓動を感じたくて、全身を使って彼女を強く抱きしめた。
(大丈夫だ……●●はここにいる。こうやっても、壊れたりしねえ)
静雄の力に物怖じせず、物ともせずに受け入れてくれるのは、●●である証明だ。
肌を直接触れ合わせることで、ようやく不安が少しずつ薄れていく。
「●●。お前に聞きてぇことが、たくさんあるんだ」
「…うん」
緊張した●●の呼吸。頷きには、固い決心のようなものが見え隠れする。
彼女がなにを秘めているのか、静雄も知る覚悟を決めていた。しかし。
「けどな、それはもう明日でいい。いいから、朝までずっと…」
●●は静雄の言葉に、ふっと身体の力を抜いた。そして、応えるようにそろりと背中に手を回した。
――それは、まるで神聖な儀式のようだった。
静雄は●●に、●●は静雄に。指先で、手のひらで、唇で、相手の未知の領域に触れた。
劣情よりも穏やかに、だが真摯にお互いの存在を切望した。
この夜に、不安を沈めよう。また二人の日常を迎えられるように。
この夜に、喪失の痛みを鎮めよう。●●がここにいるのだと、しっかり己に刻み込むのだ。
●●の体温や息遣いを求めながら、静雄は彼女の中に潜む不安を拾い上げた。
そして、しばらく会えず、心待ちにしていた●●の訪問があった、いつかの夜を思い出した。
『わたしのこと、ちゃんと覚えてますか?』
真剣な顔で尋ねた●●は、会えない時間が記憶を揺るがしかねないことを知っていたに違いない。
いずれこうなるかもしれないと、明るい笑顔の裏には常に危惧を抱えていたのだとしたら。
胸が締めつけられたように苦しくなる。たまらない気持ちになって、静雄は●●を掻き抱いた。
(●●……っ)
傷ついた心を探り合い、癒すように肌を合わせ続ける。二人のための優しい夜のことだった。
小学生でもまだ眠っていないだろう時間に、二人は一つのベッドにいた。
照明を落とした静かな空間に、自分のものではない呼吸がある。それだけのことが尊く思えた。
静雄と●●は半人分ほどの空間を置いて横になり、その中心で手を繋いでいた。
●●に関する記憶を徐々に失い、忘れてしまってからも、深く眠れずにいたことを静雄は思い出していた。
隣に●●がいることによる安心感で、久々に眠気が戻ってくる。
しかし、まだ不安のほうが大きくて、このまま安心して眠っていいのかわからなかった。
「……俺、変だよな」
天井を見るともなく見ていた静雄は、ぽつりと呟いた。
●●の顔が動くのを視界の端に捉え、合わせるように横を向く。
「こんなガキみてぇな態度……らしくねぇってのは、わかってる」
それでも、不安でしかたない。――また●●を失ったら、そう考えると。
形振り構わず行動して、言葉の限りを尽くせば確かな証を得られるというのなら、一も二もなくそうするだろう。
暗がりの中、●●は身体の向きを変え、繋いだ手にもう一方の手を重ねた。
「…わたしのせい、ですよね」
「違う、お前のせいじゃねえ」
「ううん、わたしのせいです」
静雄も彼女と向き合うように身体を横にした。二人の距離が縮まる。
暗さに慣れた目を凝らし、よく見えない相手の表情を読もうとする。
「わたしが勝手にいなくなったから…」
「●●」
「どうすれば、静さんは安心できますか…?」
失踪が●●の意思に反するものだったということは、説明がなくとも察することができた。
それなのに自分に非があると考え、静雄のことを思いやる。
優しさは彼女の長所だが、それが災いしてトラブルに巻き込まれやしないかと時折心配になってしまう。
●●に関して自分が知っていることは、きっとほんの一握り程度だ。
今回の件で身に染みて理解した。最悪の事態になってから気づくなど、遅すぎる。
だが今までは、それでも構わないと心の片隅では思っていたことも否めない。
(お前が傍にいてくれることが、俺にとっては一番大切なことだった)
何処の誰かといった情報よりも、目の前の事実がなによりも大事だった。
それだけでは駄目なのだと、今となってはひしひしと感じている。
「●●…。もっとこっちに…」
「静さん…?」
静雄は繋いだ手を引き、もう片方の腕も使って●●を引き寄せた。二人の距離がゼロになる。
●●はもぞもぞと動いたが、静雄が身を寄せて深く息をつくと、おとなしく腕の中におさまった。
どうすればこの不安を拭い去れるのか。これだと断言できる方法は、残念ながら思いつかない。
●●の抱擁はいつも形のない、特別なものを与えてくれた。
自分も彼女から受け取るだけでなく、なにか返すことができるだろうか。
(……触りてぇな……)
静雄は腰を抱いていた手の位置を静かに下げた。スウェットの裾にたどり着く。
必然的に●●の腿に触れることになり、抱いた身体が驚いたように揺れた。
ぱっと顔を上げた●●と視線が間近で交差する。静雄は意を決して、緊張で乾いた唇を開いた。
――今夜は●●のぬくもりをずっと感じていたい。誰よりも、近くで。
視覚を聴覚で補うように、衣擦れの音がやけに大きく聞こえた。
静雄は服を脱ぎ捨てて下着一枚になった。向かい合って座った●●もまた、着ていたスウェットを脱いだ。
暗闇の中に、●●の肌と下着の白い色が淡く浮かび上がる。
胸元には硬質な輝きがちらりと見えた。アクセサリーの類いだろうか。
再び抱き寄せようと伸ばした手が下着の肩紐に触れると、「いつもは着けて寝ないんですよ」と●●が早口で喋った。
羞恥を誤魔化すために咄嗟に口走ったと思われるが、なんとも扇情的な情報である。
「…それじゃあ、今日も着けずに寝るか?」
「わ、あっ」
静雄は笑みを含んでからかい、●●を抱きしめて寝転がった。二人の上に掛け布団を引き上げる。
裸の胸に触れた●●の頬が熱い。きっと馬鹿みたいに速い鼓動に気づかれた。
静雄も相手の鼓動を感じたくて、全身を使って彼女を強く抱きしめた。
(大丈夫だ……●●はここにいる。こうやっても、壊れたりしねえ)
静雄の力に物怖じせず、物ともせずに受け入れてくれるのは、●●である証明だ。
肌を直接触れ合わせることで、ようやく不安が少しずつ薄れていく。
「●●。お前に聞きてぇことが、たくさんあるんだ」
「…うん」
緊張した●●の呼吸。頷きには、固い決心のようなものが見え隠れする。
彼女がなにを秘めているのか、静雄も知る覚悟を決めていた。しかし。
「けどな、それはもう明日でいい。いいから、朝までずっと…」
●●は静雄の言葉に、ふっと身体の力を抜いた。そして、応えるようにそろりと背中に手を回した。
――それは、まるで神聖な儀式のようだった。
静雄は●●に、●●は静雄に。指先で、手のひらで、唇で、相手の未知の領域に触れた。
劣情よりも穏やかに、だが真摯にお互いの存在を切望した。
この夜に、不安を沈めよう。また二人の日常を迎えられるように。
この夜に、喪失の痛みを鎮めよう。●●がここにいるのだと、しっかり己に刻み込むのだ。
●●の体温や息遣いを求めながら、静雄は彼女の中に潜む不安を拾い上げた。
そして、しばらく会えず、心待ちにしていた●●の訪問があった、いつかの夜を思い出した。
『わたしのこと、ちゃんと覚えてますか?』
真剣な顔で尋ねた●●は、会えない時間が記憶を揺るがしかねないことを知っていたに違いない。
いずれこうなるかもしれないと、明るい笑顔の裏には常に危惧を抱えていたのだとしたら。
胸が締めつけられたように苦しくなる。たまらない気持ちになって、静雄は●●を掻き抱いた。
(●●……っ)
傷ついた心を探り合い、癒すように肌を合わせ続ける。二人のための優しい夜のことだった。